ついに顔を合わせた出洲。最後に対話を試みたが、やはり支離滅裂な言論によって、自分は正しいという意思は変えない。もう話にもならないため、対話はここで切り上げた。
結局のところ、何も変わらない。心にも響かない。命を奪い、文化を奪い、自由を奪う平和など、願い下げであった。
「……そうかよ。じゃあ、これで話は終わりだ」
「その通りだ。決着をつけようか、特異点。罪なき世界のために、咎人である特異点を消し去ろう。何度でも、何度でも」
戦いの火蓋は切って落とされた。もうここからは話すことなどない。全力で、目の前の敵を叩き潰すのみ。
真っ先に動き出したのは中柄だった。最初から全開、4本の腕、3本の刀を握り締め、真正面から突撃する。
その狙いは、深雪ではなくやはり神風。この中で最も危険だと感じ取っている最強の超人。自分に深傷を負わせた憎き相手。
「はっ、やっぱり来たわね」
「貴様はここで始末する。障害にしかならん、貴様は」
「悪いわね、それはこちらのセリフでもあるのよ。ろくに話もせずに刀を振り回すような奴は、ここで消えてもらうわ」
3本の刀が同時に、しかし別角度から一気に振り下ろされる。だが、『改装』の曲解により格段に強化されている神風には、それも見てから受けられるモノ。体捌きにより避け、一部は斬り払い、そして距離を詰める。
今回は、いや、今回
「神風、タイマンに拘る?」
そんな神風に、伊203がボソリと呟く。因縁の相手との決着は、仲間の力を借りずにやりたいかという質問。
神風は一瞬、本当に一瞬考えた。プライドだけで言うのなら、それは勿論1人で戦いたい。
しかし、この戦いはプライドがどうとか言っている余裕はない。必ず勝たなければ世界が危ないのだ。どのように戦っても、卑怯だのズルいだの言われる筋合いはない。正々堂々真正面から来ている時点で、その辺りはもう全て終わっている。
「いいえ、拘らないわ」
「わかった。なら、
決断は早かった。ここにいる3人の敵の中で、最も厄介なのはこの中柄だろう。
小柄は結局のところ子供。勇者の装備を取り戻しているにしても、考えが甘い。出洲自身はまだ不明瞭な部分が大きく、真っ先に狙うには情報が足りない。
そう考えると、中柄はやれることが全て見えており、やらねばならないこともわかる。この短期間で強化を受けており、神風を超える力を持っている可能性もあるとすれば、2人がかりで押し込めば行ける。
伊203はその持ち前の速さ、『リミッター』の曲解による限界を超えたスピードで、中柄の背後に回り込む。反動も何もない。このスピードでビタ止まりしても脚を痛めるようなことすらない。そんな力で、中柄に肉迫する。
「……2人がかりか」
「私には仲間がいるの。悪く思わないでちょうだいね。まさか、卑怯とは言わないわよね」
「言うまい。そうされることは予想出来ている」
伊203の背後からの一撃は、背中の2本の刀で受け止めていた。本来の手で持つ1本の刀があれば、神風と互角の打ち合いが可能と判断した、360度全てを網羅する攻めと守りを同時にこなすスタイル。
「かかってこい。貴様は、貴様達は、ここで終わらせる」
「ええ、貴女にはここで終わってもらう」
「遅いのは嫌い。余計な時間は稼がないで」
超人2人による、中柄を抑え込む戦いが始まる。それでも、中柄は互角に立ち回ろうとしている辺り、強力かつ凶悪な力をまだまだ振り絞れるようだった。
一方、それを見た小柄は憤慨する。母に対して何をしてくれるのだと。だが、それを正面から見据えるのは、夕立。
「ママに何するんだ!」
「何って、命を賭けた戦いっぽい。そちらが望んで、こちらが受けているだけっぽい。何か文句ある?」
「ママを虐めるな! ボクが全員、ぶっ倒してやる!」
母を助けるため、まずは目の前の艦娘を始末する。小柄は正面から夕立に立ち向かう。だが、その力を、『ダメコン』の恐ろしさを知らない。
小柄とてこの場では自重して砲撃は繰り出さなかった。その代わりに、勇者の剣を振りかぶって夕立を斬りつける。普通の艦娘ならば、この一撃でおしまい。肩から袈裟斬りにされて、身体が真っ二つになっている。だが──
「……軽いっぽい」
その刃が、夕立の身体に傷を付けることはない。傷がつかないならば、それ以上動くこともない。夕立は自分の身体が押し込まれないように踏ん張るくらいはするが、それだけ。軽いと呟き、そして小柄の首を取りに行く。
掴んでしまえばこちらのモノ。今回は情も何もなく、ただ命を奪うための戦い。首を取り、力の限り絞める。握り潰してしまっても構わない。確実に殺す。
「掴まれるわけないでしょ! ボクは勇者なんだから!」
そんな夕立の手を警戒してすぐさま離れ、今度は艤装の拳で殴りつける。夕立にはこちらの方が厄介であり、衝撃が身体の内側にまで響かれるとダメージにはならないが困ることになる。
