出洲の島に乗り込む最後の部隊が決定したことで、一同は襟帆鎮守府へと移動することとなる。フレッチャーが持っておく力が最後の悩みどころだったが、そこはやはり戦場での状況判断のために、丹陽の力をコピーすることとなった。
これにはグレカーレからの意見もある。いくら頭が回るとはいえ、その場その場で物事を考え続けるのは限界がある。そこに、丹陽の持つ先回りの力が加われば、より戦術が立てやすくなるだろうと、その選択を優先してもらっていた。
襟帆鎮守府に入ると、そこでは調査隊の面々が待っていた。襟帆提督はついに限界を迎え眠っていると伝えられると、無理もないよなと納得する。黒深雪と雷は、もう少し襟帆提督と話しておくべきだったかと思っていたが、この戦いに勝てばいくらでも話す時間はあるだろう。
黒深雪は、自分の正体を知らない。襟帆提督も、黒深雪の正体を知らない。今知る必要はなく、今後も知らない方がいいならば、この状態を維持すればいい。
「私も呼ばれたのは、潜水艇の改造がある、ということですよね」
また、出撃する部隊以外にも、この場には明石がやってきていた。うみどりの主任も肩に乗っている。
その理由は勿論、これから6人の艦娘を敵拠点に送り込むために使われる潜水艇の改造。資材は襟帆鎮守府から提供される。
「ええ、少しでも破壊される心配を取り除きたいの。出来るかしら」
「少し時間をいただければ。強度を上げるだけでいいですよね。中を広くするとか、そういったことは」
「やめておきましょう。サイズアップはもっと時間かかるだろうし、操縦するのは妖精さんだもの。これまでの操縦に影響が出ることは控えたいわ」
「了解です。では、内部はそのまま、外装で強化するイメージで、ざっくりと改造していきます」
海中で迎撃される可能性を考えると、少しでも生存確率を上げるための最後の一押しが必要となるだろう。海中で潜水艇が沈められたら意味がない。護衛がつくにしても、それでも擦り抜けてしまう可能性がないとは言えないのだ。
しかし、あまりにも大幅な改造をしてしまうと、この潜水艇を操縦することに支障が出かねないし、そもそも時間がない。『工廠』の曲解により、触れるだけで改造が出来る明石であっても、他とのバランスを考えた改造をするとなると、どうしてもやらねばならないことが増えてしまう。
よって、潜水艇の改造は外装を増やして戦場に行きやすくするというだけで留める。保険をかけるくらいの考えではあるが、それがあるのとないのとでは大きく変わるだろう。
「10分ください。資材を使って、ある程度強固な装甲を貼り付けていきます。操縦する妖精さんとも話をしないといけませんから、最後に詰めます」
「急かすようでごめんなさいね」
「いえいえ、私もうみどりでギリギリまで艤装のメンテナンスしてましたから。先んじてこちらに来ていれば、もう少し時間があったんですけどね」
明石は最後の戦いまでの短い時間で、仲間達が十全に戦えるように、艤装を弄り続けている。そのおかげで、先程までの戦闘のダメージを極限までに回復していた。燃料弾薬も全て補給済み。確実な勝利のために限界まで働いていた。
潜水艇の改造まで手が回らないのはもう仕方がないこと。だとしても、出来ることは確実にやっていく。
短期間で進めた改造は、それでも最高最善の効果を発揮させる。ぱっと見でもわかるくらいに強固に装甲を貼られた潜水艇は、物資輸送のためのそれとは思えないような装甲艇へと姿を変え、ちょっとした攻撃ならば跳ね返すくらいのスペックを手に入れていた。
とはいえ、過信は出来ない。そもそも艦娘であってもひとたまりもない魚雷を喰らったならば、間違いなく沈む。それは装甲を分厚くしても変わらない。それに沈まないようにするとなると、時間も資材もない。
「少しだけ内部も触りました。物資輸送で考えなくてもいい酸素供給を強化しましたので、どうしても拠点に入り込めず、中でしばらく留まることになったとしても、しばらくは保ちます」
「助かるわ。拠点への侵入を妨害は普通にあり得ることよね。中に入られたくないはずなんだから」
「出洲自身が妨害に来るとは正直思っていません。ですが、その家族達が攻め込んできた場合はかなり厳しいと言えるでしょう」
「それを止めるのがあたし達だ。煙幕でも何でも使って護る」
