出洲一家との戦いは始まったばかり。艦載機を操る出洲の、本人からしたら些細な特徴、死因に近い敵の接近を拒むという性質を見つけたグレカーレは、ここからそれを突いていくことをメインに戦いを構築していく。
「どういうのが刺さるか、みんなちょっと口も入れて攻撃してみてよ。何やってもダメってなら、それはそれでいいからさ」
グレカーレは少し小声で仲間達に頼んだ。出洲の動揺を引き出すのは何か。接近以外の弱点があるかどうかを調べるために。
情報はあればあるだけいい。どのような行動で、どのような言葉でブレるかを知りたい。
出洲からしてみれば、どのようにやられても何も変わらない。ただ艦載機を使って滅多打ちにすればいいだけ。特異点という毒に侵された哀れな艦娘を、死というカタチで救済を与えようと
だが、それは深雪達からしても同じ考えだ。自己中心的な平和論から周りが見えない愚かなバケモノを、再び眠りにつかせて救済を与える。説得すら聞く耳を持たないのならば、もう死こそ救いになる。
「艦載機には、艦載機!」
ここで雷が艦載機を繰り出した。海中でも扱えるそれを、本来の使い方で出洲に嗾ける。
しかし、艦載機には艦載機をぶつけるというのは出洲も同じことで、その突撃はさらに上手な技術で簡単に止めてしまう。雷の艦載機が破壊されることは無かったが、それでも前に進むことは出来ず、機能が低下させられる。
「特異点に絆され、平和を見失ってしまったかな」
「人を犠牲にする平和はダメよ! ちゃんと話し合わないと! でも、貴方はそれを放棄してる、私達の記憶を壊してまで、従わせてる!」
「否定しないよ。そうしなければ、君はより壊れてしまうからね。平和を享受するためには必要な処置だ」
まるで悪気なく、そうするのが当たり前だろうと軽い口調で語る出洲に、雷は心底失望したような目を向けた。
それは、出洲を失望しているというよりは、これを正と受け取っていた自分に失望しているような表情。ついさっきまで、平和を享受するためには多少の犠牲は必要だし、特異点はそれを妨げる障害だと思い込んでいたが、今ならばそれがおかしいとわかる。
特異点に絆されたからとかではない。真実に気付けるように、少しだけ導いてもらったことで、閉じていた瞳が開いただけ。心の底から出洲を信じているならば、こんなことにはならないように、深雪は処置をしている。
「そもそも死者を蘇らせること自体が烏滸がましいのです。可哀想な命の失い方をしているとしても、わざわざ眠りから起こして、自分の平和を作る手伝いをさせるなんて、傲慢にも程があるのです」
雷の艦載機をサポートするように、電も砲撃を放つ。これまでとは違う、優しい電が撃つことに躊躇いが無くなる相手。容赦など地上に置いてきて、命を奪うために攻撃をする。
だが、それも艦載機が完全に止める。誰よりも強固であるそれは、どれだけ火力を上げたとしても、自身を犠牲に出洲まで届かないように完全にブロックする。深雪の消し飛ばす砲撃ですら、艦載機の破壊、消滅のみで終わらせてしまうのだから、普通の砲撃では破壊までしかいけない。
破壊すればすぐさま次の艦載機が発艦する。無尽蔵にすら思える搭載数、常に補給を受け続けているのではと思えるほどの数。上限が見えないまである。
「辛く苦しい時間のみで一生を終えることは悲しいだろう。私はそんな命も救いたいだけさ。幸いにして、それが可能な力を持っている。ならば、暗い終わりを迎えた者に、明るい明日を与えてあげたいと思わないかな」
「それでやってることが、真っ白な何もない世界を作るための駒なのです。あんなの、自由に生きているうちに入らないのです」
「君の目は節穴かな。彼女達は明るく生きているだろう。それを妨げているのは君達だよ」
電が何を言っても関係ない。間違っていると伝えても、間違っていないと断言する。白を黒と思えば、それは黒になる。出洲は本気でそれを体現している。
カテゴリーK達は確かに明るく生きていたかもしれない。歪んだ平和を信じ込まされて、そのためにこんな戦いに駆り出されているというのに。
それに疑問を持たないように調整されている。だから明るく振る舞える。本当なら戦いすら拒むような性格だったかもしれないのに、平和のための駒として、それも封じられて。
結局のところ、カテゴリーKは皆、出洲の思惑を達成するために好き勝手弄られた玩具でしかない。しかし、出洲はそれを都合よく解釈し、悲しい終わりを見た者に救済を与え、平和のための使者として共に歩くと、耳触りのいい言葉で語るのみ。
むしろ、本人も自分のやっていることの残酷さがわかっていないまである。壊れているというのは、まさにそこ。
「貴方の死生観はどうなっているのです……」
