後始末屋の特異点   作:緋寺

1296 / 1296
さらなる限界の先

 中柄と戦う神風と伊203は、本来の限界を超えた力を使って決着をつけるつもりだったが、中柄もそれを見越し、負けずに腕をさらに生やして、命を糧にしたブーストまでして応戦。2人の超人に対して互角とも言える戦いをこなしていた。

 故に、神風は居合を決めるために構えた。伊203の指示により、囮を使ってでもその一刀を決める。その覚悟で納刀し、力を込め、駆ける。

 

 しかし、それを阻んだのは、中柄が繰り出した艦載機だった。これまで近接戦闘のみをし続けて、そういった類の兵装を持たないモノだと錯覚させられていた。

 だが、よくよく考えてみればわかることなのだ。中柄の姿は、空母赤城に似ている部分があるのだから、艦載機が使えない道理はない。ここまで使ってこなかっただけ、使わずともどうとでも出来ただけ。

 

「かっ……は……っ!?」

 

 艦載機はただそこに置かれただけ。しかし、神風は自らの速さでそれに追突してしまった。ギリギリ、本当にギリギリなタイミングでそれを見ることが出来たのだが、それでも間に合わず、艦載機が胸に直撃。ミシリと、嫌な音がした。肺に直接衝撃が走り、息が漏れる。胸骨にヒビが入ったかもしれない。それほどの痛みだった。

 

「自らの速さで斃れるがいい」

 

 中柄の艦載機は今見えている限りでは1つである。しかし、それがいくつあるかわからない。伊203は自分もああなるかもしれないと感じ、この一瞬でここからどう攻めるかを考える必要が出てきた。

 自分の速さに追いつける上に、超反応により何処に艦載機を置くかを瞬時に判断するため、走り出したらそれを逆に使われてしまう。

 

 スピード特化である2人に対して、それを全てで上回るわけではなく、反応速度だけを超特化し対策を積んできた。

 それがあまりにも的確であり、中柄にしか出来ない芸当だからこそ、それが成立してしまっている。

 

「困った」

 

 伊203もこれには攻めあぐねてしまう。どう行くのが正解かが、すぐに判断出来ない。速さ至上主義である伊203の速さを利用されるとなると、これまでの考えのままだとかなり苦しい可能性がある。

 今は『リミッター』の曲解のおかげで、これまで出来なかったスピードの極地にまで至っている。自分の出来る、身体を気にすることもない最高速度。それを使って、どんな敵でも対応しようとしていた。

 

「呆けている余裕は与えない」

 

 中柄は息を詰まらせる神風に追撃をするため地を蹴る。その速さは、神風や伊203に匹敵するほどのモノ。スピードを持ちながらも、相手のスピードは艦載機で殺す。それを命を糧にしたブーストで繰り出してくるのだから、いくら超人と言えど急に厳しい戦いを強いられ始めた。

 

 中柄は3本の刀を全て神風に向けて振るう。伊203に対しては、艦(・)載(・)機(・)が(・)あ(・)る(・)ぞ(・)という牽制のみで動きを鈍くすることに成功していた。

 

「やってくれたわね……っ」

 

 胸の痛みに耐えながらも、神風は中柄を迎え討つ。一度ペースを乱されたからといって、神風がそのままブレたままで終わるわけがない。むしろ、この痛みを糧に、より強く気持ちが入った。

 いくら六臂三刀の敵が相手であろうとも、いくら自分と同等のスピードを誇ろうとも、目の前に障害として現れるなら斬り払うのみ。

 

 神風とて、ここまで戦い抜いてきた猛者だ。こんなことで心が折れるわけがない。

 

「やるさ、我が子のために、平和な未来のために」

「貴女達だけが平和で、他の人間がそれを享受出来ないじゃないの!」

 

 中柄は子供のことのみを考えている。子供が平和ならば後はどうだっていい。夫が作り上げようとしている平和な世界の果てがどうであれ、子供が平和ならばそれでいい。自分はどうなってもいい。

 壊れた子供をここまで立て直したのも、子供への愛のため。ゲーム脳であれば、死に直面したとしても壊れることはない。楽観的に考えられるように、この世界は子供のためにあると教え込み、そして自分もそう思い込み、子供を楽しくするために力を尽くす。ただそれだけの、歪んだ母の心。

