後始末屋の特異点   作:緋寺

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隠し玉

「時雨はもう私服は貰ったのか?」

 

 軍港への停泊を終え、一段落した日の夜。翌日の休暇のため、時雨の部屋で()()()()()()()()駆逐艦の会。そこで深雪は時雨にそのことを聞いた。

 

「ああ、何着か入っていたよ。袖も通した」

「どうだったよ。イリス、いいの用意してくれるだろ」

「……否定はしないね」

 

 休暇中は気持ちを切り替えるために制服から私服へと着替えることが()()()となっている。戦闘に参加しない意志を見た目から表すための、うみどり内で決められたルール。

 電は勿論のこと、時雨も例外では無い。ルールを守らない限り外へ出れず、神風による強制連行みたいなモノなので嫌でもルールに準じる必要が出てきてしまう。

 人間の決めたルールということで、時雨は勿論最初は反発した。しかし、イリスのコーディネートした私服が思ったよりも感じが良かったからか、それを着ることに関しては文句を言わなかった。

 

「じゃあ、時雨が娯楽街散策に乗り気になってくれたから」

「誰もそんなことは」

「駆逐艦は全員で行動することになってるけどいいかしらね。もうなんだかんだで8人になってるから、かなり大人数なんだけど、バラけるよりはマシだと思うわ」

 

 時雨の物言いは完全に無視し、神風が筆頭となって明日の流れを話し合う。班分けするわけではなく全員で纏まって行動。娯楽街をゾロゾロ歩いていくことにはなるのだが、4人ずつの少数だとそれはそれで少なすぎるというのが神風の見解。

 また、軍港都市が初めてである電と時雨には、出来れば大人数でワイワイと楽しむことを知ってもらいたいという気持ちが強かった。子日が目的としている食べ歩きは、やはり大人数の方が美味しく楽しめる。秋月や梅が求めるお店巡りも、少ないより多い方が楽しめる部分が大きい。

 

 それに、万が一時雨が暴走──多すぎるくらいの人間を目にしたことで呪いが悪化した場合、人数が多い方が取り押さえやすいだろう。基本的には神風だけでもどうとでもなるだろうが、数がいればそもそもの暴走を抑えられるはず。

 位置取りは特に大事で、基本的には神風と深雪が時雨の両サイドを陣取るつもりではあるのだが、それだけでは終わらず、子日や秋月もいざという時に時雨を止めるために動けるように近くから離れないつもりのようである。

 

「おおわしの方からも誰か来るんじゃありませんでしたか?」

「あ、そうだったわ。響と白雪も合流するのよね」

 

 秋月に言われてそうだったと神風が手を叩く。今回の休暇は、おおわしの駆逐艦である響と白雪も便乗する。それもまた調査隊の仕事の一環でもあるのだが、体裁は休暇であるため、基本は駆逐艦達で纏まって行動することになる。

 

「それでも5人ずつか……いや、もう10人で纏まって動きましょ。もう殆ど修学旅行だけど」

「修学旅行でもそんな大人数で動くことは稀にゃし」

「班行動ってことを言うなら似たようなものでしょ。それじゃあ、那珂ちゃんと酒匂さんに引率してもらって、水雷戦隊で行動する? ちょうど5人ずつで、軽巡もいてくれれば完璧よ」

「難しい話だねぇ。子日はみんなで一緒に食べ歩きたいもんねぇ」

 

 いろいろと考えているものの、納得が行く答えは見つからず、結局それに関してはもう翌朝に決めることとした。全員で纏まって行動していたら難しいと思ったら、その場で班分けして行動する。

 

 臨機応変に決められることは、艦隊運用にも役に立つと神風は開き直った。

 

 

 

 

 一方その頃、うみどりの外では伊豆提督とイリスが廃棄物処理の業者を迎え入れていた。

 

 ここは前回どころか最初期の頃から使っている業者であり、保前提督からもここなら信用出来ると紹介されているところ。

 だが、今の状況から考えると、その信用も何処まで信じていいかがわからなくなってしまっている。ここで持っていかれた廃棄物が、元凶の手に渡り、悪事に使われている可能性が出てきてしまっているのだ。

