固く閉ざされた出洲の拠点の入り口は、非常に強引ではあるが魚雷を何度も撃ち込むことで破壊。深雪の消し飛ばす砲撃も込みにして、潜水艇が侵入出来る程の穴をこじ開けることに成功した。
拠点側にもかなり海水が流れ込んでいるが、排水の機能が働いているようで、それ以上海水が奥深くまで行くことはない。その辺りはキチンと対策を取っているようである。
「よし、本当に入れたな」
潜水艇が慎重に穴を通り、拠点の中へ。穴の向こう側には、おそらく物資輸送を迅速に行えるように用意された岸があり、潜水艇はそこに横付けされた。
侵入者を阻むような罠も仕掛けられていない。それがあっては困るため、穴の向こうに伊203が先行したが、何かしら破壊活動をしたようには思えなかった。
「大丈夫、今なら降りられる」
「よし、乗り込め乗り込め」
潜水艇が安定して停止することが出来たなら、中から更なる部隊が出撃する。ここまでやってくるのにヤキモキしただろう。それから解放され、身体を少しほぐしていく。
「無事ここまで来れたわね。ここからが本当の戦いなわけよね」
筆頭の神風が周囲を見回す。地下に造られた拠点の入り口ということもあり、この場所だけは工廠のように広い。しかし、何かをするというわけではなく、おそらく海水が奥まで行かないようにするために大きめに空間を取っているだけ。物資を運ぶにしても、ここまで大きな空間は不要だろう。
むしろ、ここ以外は全て狭い空間であることが容易に想像出来るため、戦いはかなり面倒臭いことになりそうだと考えられる。海戦とはまるで違う室内での戦い。砲撃をするにしても障害物に阻まれ、大振りな攻撃は繰り出すことも難しい。
そういう意味では、神風が最も戦いにくい場所かもしれない。刀を大きく振り回すことは不可能になり得る。
「何処かの部屋で戦えればいいけれど、当然ここは戦うために作られているわけではないものね」
「だな……合間合間に壁がぶっ壊されれば話は変わりそうだけど」
「簡単に出来れば苦労はしないわね。ああ、こういう時に熊野丸がいたら楽だったんだろうけど」
軍港都市の地下施設襲撃の際に、壁を破壊しながら突き進んだことを思い出す神風。あの時は、熊野丸が壁を1枚1枚破壊して真っ直ぐ向かう道を作ってくれたが、その時と同じことをすれば、ある程度広い空間を無理矢理作ることも出来ただろう。
「もし増援が出来そうなら、梅に来てもらいたいな」
「そうね。『解体』で壁を片っ端から壊してもらうわよ」
今は無いものねだり。確実性のある部隊でここにいるのだから、狭い空間でも出来る限りのことをするのみ。
「全員降りたよ。潜水艇はこれで帰れるね」
中に乗り込んでいた6人が全員拠点に降り立ち、最後に確認だけしたグレカーレがOKを出す。潜水艇がずっとここに待機している必要はなく、むしろ往復して増援を連れてくることが大切。破壊も何もされていないのだから、堅実に勝ちの目を取りに行く。
「アンタ達は、一緒に鎮守府に行ってくれ。今は入渠とかも出来ねぇだろうけど、事情を話せばハルカちゃんがうみどりでやらせてくれる」
五十鈴と瑞鶴は、ここで潜水艇と共に戦場から離れることとなる。今の状態で戦いなど無理だし、瑞鶴も眠ったままだ。深雪が煙幕によって命を喰い尽くすような強化を解除しているが、消耗が激しいのは変わりない。五十鈴はそもそも兵装も破壊されている。
「ありがとう、五十鈴達を救ってくれて。瑞鶴は……辛いことを思い出しちゃっただろうけど、ちゃんと支えてあげるわ。これ以上壊れることのないように、うん、どうにかする」
「戦いが終わった後、いくらでも考えてやれるさ。あたし達もその辺は手伝うから。救われた奴は他にもいるんだからな」
深雪は黒深雪に目配せすると、小さく笑みを浮かべてから頷いた。黒深雪と雷も、この戦場で救われた者。戦いが終わった後、どうすればいいのかはわかっていない。
「一度死んでるのは一旦忘れていい。今を考えればいい。これからをどうするかだ」
「……そうね、その通りね。せっかく貰っちゃった第二の人生なんだもの。今度はブラックな会社とは無縁のスローライフに勤しみたいわ。この後、オススメの場所があったら教えて」
「ああ、そのためにも絶対に帰るからよ。期待して待っててくれよな」
ニッと笑って五十鈴と瑞鶴を拠点の外へと送り出す。
「スキャンプ、何もないとは思うが」
「言われなくてもわかってらぁ。あたいは潜水艇の護衛をしておく。何かあっても困るからな。戦力にならねぇ奴のお守りも必要だ」
「ああ、頼んだぜ。お前は強ぇからな」
