戦闘中、子日からの言葉に混乱し、自分の目指す平和が間違っていると延々と言われ続けたことで、小柄は考えるのをやめてしまった。自棄になり、目の前の敵だけを斃せばいいのだと暴走、それによって異常な発熱と命を糧にする以上のパワーアップをしてしまう。
正面から受けた夕立が、一瞬意識が飛びかけるくらいの衝撃を受ける強力な攻撃を仕掛けてきた程である。自分が正しいと駄々を捏ね続け、その歪んだ正しさを証明するための暴力。子供だからと言って許されていいはずがない。
「強いだけならいいっぽい、速いっぽい!」
「夕立ちゃん、大丈夫!?」
「そうとわかればまだマシっぽい!」
小柄のスピードは暴走により格段に上がっている。正面から受けるにしても、かなり苦しいモノだ。
小柄は自分の身体を壊し、それをすぐさま自己修復で治すことで、そんな無理な行動を成立させている。本人が痛みを感じていないようにも見えるため、生半可な攻撃ではおそらく止まらない。
「子日は姿を消すっぽい! アレに狙われたらヤバいから!」
「わかった! フレちゃんは!?」
「私は先を視続けます。負担はかかりますが、まだ避けれらるかと」
話している間に小柄が動いていた。狙いは子日。これまでいろいろ言ってきたことが気に入らないか、それとも目についたのが子日だったか、とにかく再び地を蹴った。
今から姿を消しても間に合わない。故に、夕立が盾になる。幸い、小柄の行動は速いだけで直線的。狙いを定めたら、そこに真っ直ぐ行くだけ。その攻撃に耐えられないだけで、追いつくことが出来てしまえば、守ることは出来る。
「敵!」
「哀れすぎるっぽい!」
子日に襲い掛かり、小柄が振るったその拳を、夕立は再び身を挺して受ける。今度は顔面で受けるのではなく、ガードした腕。しかも、直撃する瞬間に逆に押し返すようにして衝撃を分散させる。
だが、艤装の剛腕による一撃は重すぎるくらいである。子日が喰らっていたら間違いなく致命傷になっていた。夕立だからなんとかなるだけで、他の者は誰も受けてはいけない一撃。
「邪魔! ボクの目指す平和を、邪魔するなぁ!」
「なら、夕立達の後始末の邪魔もするな!」
小柄が身体を捻って尻尾による薙ぎ払いを放ってくるが、夕立はそれを抱えるように受け止める。内臓を揺さぶるような衝撃が走るが、夕立はビクともしない。踏ん張り、それを食い止めた。
その間に子日は『迷彩』により姿を消す。自棄になって周りが見えていない小柄は、目の前でそうなっても完全に見失った。いや、むしろ狙いを眼前の夕立のみに定めたと言ってもいい。子日も無視、フレッチャーも無視、ただ夕立をどうにかするために、動き始める。
「このっ、平和を邪魔する魔王の手先め! 勇者が必ず斃してやる!」
「ただ自分に酔ってるだけのガキがっ、人様の命まで自由に出来ると、思うなぁ!」
尻尾を掴んでいて動くことが出来ない夕立を、小柄は無理矢理振り回す。尻尾を持ち上げた後、地面に叩き付ける。
まずいと思った夕立だが、押し付けられるように振られたことで尻尾を離すことが出来ず、そのまま押し倒された挙句、地面に擦り付けられた。
尻尾も出力上昇によって発熱しており、夕立をジリジリと焼いていく。『ダメコン』が無ければ、肌は焼け爛れ、下手をしたら炭化させられていたかもしれない。
地べたに這いつくばった夕立に向けて、嘲笑うでもなく、怒りに任せて身体を捻り、尻尾による拘束を外した後、勇者の剣を振り下ろす。狙いは首。これまで全く傷付かなかった夕立相手にそれは無駄な攻撃ではあるのだが、衝撃が入れば呼吸も止まる。
「平和を目指す剣だ!」
振り下ろされた剣を、夕立は腕で受け止めた。鈍い音がしたが、それでも斬れない。傷もつかない。僅かな斬り傷は即座に修復されている。
「いい加減にした方がいいよ」
その小柄に、子日は容赦なく砲撃を放った。『迷彩』によってギリギリまで見えない砲撃。最初にいた位置からも動いており、行動は予測出来ない場所から。
だが、小柄はそれに反応した。電子機器を騙す『迷彩』は、すぐそこにいてもわからない、殺気すら隠す最強のステルスであるはずなのだが、それすらも超越して攻撃を避けた。