 

「それじゃあ、いつも通りお願いね」

「はい、夜のうちに運び出しておきますので」

 

 伊豆提督とやりとりをするのは、いつも同じ者。作業員であるため、服装も当然作業着。取り扱うものが取り扱うものであるため、手袋からマスクまでしっかり完備。

 

 いくら妖精さんによる処理が施されたことによって無害化しているとしても、戦場に散らばっていた残骸であることには変わりない。

 特に、深海棲艦の肉片などは無害化しても金属などに変化するわけでもなく、肉塊のようなものである。それを処理するのならば、こういう格好をせざるを得ない。

 

「そうそう、今回は大物が多いから、気をつけてね」

「大物、ですか。例えば」

「空母棲姫の艤装がまるっとそのまま。破壊もされていない状態だから、運ぶのも一苦労だと思うわ」

 

 それを聞いて、作業員はああと苦笑した。こういった作業に従事する者であっても、ある程度を超えて大きな廃棄物になるとそれに使う人員も増える。その上、作業員はほぼ全員が人間(カテゴリーG)であるため、艦娘と比べるとどうしても膂力は劣る。

 空母棲姫の艤装となると、艤装を装備してフルパワーを出した長門でも持ち上げることが出来ずに引きずるレベルのモノだ。それを人間がどう運び出すかは少し興味が出る。とはいえ、こう話しているうちに重機などが運び込まれてくることを考えると、そういったもので処理場まで運ぶのだろうと察する。

 

「あとかなりカタチの残った亡骸もいくつかあるわ。当然こちらで処理はしているけど、一応直接触れないようにね」

「はい、ありがとうございます。こちらも細心の注意を払って作業していますのでご安心を」

 

 こう話している横で、イリスは念のためと作業員全員を確認している。まさかとは思いながらも万が一この作業員の中にカテゴリーG以外が紛れ込んでいることを懸念して。いるとしてもカテゴリーCくらいだろうが、それ以外がいるとしたら大問題である。

 元凶の手の者が作業員だというのならば、もしかしたらカテゴリーRみたいなモノまで潜んでいるかもしれないのだ。何かしらの手段を使って深海棲艦を意のままに操り、作業員として使っている可能性だって考えられる。

 

 そして、それは杞憂に終わる。作業員は全員、彩は緑。つまりはカテゴリーG。ここには純粋な人間しかいない。もっと言えば、ここには()()()()()()

 ここにイリスがいることは周知の事実であり、鎮守府関係者はイリスのその能力も理解している。しかし、それ以外の者は知らない。目の前にいる作業員も、イリスにそんな能力があるなんて思いもしない。そのため、バレないように立ち回るということは出来ないはずである。

 

 裏に鎮守府が絡んでいなければ、だが。

 

「さて、それじゃあ作業は任せてアタシ達は一度休みましょうか」

「ええ。そうさせてもらいましょう。よろしくお願いね」

 

 イリスからの言葉に気持ちのいいお辞儀をする作業員は、そのまま作業へと移った。

 既に集まっていた他の作業員に概要を説明しつつ、効率よく運び出すための段取りを組み立てているようだった。

 

「今のところ、私の目では疑うべき相手はいないわ」

「彩で何かあるわけではないってことね。少なくとも全員が人間であるってことね。そうなると、アタシ達では簡単にはわからないか」

 

 話しながらもその足でおおわしの方へ。別の作業員に説明をし、うみどりとは比べ物にならないくらい少量ではあるものの、廃棄物の運び出しを依頼している昼目提督に話を聞きに行く。

 

「マークちゃん、そちらは?」

「話してみた感じ、あの作業員は白ですね。白というか、何も知らないというか。まだ判断はつかないです」

 

 話している仕草などから探ってみたものの、作業員からは元凶に繋がっている要素は見当たらない。流石にボロは出さないかと思いつつ、しかし本当に白である可能性も考える。

 