「はっ、何ガラでもねぇこと言ってんだ。さっさとぶちのめしてこいよ特異点。援軍連れてまた来てやるから、それまでにやられるなんて無様なところ見せんじゃねぇぞ」
そして、スキャンプが護衛として海中へと戻ると、潜水艇は再び拠点の外へと向かっていった。増援、第二陣を運ぶため、救われた五十鈴と瑞鶴を安全な場所に送り届けるため。
これはここにいる者達の退路を絶ったことにも繋がる。スキャンプを除いた11人の変則的な連合艦隊は、敵地にて改めて作戦会議を行う。
「見た感じ、ここは安全。攻撃してくるようなモノはない。ひたすら頑丈。ここがおかしくなったら、物資も無くなるからだと思う」
「そりゃあそうだよね。デスとかは構わないけど、出入りしてる人間とかは、ここが潰れたら死活問題だもんねぇ」
さらっと調査した伊203の言葉に、グレカーレがそりゃそうだと納得しながら頷く。ここだけは崩れないようにと、かなり頑丈に造られているのは見てわかることだ。門だって、本来なら破壊されることを想定していない。深雪の消し飛ばす砲撃に、正確無比な雷撃を撃ち込まれて、初めてここまで破壊されたに過ぎない。それでも念入りに保険をかけ、海水が流れ込まないように排水機構を万全にしている辺り、やはり用意周到。
罠が仕掛けられていないのは、余程の自信があるか、特異点は直接叩くから、そこまでしなくてもいいと考えているのか。
どちらにせよ、ここでいきなりやられるようなことが無かったのはラッキーとも言える。
「子日がちょっといってこようか。安全か、そうじゃないかくらいかだけは調べられるよ」
「姿が消せても察される可能性はあるから、過信せずに慎重にね」
「はーい、それじゃあ偵察任務、行ってきまーす」
こういう時のために子日がいる。『迷彩』により姿を消し、単独で偵察任務に向かった。今この時も、そうしたことを見られているかもしれないが、ここまで来たらもう何も変わらない。そもそも、姿が消せる者がいることは、中柄にバレている。
新たに手の内を見せるわけでもないのだから、多少は大胆に、堂々と切り込む。見えていないというのは、それだけでも有利である。
勿論、完全に隠れきれているとは思っていない。もしかしたら、既に中柄には捉えられているかもしれない。そこまで考慮して、姿は消しつつも、堂々と敵の前に姿を現すようなことはするつもりはない。
「ここでジッとしているのも良くないだろうし、そこまで大きく動くことなく、この辺一帯を調べておきましょ。見た感じ何も無さそうではあるけど」
「だな。隠してある何かが無いか見るために、軽く煙幕を流しておく。隠し通路とかあったら面倒だしな」
煙幕はこういうところでも便利である。阿手の島でもやったことだが、感覚を薄く広く伸ばすようなモノだ。ほんの僅かな違和感でも、それによって確認出来るかもしれないのだから、やらない理由はない。
黒深雪も見様見真似でそれをやってみようと考えたが、煙幕に煙幕が重なって感覚が混線するかもしれないため控えた。
「別個体、この辺ってどんな感じなんだ。お前ら、ここには来てたんだろ」
「ああ……つっても、上っ面だけと思ってくれていい。隠し通路とかあるって言われても知らねぇんだ。ここに来るときは、何かしらの調整とか、あと報告とかくらいだしな」
「そうなの。たまにここでお泊まりすることもあるけど、その時はここから奥にある居住スペースを使わせてもらってるだけ。実際、知らない部屋も結構あるわ」
黒深雪に続いて、雷も情報を提供してくれる。研究に使われているスペースと、全容を知っているというわけではない。自分が行ったところは多少はわかるが、他の場所で何をしているか知らないというのもある。それこそ、小柄と中柄がここでどのように生活しているかも知らない。
とはいえ、自分達の艤装を置いておく場所、補給を受ける場所は、こことはまた違う場所である。この出入り口とは別に、工廠に近い場所もあるのだという。
「戦えそうな広い場所はあるのか?」
「あたし達が知っている限り、艤装とかを置いておける場所くらいだな。それ以外は、鎮守府とそこまで変わらねぇ、かな」
「鎮守府の方がまだ生活感があると思うわ。どちらかといえば、病院に近いと思う。まぁ……奥の方の知らない場所はどうなってるのかわからないけど」
少なくとも、最後の戦場になりそうなのはそこであろうと、一同は思った。広いと言ってもその程度。全員が十全に戦えるかはわからない。
戦いはまだ始まったばかりだ。まともに戦えることを祈りつつ、深雪達は改めて気持ちを入れ直した。