おおわしでの調査がある程度終了し、黒深雪と雷にはブロックワードが設定されていないことが確認されたため、完全な安心があるわけではないものの、戦場に出すことは可能と判断して、最後の戦いに向けた部隊編成を考えることになる。
あちらにも休息の時間を与えてしまっているが、こちらも充分に休息出来た。工廠厨房によって腹を満たし、癒しの『排煙』により心を満たした。これで戦いに挑むことが出来る。
この時には入渠が短期に終わった者が復活。重傷だと思われていた伊203が、意地で戻ってきたことに皆が驚きつつも、海中戦力が1人でも増えたことは心強いと受け入れた。やはり一時的にでも特機を寄生させたことは大きく、入渠と自己修復を同時に扱えば、それ相応に早く回復出来る。
しかし、伊26はそれ以上に深い傷だったため、最終決戦には間に合わず。同様に、長門も戦艦であるために修復に時間がかかり、参加を断念。
「時雨も間に合いそうにないか」
「ぽい。肩の傷が割と深かったっぽい」
そして、時雨も未だ入渠中。残念ながら、選出からは漏れることになった。こればっかりは仕方がない。無理に出ることの方が危険である。
「夕立が選ばれたら時雨の分まで頑張るっぽい」
「だな。あたしも託されたみたいなもんだ。一緒に、頑張ろうぜ」
夕立は時雨の分までやる気満々。ボロボロになって酷いことになっていた制服も着替え直して、これまで以上に気持ちを昂らせていた。残っている敵は強敵ばかり。凄まじい戦いになるのも目に見えている。
今回の選定基準は、やはり多くの人員を送り込むために精鋭の小型艦が優先される。夕立は勿論選定候補。『ダメコン』の曲解は、如何なる時でも相応に強力である。
それ以外にもほぼ確定したいるのは神風。本来の力、中柄との因縁、そして新たに得た『改装』の曲解により、単純にさらに強くなった。小柄で強いというのは、今回の最終作戦には適し過ぎている程だ。
「話は聞いた。潜水艇で6人、海から6人。私は海側で行く」
復活きた伊203が早速やる気を見せる。ただでさえ少ない海中要員。帰ってきたのならば、出てもらわねばならない。伊豆提督は連戦になることを申し訳なく思いつつ、今回ばかりは本人の気持ちや自分の気持ちを後回しにして、送り込める戦力をしっかり送り込むことを優先する。
「海ン中は、テメェら特異点teamと、フーミィ、そんで、あたいだ」
「だよな。今出せる海中戦力はそれくらいだ。頼むぜスキャンプ」
「足引っ張んなよミユキ。つっても、あたいらは中にまで入るかはわからねぇけどな」
潜水艇を使うことなく出洲の島に向かう人員は、考えるまでもなく決まっている。白の特異点である深雪と電、黒の特異点である黒深雪と雷、そして、潜水艦である伊203とスキャンプ。6人による1部隊。
「おう、クロって呼べばいいんだったな。テメェらも、何かおかしな動きしたら、後ろから撃つからな」
「ああ、それでいい。あたしも雷も、簡単に信用してもらえるなんて思ってないからな」
「私達も、ちゃんと戦力として扱ってもらえるように頑張るわ。勿論、不審な動きをしたら撃ってくれて構わないから」
「はっ、覚悟だけは出来てるみたいだな。テメェらの過去はもうどうでもいい。この戦いを終わらせる邪魔だけはすんなって話だ」
口は悪いが、スキャンプは黒の特異点達をそれなりに認めていた。深雪の力があるとはいえ、自分の境遇に気付き、それをどうにかするために前に一歩踏み出している。ウジウジしているわけでもない。戦おうとしているならば、仲間として認識してやると。
そもそも自分も斜に構えているところからスタートしているため、若干ではあるが共感出来るところはあったようだ。そういうこともあり、過去はどうでもいいと、自分がそうされているように扱った。
これもまた、酒匂と共に行動することで思い至ったこと。酒匂の優しさが、スキャンプを少しは変えている。これでも救護班なのだ。
「海中の戦力は決まったようなモノだけれど、問題は潜水艇で乗り込む方よね……さぁどうしようかしら。確実性のあるメンバーを選出しなくちゃいけないわ」
「勝つことも大切だけれど、無事に脱出することも大切よ」
「ええ、むしろそちらが一番大切よね。確実に脱出出来ること。もし出洲が斃し切れなくても、地下からまた表に出られることが大切よね」
伊豆提督はイリスと共に考える。確定枠もいるが、戦場が狭いことがわかっている施設内でどう戦えることが最も上手く事が進むのか。
「神風ちゃんと夕立ちゃんは確定なのよ。狭い場所でも戦えることはもうわかっているから」