それを仲間達は知っている。だから、それを止めるために動いてくれる。
「お手伝いしますよ、夕立さん」
「ぽい、お願い」
その拳をどうにかしようと動いたのはフレッチャー。丹陽からコピーされた、ほんの少し先の出来事を視通す『未来視』の力を使って、夕立に向かう剛腕の挙動を予測して、それを止めるために砲撃を放つ。
こちらは自重などしない。この空間がどうなっても構わない。最終的に崩れなければいいのだから、砲撃だって使う。
「ちょっ!? 人ン家で何するのさ!」
「何を言っているのです。聞いておりますよ。夕立さん達の家である潜水艦を破壊したそうですね」
「当然でしょ! ボク達の敵なんだから!」
「ならば、我々の敵である貴女の拠点を破壊しても、文句を言われる筋合いはありません」
フレッチャーの砲撃に、小柄は拳を振るうのをキャンセルして、むしろその拳を使ってガード。相変わらずの強度であり、砲撃くらいなら無傷で跳ね返してしまう。この腕を簡単にどうにか出来てしまうのは、この中では深雪の消し飛ばす砲撃と神風の神業的な技術くらいだろう。
「何人がかりになっても、ここできっちり終わらせるから。お人形の勇者様!」
そして子日も参戦。非戦闘員の人間の行動に注意しながらも、小柄には通用する口撃を交えながら砲撃と手法そのものによる物理攻撃を繰り出す。手から外し、ワイヤーを使って振り回すことで、より翻弄する。
「何さ、お人形って!」
「パパの言うとおりに平和を望んでるだけで自分の意思のないお人形ってことだよ。出洲の持ってるコントローラーで動いてるだけの、あくまでゲームの主人公ってだけさ!」
「そんなことはない! ボクは世界のために立ち上がった勇者なんだ! 魔王とその手先を、絶対に斃すことが出来るんだ!」
ワイヤーに繋がった主砲を剛腕で打ち払いながら、子日の言葉に反論する。だが、やはり海上での戦いで言われた、『エンディングのその先』のことが胸に刺さっているせいか、叫ぶ言葉も自分に言い聞かせるためのモノでしかない。
自分は平和のために戦う勇者だ。自分の行いは全て許されている。自分に楯突くモノは全て敵であり、自分の意思でそれを排除する。そうすればハッピーエンド、エンディングを迎え、その先も幸せに暮らすことが出来るのだと。
「可哀想な子供なのですね。子供と言える歳かはわかりませんが」
「ぽい。でも、可哀想なだけ。生き方がもう許されない段階っぽい」
「その通りです。ここまで壊れているのならば、もう眠らせてあげることが情でしょう」
情があるからこそ、この子供を終わらせる。これ以上歪んだ生き方で周りを巻き込むようなことはさせない。
「ここはそんなに広い場所では無いんだがね」
「テメェがここでの戦いを望んだんだろうが。だったら海の上に出てこいよ」
出洲がぼやきながらも繰り出す艦載機を、深雪達は破壊していく。煙幕を使い翻弄し、砲撃を繰り出して確実に。
かつて軍港で戦った時は、その強度と速さにどうにも出来ず、滅多打ちにされた。その時と比べれば、格段に成長している。恐怖だって感じない。あの時の痛みを思い出し、ああはならないと気持ちを入れて、後ろを向くことなく立ち向かう。
「そこを動くな」
出洲に対して『凍結』の鎖を振るう白雲。進ませない、逃がさない、避けさせない。凍りつかせれば、それで全て解決する。
だが、その鎖も艦載機によって食い止められる。艦載機そのものは凍りついたものの、その動きは全く変わらない。凍りついているのに、ただそれだけと言わんばかりに白雲にそれが襲いかかる。
「危ねぇ!」
それを食い止めたのは黒深雪。煙幕を溢れさせながらも、砲撃で艦載機をどうにか破壊した。凍りついていたおかげで、回避性能自体は多少は落ちていた模様。
「黒様、感謝を」
「後でいい。でも、お前が凍らせても変わらねぇってことはわかったな、あたしもあそこまで強いとは知らなかったぜ」
遺恨がありそうな白雲も、黒深雪は深雪が認めた新たな特異点。割り切って、仲間であると認識している。そのおかげで連携も出来そうだった。
ここにいる戦力総動員で戦わねば勝ち目などない。それをこの場で常に分析しているのは、グレカーレ。
「うへぇ、やっばいねこりゃ……」
少し引いたところで戦場全域を見ながら、誰がどのように動くべきかを考える。頭を回し、出来ることを考え続ける。だが、グレカーレから出てきた言葉は、『ヤバい』の一言だった。
「デスめ……まだ手を抜いてるじゃん……。連携し始めたらかなりヤバいなぁ。どう止めるかなぁ」
艦載機を動かし続けている出洲は、これでもまだ手を抜いている。艦載機しか使っていない時点で、それは明白。そもそも本人は、最初の位置から動いてもいない。
「まぁ、やれそうなことを探すだけだね。待ってなよみんな、グレちゃんが何か思いついたげるからさ」
戦いはまだ始まったばかりなのだ。落ち着いて、冷静に、出来ることを探していく。