黒深雪と雷の安全性の確認が終わったところで、最後の戦いに向かうメンバー決めとなる。条件は、物資輸送用の潜水艇に乗ることが出来ること。駆逐艦が6人くらいが限界である。
海中を行き来出来る者はその限りでは無いため、特異点組はその対象から外れる。そのため、最初から向かうことが決まっているのはその辺り。
「深雪ちゃん、電ちゃんは確定させてもらうわね。あと、新たに加わってくれた……えぇと、これまでは暫定呼称で黒深雪と呼ばせてもらっていたんだけれど、どう呼べばいいかしら」
カテゴリーK、彩が黒だったことから、後始末屋の深雪と区別するために黒深雪と呼ばれていたが、今や彩だけでなく見た目も白になったため、黒深雪と呼ぶのは少々違うように思える。
黒深雪本人は、呼ばれ方なんて別に気にしていないのだがと苦笑するが、今回は深雪が2人いる戦いになるのは間違いないため、呼びかけるためにはどうすればいいかは割と重要。
「別に今までのままでいいよ。あ、じゃあ……あたしがいつも使ってるウィンドブレーカーあるだろ。アレ、やっぱあるとこれまで通りで落ち着くから、それを黒にしてくれりゃあ、黒深雪って言えるよな。それか、制服を黒くしてくれても構わねぇ」
「あとは……特異点に言われてるみたいに別個体って呼んでもらう? 私には特異点の方が別個体だけど」
「そうだな、まぁ、好きにしてくれりゃあいいさ」
海中で行動する割には厚着をする黒深雪だが、それに慣れているというのならそれでもいい。事実、妖精さんがそれは用意してくれていた。本人が落ち着くかもしれないと思って。
「お、コレコレ。何つーか、これはいつも着てたから、あると落ち着くんだよな」
「私も、それがあると私の深雪って感じがするわ」
「はは、だよな。これ、新しく作ってくれてありがとな」
渡してくれた妖精さんに礼を言う黒深雪の表情は、明らかにこれまでとは違う。こういうところからも、大きく吹っ切れることが出来ている。
それを着て、前までのようにフードも被る。白く染まった髪はすっかり隠れてしまうが、敵対していた時とは随分の雰囲気が変わっていた。同じ姿をしているはずなのに。
「だから、あたしのことは『黒』でいい。むしろそれがいい。他の奴とも語感が違うだろ」
「わかったわ。それじゃあ、黒ちゃんと呼ばせてもらうわね」
「ああ」
呼称については一旦落ち着き、改めてメンバー選出。
「深雪ちゃん、電ちゃん、黒ちゃん、雷ちゃんは確定させてもらうわ。黒ちゃんと雷ちゃんは不安材料があるけれど、それでも今は向かってもらうしかないもの」
「何かあったら、あたしと電で落ち着かせるよ。もう煙幕の効果で落ち着けが入ってるから、少しは大丈夫だと思うけど、あいつら何してくるかわからないもんな」
「身体に何かしてるのなら、それは全部無くなっていると思うのです。物理的な何かは、ひっくり返って消えているので。でも、心に打ち込まれた何かがあるなら、ひっくり返っても変わらないかもなのです。それを、電達の煙幕で抑え込みます」
「そうだ、今ならグレカーレの『羅針盤』も効くだろうしさ」
伊豆提督もそれはいいアイディアだと早速その処置を施す。グレカーレは待ってましたと言わんばかりにスキップして深雪の方に来ると、その手を繋いで自らの力を発揮する。
「アンタ達はもう自分が行く道が見えてるんだよね?」
「ああ」
「ええ」
「なら、その道から迷わないように、あたしの『羅針盤』が指し示してあげる。道を無理矢理曲げるようなことをされない限りは大丈夫だから、安心しなよ」
グレカーレは片手を深雪と、もう片手を電と繋いだ。これで煙幕に『羅針盤』が乗る。
「一応聞いておくんだが、これが何に影響するんだ?」
「グレカーレの力は、精神的な影響を全く受けなくなる力だ。迷いが無くなるっつってもいい。外付けの洗脳とかを全部回避出来るって奴だな。それでも回避出来ないモノはあるにはあるけど、逆に言えば」
「そんな手段使ってくる奴が、平和だの何だの言ってることがおかしいってことだね。アデがそういう奴だったわけだからぶっ潰したけど、デスは曲がりなりにも平和を謳ってるわけじゃん? なのに、自分が正しいんだーって洗脳するのはやっぱおかしいんだよ」
グレカーレが語る間に、深雪と電から『羅針盤』の力が乗った煙幕が漂う。黒深雪と雷がそれを吸い込んだところで、心身共に何か変わるわけでは無い。ただ、何となくだが、今向いている方向に自信が持てるような感覚を得た。
「前までのアンタ達にやったら、やっぱデスが正しいってなりそうだったからね。特にイカヅチ」
「ああー……うん、そうやって聞くと、そうだろうなって思えちゃうわ。深雪がうみどりの方が正しいって言っていても、私はずっと半信半疑だったもの」
