出洲の弱点を探る中、それ以外の戦いも着々と進んでいく。むしろ、出洲のみに構っていたら、そちらに邪魔されかねないため、各々が自らの担当を理解して、目の前の敵に全力を出している。
特に激戦を繰り広げているのは、中柄との戦い。因縁ある神風は勿論のこと、確実にここで終わらせるために、伊203も参戦。超人2人のタッグで抑え込み、そのまま撃破まで進めようとその刀と拳を振るう。
「ふ……っ」
神風が刀を振るえば、中柄はそれを両手で握り締めた一本目で食い止める。刀ごと断ち斬るつもりで振るったが、そうは行かなかった。この短期間で強度を増し、神風の技を以てしてもそれを破壊するには至らない。
こうなると後ろの二本目と三本目が猛威を振るうのだが、そこは伊203の的確な速さで抑え込む。神風と対角線上を常にキープしながら戦う伊203は、鍔迫り合いが始まろうとしたタイミングで、死角となり得る背後を取り、一撃で破壊出来るような威力の蹴りで、素早く足払いを仕掛ける。
追加の一対の腕を持とうが、そこに刀を持とうが、咄嗟にリーチを伸ばすことは出来ない。背後に横薙ぎに振るったところで、伊203の首どころか髪にすら刃が掠めることもない。
しかし、中柄の反応速度は異常である。『迷彩』で姿を消している子日の砲撃を、撃たれた後に反応して斬り払うという芸当をやってのけているくらいには反応が速い。
伊203の足払いは、中柄の足裏に止められていた。巨木をも蹴り折ることが出来るくらいの威力のそれを、神風の刀を受けながら、片足をそちらに使うことで。
「速い」
「……っ」
伊203の蹴りを止めるために片足立ちになったことで、神風との鍔迫り合いで体勢を崩すこととなる。だが、そこは神風の力を利用して、無理矢理間合いを取ることを優先した。伊203の蹴りの威力も利用して、バックステップ。
「浮いたわね」
そのバックステップの最中は足が浮いている、地に足を付けていない状態だとして、神風は追撃を放つ。『改装』の曲解により、地力が底上げされているところから生まれた、爆発的な加速。地を蹴り、中柄に追いつき、そして斬り払う。
むざむざ斬られることのない中柄は、それにも反応し刀で受ける。だが、踏ん張ることの出来ない状態で受けたなら、その勢いを殺すことなど出来ず、そのままさらに後ろへと飛ばされることとなった。
「押し込む」
さらに伊203が地を蹴った。『リミッター』の曲解により、脳内リミッターを外しても耐えられる身体を手に入れた伊203は、どれだけ力を発揮しても壊れることなく動ける。これまで抑え込まれていた力が解き放たれ、途轍もないスピードを生み出した。鉄板が張られたこの空間の床を抉るほどの力を込めて、目にも留まらぬ速さで接近した。狙うのは、中柄の腹。真っ二つにする程の勢いで、蹴りを放つ。
「……させん!」
しかし、中柄はまだ隠していた。いや、ここに戻ってきてから、新たにそれが可能になったのだろう。
さらに一対、腕が生えたのだ。
そちらには刀は握られていなかったが、自らを守るには充分なモノ。そして、膂力もそれ相応にある。突撃してきた伊203の脚を掴むことが出来るくらいには。
文字通り手数を増やしてきた。現在その腕の数は六本。三本の刀はそのままだが、フリーな腕が増えることが問題である。
伊203は掴まれるわけにはいかないと身体を捻り、蹴りの方向を無理矢理変える。新たに生えた腕を蹴り折るために、角度まで変えて脚を振り下ろした。
並の艤装ならば破壊出来る程の威力を持つ蹴り。しかし、中柄の腕は、それで折れることはなかった。破壊音すら聞こえない。完全に耐えた。
「……阿修羅?」
「どうとでも呼べ」
六本の腕、そして四方八方からの攻撃を見てから対応出来るほどの反応速度。まさに、八面六臂、阿修羅のような存在。
「厄介」
「ええ、でも、だからと言って、やれない相手じゃないわ」
「ん、勿論」
神風は再び踏み込んだ。腕の数が増えようが関係ない。結局は、斬ってしまえばいい話。頑丈にされているかもしれないが、それでも破壊出来ないモノではない。
伊203も同じ考えだ。神風の振るう刀よりは破壊力はないかもしれないが、腕は壊れずとも他がある。艤装のない、柔らかい部分。そこならば、素手でも破壊は可能。
「させん」
