物資輸送用の潜水艇は、明石により改造されたことで少しでも固く、生存能力を高めたモノとなる。そして、明石の持つ特機が伊203に与えられたことで、戦力増強にも繋がった。
これにて決戦前の準備は全て終了。あとは、乗り込むのみ。
「それじゃあ、これが本当に最後の戦いよ」
伊豆提督も最後の戦いとなることに緊張感が拭えない。自分が共に行けないことを残念に思いつつ、この戦いが無事に終わることを信じて、誰も失わないことを願う。
痛い思いを、辛い思いを、なるべくならばしてもらいたくない。しかし、そうもいかないのがこの戦いだろう。阿手の時と違い、洗脳などの精神攻撃は無いだろうが、存在そのものがメンタルにクるのが出洲である。ひたすら自論を並べ立てて、他者の在り方を肯定するようで完全に否定してくるのを耐えなくてはならない。
潜水艇によって襲撃に参加する者達は、1人、また1人と潜水艇へと乗り込んでいく。広くもなく、狭くもない。選択された6人が駆逐艦であるおかげで、スペースはなんとかなった。グレカーレの改造された剛腕艤装だけはどうしても場所を取ってしまうものの、それでもしっかり収まり、こっそり新設された手摺りをちゃんと掴む。これで急激な揺れがあっても、中で横転するようなことはない。
「決着、つけてくるぜ」
「アナタ達ばかりに重荷を背負わせてごめんなさいね。本当なら、特異点だなんだ関係なく、後始末屋として、この海を綺麗にする仕事だけをやっていたかったのだけれど」
「まぁ……今やってんのは掃除ではないよな、うん」
深雪が頭を掻きながら苦笑する。後始末屋という部隊、業務から逸脱した戦いに身を投じることとなり、むしろ海を汚してしまっていることに心を痛めることもある。今でも、この戦いが終わった後の後始末のことを少し考えてしまうものである。
だが、この戦いも後始末の内なのだ。第二次深海戦争の負の遺産。残り続けている黒い部分。後始末をしなくては海が、世界が綺麗にならない。ならば、これもまた片付け。
「海を綺麗にするために、汚す奴をどうにかする。それも後始末だよな」
「ええ……そうね。穢れは根本から対処しないと、ね」
「そういう意味でも、この後始末はあたし達がやんなくちゃいけないのかもしれないって思うんだよ。喧嘩売ってくるのも向こうなんだけどさ」
拳を握り締めて、気合を入れ直す。今度こそ戦いの終わり。最後の敵を始末して、この海の平和を脅かす存在を消す。穢れを生み出し続ける者を、根から絶つ。
「あたし達の道は、あのクソ野郎に滅茶苦茶にされたのかもしれねぇ。だから、あたし達の力で、その道を正す」
「なのです。全部終わらせて、ちゃんとした後始末屋に戻るのです。寄り道も、脇見も、これでおしまいなのです」
電も深雪の隣に立ち、大きく頷いた。前に進むことをことごとく邪魔し続けた出洲は、ここで必ず終わらせる。ただそれを望み、海の平和を願った。
「ハルカちゃん、待っててくれ。絶対に、終わらせてくるからさ」
ニッと笑って拳を突き出す。電も小さく笑みを浮かべて同じように拳を突き出した。伊豆提督は、この心持ちを讃え、そして必ず上手く行くと願い、その拳に自分の拳を当てた。
「行ってらっしゃい。帰ってきたら、祝勝会を開きましょ。一度片付けからは目を逸らしてね」
「そりゃあいい、セレスの飯のためにも、無事に帰ってこなくちゃな」
「なのです!」
終わった後のことを考えるのはフラグかもしれないが、士気が上がるならばそれもいいだろう。この戦いが終わったら、片付けをする前にまずはパーッとみんなで盛りあがろう。そんな約束をして、深雪達は海に出る。
「行ってくる。絶対、終わらせてくる」
「行ってくるのです。負けません、勝ちます」
魔王と魔妃による最後の進軍は、ここから始まる。誰もが後ろを向いていない。勝利の道を見据えて、この戦いの終わりに向かって。
潜水艇を操縦するのは、襟帆鎮守府に住まう妖精さん達。操縦技術は人間より上。間違いのない操縦で、確実に出洲の拠点へと向かっていく。
ただ、艦娘6人を乗せていることを考えて、少しだけ慎重に。猛スピードで向かおうとはしておらず、中にダメージを与えないようにしていた。
「急停止したら中が酷いことになるもんな」
「なのです。玉突き事故で大破撤退なのです」
そんなことが起きたら笑えない。戦いのは無関係の事故で戦力を失うなんて言語道断が過ぎる。
「今のところ、誰かが待ち構えてるなんてこともねぇ」
「そうね。ずっとそうだけど、完全に隠れているわ」
その場所を知っているため、少しだけ先行する黒深雪と雷。潜水艇と同じように、迷いなくその場所に向かっている。
