黒深雪と雷の奮闘により、瑞鶴は何とか止まり、眠りについた。そしてそのタイミングで、突き進んできた潜水艇も到着。瑞鶴のためにと、五十鈴もここまでやってきた。
「瑞鶴!」
その姿を見て叫び、無事だとわかると安堵の息を漏らした。保護者としてあてがわれていた事もあり、誰よりも瑞鶴のことを心配していた。
そんな気持ちすら、ついさっきまでは再洗脳によって気付くことが出来なかった。あくまでも平和のため、特異点とその仲間達を止めるために行動するということしか考えられなかった。
特異点に助けられたことを、そういうところからも感謝し、そして瑞鶴に駆け寄る。自分もかなり辛いのに、自分より瑞鶴を優先する。真面目な五十鈴らしい行動。
「大丈夫だ……と言いたいけど、まだ命を喰い続けてるかもしれねぇ。特異点、あたし達じゃ上手くやれたかもわからねぇんだ。念のため、頼めるか」
「おう、任せろ。こんなことで死なせるわけにはいかねぇよ」
ここからは黒深雪から深雪へバトンタッチ。電と共に、雷から引き渡された瑞鶴に煙幕を注ぐ。命を糧にした強化は、『落ち着け』の煙幕によって緩和はされていたが、未だそのまま。このまま放置しておくのは厳しい。
そのため、五十鈴に施したように、命を喰い続ける強化が解消されるように願った。それは単純に、このまま死ぬなという優しい願い。これにより、瑞鶴の強化は失われる。
眠ってはいるが落ち着いた瑞鶴は、その後五十鈴に引き渡された。五十鈴は良かったとその身体を抱き締める。
「……すまねぇ、もっと穏便に終わらせるつもりだったんだが……」
「私達がされたように、『気付け』と『落ち着け』を使ったの……。でも、瑞鶴には『気付け』が強く出過ぎちゃったみたいで……」
黒深雪と雷は、少しバツが悪そうな表情で謝罪する。今でこそ上手く行っているように見える瑞鶴の救出も、経緯の中では不手際も幾つか見えたと反省している。
言い訳も出来るだろうが、それはしない。初めてやったこと、劣化コピーが見様見真似でオリジナルのやり方を実行したこと、まだ慣れてもいないのに出来ると思ったことなど、反省するべき点は多々ある。
「いや、そんなモン、やってみなけりゃわかんねぇよ。第一、一発で上手く行くことの方が少ねぇんだ。あたしだって、これまでアホみたいに使う機会があったから、ここまで使いこなせるようになっただけだしな」
「それに、すぐにやろうってしたから、この程度で済んでいるのです。何もしなかったら、もっと酷いことになっていたかもしれないのです」
「電の言う通りだ。動いたってことが、まずイイ事だと思うぜ。悪化させたわけじゃねぇだろ」
深雪も電も、経緯より結果を見ていた。ここにいる瑞鶴は死んでいない。傷も無い。疲れ果てて眠っているが、それだけである。これは救われたと言ってもイイだろう。
それをやったのは、黒深雪と雷だ。他者のために優しい願いを使って、救われてほしいと本気で思ったからこそ、今の結果に落ち着いている。確かに子供に死の記憶は辛く苦しいモノだったかもしれないが、それも仕方ないことだ。
「……そうか……でも、失敗は失敗だ。これを糧に、次はこうならないように気をつける」
「それでいいんじゃねぇかな。失敗しないと、わからないこともあるモンだぜ。あたしもそうだった」
「はは、そうかよ。特異点も、そういう時期があるんだな」
「当然だ。あたしはまだ生まれて数ヶ月だぞ。お前らが未熟なら、あたし達はその何十倍は未熟だっつーの」
「あたし達はついさっき理解したばかりなんだけどな……」
そんなことで言い合っていても仕方ない。というより、しょうもない。今はまず、ここから先に進む手段を考えねばならない。
「五十鈴達は最後の防衛線だったわ。こちらから、門は開けられない」
「だよな。ここまで来たけど、そりゃあ簡単に入ることは出来ねぇよな」
見ただけでは、そこが施設への入り口であるとはわからないくらいには偽装されている。ここを瑞鶴が守っていたから、潜水艇も真っ直ぐここを目指してきたから、ここが入り口なのだろうと思えるだけ。
見た目はただの岩壁。陸の岸壁からそのまま海底まで続いているような地形。開門すれば潜水艇も入ることが出来るくらいなのだから、ここはそれなりに大きな門が造られているのが予想出来る。
「例えば、魚雷をぶち込んで門を壊すってなるとどうなる」
「出来るけれど……どうなるかしら……。私達は外に出るときは、それ相応にいろいろやってるから……」