「なら子日もね。あの子の『迷彩』は役に立つわ。それに、アクロバットな戦いが上手いもの」
「そうね。だとすると、残り3人だけれど……」
「フレッチャーに誰かの力を持たせて行かせるのが良さそうね。無難は丹陽か」
「もしくは今の神風ちゃんの力を持ってもらうか、かしらね」
次々と決まっては行くものの、やはり難しい話ではある。どうしても、狭い場所での戦いというのがネックになってくる。
「白雲ちゃんの『凍結』は、拘束にも使えるから必須かもしれないわね」
「グレカーレに頭を回してもらうことも考えられるわ。モチベーションを維持出来る要員も欲しいところだし、あの子は要所要所で上手く立ち回れる」
「脱出する時に梅ちゃんの『解体』は重要に」
「睦月の『軽量化』で邪魔な瓦礫を退かすことも」
誰にでも選定出来る理由がある。アレが必要、コレが必要、全てを網羅することは出来ない。
なるべくなら最初の6人で決着がつけられるように選定する。送り込んだら潜水艇だけを引き返させて、新たに送り込める人員を送り込むのだが、やはり最初の6人は非常に重要な立ち位置となっている。
うんうん唸りながら考えて、最善を掴み取ろうとしている間に、おおわしから丹陽が戻ってきた。事を済ませたため、もうあちらには用がないと言わんばかり。
「部隊編成が難航しているみたいですね」
「どうしても、ね。最善が何かとなると、こんなモノよ」
「わかります。どうしたら戦いやすいか、どうすれば勝ちに繋がるか、考えるのは難しいものです」
ここからは丹陽も共に考えてくれる。これまで見てきたからこそ、選出が出来るはず。
「もう少しだけ時間を貰いましょう。長くかければあちらにも有利になっちゃうけど、その分こちらも休めるわ」
「そうですね。でも、あと1時間も取れませんね。30分くらいが限界です」
「ええ、それくらいね。アタシ達もみんなのために、頭を回さなくちゃ」
部隊編成には相応の時間が必要になる。だが、時間も限られている。その間に艦娘達には万全な体調となってもらい、確実な勝利の最後の一押しとなってもらう。
襟帆鎮守府でも準備は整えられていた。物資輸送用の潜水艇は無傷でそこにあることが確認され、完璧な状態で送り込めるようにしている。
「……これで、大丈夫でしょう。操縦は妖精さんです。運び込む艦娘達をそこに置いたら、すぐに引き返してもらい、さらに戦力を投入出来るようにしましょうか」
「戻りも往復になりますが、無事に戻るために戦力投入は必要でしょう。おおわしからも、出せそうならば潜水艇を操れる丁型海防艦を出してもらいます」
「そうですね、それがいいでしょう。勝つこともそうですが、帰ることが一番大切ですから」
ここで、襟帆提督の体力に限界が来る。ただでさえ怪我もしており、疲労が溜まっている状態なのに、この戦いのためにまだ動き続けたことで、ついにピークに達した。ふらついたところを夕張が支える。
「流石に……限界ですかね……。足に力が入らなくなってきましたよ」
「お疲れ様です、襟帆提督。ここまで来れば、もう大丈夫です」
神通が労い、襟帆提督にはもう休んでもらうこととした。潜水艇に問題がないことがわかり、操縦に人員を割かなくてもよく、妖精さんに後を任せられるのなら、これ以上働かなくてもいい。
ただでさえ、これまで神経を使い続けているのだ。もう戦場から離れてもいいくらいだ。襟帆鎮守府のスタッフ達が、安全のために離れているのだから、提督だったそちらに合流してもいい。
「この鎮守府の設備は、伊豆提督に委ねます。好きに使っていいと、伝えてください」
「了解しました。ここまでありがとうございました、襟帆提督」
「……ここからは、少しでも罪を償えるように尽力しますよ」
もう、意識を保っているのも難しくなってきたようだ。完全に夕張に身体を任せ、襟帆提督はここで眠りについた。
「襟帆提督は安全な場所に移動させてください。この鎮守府はこれより、我々が最善を尽くすために使わせてもらいます」
夕張は小さく頷くと、襟帆提督を連れて去っていった。
「私達はもう一踏ん張りですね。響さん、白雪さん、大丈夫ですか?」
「しんどいけど大丈夫だよ。むしろ白雪はどうだい」
「勿論大丈夫です。襟帆鎮守府のシステムを譲渡してもらえたので、今ガンガン復旧しています」
「頼もしい限りだ。私はアナログしか出来ないからね」
「物理的な修理をよろしくどうぞ。私には出来ませんからね」
調査隊は調査隊で、最後の戦いに送り出すために尽力している。自分達が戦えない分、バックアップを万全に。
残り時間は僅か。最後の決定は、すぐそこ。