そこまで広くない空間で、三つの決戦が繰り広げられる。出洲は深雪達を相手取り、艦載機のみで軽々と応戦。中柄は神風と伊203の超人コンビとの激戦。小柄は夕立を筆頭とした容赦ない面々との接戦。
その全てを、グレカーレは一歩離れたところから観察していた。小柄と中柄はまだいい。ほとんど手段が見えているため、撤退した短期間で更なる強化が施されていない限りは、このまま圧倒出来るはず。そうはいかないようにされているとは思うが。
問題は自分の手札を全く切らない出洲にある。艦載機をただ操っているだけ。その艦載機がこれまでとはまるで違い、破壊は出来るものの、白雲の『凍結』を受けても構わず動き続け、きちんと物理的に破壊しなければずっと攻撃をし続ける。
「手足とかそういうレベルじゃないよアレは。全部を手動でコントロールしてんじゃないの……?」
それくらいの精度である。ある程度の命令を出して動かしているわけでもなく、艦載機の中に妖精さんかそれに準ずるモノが搭載されているわけでもない。出洲が、自らの意思で、1つ1つを全てマニュアルでコントロールしている。
グレカーレも艤装から剛腕が生えてしまっているので、それのコントロールにはある程度の神経を使う。本来の身体のパーツとは違うモノなのだから、それは手足ではなく武器としてのコントロールになる。手動でコントロールするなら、やはり限界も出てくる。
2本の腕でもそれなりに考えることが多いというのに、出洲はその数倍、数十倍を、事も無げにやってのけている。涼しい顔で、6人を相手取っても関係ない。それをやっている間は動けないとか、そういうことでもない。数十個のマルチタスクを、平然と全てこなす。
そのせいで、艦載機特有の隙などが一切なく、また深海の艦載機であるせいで空中でブレーキ、バックまで出来てしまうため、要所要所で最も必要な場所に移動してくる。破壊しても即座に補充され、数を維持し続ける。
「くっそ、近付けねぇ……!」
「煙幕も関係ないのです! 翻弄すら出来ていないのです!?」
深雪と電ですら、それをいなすのに苦労をする。煙幕を使い、そのコントロールを止めようとしても、まるで止まってくれない。まるで煙幕などそこに無いような扱いで。
砲撃すら止められる、質量のある煙幕によってその体当たりは無理矢理止めているが、それすらも時間の問題に見えた。確実に前に進んでくる。一瞬いなして、その隙に砲撃で破壊という方法を取らざるを得ない。
その数があまりにも多いため、誰1人として出洲に近付けない。攻撃が強いところ──深雪の消し飛ばす砲撃に対しては、そもそもその砲撃を避け、そして深雪の懐に入ろうとする始末。
「ふむ、凄まじい威力だ。壁が抉れてしまっている。後から直さねばね」
「後のこと考えてんのかよ」
「当然だろう。君達だって、我々を始末した後のことを考えているのではないかな。そうだね、たとえば、ここを散らかしたら後始末が大変だな、とか」
悠々と、自信を持ったまま、出洲は深雪に語りかける。この戦いは通過点だ。出洲は自分の思う世界平和への道。深雪達はこの島の後始末への道。これが終わった後の方が本題。
「そんなことは考えずともいい。必要ないだろう。君達は、ここで終わる。終わるまでやり続ける。今回は逃がすようなことも、逃げるようなこともしない。どちらかの道が潰えるまで戦おう。それが望みなのだろう?」
「おう、その道が終わるのはテメェだよ」
「やってみればいい。特異点、私は君に負けることはない」
艦載機の数がより一層増えた。そして、深雪に一斉に襲いかかる。1つ2つではない。上から下から、右から左からいくつもの艦載機が体当たりを仕掛けてくる。
深雪の砲撃だけでは、その全てをいなすことは出来ない。電も応戦するが、それでも手が足りない。押し込まれれば、そのまま圧倒されておしまいだろう。そうなるわけにはいかない。
「はいはい、グレちゃんも参戦しますよっと!」
だが、その艦載機は深雪へと届くことはない。一歩後ろから眺めていたグレカーレが、深雪を守るために前進、その艦載機を剛腕で殴り飛ばして破壊する。
「ミユキ、お願いがあるんだけどさ」
「何かあったか?」
「煙幕ブースト貰える? これで戦いも終わるから、すんごい消耗しても関係ないから」
以前演習中にやった、他者へのブースト付与。演習の際に白雲に施し、有用であることは理解している。やりすぎると身体に悪そうだが、グレカーレはそれでも構わないと進言。この戦いが最後なのだから、終わった後に倒れるくらいなら別に構わない。