「一度死に、蘇ったことで、私はどうすべきかを悟っただけさ。不幸な者には救いの手を差し伸べなければならないとね。しかし、私の手が届く範囲は限られている。故に、世界を変えるんだ。誰も苦しまない、悲しまない世界にね」
「すでに言われているのです。そのために今を蔑ろにするなんて、馬鹿げているのです」
「今の私の手は悲しいことに短い。だが今、その手が届く範囲を拡げている。君達が邪魔をしなければね」
「ならもういいのです。貴方はそう思っておけば。自分1人だけでそう思っておいてください」
それすらも他責にするその心根は、電すら見捨てるレベル。自分が正しいという思いに縛られている。それにすら気付いていない。
「あたし達も蘇らせてもらった口だ。それには感謝してる。いや、その感謝も作られた感情なのかもしれねぇ。やっぱり望んでもないヤツに強制するのはダメだ。それを特異点に気付かせてもらった」
黒深雪は深雪に倣い、煙幕を纏わせた主砲によって擬似的に火力を強化して攻撃を繰り返す。先程白雲を守った砲撃を、今度は出洲に向けて。
だが、これも届かない。艦載機を破壊するだけに留まる。1つ破壊すれば、2つ発艦される。壁はより厚く、そしてそのものが押し寄せてくる。
「最後は皆望むさ。平和な世界を」
「どうやって納得させるつもりだよ。あたし達みたいに、頭ん中弄るのか? それは望むじゃねぇ、そういうカタチに捻じ曲げてるだけだ」
「それが幸せならば、それを実現するべきではないかな」
「前までのあたしならその通りだって賛同してただろうよ。でもな、流石にもうそれには同意出来ねぇ。自分のまま未来に生きることが一番の平和だろうよ。望むのと、望ませるのとじゃあ、天と地ほど差があるぜ」
艦載機の壁を確実に破壊しながら、黒深雪は真っ向から立ち向かう意志を見せつけた。もうお前の部下でも何でもないと。
この黒深雪の意志に、出洲はほんの少しだけ、誰にも気付かれないくらいに、表情を曇らせた。やはり、黒深雪の正体が正体なだけに、こうして否定されるのは気分が良くないのだろう。
同業者であり、その技術力を認めていた
何故わからない。人類が高次へと昇り、争いのない世界を作り上げること、最上とも言える世界平和。死をも超越して、穏やかな気持ちで過ごすことが出来る世界の、何がダメなのだ。
出洲はそれを、本気で考えている。だからこそ、認めている
何もかもが自分勝手。勝手に思い、勝手に行動し、勝手に傷付く。何様のつもりだと言われれば、神様のつもりなのかもしれない。
「テメェは自分の殻に閉じこもってるだけで、内側から自分の言いたいことを言い続けてるだけの意気地なしだ。人の意見を聞くのが怖いんだろ。自分の言うことを聞いてくれるヤツだけを周りに置いて、気持ちよくなりたいだけだろ。だから、間違いを間違いって認められないんだ」
深雪だって思うところはいろいろあるが、今言えることが口から溢れ出た。死ぬ前の出洲は知らないが、今の出洲はひたすらに自己中心的。自分の意見に賛同する者だけを見て、批判する者は見ない。粛清までしようとする始末。
それが許されるわけがないのだが、それを言葉で伝えても理解出来ない。しようともしない。心もブレることはない。何故なら自分が正しいから。自分が正しいなら、異論を唱える者は全て間違っている。間違ってほしくない者であっても、刃向かうならば仕方がない。自分勝手に何もかもを切り捨てている。倫理観も、理性すら。
「聞いた上で、私が正しいと判断しているね」
「ならあたし達も正しい。テメェの好き勝手にさせねぇってことだ」
「好きにするといい。どうあっても、何も変わらない」
深雪に対してだけは、特異点ということもあり、攻撃が一層厚くなる。この中でも絶対に始末しなくてはならない者としての認識が強い。
「お姉様、お守りいたします」
「悪い、ありがとな」
迫る艦載機を白雲が凍らせ、撃ち墜とす。キッと出洲を睨みつけるが、白雲の視線は微風程度なのか、どう見られても表情すら変えない。
「貴様が呪いの根源なのだろう。ならば、この白雲、貴様を許すわけにはいかない」
「呪い、か。純粋種が人間に対して敵意を持つ呪い、だったかな。それを私に言うのはお門違いじゃないかな。君がどう生まれようと、無関係な私に難癖をつけるのはよろしくないね」
「無関係? 戯言を」
攻撃の手は緩めない。それでも足りていないと実感しながらも、グレカーレに頼まれたように、攻撃と口撃でブレるところを見つけだそうと必死だった。
「見えてこないかな……クロの時にちょっと違和感あったけど……」
グレカーレは一部始終を観察し続ける。出洲の綻びを探すために。接近以外の弱点を見つけるために。