速吸も知っている黒深雪の正体。それを推理する丹陽は、昼目提督に仮説を突きつけると、そこから1つの答えのようなモノが出た。出てしまった。
出洲が優遇しそうな存在。出洲が救おうとして失敗し、違うアプローチとしてカテゴリーKへと復活させた者。それは、襟帆鎮守府で襟帆提督が話していたこと、恨みに繋がるかつての事件。
「出洲が救おうとして失敗した奴……
丹陽も少しはそれを予想していた。だが、昼目提督からの情報で、それが確信に変わった。
「……そうですよね、うん。一番あり得る。出洲は温品さんの技術を評価していそうですからね。時間はかかるけれど、そういうやり方もあるなと、卑下することなく、対等の技術者として見ていた、むしろ是非とも共に研究がしたかったとか。だからこそ、温品さんを救おうとした。でも失敗し、死に至らしめた。出洲はその失敗を悔やみ、せめてもとカテゴリーKに改造した。そんなところですかね」
速吸にぶつけるように伝えるが、速吸は何も言わない。だが、明らかに目を合わせようとしない。それはもう図星であると言っているようなモノである。
速吸がかつてから出洲の部下だったとしたならば、出洲からの温品に対する評価も聞いていたことだろう。
「どうなんです? この推理、当たってます?」
「……」
「ああ、大丈夫です。貴女わかりやすいですねぇ。顔を見れば大体それが当たってるか間違ってるかがわかりますよ。ポーカーフェイスが出来ないヒトで助かります」
それが大間違いでなくても、ある程度正解ならばそれでいい。速吸を壁にして自問自答するだけで、真実に一歩ずつ近付くことが出来る。
「カテゴリーKに改造された温品さんは、どうしたんでしょうね。少なくとも、今のあの深雪さんは、温品さんとは全く違う人格です。まるで好きに作り変えたかのように。最初はそれこそブロックワードを言われた時のように暴れ狂いましたか? 自分はこうまでして生き永らえたくないと。非業の死でなく、納得した死を迎えた者を、巫山戯た倫理観の下で勝手に蘇らせられたのは、どう感じるでしょう。私は、屈辱とかだと思いますよ」
その後の黒深雪を知っているのならば、それをどう制御したかは一目瞭然。本人は自分が温品であるということを忘れ、その上で娘である襟帆提督の統治する鎮守府に所属までしている。どちらも何も知らないで。
「出洲はこう考えたのでしょう。自分の技術で命が救われたら、自分の研究を理解したら、これは素晴らしいと絶賛してくれると。でも、そうはならなかった。温品さんはこれまでにないほど怒り狂い、出洲のことを失望し、拒絶したんじゃないですかね。出洲はそんな温品さんを見て、何を思ったのでしょうね。初めて明確な失敗をしたからこそ、その戒めとして、温品さんの記憶を消し、深雪さんとして自分の側に置こうと考えた、でしょうかね」
聞いているだけでムカムカしている昼目提督だが、拳を握り締めるだけで終わっている。今苛立ったところで、何も解決なんてしないことがわかっているのだから。
「そんなことがあれば、それはまぁ優遇することでしょう。1人でいさせるのも良くないので、雷さんを相棒につけた。同じ死因を持つことで、お互いに支え合えるようにも出来る。生きることに苦労しないようにしたという感じですかね。他のカテゴリーKよりも、間違いなく優遇されている」
「雷も温品さんみたいに弄られたってことか」
「はい、私はそう予想します。深雪さんほど正体が明確ではないので何とも言えませんが、そうですね……例えば、この速吸さんみたいに安楽死からカテゴリーKになったか、もしくは……同じように出洲が認めているかつての研究者か。どちらにしろ、やっていることは洗脳で自分の思い通りに書き換えているだけ。平和も正義もあったモノじゃない、命を冒涜している事実だけです」
雷も被害者かもしれないし、記憶がないだけの加害者側かもしれない。どちらにせよ、その存在自体が、出洲のやっていることの倫理観の無さ、平和の否定に繋がる。尊いモノを踏み躙るような行為に、丹陽は反吐が出るような気持ちだった。
「なので、ブロックワードがあるなら、その記憶を呼び覚ますようなモノでしょう。『温品』という名前そのモノが妥当ではあるんですが、どうですか。娘さんである襟帆さんは、カテゴリーK相手には温品さんの名前を出すことは無かったようですので、彼女のブロックワードは踏んでいないと思いますが」
速吸に尋ねる。何も言わなくてもいい。少しだけ反応をしてくれればいい。目を、顔を見ればわかる。