それくらいしないと、出洲の行動パターンは読めないと判断した。底力を引き出しても何処まで行けるかわからないのだ。
「わかった。くれてやる!」
その意思を否定することなく、即座に煙幕をグレカーレに吸わせた。身体中に漲る力。寄生させている特機が更なる力を発揮するような、そんな熱すらも感じる。
「来た来た! 頭は冴えてくる感じだねぇ!」
「言い方気をつけろよ」
「わかってらい! でも、ただ見てるだけでも、感じ方が変わるってもんよ」
むしろ、ブーストをかけてもらわなければ、出洲のこの艦載機の突破方法が思いつきそうにないまであった。何もしていなかったら、ジリ貧だっただろう。決断は早い方がいい。
「せめて、意識の向かい方くらいは調べないとね!」
深雪よりも前に出て、出洲の動きを凝視する。特異点に嗾けた艦載機が拳で破壊されたことにも反応しなかった出洲は、グレカーレの参戦にも表情を変えることはない。
「君は特異点に何かされたのかな」
「それがどうかした? アンタには堕落に見える?」
「自らの力で出来ないことを、特異点頼りで成し遂げようとしているのだろう。今回は大目に見よう。それだけ君達も必死なのだろうからね。我々の目指す平和な未来を、どうしてそこまで否定するのか理解出来ないが」
「理解出来ないじゃないでしょ。理解しようとしないだけでしょ。自分が正しいんだもんねぇ。何言われても何されても、自分が正しいから何でも出来ちゃう。話すらする気もないもんねぇ」
向かってくる艦載機を叩き壊しながら、グレカーレはさらに前進。最初のうちは艦載機が押し寄せてくらいだが、グレカーレはそのことごとくを的確に破壊していくを
煙幕ブーストのおかげで頭が冴える。動きもこれまで以上に軽やかだった。どの角度から攻めてこられても、腕が届く範囲ならば踊るように拳を振るって破壊し、死角から攻めてきたならば、深雪と電がそれを破壊する。
グレカーレは
「ふむ、特異点の力によって力を増したのか。まるで意のままに操られる人形だ」
「可愛いお人形でしょ。でもね、あたしは呪いのお人形、持ち主の敵の首を捥ぎ取るだけの、可愛い可愛い意思を持ってるのさ」
さらに近付いた途端、出洲の目が明確にグレカーレの姿を捉えた。その瞬間、艦載機の数が一気に増えてグレカーレに襲いかかる。
「おっと?」
グレカーレは少しだけ気付いたことがあった。それは、艦載機を操りながらも、出洲は目の前を見ていないこと。何処か別のモノを常に見ているような目。
おそらく、出洲はこの空間全域を視ている。目ではなく、電探辺りで。出洲は見た目から何を装備しているかがわからない。たとえば、脳内に直接装備しているなんてこともあり得る。それを使って、異常な空間認識を可能にしている。
それを用いて、艦載機をマニュアルで動かしている。電探の視野に入ったモノを叩くという、ただそれだけを確実にやるために。それでも数十の艦載機を手足のように動かすのはおかしな話ではあるのだが。
それを一時的にでも止めるために、グレカーレは身体を張った。改造されたせいで、他の駆逐艦より大きくなった艤装、それを強く素早く動かすことで、電探ではなく本来の目で見るように仕向け、意識を少しだけでも自分に寄せようとしたのだ。
実際、出洲の目は電探ではなくグレカーレの方に向いた。艦載機の数も明らかに増え、接近するグレカーレに過剰に反応したようにすら見えた。
「そんなに近付かれるのが嫌なのかな?」
「ああ、嫌さ。私はかつて、君達のような艦娘に殺されているからね。どうやって殺されたか、知っているかい?」
「興味ないからねぇ。なに、砲撃とかされたわけでなく、ナイフで刺されたとか?」
「御名答。私は艦娘に滅多刺しにされたよ。今でもわけがわからない。何をそこまでする必要があったのだろうね。平和への研究が」
「あー、はいはい、いらないこと言わなくていいよー」
艦載機がより一層増えてきたため、グレカーレは一度引く。無理して前に進むのも厳しい数になってきたからである。
「なるほどね、近付かれたくないから、周りを見て事前に防ごうとしてるわけだ。ある程度近付いたら、それに応じて一気に群がって離そうとしてくる。とりあえず、特性は少しだけ掴んだ」
グレカーレはニッと笑って深雪達の前に。
「まだまだ知らないといけないことは多いけど、少しずつ紐解いていこう」
心が折れるようなことはない。確実に、一歩一歩進んでいけば、確実に勝てる。