出洲の拠点への潜入に成功した一同は、警戒を厳にして周辺を調査開始。深雪は薄く煙幕を拡げていくことによって、僅かな隙間なども見つけようとしていた。見えていないところに隠し通路などがあるかもしれないし、罠だって仕掛けられているかもしれない。
とはいえ、この拠点をまだ使っていこうと考えているのならば、その中で滅茶苦茶なことはしないだろう。特にここは物資輸送でも重要な場所。破壊されたら今後が困る。
「地面には今のところ何も感じねぇ。あの島の時みたいな地下に続く階段みたいなのは隠されて無いと思う」
「壁もなのです。ここはあくまでも出入りするためのところという感じかもなのです」
特異点組の調査で、ここには余計なことはされていないと思われる。強いて考えられるならば、天井に隠しカメラくらいは設置されていそうというくらい。ここに入ってきたモノを把握するためにも、無いわけがない。
視線のようなモノは感じないものの、それがありそうな穴はちらちら見える。煙幕を使って確認する程のものでは無い、あちらもバレても別に構わないと考えていそうである。こういう施設にカメラがないわけがないのだから。
「監視カメラがあるとして、それを統括する部屋が何処にあるのかは知らないな」
「私達が入れる居住区よりも奥の方にあるんじゃないかしら。誰が管理してるかもわからないし」
「研究する場所にも、そういうのが見えるところは無かったと思うぜ」
この拠点を多少は知っている黒の特異点組の貴重な情報。知らないというのもありがたい情報になる。仲間にすら、その辺りは見せていないという証左になるのだから。
「うーん、やっぱりここは何も無いんだろうね。生活の基盤ってわけじゃないけど、万が一考えたら、ここに危ないモノ置いときたくないじゃん」
グレカーレは語る。何かするにも、出入り口にいろいろと置いておくことはないのではないかと。
あくまでもここは、物資輸送の搬入口。外部から取り寄せた生活のための食糧や雑貨、もしかしたらサブカルチャーの類までを管理して、ここから奥に持っていくために使われている。そう予想する。
モノが多いなら、もしくは大きいモノ、重いモノを手に入れたのならば、それを運ぶための何かがここにあってもおかしくはないのだが。
「全部この奥に置いてあるんじゃないかな。倉庫とか物置とかは、通路のちょっと向こうとかね」
「なら見てくるっぽい? 夕立なら、もし倉庫が爆発しても大丈夫っぽい」
「だね、ちょっと見てきてもらえる?」
「ぽーい」
グレカーレの予想を確かめるため、この空間から見える通用口の方へは夕立が向かう。いきなり攻撃されても『ダメコン』があればある程度は耐えられる。それこそ、この場にいきなり敵が現れたとしても。
それもあるため、夕立は1人で通路の方へと向かった。複数人で向かった場合、夕立は無事でも他の者達が巻き添えを喰うかもしれない。
「何かあるかなー、何かあるかなー」
暢気なモノであるが、夕立は足取り軽やかに通路の方に入っていく。その通路は、艤装を装備していても通るのには余裕があるが、横並びになったとき、よくて2人がいいところ。敵と通路で相対したとき、すり抜けることは可能だが、割とギリギリに見えた。
おそらく、フル装備の小柄で余裕があるようにされている。小柄の艤装は横に大きいところもあるので、それを加味して幅が決まっているようである。
「ん、見っけ。少し大きめな扉」
アナログな鍵が掛かっている扉。艦娘のパワーがあれば、それは捻じ切ることが出来そうである。中に何があるかは確認しておきたいため、夕立は扉をこじ開ける。
扉は簡単にひしゃげ、駆逐艦のパワーでも簡単に開いたそこにあったのは、運ばれてきた物資をさらに奥に運ぶための荷台や、物資輸送の際に空間が汚れてしまった時に掃除が出来るようにする器材がちょいちょい。あの通路でも通れそうな小型の重機が鎮座しているくらい。
「ハズレ。まぁ、ここにあるのはこんなモンっぽい」
扉はそのままに、さらに周囲を見る。誰かの気配があるわけでもない。見られているかもしれないが、それを咎める者も現れるわけではない。
「この辺はあくまでも生活のためって感じに見えるっぽーい」
「なるほどねー。うん、普通っちゃ普通だよね。そもそもここで一番危ないであろう海に近い場所に、そこまで重要なモノは置かないか。なら面倒でも全部奥の方に持っていくってことかな。クロとかイカヅチとか、その辺り知らない?」
「あたし達は物資の輸送を手伝ったことがないんだ。そういうのは基本、速吸がやってた」
