強化された潜水艇で出洲の拠点へと向かう一行は、艦載機による襲撃を受ける。撤退した敵の中で艦載機を扱えるのは、知っている限りでは瑞鶴と小柄。だが、小柄がいきなり出張ってくるとは思えないため、おそらく瑞鶴と判断。
艦載機の射撃は、明石が取り付けてくれた追加装甲によって多少なり弾き飛ばすことは出来るが、問題は艦載機そのものが特攻を仕掛けてきた場合である。
「装甲様様だなちくしょう! スキャンプ、頼む!」
「わかってらぁ!」
艦載機の突撃に関しては、スキャンプの『スクリュー』による水流がよく効いた。真正面に立つと射撃で蜂の巣のため、真横から押し除けるように強力な水流をぶつけてコントロールを出来なくすることで、潜水艇の進行を妨げる艦載機を逸らしていく。
「鎮守府制圧してんのがわかってんなら、向かってくる潜水艇はぶっ壊そうとしてくるよなぁそりゃあ!」
「深雪ちゃん、煙幕で守るのです!」
「あいよ! 妖精さんの目は隠さないようにな!」
深雪と電は煙幕を発生させて、潜水艇を包み込もうとした。視界まで塞いでしまったら、操縦している妖精さんに支障が出てしまう。そのため、正面以外は煙幕により守り、正面のみは護衛艦隊で守ることとする。
基本はスキャンプ。やはり『スクリュー』の曲解は物理的にぶつかりに来るモノ相手には強力な効果を発揮し、両手両足を器用に使っていくことで、ぶつかりに来る艦載機はことごとく逸らされていく。
「本体に向かわないとだ! フーミィ!」
「ん、速攻で片付ける」
潜水艇を守っているだけでは戦いは進まない。艦載機を操る本体を始末しなければ、この猛攻は止まることはない。
戦いを速く終わらせるため、伊203は先駆け。拠点入り口正面あたりで陣取っているであろう艦載機を扱う何者かに速攻を仕掛ける。
「あたし達も向かう。特異点、いいか」
「ああ、任せた! お前、他の連中もどうにかしたいと思ってるか?」
「まぁな……あたしや雷と同じようにハメられてるかもしれねぇ。速吸と漣以外は、本当に被害者じゃねぇかと思ってる。出来るなら、救ってやりてぇ」
「なら行け! こいつを止めてくれりゃあ、すぐに追う!」
伊203の先行を追うように、黒深雪と雷も拠点へと向かう。これまでの自分の居場所であった場所であるとしても関係ない。真実の平和を知った今、仲間であると思っていたカテゴリーKは、一部を除いて全員が騙されて動かされているのではないかという疑問が尽きない。
ならば、救いたい。自分達と同じようにハメられたというのならば、正しい道へと戻してやりたい。その思いは、今のカテゴリーWとなった黒深雪と雷の胸に強く秘められている。
優しい願いを胸に、この戦いに立ち位置を変えて突き進む。その道に、後悔はない。
「雷、これまでの仲間と戦うことになるけど、良かったか」
黒深雪は雷に問う。自分は覚悟が決まっているが、雷には辛いかもしれない。優しさで救おうとしても、優しすぎると手が出せない。戦うのが難しいなら、後ろで控えてくれていても構わないと、黒深雪は雷に伝える。
だが、雷はそんなつもりは毛頭ない。自分の居場所は後にも先にも黒深雪の隣。相手が変わったところでそれは変わらない。
「大丈夫よ。私だって、他のみんなの目を覚まさせてあげたいもの。多分、私達みたいに騙されてるわよね」
「多分、な」
「なら、ちゃんと伝えたい。前の私達みたいに、疑うことなく付き従うなんてダメよ」
疑問を持った時点で頭の中を弄られてしまうのだから、余計にタチが悪い。むしろ、そうしないといけないような活動をしている時点でおかしな話なのだ。
「だな……よし、わかってもらおう。あたし達もわかることが出来たんだ」
「ええ」
救う事を胸に、黒深雪と雷は拠点へと向かった。
出洲の拠点の入り口は、ぱっと見どころか、凝視してもわからないくらいに完璧なカモフラージュが出来ている。切り立った崖からそのまま海底にまで伸びる岩壁の中央付近、岩礁帯となっている場所の隙間が入り口となっている。
近付けば近付くほど障害物が増えていくが、潜水艇が余裕で通れるくらいの隙間が複数あるため、それを縫って進むことで、物資輸送をしていたのだろうと察することが出来る。
そして、その岩礁帯の入り口とも言えるところに、それはいた。艦載機を操っているであろう瑞鶴、その護衛のように寄り添う五十鈴。