この門は二重扉になっており、海水が施設内に入らないようにされているとか、いろいろと工夫はされているようである。
そうなると、門を破壊したら内部はどうなってしまうのか。それでどうにかなればいいが、戦闘中に常に海水が入り続け、最終的には全てが沈むとかになられた場合、そこは最初から牢獄みたいなモノになってしまう。時間制限までつけられる上に、あちらは海中でも活動可能。これまでの戦いとは何ら変わらない。
「出洲の野郎がわざわざ入れてくれりゃあイイんだけどな。宣戦布告してきたくらいなんだ。それで門前払いだなんて巫山戯てるだろ」
「誘き寄せて、不利な状態で戦わせようとしているかもしれないのです。電達は、どんな状況でも必ず来るって信じてるから……」
「中には戦うことも出来ない人間もいるんだよな。出洲の部下だけならともかく、もしかしたら他の……それこそ実験材料になるような人間もいるかもしれねぇ。施設ごと潰すなんてことは、流石に出来ねぇよな」
ここからどう進むべきか。それが途端に難しくなる。だが、ここで素早く動き出す者は当然存在する。伊203とスキャンプである。
「出洲はそれくらい対策してる。そうじゃなきゃ、こんなところに拠点なんか作らない」
「だな。あたい達は、ここを魚雷でぶち破るためにここにいるんだ。ぶちかますぞ」
「ん、それが一番早い」
魚雷を発射する構えを取っている2人に、おいおいと深雪は焦りを見せる。が、伊203は続けて語る。
「阿手の島の時、地下通路と外との出入り口を壊しても水没しなかったでしょ」
「……ま、まぁ、そうだけど」
「出洲自身も、それくらいの設計をしてる。そんなお粗末な奴じゃない。だから、一番早い作戦で行く」
言うが早いか、伊203とスキャンプは、容赦なく岩壁に向かって魚雷を放った。そこに誰もいないだろうから、考えることもなく破壊活動に出た。
後からこれを後始末することになるというのが気に入らなかったようだが、こんなことであちらに時間を稼がれているのも気に入らない。なので、そこは速さ重視。開かない門ならぶち壊して道を作る。
2人の魚雷は見事に岩壁に直撃。岩肌を木っ端微塵にすると、そこには場違いな金属室の門が隠されていた。かなり頑丈に造られているようで、魚雷の一発や二発では、まだ穴を開けるには程遠い。
「まだ撃つ。深雪達も手伝って。むしろ深雪、あの消し飛ばす砲撃。あそこに撃って」
「ここ海の中だぞ……上手く行くか……?」
言われるがまま、深雪は強固な鉄の門に向けて、消し飛ばす砲撃を放つ。艤装も肉体も、何もかもを抉り取るようにするその砲撃、煙幕の力でパワーアップしているとはいえ、そこは海中。そもそも砲撃の威力が激減する場所。
その砲撃は、見事に鉄の門に直撃する。だが、そこに球形の凹みを作るだけで、まだ破壊にまでは至っていない。
「やっぱり、威力落ちてるな」
「充分。スキャ子、あそこ狙えばいい」
「あいよ。ぶち壊してやるぜ」
だが、凹みが出来たということは、そこが急所となる。伊203とスキャンプは、その凹みを完璧に狙って魚雷を再度放った。
一発目はまだ止められる。だが、二発、三発と直撃するにつれ、門のカタチが明確に変化してきた。
「もう少し。あちらも文句なんてないはず」
「言わせねぇよ。こっちにさんざん好き勝手してきたんだからな」
トドメの一撃となる魚雷が、門に突き刺さる。その瞬間、ミシリと嫌な音が立ち、そしてバゴンとひしゃげるように門が破壊された。まだ穴は小さいが、一度破壊が発生したら、後は適当にやっても穴は拡げられる。
「よし、あとは潜水艇が入れるくらいにまで壊す」
「おうおう、中に海水が入っていくじゃねぇかよ。それに、ほらミユキ見てみろよ。排水の機械が唸りを上げてるぜ」
破壊した門の向こうで、何やら激しく動く機械を見つける。それは、施設内に海水を溢れさせないようにしている排水機。その海水が何処からどのように排出されているかはわからないが、門が壊れた時に施設が沈まないようにすることは、きちんと対策されていたようである。
「あたい達の侵入を許可してくれてんだ。待ち構えてるだろうよ。おら、もっと入り口拡げてやるよ!」
さらに魚雷が撃ち込まれたことで、潜水艇も入れる程の大きな穴へと加工された。
これでついに、拠点に入ることが出来るようになったのだ。
最終決戦の扉は、かなり強引に開かれた。残す敵はあと3人。その全てを撃破し、この戦いを、長かった戦いを終わらせる。