後始末屋の特異点   作:緋寺

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港への探り

 おおわしの2人を加え、総勢10人となった駆逐艦の会は、休暇を満喫すべく娯楽街へと繰り出す。大人数での行動は、人間が多い娯楽街ではどうしても全員纏まって行動ということが難しくなるのだが、それでもうまく半々に分かれるようにし、すぐに合流出来るように心掛けることによって、楽しく散策が進む。

 

「ね、美味しいでしょ?」

「すっごく美味しいのです!」

「……侮れないね……人間の食べ物は」

 

 前回の散策で子日が深雪に勧めたクレープを、今度は電と時雨に食べてもらっていた。娯楽街散策の第一歩は毎回これ。子日の特にオススメであり、いつも必ず食べることにしている。

 電はともかくとして、時雨すら感嘆の息を漏らす程である。駆逐艦というのは総じて甘味が好物であり、カテゴリーMである時雨も例外では無かったようだった。

 

「あたしも初めて来たとき食べたんだけどさ、すっげぇ美味ぇって感動したんだよ」

「そうなのですね。でも、本当に美味しいのです。ここに来たらまた食べたいって思えるのです」

 

 電はそれはもうニコニコ。時雨以上に甘味がよく効いているようで、ここ最近はあまり顔を出さないネガティブ思考が、これによって消し飛んでしまったかのようだった。

 時雨は時雨で、モフモフと食べ続ける。人間が作った物というのがどうしても引っかかるようだが、だとしても食べる手が止まらないという困ったことになっていた。

 

「時雨もハマってんな。この街、これだけじゃないぜ。まだまだ始まったばかりだぞ」

「わかってるさ。せっかくだから、人間のことをここで知ってやるさ」

「おう、どんどん知っていけ知っていけ」

 

 少なくとも、散策開始で悪いことなんて起きやしない。今回のコースであれば、時雨の悪い方の琴線に触れるような出来事は無いと言ってもいい。

 甘い物でコレならば、他の店に行っても大概楽しめるだろう。雑貨屋や本屋でも深雪は楽しめたくらいだ。

 

 ただ、店員と会話させるのはやめた方がいいというのは誰から見ても明らかだった。まず明らかに目つきが悪い。初見の人間には呪いの効果が最大限に発揮されるため、常に睨みつけるような表情になってしまう。これが非常によろしくない。

 それに、口を開けば愚痴が出かねない。仲間内ではそれが呪いであることがわかっているから許せるが、知らない者が時雨と対面したら、まず間違いなくいい印象を持たない。最悪、いざこざにまで発展する。

 

「こっちも美味しいですよ」

 

 そう言いながら白雪が持ってきたのは鈴カステラ。こちらは前回の散策では食べていないモノだったりする。店がかなり多いので取捨選択はどうしても必要になるのだが、前回はどうしても避けていた。

 その理由は非常に簡単で、量が思ったより多いからである。最低が一袋20個入り。多いと50や100と増える。これから食べ歩くと言っているのにその量は流石に食べきれない。

 残して持って帰るという考えに至らないのは、テンションが上がっているからだろう。そこで買ったモノは、そこで消費する。お土産として買ったモノ以外は、しっかり食べていく。それがここでの楽しみ方である。大概そうしている子日のせいだったりするのだが。

 

「お、確かに美味ぇ! こりゃあお土産に買っていくのもいいな」

「そう言うと思って、50個入り買っておきました」

「うぉお、流石だぜ! ありがとな!」

 

 白雪がわざわざお土産を買いに行ったのは、理由がそれだけでは無いからだ。

 

「白雪、聞き込みをしていたんだろう?」

 

 響に言われ、小さく頷く。この鈴カステラの店は、軍港都市でも古くからあることを掲げている店。ならば、この界隈の情報を多く持っていてもおかしくないと睨んでいた。

 故に、モノを買いながらも世間話をさせてもらっていた。ここは昔はどんな感じだったのか、最近の客の入りはどうなのか、などなど。本当にたわいない世間話。しかし、その中から元凶に近づくヒントが見つかったりする。

 