「いた」
その姿が目に入った時点で、伊203がさらに加速する。これまでの速さがまだ本気ではないということを見せつけるかのようなスピード。まだまだ速さは増すぞと。
「止めるわよ、絶対に!」
迎え討つのは五十鈴。伊203の突撃に対して、砲撃や魚雷を放つわけでもない。伊203のスピードに対して確実に反応し、真正面からぶつかり合いに来た。
五十鈴のスピードも相当なモノで、突撃に突撃を重ねたことで、拳同士がぶつかり合う。伊203は肩をぶち抜くつもりで殴りつけたのだが、五十鈴はそれを受けてもびくともしない。むしろ、その拳をしっかりと握り締めて、伊203の勢いすら殺していた。
伊203は知らないが、五十鈴はこういうタイプではない。あくまでも艦娘としての力が拡張されているのであって、近接戦闘が得意というわけではなかった。これまでならば、伊203に対して確実な砲撃を繰り出し、スピードを落とさせながら優位に持っていこうとしていただろう。
しかし、その戦い方は明確にこれまでとは違う。伊203に匹敵する程のスピードと膂力。砲撃よりもこうした方が
「……これまでと違う?」
知らずとも違うと感じた伊203は、訝しげな表情で五十鈴を見つめる。拳を受け止め、むしろ握りしめようとしてくる五十鈴だが、伊203の拳はそんなことでは砕けない。
「今までじゃあ勝てないってわかったんだもの。対策くらいするわよ!」
「……そう」
五十鈴も、あの時の戦いで自分達には勝ち目がない事を理解していた。あの丁型海防艦の潜水艇すら沈めることが出来なかったことが悔しかった。その上でガス欠により退場したようなもの。小柄と中柄を救うことは出来たが、それはあくまでも負けなかっただけで、勝つことは遠かった。
それを払拭するため、この短期間で強化を受けている。
「これまでの五十鈴じゃないわよ。超人であるアンタにも勝てるように、補給もしたし強化もした! ここから先には、進ませない!」
「口にするのはいいけれど、それがフラグになるのがわかっていない」
伊203は続いて脚を出す。猛烈な蹴りは、海中であっても丸太を蹴り折ることが出来るほどの衝撃があるのだが、五十鈴はそれすらも脚を出すことでガードする。やはり、びくともしない。
今の五十鈴は、伊203を真正面から受け止めることが出来るほどの強靭な身体を手に入れていた。
しかし、何かを犠牲にしているとしか思えない超強化。伊203は既に違和感を覚えている。
「私に勝つために、命を落とそうとしてる?」
伊203からの疑問に、五十鈴は嫌な顔をする。そんなわけないだろうと言いたげな顔。
「死んだら平和な未来に行けないでしょうが!」
「でも、今の貴女の力、間違いなく命を燃料にしてる」
五十鈴から振るわれる拳をさらりと避け、その後冷ややかな瞳で睨みつける。
「そんな力を与える人が、本当に平和を目指していると思う?」
そんな言葉をぶつけられても、五十鈴はぶれない。
「それくらいしないと平和は手に入らないのよ。アンタ達が抵抗するから、理解しないから、特異点がいるから!」
「深雪は関係ない」
伊203は断言する。
「深雪は、関係ない」
向かってくる五十鈴に言い聞かせるように、もう一度言う。特異点がいるからこうなったと、完全に責任転嫁してきているのが気に入らなかった。毎度毎度、同じことばかり。伊203も流石にイラついていた。
「話にならない。平和にならないことを他責にしすぎ。自分達が見えていないのに、自分達が正しいと断言出来るのが胡散臭い。信じることの出来ない存在。そもそもまともに説明出来ないのに、理解されないと文句を言ってくる。こちらの話を聞かないのに、そちらの話だけを押し付けてくる。それが平和だなんて、ちゃんちゃらおかしい。寄り添おうという気持ちもない。自分勝手で自己満足しかない、自己顕示欲の塊みたいな人」
あまり感情を口にしない伊203でも、ここまで思っていた。五十鈴はそれだけ叩きつけられても、だからどうしたという顔。やはり、人の話は聞かず、自分達の考えが正しいとしか考えていない。
「聞く気がないなら、身体に刻んであげる」
「来なさいよ、五十鈴達の平和を邪魔させない!」
「聞き飽きた。遅い、遅すぎる。だから、気に入らない」