「でも今は?」
「こっちが正しいわ。だって私も、自分がどうして死んで今のカタチになってるのかがわからないんだもの。心を弄って部下にしているわけだものね。それが正しいだなんて断言出来ないわ」
ついさっきまでの自分を客観視出来るようになっているだけでも大きな変化である。『気付け』と『落ち着け』によって真実に辿り着き、ひっくり返ってその呪縛から解き放たれた今、自分で考えた結果どちらが正しいかに辿り着いている。
グレカーレの『羅針盤』は、その道を正しく指し示すのみ。これでも出洲の方が正しいというのなら、そちらに向かって歩いていただろう。考えをその者に委ねる
「もしかしたらこれで暴走もある程度抑えられるかもしれないしな。ハルカちゃん、別個体と雷は、とりあえずこれで連れていくよ。あたしと電で管理……っつーのは上から目線すぎるな、保護しておくから」
「ええ、お願いね。一応、黒ちゃんと雷ちゃんのブロックワードとかについては調べているところだから。マークちゃんにも声掛けしているし、その、うん、
「別働隊?」
誰かがおおわしに向かっているというのは初耳。しかも、伊豆提督自体も少々歯切れが悪い。
「まぁ、あまり褒められたものでは無いけれど、何か出来そうなのは、アタシよりあの子なのよね……」
「あの子……って、誰だ?」
「調査隊くらいいろいろ出来そうな人……あ、深雪ちゃん、あの、ここに戻ってきて、
電が気付き、それを言われたことでハッとした。これまでずっと丹陽の姿を見ていない。明石は『工廠』の力を全開で使ってサポートをし続けているが、今この時に仕事があまり無い丹陽は、完全に別行動を取っていた。
丹陽をおおわしに運んでいるのは誰かと見回すと、三隈の姿も見えない。彼女ならば大発動艇も使えるし、最悪おぶって向かった可能性もある。
「丹陽が行ったのかよ!」
「アタシは反対したのよ? でも、あの子がどうしてもやりたいと。これまで殆ど役に立てていないから、ここでくらい力を使ってほしいって。アタシも悩んだわよ本当に。でも、まさか明石ちゃんも行かせてやってくれって言うんだもの」
「明石さんが……?」
明石曰く、やはりストレスが溜まりすぎるのは良くないというのと、今の段階で誰よりも容赦なく舌戦が出来るのは丹陽であるため。艤装を装備しなければ死ぬことはなく、共に三隈が行ってくれているのも大きく、丹陽が無理をしようとした時にしっかり抑えつける役目を仰せつかっているため、仲間であっても割と強引に止めてくれることを約束してくれていた。
「まぁ……多分今の丹陽があの速吸と口で戦うと、めっためたのボコボコにしそうではあるな……」
「溜まった鬱憤を全部晴らしに行ったようにしか思えないのです……」
「アタシにも少し不安があるけれど、あちらにはマークちゃんもいるから、悪いようにはしないと思うわ。マークちゃん、アレでも常識人だから、丹陽ちゃんがもし道から外れそうになったら、力尽くでも止めてくれるわ」
「絵面酷すぎるけどな」
ともかく、残り少ない時間で、黒深雪と雷の不安を取り除くため、非戦闘員が動く。丹陽の行動は、うみどりのために必要だと考えて、先んじて動いたものだ。神威の『排煙』の外であるため、気持ちを落ち着けながら行動するのは難しいかもしれないが、少なくともうみどりでは『排煙』を受けて癒された状態からそうするのだと決めたのだから、その決断は間違ってはいないのだろう。
おおわしの工廠。昼目提督と鳥海がいろいろと片付けながら、捕虜達の監視を怠らずに待っていると、丹陽と三隈がやってきた。三隈はまだ体力があったので、大発動艇ではなくお姫様抱っこでここまで連れてきたようである。
「こんにちは、来ましたよ」
「おう、まさか丹陽が派遣されてくるたぁな。あのクズに聞かなくちゃいけないことがあんだろ?」
「はい、黒い方の深雪さんと、雷さんが持っているかもしれない、真のブロックワードについて。その言葉は別に後からでも推理出来るので、ぶっちゃけ死因ですね。それ以外にもいろいろ言っておきたいことはありますけど」
丹陽はニッコニコである。ここでようやくこの戦いに一石を投じることが出来るのだと。
「さ、私が尋問しなくちゃいけないのは何処にいます?」
「こっちだ。あのクズ、隔離しておかないと何しでかすかわからねぇ」
昼目提督が案内した先には、丁型海防艦達が見張っている速吸の姿。他の誰よりも強く強く拘束されており、自由意志など与えない。自分がどれだけ愚かなことをしたのかを理解させるために、割と非道なところにまで足を踏み入れている状態。
「こんにちは、速吸さん。話をしに来ましたよ」
丹陽の目は、全く笑っていなかった。