死因が曖昧となってしまったため、ブロックワードの心配が出てきてしまっている黒深雪と雷。それを解決するため、裏を知っていそうな速吸を尋問することとなった。
それを行うのは、うみどりよりおおわしにやってきた丹陽。三隈に連れてきてもらい、その場所にもついてきてもらっている。
「こんにちは、速吸さん。話をしに来ましたよ」
全く笑っていない目で速吸を見据え、しかし口角を少し上げながら話しかける。
雁字搦めの状態で拘束され、自己修復も失っているのに治療もされず、痛みに苛まれながらも気絶することすら許されず、悔しさに涙目になっている速吸は、丹陽の声に反応して睨みつけるような目を向けた。
今は猿轡をされているため話すことが出来ない。だが、目は雄弁に語る。速吸は、ここまでされても反省の色など全く見せていない。むしろ、その全ての責任を特異点に押し付けようとしているのがわかる。相変わらずの被害者ヅラ。
「昼目さん、猿轡取ってあげてください。ちゃんとお話ししないと、わからないでしょうから」
「聞くに堪えないことしか言わねぇぞコイツは」
「構いませんよ。話せば話すほど、自分の程度を落とすということもわかっていないってことですから。高次を名乗るなら、弁えるということくらい、そろそろ理解してくれると思いますけどね」
昼目提督が速吸の猿轡を外すと、これまで息もしづらかったのか、ゼエゼエとした荒い息を吐いた。そして、未だ自分の方が上だと思っているように改めて睨みつける。だがそれも丹陽がまず抑えつける。
「はいストップ。もしかして貴女、私達が自分よりも歳下だからそういう態度取ってます? この期に及んで年長者を敬えとか思ってますか? 出洲直下の配下なら、彼と同じくらいの歳であってもおかしくありませんし、そうでなくても昼目さんよりは歳上ではありますが」
速吸の開こうとした口が動かなくなる。都合のいいときばかり年功序列を使う老害みたいな雰囲気はあったため、丹陽が真っ先に釘を刺した。
「お、図星っぽいな」
「でしょうね。ここまでされても見下せるとか、常に自分の方が偉いとしか考えていませんもん。昼目さん、多分歳下のガキが何してくれるんだとか思われてますよ」
「そりゃすげぇ。ちょいとばかし長く生きたら何してもいいと思ってるタイプかよ。お前さんとは真逆だな、丹陽」
「全くです」
速吸は一瞬意味がわからなかった。だが、出洲の部下ならば、それを知っていてもおかしくない。
「……貴女、長い間潜水艦で逃げ回っていた第一世代ですか」
「はい、その通りです。貴女達の実験で命を奪われそうになった第一世代、貴女よりも歳上の艦娘です。年功序列というのなら、私の話をちゃんと聞きましょうね、
年齢に関して言えば、丹陽の右に出る者はいない。どうやっても覆すことは出来ないのだ。何せ丹陽は下手したら出洲より歳上である。速吸の正体が何であれ、丹陽に対しては歳上歳下の話題は出せない。
「ああ、もしかして私のことを第二世代に匿われないと生きていけない老朽化艦娘のくせにと思っています? まぁそれは間違っていません。私も日々のメンテナンスと、周りの方々が慈しんでくれるおかげで、こんなに長く生きることが出来たんですから」
「っ……」
先回りするような物言いに、速吸の口は開く前に封じられる。
「戦う力も持たないポンコツ艦娘、戦えないのに楯突こうとする口だけの奴、そう思っていますよね。否定しませんよ、私は。でも、長く生きてきた甲斐があり、私はこういう口だけの戦いに出ることが出来ます。得意なんですよ、こういうの。図星を突かれただけで口が開かなくなるお子ちゃまとは違いますからねぇ?」
速吸が口に出そうとしていた言葉を先んじて言い、選択肢を次々と奪っていく。そして、そこから言葉が続かないことを弄る。なかなか意地の悪いやり方である。
それが出来るのも、丹陽の力、『未来視』があるからこそである。こんなことに使うなんてと内心苦笑しながらも、速吸を追い詰めるために、ほんの少し先の未来を視続け、速吸の言葉を前借りして先にぶつけているのみ。
マルチタスクで行動出来るのが、丹陽の強み、年の功。別のことを複数考えながら、同時にアウトプットもしていく。口は1つしかないので、話せることは1つだけだが、頭の中では常に複数の可能性を考え続けている。『未来視』も含めて。
「無駄話はこれくらいにしておきましょう。貴女は引くほどプライドが高そうなので、歳下をバカにしながら、歳上は違う方向で自分の方が上だと決めつける感じみたいですね。でも、これからの話にそこら辺は関係ありません」
「勝手な、ことを……」
「自分達だってこれまでさんざん勝手なことを言い続けたでしょうに。だから文句を言う資格はありません。貴女は頭が悪いので理解は出来ないと思うので、淡々と行きましょう。それとも、やっぱりちゃんと身体に教えてあげないとダメですか? 体罰上等ですよ私は。古い考えなので」
笑顔を止めない丹陽に、少し恐怖が芽生える速吸。戦うことすら出来ない雑魚艦娘と見下すことは出来ない、圧倒的な存在感。凄まじい圧。吹けば飛ぶような弱さなのに、そもそも吹けない。
「はい、多少は理解出来たようなので、話を進めましょう。時間も少ないのでね」
手をパンと叩き、仕切り直し。