潜水艇を守るのが、海中で戦う部隊。特異点組もそうだが、伊203とスキャンプもここでは手練れだ。それをやるだけの力は持っている。
潜水艇を確実に拠点に運び込むため、出洲との決戦の前に体力を使うことになるのは苦しいものの、戦力を減らす、延いては仲間を失うことだけは絶対に防がねばならない。
「深雪、ちょっといい?」
「おう、どうしたよフーミィ」
「特機って、余ってた?」
ここで伊203が最後の詰めに入る。それが、特機が余っていれば寄生させておくということ。
神風が使った今、今回の部隊で特機を持たずに向かう者は、特異点を除いて伊203のみである。回復のために『増産』の特機を使ったが、それは入渠の際に取り出しており、今はまた生身の状態。唯一のカテゴリーCとして戦場に立つこととなる。
だが、確実な勝利のために、伊203も特機を望んだ。あればあるに越したことはないし、確実に速い。速さ至上主義ならば、もっと早くそれを使っていてもおかしくなかったのだが、これまで使わなかったのは、ついさっきやった回復に使うという裏技のため。
伊203は神風と同様、使わずとも敵を撃破出来るくらいの力は持っている。今回の敵はそうも言っていられなくなってきたため、神風は使った。伊203も同じことを思った。
「特機か、あたしが持ってる1号以外だと……あったっけかな」
「ごめんなさい、電は持っていないのです」
「研究に使ったりしてたもんな。明石さんも1つは自分に寄生させてるし、多分在庫切れだ。『増産』のは『増産』しか手に入らねぇしな」
「ん、残念。念のためと思ったけど」
しかし、特機は全て使い切っている。深雪が持っている1号は、両腕に特機を寄生させることによって『解体』されてしまった腕を動かすために使っていることもあり、万が一の時のために持っておきたい。
そうなると、どうしても手放すことは出来なかった。伊203に渡したいところではあるのだが、どうしても緊急事態は避けたい。
「無いなら無いでどうとでもなる。あればあったでってだけだったから」
「悪いな。あたしもフーミィには何かしらやってもらいたかったが」
「深雪からそれを貰ったら、多分速くなくなる。速い方がいい」
こればっかりは仕方ないと、伊203は気持ちを入れ替える。頼れるならば頼ればいいが、頼らずともどうにか出来るならそれで構わない。万全を期すならばあった方がいいというだけ。
すると、ここで作業を終えた明石がとんでもないことを言い出す。
「私の仕事は今ここで一旦終わりです。私の特機をフーミィさんに譲渡しましょうか?」
工作艦としての作業で、『工廠』の力を使いながらやらねばならないことはここまで。あとは力が無くても可能なことばかり。であるならば、その力を必要としている者に譲渡して、より有用に使ってもらった方がいい。
「いいの?」
「私は構いません。出来ないということもないでしょう。下手したら私、深雪さんよりも特機のこと知ってますからね」
「解析してた甲斐があるってことか。なら……明石さん、フーミィにそいつ、貸してやってくれ。必要になったら」
「戦いが終わった後に、ですね。潜水艇を修理しなくてはならない可能性もありますが、それは工作艦としての力でどうにでもします。そもそも、簡単に壊さないでくれればいいだけですから」
「ん、任せて。絶対に傷付けさせない」
明石が自らの中から特機を解放。小さく震えながらも、胸元からズルリと特機が現れると、明石は元のカテゴリーBへと戻る。
「この特機は私の持つ『工廠』の力を持っています。おそらくフーミィさんにその力がそのまま譲渡されますが、深雪さんが燻し直せば、新たな力を与えるモノとなると思いますね」
「わかった。よかったか?」
特機側に聞くと、その触手でビシッと敬礼。そして、よろしくお願いしますと深雪の掌の上に乗った。
「よし、明石さん、改めてありがとな。一度燻し直す。すぐに終わるぜ」
軽く握り締めて、特機に煙幕をまぶしていく。すると、すぐに『工廠』の力は失われ、新規に力を与える特機となった。
「この状態でまた明石さんに寄生してもらえば」
「『工廠』が手に入るでしょう。その子は、私を覚えてくれているでしょうから」
「よし、わかった。じゃあフーミィ、よろしく頼むぜ」
「ん、任せて」
深雪から渡された特機を、その場ですぐに寄生させた。
これで本当に準備万端。ついに襲撃を開始する。