「それこそ、処理場に運ぶ作業員達は何も知らないで、そちらにいる奴らが元凶って可能性もありますよ。ここには知ってる奴は誰もいない」

「そうねぇ。それは普通にあり得る話ね。困ったことに」

 

 現場での作業員はあくまでも末端。廃棄物を艦内から運び出し、処理場に持っていくのみで、そこでどのような処理がされているかは知らないという可能性は非常に高い。

 だが、そのことを作業員に問いただすのはそれはそれで違う。万が一それで裏側に繋がっている者にコチラが探っていることがバレてしまった場合、より一層わからないところに雲隠れされてしまいかねない。

 

「一応ですが、オレの方の廃棄物にセンサーを付けています。艤装に紛れる形状の優れ物です。何も無いのなら、それを艤装だと判断して廃棄するでしょう。ですが、あちらが()()()()()()()()()()輩なら、それがオレの仕掛けたセンサーだと気付くでしょうね」

「アナタ……大博打じゃないのそれ」

「白か黒かを判断する材料を増やすためです。最低限、処理場の場所はこれでわかりますから」

 

 かなり危ない橋を渡っているが、調査の一環とするのならばギリギリ。調査隊だからこそ罪に問われない、軍規からしてもスレスレのやり方である。

 これでも昼目提督は法を犯すことはしない。咎められても罪では無い線をちゃんと見極めている。元帥から叱られるくらいはあるかもしれないが。

 

「ただ、アタシ達もあまり褒められない方法を使おうとしているんだけれどね……」

「ハルカ先輩がそんなことを? 何を……」

 

 疑問に思った昼目提督に、小さく顎であちらを見ろと促す。視線だけそちらにずらすと、デッキの上、基本的には時間的にもそこには誰もいないはずなのだが、今だけはうっすら人影が見えた。

 

 

 

 

「ごめんね潜水ちゃん。もう夜も遅いからおねむだと思うし、嫌な思いをするかもしれないけれど、もう1つだけお手伝いしてね」

 

 デッキにいたのは伊26と潜水新棲姫。保前提督を探るときのように、今回も作業員に対して何か思うところがないかを探っていた。

 夜なので暗いものの、潜水新棲姫も名前通り潜水艦である。真っ暗闇の深海を迷うことなく進むことが出来ることと、その中でもはっきりと周囲が見える目を持っているため、夜の港も全容が見えているはず。

 

「あの中に、見たことがある人はいる?」

 

 保前提督の時は首を横に振った。恐怖を感じつつも、その意思はハッキリと示した。だから、今回はどうか。

 

 潜水新棲姫がここにいることを知るのは、うみどりの面々とおおわしの面々のみ。その上で、デッキから作業員を見ているのは一握りしかいない。知らないモノに対して、対策はとれない。

 故に、潜水新棲姫という隠し玉を使う。伊豆提督としては、保前提督の時もそうだが、人間に恐怖を感じている潜水新棲姫にそういうことをさせるのは抵抗があったのだが、念には念をいれて大丈夫か聞いた上で、潜水新棲姫が協力すると頷いたために、この手段を使った。

 

「見えなかったら見えなかったで大丈夫だからね。無理だけはしちゃダメだよ」

 

 伊26からの言葉に対しても、小さく首を横に振って、真剣に作業員達を見て行く。基本はどの顔を見ても知らない知らないで進んでいく。

 

 だが、ただ1人だけ、潜水新棲姫が明らかに反応が変わった。

 

「っ……!?」

 

 声は出ずとも息を呑んだのがわかった。そして、途端にブルブルと震え出した。

 

「潜水ちゃん!?」

 

 すぐに強く抱きしめて落ち着かせる。息は荒く、過剰過ぎる恐怖を隠さず、涙目で震えていた。そして、指をさす。

 

 

 

 

 その指の先にいたのは、重機を操縦する男。巨大な空母棲姫の艤装を早速運び出そうとしている、名も知らない男だった。

 




潜水新棲姫の存在は、うみどりとしては完全に隠し玉。大本営すら知らない、元凶に繋がるであろう戦力。
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