出洲との戦いは弱点探しの戦い。グレカーレの観察眼を頼りに、可能なことは全てやっていく。現在は接近に苦手意識を持っているのでは無いかという、軽いモノではあるが大きな影響を見つけた。
中柄との戦いは限界を超えていく戦い。命を糧にした強化を経て、2人の超人と互角以上の戦いを繰り広げる者に対して、持ち味を封じられても乗り越えるための壁を破壊する。
ならば、小柄との戦いはどうなっているか。
小柄は子供であることもあり、細かいことはわかっていない。自分は勇者であり、この世界を平和にする者であると思い込むことによって、自分が凄惨な事故で死んでしまったという記憶を耐えられるようにはなっているが、過去は耐えられても未来を考えることは出来ていない。
戦って勝てばハッピーエンド。ただそれだけを信じ込まされ、特異点を魔王として挑み続ける。しかし、その後、『ハッピーエンドのその後』という、本当に平和かどうかわからない未来を考えさせられたことで、小柄は明確に変化していた。
それを払拭するために、撤退後にここで良心から勇者であることを強調され、苦しい考えはしなくていい、敵の言葉なんて忘れてしまえばいいと念を押されたことで、その時は自信を取り戻している。
「どれだけ強い敵だって、ボクは勇者なんだから絶対勝てるんだ! 大人しく経験値になってよ!」
勇者の剣と、艤装から生えた剛腕、そしてレ級の尻尾。使える武器は全て使って、目の前の敵──今は特異点ではなく、その仲間である3人の艦娘に対して攻撃を続ける小柄。
その中心となっている夕立は、小柄がどのような攻撃をしてきたとしても、避けることをしなかった。本来ならば、一撃一撃が重く、必殺級。当たるなんて絶対に避けるべき攻撃。だが、夕立は『ダメコン』の曲解を存分に使い、それに耐えている。
弱点である体内への衝撃も、不意にやられるわけではないのなら、充分に耐えることが出来た。とはいえ、攻撃そのものが非常に重いため、吹っ飛ばされかけることはしばしばある。しかし、夕立はそれも耐える。
「経験値? そもそも敵のことをそんな呼び方する時点で、勇者でもなんでもないっぽい」
剛腕からの一撃を、片手で止めるように受け止める。本来ならば、腕がひしゃげて使い物にならなくなるのが目に見えているのだが、夕立はそれをしっかりと受け止めた。
腕が大丈夫でも、脚が、身体がダメになるだろうが、それも全て『ダメコン』でキャンセル。地面に減り込みそうなほどに力んでいても、それを完全に耐えていた。
「本当に平和を求めてるなら、そもそも人の話を聞かないことがおかしいっぽい」
「うん、そうだね。ゲームの勇者も、村人から話は聞くし、敵の言い分だって一応は聞くよ。なのに、そんなの全部すっ飛ばして攻撃してきてる。ターンも何もあったもんじゃない」
夕立に加え、子日も舌戦には参戦する。小柄が理解出来る言葉を紡げるのは、残念ながら子日だけ。敵の戯言としてスルーする小柄も、ゲームに例えられて説明されると、他の者のそれよりも簡単に染み込んでくる。
「自分がやることが正しいなんて言ってる勇者なんていたかな? 君がやってるゲームが何か知らないけど、勇者なら勇者らしく振る舞いなよ。自分勝手じゃなくて、本当に世界を見るようにさ」
「ボクは平和のために戦ってるんだ!」
「その平和、
言いながら子日も攻撃を繰り返す。砲撃は勇者の盾に阻まれるし、衝撃も完全に抑え込んでいるが、言葉の棘が幾度となく心を刺した。子供に考えさせることで、戦闘に気持ちが入らなくなる。
「答えられないよね。だって君、ちゃんと考えてないもん。まともに考えてたら、自分は勇者だなんて言えないから」
「そんなことない! ボクは、ボクはこの世界を平和にするんだ!」
「その平和のために、どれだけの犠牲を出そうとしてるのさ。まさか、平和についてこれない奴は死ねって言ってる?」
「そんなこと、ない!」
小柄は既に、わけがわからなくなっている。だが、その方向性が非常に身勝手なモノだった。考えれば考えるほどわからない。考えさせられるのが嫌だ。気分が悪い。なんでそんなことを言われなくてはならない。正しいことをしているのに、間違っている連中に何を言われても意味がないのに。何度も何度も、心を揺さぶってくるなんて。