その時の小柄は、瞳すら燃えるようになっていた。出洲のように妖精さんの力をも取り込んでいるわけではない。発熱を有する暴走によって、身体中の処理速度が異常に上がっている。そして、本来見えないモノまで見える程の直感が冴え渡っていた。
これまでの経験なんてたかが知れている。子供の持つ経験なんて、ゲームの中での経験だけだ。だとしても、ここでこう来ると予測して、煮えたぎる思考の中でも深追いをやめた。
「そちら!」
そこに重ねるように、今度はフレッチャーも砲撃を放っていた。避ける前提で、そこも『未来視』で予測して、避けた先で避けられないようなタイミングで。
だがこれもダメ。処理速度を上げた小柄は、その攻撃を勇者の兜で受け、ノーダメージでやり過ごした。その後すぐに兜を消す。海上での戦いと同じようにはいかない。
自棄になっているのに、戦いに対しては冴え渡る。ムキになって襲いかかってきているのに、自分の身が危なくなると、途端に攻めを中断して守りに入る。
これまでとは明確に違う挙動と言っても過言ではない。泣き叫びながら腕を振り回すような子供の喧嘩ではない。本当に勇者にでもなったかのような判断能力。持てる武器を全て使い、目の前の敵を斃すことだけを考え、やられたら斃せなくなるから、キチンと避けている。
「もう少し目指す方向を変えるっぽい。そんなに強く思うことが出来るのに、歪んでるから間違った方向にしかいけない」
「黙れ! ボクは勇者だ! ボクが行く道が正義なんだ!」
「勇者はそんなこと言わないよ。やっぱりニセモノだ」
「うるさい!」
声だけがする方に突撃。そこに子日がいるかはわかっていないが、その辺りを全て攻撃すればいずれは当たる。小柄の攻撃は範囲が広い少しでも掠ると致命傷に近いダメージになる。子日はこれにはその場を離れるしか選択肢が無かった。
「止まりなさい!」
さらに、フレッチャーがその突撃を止めるように砲撃。そこに爆雷を投げることによって、地下空間ということがあるのに、爆発を引き起こす。そこまでしなければ、小柄は止まらない。これは英断でもあった。
「鬱陶しいんだよ! 魔王の手先はっ、勇者にやられてよ!」
その爆発をモロに受けたはずだったが、勇者の鎧と兜でやり過ごしていた。考えることを戦闘に特化したことで、一瞬一瞬の判断が研ぎ澄まされていた。命を糧にしたブーストで、頭の回転も速くなっているのがわかってしまう。
爆発を抜けてきたということは、小柄はフレッチャーに大きく接近出来てしまうということ。子日のように姿を隠しているわけでもなく、『未来視』によって小柄がどう来るかを先読みしているだけのフレッチャーは、ここでどうすべきかを視る。
その少し先の未来は、自分が怪我を負うシーンだった。剛腕で殴られて、致命的なダメージを受けるシーン。致命的かもしれないが、死にはギリギリ届いていないダメージ。
「なるほど、でも、死にはしていない!」
避けられない。だが、死ぬわけではない。最善の未来を掴み取るため、フレッチャーが繰り出したのは、顔面に向けての砲撃。真正面から突っ込んでくる小柄の頭を吹き飛ばすための一撃。
勇者の兜で跳ね返されることは目に見えている。だが、勇者の兜を装備するということは、
これが『未来視』の使い方だ。良い未来はそのままで行けるように、悪い未来は変えられるように。今は後者だ。
フレッチャーの視たそれでは、小柄は勇者の兜を装備していない。何も出来ずに吹き飛ばされるだけの未来だった。それを覆すための行動をする。それだけの頭の回転も、丹陽からコピーされていた。
そもそもフレッチャー自身も、努力の末にその頭の回転は手に入れている。丹陽の力はそれを確実に補助するのみ。
「効かないんだよ、ボクは勇者なんだから!」
フレッチャーの砲撃は、
勇者の兜は視界を少し阻む。見失うわけではないが、少しだけフレッチャーが見にくくなる。
その隙をついて、フレッチャーは小柄の攻撃を紙一重で避けた。『未来視』で視た時は、攻撃がほぼ直撃コースだったが、今は行動したおかげで致命傷を避けることが出来ている。
しかし風圧は凄まじく、体勢を崩され、フレッチャーは吹き飛ばされてしまった。身体に傷はついていないが、それでも苦しい戦いになっている。
「フレ子!」
「大丈夫です、ほぼ無傷ですから!」
誰も心は折れていない。暴走する子供を止めるために、まだまだ尽力する。