「このお店、この港が出来た大体30年前からあるらしくて、界隈では一番くらいの老舗みたいですよ。だからこんなに美味しいんですね」

「確かに。不味かったら潰れているだろうからね。ここまで生き残っているということは、相応にいいモノを作っているということだね」

「その上で、ここが()()()()()()()()が聞けたんですよ」

 

 奇しくも、おおわしで昼目提督が調べ上げているこの軍港の歴史について話を聞くことが出来ていたのだ。

 

 

 

 

 一方、軍港鎮守府。昼目提督から連絡を貰い、軍港の歴史を洗い出していた保前提督。

 

「あいつ軍規スレスレの調べ方しやがって……でも、そのおかげで、この港で何かが起きてるってことがわかったなら都合がいいか」

 

 昼目提督が鳥海に話していた通り、保前提督がこの鎮守府の提督として就任し、軍港の管理者となったのは、第三次深海戦争が始まってから。戦争が始まった直後から軍港だったわけではなく、最初の半年で港の部分だけ改造し、そこに保前提督が納まったというのが正しい。

 

「能代、データだけじゃなく紙媒体の方をありったけ持ってきてくれ」

「はい、でもここ最近ではデータ化されているのでは?」

「その時に改竄されているかもしれないだろう? この港を造った連中に元凶の息がかかってるって言うなら、当時のデータと食い違いがあるかもしれないじゃないか」

 

 そういう資料が紙でも残っているかはわからない。だが、データ化した時に紙媒体を廃棄するということもしないルールがあるため、ここの差があるのなら、何者かが歴史を隠蔽しようとしているのと同義になる。

 

 資料のデータ化が始まったのは、何もここ最近というわけでは無い。第一次深海戦争の際に貴重な文献が燃えたことから、終戦してから第二次深海戦争が始まる35年間の間に、重要な書類はそれを残しつつデータにも置き換えたという。

 勿論その時にはまだ能代はおろか保前提督だって生まれてはいない。物心ついた時には既にあったルールである。そうするのが当たり前。この軍港鎮守府でも、紙媒体とデータの2種で管理するようにしている。第三次に入ってからは、基本はデータをプリントアウトするだけではあるのだが。

 

「第二次までは手書きの書類も結構あるはずだ。今とは勝手が違うから、紙からデータの順だった頃もある」

「なんというか……要領が悪いですね」

「そう言ってやるな」

 

 それに、と保前提督は続ける。

 

「本当にこの軍港……の前身である港を造った時に、元凶の施設を隠す目的だったとしたら、1人くらいは罪悪感を持っていてもおかしくないと思ってる」

「全員が全員、悪人では無いと?」

「ああ、そういう奴ってのは、その時は逆らえなくてもバレないように何か隠してくれてるはずだ。俺みたいな後任にだけわかるようにな」

 

 あくまでも願望ではある。だが、自分ならそうする。手書きの書類であれば尚のこと、そういうことを()()()ことがしやすいだろう。

 それもバレてしまっていて廃棄されている可能性はあるがと苦笑しながら、出来ることをやるぞと手を動かし続けた。

 

「あくまでも、第二次で壊れた輸送経路を再構築するためにここに港を造るという体裁みたいだな。ということは、地下施設自体はそれよりも前、第二次の真っ最中からここにあったってことだ」

「第二次の時から、艦娘の命を使った研究というのはされていたんですよね」

「ああ、だから純粋な艦娘に人間は愛想を尽かされたんだ。第二次は最後まで協力してくれたが、その最後に元凶と思われる人間を皆殺しにしてから海に消えたっていうのが俗説だな」

 

 その元凶がまだイキイキとしていると思うと、何ともやるせない気持ちになる。純粋な艦娘に対して、申し訳なさしか出てこない。

 

「表立ってやっていた研究は潰されましたが、裏側でやっていた研究はずっと続いていた、と」

「元凶の連中も一枚岩では無いってことだ。堂々とやりつつも、それ以上に()()()研究をここでやっていたんじゃないか?」

「例えば」

()()()()()()()だろうな。秘密裏に、艦娘相手以上の手段を使って」

 

 能代は吐き気を感じていた。あらゆるモノを研究対象にするのはまだマシだ。しかし、やっていることが完全に命の冒涜。何を考えてその研究をしようとしているのかがわからないレベル。