遠目で見てもそれが入り口だとはわからないように造られているようで、今はまだ島の影も見えていないのだが、真正面に近付いたとしても、そこにあると知らない限り間違いなく素通りしてしまうという。
かつて出洲は、研究を邪魔されたくないから隠れ潜んで続けていると話していた。軍港都市の地下施設も、堂々と見せていないのは、どうせ何かしらの文句を言ってくる者がいるから、そういう横槍が入らないようにしているのだと。あまりにも徹底しすぎ。
「何処かのタイミングで、近付いたことがバレるはずだ。事前に伝えてるとはいえ、あたし達が中に用がある時には、迎え入れてくれるみたいに門が開いてた」
「開くところも見たことがないわね、だから、前以て何処かで見ているって考えた方がいいと思うわ」
「それはあたし達にもわからねぇ。巧妙に隠してやがる」
潜水艇側からシグナルを出しているということもない。あちらが感知して、こちらが迎え入れる。全て、出洲の意のままである。
今回は迎え入れてくれるとは到底思えない。勝利の自信があったとしても、わざわざ拠点内に無傷で入れることもないだろう。入り口をどうするかで消耗させられるなら、その手段を使わない理由がない。
「ニムがいりゃあ、ンなもん全部見つけてくれるんだけどな」
「ん、無いものねだり。ニムは今治療中」
「わぁーってるよ。ったく、最初から最後まで徹底してうぜぇな」
スキャンプの悪態に伊203は淡々と返す。伊26の持つ『ソナー』の力があれば、隠された出入り口だけでなく、こちらを見ているであろうカメラやセンサーなども全て見つけ出してくれただろう。壊すことも出来ただろうし、逆に挑発することも出来た。
「見られてる感じはしねぇよな」
「なのです。でも、感知はされているのです?」
「まだ遠いかもな。海ン中だからわかりにくいが、島まではもう少しある。入り口は、その島の断崖絶壁になってるところ、岩礁帯の海の底に近いところだ」
「余計にぱっと見わからないようにされてんのな。こそこそが上手いこって」
綺麗な砂浜や、人の手が入っていない陸があると同時に、一部は崖のように切り立った土地もあるらしい。そして、その近海は岩礁帯となっているため、航行も少し難しくなるようである。
そんなところの海底に、潜水艇ですら入ることが出来るような大きな入り口があるようだった。完全にその姿を隠すようにされているため、ぱっと見ではわからない。だが、潜水艇を操縦する妖精さんと、その場所に行ったことがある黒深雪と雷には、それがわかる。違和感なくそこにあったとしても、その場所は見てわかる。
「入り口はそこしか無ぇのかよ」
「ああ、そこだけだ。他には何処にもない。陸にも繋がるところはない。あたしと雷は、少なくとも知らない」
「出入り口から入って、階段で上がっていくようなところがなかったのよね。私達の知らない緊急脱出口があるって言われたら何とも言えないけど」
「チッ、だりぃな。魚雷ぶち込んで全部開いてやりたかったんだけどよ」
スキャンプの荒っぽい考え方に苦笑しつつ、しかしその門が固く閉じられているというのならば、魚雷で無理矢理こじ開けることになることも理解はしていた。
それこそ、阿手の島の時と同じである。海底からの侵入経路を無理矢理こじ開けるために、その場所を外側から攻撃するのは常套手段。それで施設内が海水に満たされるなんてことも無いように作られているだろう。
それが嫌ならば、あちらは門を開いてくれている。無理矢理破壊されたら設備が使い物にならなくなると、それを回避することもあり得る。
だがそうなると、出洲すら海側に出てきていて海中での戦いを余儀無くされるだろう。出来ることならばそれは控えたい。戦力が激減する。
「そろそろ遠目に見えてくる頃だと思うぞ。それに、やってくるならそろそろだ」
「だな。あたしだったら、そろそろ仕掛ける」
島に近付いてきていることが伝わると、そろそろ攻撃が来るのではと身構える。潜水艇は速度を落とさず、確実に前進するが、その周囲を泳ぐ海中組は少し速度を上げて先行するように警戒した。
「残ってるのは、瑞鶴と五十鈴。瑞鶴は海の中でも艦載機が使える」
「もう飛んできてもいいってことだな。来るなら来いってんだ」
「スキャ子、それフラグだから」
意気込みを高らかに宣言することはフラグである。伊203のツッコミが入ったことで、それはやってきた。
潜水艦に真っ直ぐ突っ込んでくる艦載機。射撃によってその進行を防ぎ、あわよくば沈めて一網打尽を狙ってきた。
「戦闘開始だ。ここから最後の戦いだぜ」
「なのです。絶対に終わらせるのです」
これが最後の開戦の合図となる。終わりに向けて、全力を投じる。