「私が聞きたいのは、貴女達の陣営の深雪さんと雷さんのことです。彼女達は、偽の記憶を植え付けられていたそうですね。幼女性愛者に殺され、亡骸を犯される、でしたっけ。とても残酷な死の記憶。でも、それは後付けで、本当の死因がある。それは間違いないでしょう。貴女はそれを知っていますね?」
速吸は無言。だからどうしたという表情で丹陽を見ているだけ。目を逸らしても、そこにつけ込まれると思ったか。
「というのもですね、そもそも貴女は他の者達のブロックワードを使って暴走させることが出来ている時点でおかしいと思っていたんですよ。だって、貴女自身にもブロックワードが設定されているのに、ブロックワードのコントロールなんて出来るわけありませんから。ねぇ、ブロックワード『懺悔』の速吸さん?」
拘束されていることをいいことに、丹陽は速吸のブロックワードを口にした。そう伝えられているのだから、それがそれだと思うのが普通。
しかし、速吸は何も変わらない。その言葉を聞いたところで、何も変わらない。足柄や伊36のような豹変は無い。
「貴女は暴走なんてしない。何故なら、貴女は貴女の死因をちゃんと知っているから。意図的にブロックワードが使える者に、ブロックワードがあるわけがない。自分の死因について考えてしまうでしょうから。私が出洲なら、面倒な暴走を防ぐため、ブロックワードを根本的に封じます。自分の分も、周りの分も、無意識に言えないようにします。考えようともさせません。でも、貴女は違う」
丹陽は速吸の眼前まで近付き、これまでに無いほどに冷酷な目で見下す。
「貴女はカテゴリーKの管理者個体。最初から出洲の部下。第二世代での実験の時から生きていますね。死ななくては今のカタチになれないというのなら、出洲に頼んで命を失い、復活したとかですよね」
「……っ」
「貴女の死因は、安楽死。誰よりも苦しむことなく命を落とし、そしてカテゴリーKとして蘇った、何も辛い思いをしていない軟弱者。それが貴女ですよね?」
蘇らなければこれほどの力は得られない。だが、苦しみたくもない。なので、安楽死からの蘇生。自ら身体を差し出すことで忠誠心を見せながらも、最も楽に高次へと昇った。
出洲としては、全てが終わった後に、人間を全て高次の存在へと変化させる予定である。民草に苦しみを与えずに高次に昇らせる実験として身を差し出してくれた者、そして成功例として今後行うならこうしようと考えられる者として、速吸にはそれなりの信頼を持っていただろうと考えられる。
「出洲も可哀想になってきましたね。なんだかんだ利用されてばかりですから。貴女のような者にすら利用されて、ねぇ」
「……利用じゃありませんよ。私は、彼の夢の実現のために身体を差し出しただけです」
「まぁそういうことにしておきましょう。貴女が第一人者になっておけば、地位も確約されますからね。平和とは程遠い、平等とは程遠い、優遇を手に入れられます」
鼻で笑う丹陽。
「高次とは程遠い、保身のために命を投げ出した貴女ですが、そんな貴女は何故だか、そちらの深雪さんのことを嫌っているそうですね。だから、危険な実験、先が保証されていない実験を押し付けたりした」
「……何を根拠に」
「何故だかは、ちょっと推理しました。で、考えられる点は1つ。
平等な平和を目指しているかもしれないが、黒深雪は出洲に優遇されていたのではないかと考えた。特異点の力を得て、最後は自ら命を差し出すという、当時の黒深雪の考えも肯定はしていたようだが、それでも何かしらの考えがあって、出洲は黒深雪に対して若干他の連中とは違う感情を持っていたのではないかと考えた。それでも平等にやろうとはしていたようだが。
速吸としてはそれが気に入らないのだろう。命すら差し出して保身を考えたのに、横からやってきた者が自分よりも上に立つかもしれないと思って、不安になり、それが嫌悪感に発展したのではないか。
「貴女の口から聞きたいですね。そちらの深雪さんが、出洲に少しでも優遇されそうな理由。貴女なら知ってるでしょう。どうせ、蘇生の際にも貴女は立ち会っているのでしょう?」
「……話す義理はありませんよ」
「そうでしょうね。でも、貴女の表情がいろいろ物語ってるんです。隠そうと必死で、嘘と方便を織り交ぜて煙に巻こうとしている。私は容赦しませんよ。確実にここで辿り着きます」
丹陽はこれ見よがしに腕を組んで悩んでいるフリをする。これは、もう推理の中で答えに一番近いことに辿り着いているような素振り。
「出洲が少しでも優遇しそうな存在。家族ではないとして、これまでのやらかしから考えられそうなこと。例えば、救おうとしたのに救えなかったから、違うカタチでアプローチして、あのようなカタチになった。なんてのはどうでしょうか」
速吸の表情が変化する。明らかに図星を突かれた顔。余裕すら見せられなくなった、丹陽によるピンポイントの推理。
「昼目さん、調査隊として何かそれらしい情報はありますか? 例えば、出洲が彼なりの方法で救おうとした人の情報とか」
「……あるぜ。ついさっきだけどな、鎮守府に出向いてる調査隊の奴からちょいと話を聞いてる。……いや、まさか、おい」
「なら、辻褄が合いそうじゃないですか?」
昼目提督の顔も驚愕に染まった。
「出洲が救おうとして失敗した奴……