「何故そこまでわかるって顔してますね。私が貴女より沢山生きているからです。無駄に過ごした年月もありますが、それでも私はこれまで、ずっと考えて考えて行動してきました。生きる為に頼ることもしますし、生かすために頼られることもしてきました。第一次も第二次も、そうやって乗り越えてきてるんですよ。だから、私は貴女よりは多少は頭が回ります。研究とかではなく、常識的な考えの方にね」
それを誇ることなく、しかし武器にして、速吸に突きつける。技術面で言えば、丹陽は出洲には遠く及ばないだろう。そもそもそういうことをする為に活動をしていたわけではない。明石ならともかく、本来は戦闘員である丹陽に、研究がどうこう言えることは一つもない。だが、倫理観、一般常識だけでいえば、間違いなく出洲一派よりはまともに持っている。
「で、速吸さん。流石に答えてもらいましょう。そちらの深雪さんと雷さんのブロックワード、『温品』で合ってますか? それとも、最初からブロックワードは設けられていないですか?」
再度、尋ねる。黒深雪と雷はブロックワードが外されているとは言われているが、そうとは限らない。
「……ありませんよ」
速吸が口を開いた。その答えは、『無い』。
「深雪さんにも……雷さんにも……ブロックワードなんてありませんよ」
「その根拠は」
「絶対に、何を言われても、思い出せないようにしているから……ですよ。特異点の力でこじ開けたなら話は変わりますがね……思い出して錯乱したなら、それは全て特異点のせいですよ……悲しませるのは特異点のせい……」
出洲は黒深雪に対しての記憶の封印は徹底しているらしい。温品に敬意を払い、温品に拒絶されたとしてもこれ以上の無礼を働かないように、失敗の反省を込めて、二度と温品を苦しめないように、その記憶を何重にも何重にも封じて、絶対に解き放たれないようにしている。温品という存在は死んだのだと自分に言い聞かせるかのように。未練タラタラであるが、それは温品だからというよりは、絶対に認めてもらえると思っていた自分の研究を認めてもらえなかったことを封じるかのようだった。
ある意味、温品での失敗が、出洲を致命的に壊してしまったのかもしれない。元々壊れていたモノが、より取り返しがつかなくなった。
「うちの深雪さんは、悲しませるようなことはしません。昼目さん、今すぐ連絡してもらえますか」
「おう、あっちの深雪にはブロックワードはない、だが過去は思い出す必要はないってな」
「はい、そうなった方がキツイとわかってくれれば、理解してもらえるでしょう」
簡単な措置かもしれない。だが、それが今は一番確実であると判断した。ブロックワードが存在しないのならば、
うみどり、未だ準備中ではあるが、昼目提督からの連絡を受けたことで少しだけ前進。黒深雪と雷の扱いについて確定する。
「黒ちゃん、雷ちゃん、おおわしの方で調査の結果を貰ったわ」
「どうだったんだ……?」
「私達の今後に関わるものね。ちょっと怖いけど」
ドキドキしている黒深雪と雷。後見人扱いとなっている深雪と電も、どのような結果が出たかは非常に気になる。
「アナタ達にはブロックワードが設定されていないらしいわ。今上書きされている死因で、本来の死因は絶対に思い出せないようになっているそうよ。で、マークちゃんが言っていたんだけれど、その過去は穿り返さない方がいいんですって。気になるかもしれないけど、気にしたら全部ひっくり返るみたい」
昼目提督も、今の戦いが終わるまでは語る必要はないと考えたようで、伊豆提督に対しても伝えることは無かった。知っている者は、あの場にいる者。伊豆提督と丹陽、あとは丹陽を連れて行った三隈と、見張っていた丁型海防艦くらい。
「そうか……ならあんまり考えないことにする。余計なことに繋がるくらいなら、思い出す必要はねぇな」
「そうね。私達の過去がどうであれ、大切なのは『今』と『これから』だもの」
「だな。『これまで』を償う為に『今』戦って、その後『これから』を考える。アンタ達に迷惑をかけないで戦えるなら、思い出さなくてもいい過去なら思い出す必要はねぇよ」
深雪と電も、2人の反応に胸を撫で下ろす。『気付け』の煙幕によって今の死因は違うことには気付いているが、それより深いところを気付かせることは止めることが出来ている。
疑問はいくつかあるが、そこも今は深掘りしないことにした。黒深雪と雷が前向きに進んでいくためには不要なこと。当人が思い出さなくてもいいと決めているのなら、部外者が手を出すことも間違っている。知らなくてもいいことをわざわざ教えてやる必要はないのだ。
黒深雪と雷の参戦は、これで不安要素が失われる。とはいえ、出洲しか知らない何かがあってもおかしくないため、そこは慎重に。