「サポートが欲しいってときは、漣が手伝ってたわね。やっぱりあの2人が一番深いところにいたのよ」
漣はさておき、速吸はそういうことをしそうな者。この辺りの設計にも口を出していそうである。
「やっぱアレか、仲間にも詳細は伝えない感じか」
「ああ、あの人は秘密主義ってわけじゃあないかもしれねぇけど、必要最低限のことしか伝えてこないな。いらないこと言って暴走されたら困るからかもしれねぇ」
「何処から死因に繋がるかわからないしね。私達はそういうのがないけど、他の人ならわからないもの」
そういうところも関連してそうだが、それ以上に出洲は不必要なことは言わなそうだと深雪は思った。嘘を吐くわけでもなく、隠し事をしているわけでもない。聞かれないから話さない。ただそれだけ。
黒深雪達も、わざわざ聞くようなことがないから、出洲が淡々と必要なことだけを話すのみ。信用させているからこそ、それが成り立ってしまう。質問すら作らせない。
「ここは血の匂いとかあんまりしないっぽい」
「言われてみればそうだな。後始末の現場と似たような匂いはしねぇ」
「清潔ってことだね。ここだけは掃除行き届いてるみたいだし。食糧が汚れるのは、いくらデスでも嫌だってことかな」
「不潔なのは、誰でも嫌だと思うのです」
「違いねぇ」
調べるとわかる、この場所の管理のされ方。不衛生な管理などは避けられている辺り、そこは非常に人間らしいとも言える。ここに複数人滞在する非戦闘員の人間達のためのことを思っているのか、むしろその人間達の発案なのかはわからない。
「奥に行けば行くほど、そういう匂いはするようになるかもな」
「今頃子日が行ってるっぽい?」
「多分な。何もなければいいんだけどな」
通路の向こう側を見つめる。今は何もないが、そのさらに向こう側には、子日が偵察に向かっている。何かを見つけてきていればいいのだが、と深雪は願った。
その子日は、先程の夕立のように無理矢理扉をこじ開けるようなことはしていない。あくまでも『迷彩』によってバレないように道を進むのみ。情報が手に入れば、それを持ってすぐに撤収する。
「……見た目はあの島の施設とそこまで変わらないなぁ」
造りそのものは、阿手の島の地下施設と殆ど変わらない。地下にあるということで、強固な壁で覆われた通路。何処もしっかり明るく、電気が通っていることがわかる。
この電力は何処から作り出しているのだろうの疑問に思いつつ、いくつか開いている扉の中をチラリと眺めると、そこは資料室。電子媒体が基本であっても、紙媒体で残しているモノもあるようだ。
これは自分が見るモノではないとスルーして、さらに先に進むと、明らかに毛色が変わる場所があった。無骨な研究施設とは一転して、少しだけ生活感のある雰囲気。黒深雪と雷の話している居住区であるとわかる。
「この辺に人が住み込みで働いてたりするのかな。ちょっとした鎮守府みたいだ」
ここにはそこまで必要な情報はないと考えつつも、そういうところにこそ何か重要なモノがあったりしかねないので、何もないことを知るために、迅速に調査を進めることとした。
誰にも見られていないのならば、さらりと通過する時に部屋の中を見るくらいでいい。念入りに調べるまでしなくてもいい。
「……ちょっと、油の匂い……?」
ここで感じ取れたのは、後始末の際にもよく感じ取れる残骸の匂いとも言える油のにおい。ここで行われている実験材料が、後始末屋に馴染み深い残骸であることを如実に表している。
何処からか回収し、それをここまで持ってきて、そして研究をする。単純明快。軍港都市の地下施設の場合は、業者を使って手に入れていたが、この施設では発生したモノをそのまま使っているのだろう。始末するなら、カテゴリーKもいる。
その匂いがするということは、身体を清潔にしていても匂いがつくくらいに残骸と接しているということ。後始末屋とは清潔にする質が違うか、染み付いた匂いはなかなか取れていないようである。
「やっぱりここ、そういうの使ってるんだ。わかりやすいなぁ」
高次の存在となる研究には、その辺りが必要不可欠ということ。それは阿手と変わらない。
「それは今はいいや。もっとわかりやすい、戦いやすい場所とかはないかな」
居住区は戦いには向いていないことがよくわかった。そもそもが狭い。子日でギリギリである。こんなところで敵とかち合ったら、面倒なことになる。こちらは避けて行動したいところ。
「せめて、研究室の辺りを見つけたいな」
そんなことを呟きながら、子日はさらに突き進む。未だ、人の気配は感じ取れていない。
戦いはすぐそこにある。しかし、それがいつになるかは、まだわからない。