 一度死に、そして蘇ったことで、やはりネジが外れている。考え方が極端なのだ。黒深雪達のように、話せばわかるタイプではもう無い。話してもわからない。出洲一家は総じてそうである。

 

 結局、神風の言葉に中柄は答えない。答える必要がない。他の人間が自分達と同じ平和を得ることなんて考えていないから。

 それは夫がやってくれる。同じ平和を与えるか、自分達の平和を犯さないような平和を与えるかのどちらか。それを達成するために、夫と子供と力を合わせて世界の平和を目指す。

 

 最も愛が深く、そして他人任せであった。

 

「貴女に話を聞こうとした私が馬鹿だったわ。狂った母親は子供を不幸にするだけだものね。もう不幸にしか見えないけれど」

「我が子を愚弄するのか」

「貴女を愚弄しているの。私は毒親にならないように細心の注意を払ったけれど、貴女にはそういうのはないようだものね。ネジが外れちゃってるから」

 

 三刀を受けながら、神風はより速度を増していく。『改装』により地力を上げたことで、これまで以上の力を発揮しても、翌日に影響しない程の強靭な身体を手に入れている。先程の痛みも、特機から貰える自己修復の力で幾分か楽になった。

 だから、神風は考える。『改装』されたとしても、翌(・)日(・)に(・)影(・)響(・)を(・)与(・)え(・)る(・)程(・)の(・)力(・)を(・)発(・)揮(・)し(・)た(・)ら(・)ど(・)う(・)な(・)る(・)か(・)。それこそ、伊203のように『リミッター』が任意で外せたなら、何処まで出来るのか。後先考えずに動いたならどうなるか。

 

「戯言を。貴様は」

「ああ、もういいわ。話しても無駄だから、貴女の返答は聞かない。聞く意味がない。言葉にはなってるけど、話にはなってないから」

「……貴様、一方的に愚弄し、許されると思ったら大間違いだと」

「許してくれなんて言わないわよ。それに、貴女にそんな権利はない。貴女は、もうここでもう一度、永遠に眠りなさい」

 

 神風は少しずつ少しずつギアを入れていく。これまでもトップスピードだったかもしれないが、それ以上に。

 簡単には行かないことなんてわかっている。伊203と組んでこのザマなのだ。だから、もっともっと先に行く。身体が壊れてしまったとしても、死ななければ安いモノだ。

 

「そう、貴女はまた眠るの」

 

 それを知ってか知らずか、ギアチェンジの時間を作ってくれるかのように、伊203が動いていた。だが、こちらもこれまでとは違った。

 速さ至上主義を捨てたわけではない。だが、先程の神風が受けた、艦載機による返り討ち。それを防ぐために、そしてそうした方が速いと察したため、あ(・)え(・)て(・)歩(・)い(・)て(・)接(・)近(・)す(・)る(・)。

 

 目の前に艦載機が現れてもそれなら関係ない。そして、今の伊203ならば現れたところでどうとでも出来る。

 

「私達の速さを対策した艦載機、もうやらせないから」

「それこそ戯言だ。やれるモノなら」

「ん、勿論、やる」

 

 歩いているところで、急にスピードアップ。『リミッター』が外せているおかげで、身体への反動は無いに等しい。

 中柄は神風の方に専念しながらも、背後に目があるかのように伊203の行動を把握し、超反応で艦載機を発艦。伊203の進行方向にただそれを置く。

 

 それがあると知らなかった先程は、神風がそれに直撃した。だが、それがあると知っている今ならば話が大きく変わる。判断能力にすら速さ至上主義が利いている伊203は、『リミッター』を外したことで頭の回転も速めている。

 艦載機がそこに現れた瞬間、伊203は急ブレーキ。艦載機に突っ込むようなことなどしない。そしてこれまでも同じ速度で即座に真横に回避。そこからさらに直進。

 身体が壊れかねない急停止急発進の連続。内臓が揺さぶられて酔いそうな行動。それでも伊203はそれを余裕でやってのける。特機がなければ脚が壊れていたような挙動であっても、負担を考えずに動く。