しかし手数が増えているというのはやはり厄介であり、海上での戦いでは間に合わなかった防御が間に合うということになる。刀を握っていなくとも、手が動くだけで話が大きく変わる。
さらには、間違いなく反応速度も上がっている。『改装』の地力上昇でやられていた先の戦いの時から、確実に強くなっている。それこそ、命懸けのパワーアップ。命を糧とした出力の大幅な上昇。
おそらく、中柄は命を糧にしたところで死ぬところまではいかない。今勝てればいいのだから、力の前借りをしているに過ぎないのだろう。これから数時間、数日動けなくても問題ないと覚悟の上で、この戦いに勝つために強引な出力上昇を施されている。
「さっきとは大分違うわね」
神風の剣戟を確実にいなしていく中柄に、思わず口が開いた。ほんの少しの時間でこうも変わるとは思えなかったからだ。
「貴様らに、負けるわけにはいかん」
「こっちのセリフでもあるのよ」
火花散る刀のぶつかり合い。膂力は互角か、中柄に分があるか。神風は力で劣る分を技でカバーしている。勢いを横に払い除けるように刀を寝かせ、中柄の力を自分に直接伝えさせないように、攻撃しながら身を守る。
中柄はあくまでも力業で押し込んでくる。技などない。それを、改造によるパワーと反応速度で全て補っている。長く修行をしたわけでもない。故に力が強くても神風と互角。『改装』に追いつく、命の糧により、差は無くなっている。
「だから、私の分で勝つ」
それがあるから、伊203はここへの参戦を決めたのだ。1人で戦いたいというプライドはあるかと聞いたのは、確実な勝利のため。
ぱっと見で、神風と中柄はおおよそ互角ではないかと見積もっていた。神風が先の戦いで超絶強化されたのならば、撤退出来ているのだから後付けで強化くらいされると誰もが考えていたから。
2人が互角ならば、自分の分を神風に上乗せすることで、勝利を捥ぎ取るだけ。
「神風、納刀」
「ええ、任せるわよ」
ここで伊203は神風に刀を納めるように指示。これは戦いをやめろと言っているわけではない。これまで2人がかりでの猛攻で押し込もうとしていたことから、神風の必殺技に繋げられなかっただけ。
神風は、居合こそ真骨頂。ただ刀を振るうより確実に威力のある一撃を放つことが出来る。これまでは易々と受けられていた斬撃も、一気に数倍の威力に跳ね上がる。
だが、刀を納めるということは、その間だけは無防備になるようなもの。今の中柄なら、その隙を突くように攻撃をしてくるだろう。
それを、伊203が埋める。神風も伊203を信用し、任せた。相手が六本の腕と三本の刀を持っていても、伊203なら止めてくれるだろうと信じているから。何せ、自分からやれと言ってきたくらいなのだ。
「させん」
「こっちのセリフ」
中柄も神風の居合には脅威を感じているため、させないようにと動こうとした。だが、伊203はそれより早く、そして速く動き出し、中柄の行動を阻害する。神風の方に行かせない。ただそれだけでいい。
「邪魔だ」
「それもこっちのセリフ」
三本の刀が伊203に襲いかかるが、それすらも気に留めることなく、必要最小限の動きで回避。胴に蹴りを入れようとするが、空手の腕でそれは止められる。掴まれるようなことはなく、身体を捻り、さらに追撃をしていくが、今度は刀でそれを止められた。
決め手になるような一撃が入れられないが、それはもういい。神風に数瞬与えられればそれでいい。
そのほんの少しの時間で、神風は納刀。居合の構えに。これが決まったところで確実に勝てるかはわからない。だが、やらなければ勝ち目もない。だから、構える。
「フーミィ!」
「ん」
伊203は、神風と中柄を結ぶ直線上にいた。このままでは一緒に斬られてしまう。なので、その声に反応して、即座に横へと跳んだ。
これにより、神風と中柄を隔てるモノは何もない。今だと、神風の瞳が輝いた。
だが、
「奥の手は、まだある」
これまでの中柄からは考えられないことが起きた。居合を受けるために構えていたが、それだけではなかった。
神風の目の前。そこに、
「させんよ。貴様は、貴様の速さで斃れるがいい」
踏み込んで蹴り出した瞬間に現れたせいで、神風はその勢いで艦載機に突っ込む羽目になる。それは、強烈なボディブローをモロに喰らったのと同様の威力を持ってしまった。
中柄の真の奥の手。それは、これまで近接戦闘しかしてこなかったが故に意識から逸れる、深海棲艦としての力。艦載機による妨害である。