しかし、答えが出ないことは事実である。子日の言葉にムキになることしか出来ない。違うとそうじゃないしか言えない、否定しか出来ず、具体的に反論が出来ない。子供なのだからというのもあるが、それでも命を奪うようなことをしているのだ。曖昧な理由で殺されては困る。
「夕立さん、少し引いてください」
「ぽ?」
「攻撃方法が変わります」
ここでフレッチャーが夕立に指示を出す。丹陽からコピーされた『未来視』により、小柄の行動が変化することに気付いたことから、夕立に念のため引くことを伝える。
衝撃を抑え込めるのは、わかりやすい行動を相手にした時だけだ。ただ殴ってくる、斬ってくる、撃ってくるだけなら、見てからでも耐えられる。しかし、想定外の行動をされた場合はどうなるかがわからない。夕立とて耐えられない攻撃が来るかもしれない。
フレッチャーはそれを視た。今は正面から進みすぎるのは良くないと。
「子日、ちょっと離れるっぽい!」
「何かあった!?」
「フレ子が何か視た!」
フレッチャーの『未来視』を信用して、夕立と子日は小柄から離れる。
その瞬間、小柄から煙が出始めた。煙幕ではない、湯気のような熱量の煙。小柄の頭が回らなくなったか、それが熱暴走に繋がろうとしているようにも見えた。
考えることをやめる。平和を目指すと言いながらも、先を見ることをやめてしまった。それが平和のためになると思い込み、周りから何を言われても自分が正しいと揺らがないように、思考を止めに入った。
我儘、ここに極まれり。もう何も知らないと、知恵熱を力に変えて、わざと暴走を始める。
そのように小柄が構築されている可能性もあるが、今はわからない。
「もう知らない! 知らない! 敵は全部斃すんだ! ボクが! パパとママが! 正しいんだぁ!」
そして、爆発するかのように熱量が上がる。小柄がリミッターを解除したのがわかった。
子供であることからも、命を糧にするのは控えられていたのかもしれない。だが、小柄の理不尽な怒りが頂点に達したことで、小柄自身がその制限を取り外してしまった。
小柄自身は、勇者であるが故に潜在能力を解放したとでも考えるだろう。それが出来るから勇者の素質、そう都合よく解釈も出来る。自分の命を糧にして、この底力で敵を圧倒するだなんて、あまりにも勇者らしい行動。言動はどうであれ、その在り方だけは、あまりにも勇者だった。
「身体が、燃えてる……?」
それにいち早く気付いたのは夕立だった。小柄の身体が燃えている。実際火柱が立っているわけではないが、ジリジリと、陽炎が揺らめいている。
出力の過剰な状況、熱暴走を無理矢理抑え込み、自己修復で崩壊も抑え込む。全てのスペックを異常すぎるくらいに上げ、本来持っていなくてはいけないモノも何もかも投げ捨て、目の前の敵を始末する。
勇者とは名ばかりの、自棄を起こした狂戦士。人の話を聞かず、自分の話も理解しない。平和を目指すと言いながら、その実、ただ目の前の敵を倒すことしか考えない、
「敵を斃す、斃す、斃す!」
理性を失った目で夕立を睨みつけると、小柄は地を蹴った。瞬間、艤装の剛腕が夕立の顔面に減り込んでいた。
普通なら首が無くなっていてもおかしくない一撃だが、『ダメコン』のおかげでそれは耐えることが出来ている。しかし、衝撃が脳を揺らした。
「っ……!?」
夕立は一瞬、白眼を剥きかけた。だが、気合いで意識をその場に留める。こんなところで気を失ってなんていられない。相手がなんであろうが、この場で倒れるだなんてしていられない。
出力過多により、とてつもない力を得ていた。それこそ、今の攻撃で小柄の脚は本来曲がってはいけない方向に曲がり掛けていた。しかし、すぐさまそれは元に戻る。過剰出力は、自己修復の力も過剰にしている。それを小柄自身は痛みすら感じているように見えない。怒りにより、理性を失ったことにより、痛みも感じなくなっている。
そもそも、小柄はその辺りに対して耐性があるのではなかろうか。痛いと恐怖は直結しており、中柄も小柄にそんな思いをしてもらいたくない。勇者なのだから、傷付くことはよくないと、そういう力を与えられていてもおかしくない。
「熱っ……殴られたところ、熱いっぽい。身体中が燃えてる、アレ」
「出力が酷いことになってるから、発熱しちゃってるんだ。でも、そのせいで全部強くなってる。自棄になったせいで、何も見えてない!」
言葉による翻弄が今、逆効果となってしまった。もう話も聞かない。真実を見ない。小柄は本当に狂ったのだ。