 

「させん!」

 

 しかし、艦載機が1つとは限らない。伊203のその動きを、神風と向き合う片手間に見切り、超反応でさらに艦載機を発艦。2つ目、3つ目と出して、伊203の行動を止めに向かう。

 

 伊203の狙いはそれだ。苛烈で超速のステップを踏みながら、艦載機を避けて前へ前へ。艦載機がいくつ現れてくれても構わない。い(・)く(・)つ(・)出(・)せ(・)る(・)か(・)、出(・)し(・)た(・)後(・)ど(・)う(・)す(・)る(・)か(・)。それを知るために無理をする。

 その方が速いから。終わりに向かって速く進むための無理ならば、今の伊203なら躊躇なく選択する。

 

「頭がおかしい割には、視野が広いのね。それを他人に向けて欲しいモノだわ」

 

 艦載機を出させながら、神風はさらにギアを上げていく。たった一本の刀で、身体能力の技のみで、中柄の力押しの三刀を的確に斬り払う。

 本体を斬ることは難しいが、それでも少しずつ前に進めている。2人がかりで押し込めば、いつか届くとわかる。

 

 

 

 

 猛攻は続く。中柄はまだ隠し技があるかもしれないが、攻撃を続けていけば、いずれ届く。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ある鎮守府のエンゲル係数(作者:ねこまんま提督)(原作:艦隊これくしょん)

地方の小さな漁港にある、地域密着型鎮守府。▼これは食にこだわる提督と、彼に率いられた季節と食を楽しむ艦娘たちの物語。▼深海棲艦から海の平和を守りながら、提督と艦娘たちは今日も楽しくご飯を食べる。▼注意▼艦これの独自解釈など含まれます。▼そのくせ、壮大な世界観とか緻密な設定などはありません。▼重厚な人間ドラマとか手に汗握る熱い展開なども一切ありません。▼提督と…


総合評価:5591/評価:8.38/連載:269話/更新日時:2026年09月12日(土) 14:43 小説情報

艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2(作者:岩波命自)(原作:艦隊これくしょん)

 2010年12月29日。セレス海での海戦、通称セレス海海戦は空母「ケストレル」率いるオーシア艦隊と、「ケストレル」の呼びかけに呼応したユークトバニア艦との共闘によって「ケストレル」の勝利に終わり、ユークトバニア艦隊旗艦「ウミェールイ」を始めて敵勢艦艇は海の藻屑となった。▼ その翌日、勝利の余韻の後の歴戦の幸運艦「ケストレル」も討たれ、セレス海の水底へと沈み…


総合評価:234/評価:9/連載:26話/更新日時:2026年09月27日(日) 14:40 小説情報

私が菊月(偽)だ。(作者:ディム)(原作:艦隊これくしょん)

よくある艦これトリップ憑依モノ。但し艤装ナシ。▼菊月可愛さに気が付いたら仕上げていた。▼この度めでたく連載と相成りました。


総合評価:8575/評価:8.16/連載:276話/更新日時:2018年06月29日(金) 08:24 小説情報

レミール転生(作者:久保田紅葉)(原作:日本国召喚)

目が冷めたら戦犯の貴族だった!▼とりあえず富国強兵を進めて周辺国に舐められないようがんばっていこうとしたけれどどこか原作と違うような……?


総合評価:1117/評価:7.97/連載:54話/更新日時:2026年09月03日(木) 20:25 小説情報

稲荷様は平穏に暮らしたかった。(作者:サード・アイ)(原作:日本国召喚)

▼異世界に召喚された日本国、しかし現代日本とは違い日本には500年近く日本を照らす稲荷神がいた。日本国民は異世界での今後の自分たちの生活に不安を募らすが稲荷神は持ち前の先を見通す力で日本国の行く末を照らしていく…▼と思っている日本国民と平穏に暮らしたいと思っていたが、異世界召喚で表舞台に出る羽目になった狐っ娘がヒーヒー言いながら頑張るお話▼この作品は小説家に…


総合評価:4988/評価:8.61/連載:129話/更新日時:2026年09月30日(水) 08:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>