 

 それが戦争に勝つための研究と言うのならば、表立ってやるだろう。現にやっている部署もあるが、それは深海棲艦の亡骸からの研究だ。わざわざ生きたまま捕らえるなどしていないし、ましてや深海棲艦を改造して解き放つなんてことはするわけがない。

 そもそも、深海棲艦を()()()()()()技術がある時点で何処かがおかしいのだ。どうやればそんなことが出来るか全く見当がつかない。理性がない上に本能的に人間を攻撃する深海棲艦を従える手段なんて、どうすれば手に入るのかがわからない。

 

「堂々とやっていたのがトカゲの尻尾なんだろう。本当に調べたいことはここでやってたんじゃないか? それで、尻尾が切れたからもっと隠すために港にした。そりゃわからないわけだ。ここが全部隠すための都市だっていうならな」

 

 溜息を吐きながら、保前提督と能代はデータと書類を掻き集める。その元凶に辿り着くための資料を見つけるために。

 

 

 

 

「本当に食べ歩くんだね……お腹が膨らまないかい」

「だいじょーぶだいじょーぶ。これくらい、艦娘ならすぐ消化出来ちゃうから」

「それは君だからじゃないかな!?」

 

 子日にツッコミを入れている時雨だが、勧められるままに食べ歩きを続けており、クレープの次はソフトクリーム、その次は饅頭と、甘味ばかりを食べ続けている。

 だが、時雨も満更ではないらしく、言葉とは裏腹に、表情はかなり緩め。美味しいものばかりを食べ続けると、カテゴリーMであっても気が緩むようである。

 

「そこのお饅頭屋も老舗でした。いい話が聞けましたよ」

 

 そこでも白雪は調査を続けていた。その都度お土産を買っているが、それは必要経費だと割り切っているようである。自慢の商品を買ってくれる客、しかもそれが人当たりの良い艦娘だというのなら、知っていることを嘘偽りなく話してくれるだろう。

 白雪だって、その店を陥れようとして話をしているわけではない。商品は本当に美味しいし、店員も優しい。いいことしかないところから、少しだけ情報を引き出しているに過ぎない。勿論、世間話として。

 

「最初の鈴カステラのお店と同じですね。証言がいくつも出てきているというのなら、それはもう確定情報です」

「へぇ、じゃあさっきの話は」

「確証のある話ということでいいと思います」

 

 調査隊の仕事としても最高の動きを見せている。現地で無ければ聞けないこと、データに残らない民間人の話を聞き込むのは、こういうフットワークが軽い艦娘がやること。

 白雪はその中でも特に聴取に長けていた。艦娘としての戦闘能力もさることながら、人間に当たり障りのない態度で話が聞ける性格は、調査隊としては非常に有用。

 

「やっぱり。休暇だって言ってるんだからちゃんと休みなさいよね」

 

 神風が呆れたような表情で話すが、白雪は笑顔を見せるだけ。響に至っては無表情ダブルピースである。

 

「で、何がわかったの」

「この軍港都市の前身、港が出来て、お店が徐々に集まってきた辺りの時の話なんです。その時から廃棄物回収業者というのはあって、港建設の時の廃材などを集めて処理している業者だったらしいんですけどね。そこで、少し変わったモノが見れたらしいんですよ」

 

 神風が首を傾げる。変わったモノと言われても、そもそも変わったモノだらけの今の鎮守府で、何があるというのか。

 

「それがですね……明らかに作業員とは思えない、()()()()()なんですって」

「廃棄物回収業者に美人な女性……まぁ事務員とかなら考えられると思うけれど」

「ですよね。でもそれが、やたらと色白で存在感があったということだと、話が変わりませんか」

 

 色白で存在感のある女性。そう聞いて、艦娘ならピンと来る存在がある。神風は、正気かとしか思えなかった。

 

 

 

 

「それ、()()()()()()()。皆さんは疑っていなかったみたいですけどね」

 




作中で出した鈴カステラのお店ですが、実は作者が近所のスーパーでたまたま出店みたいなのを出しているお店を参考にしています。一番少ないのが20個入り。その次が50個、多くて100個というすごいお店でした。その分1つがかなり小さめだったんですけどね。
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