小柄の暴走により、夕立達は苦戦を強いられる。廃熱が凄まじいことになっているほどの出力を振り回し、それを頭の回転にも使いつつも、人の話を全く聞かない。自分が正しい、正義であると思い込み、夕立達は悪、魔王の手先だと罵る。自分の言葉以外は何も聞かない信じない。
振り回される方も、こんな子供に手を焼かされるのは気分が悪いモノである。今はまだ傷を負わされるところまで行っていないにしても、今のままでは時間の問題だ。それに、傷がないのはメインでやられているのが夕立だからである。姿を隠して狙いを定めさせない子日と、ほんの少し先の未来を視ることで致命傷を回避出来るフレッチャーは、この猛攻に攻めあぐねており、夕立は『ダメコン』を活かして殴られながらも傷を負うことなく正面からぶつかり合っていた。
「いい加減にするっぽい。戦場は我儘なガキの遊び場じゃないっぽい」
小柄の剛腕をガードしながら、怒り以上に呆れの表情で話す夕立。だが、小柄はそんな言葉を耳に入れるわけがなかった。気に入らないことを言っている。それくらいの印象で、夕立を滅多打ちにしていく。
それでも倒れないから小柄は苛立ちをさらに強め、それに呼応するように出力が上がり、威力が増す一方。剛腕は赤熱化しているところも見え始める。夕立もそれを受ける際に、威力より熱によるダメージの方が強く感じる。
「うるさい! うるさい! 魔王の手下は黙って戦えよ!」
「お話にならないっぽい。でも、そんなバカが力を持ったことが一番ダメだね。我儘を暴力で解決しようとする。それが本当に平和なわけ?」
都合の悪い言葉は聞こえない。夕立が何を言ったところで、小柄は無視する。自分の言葉だけを押し通そうとする。夕立に反撃の機会を与えられないから、小柄も暴走を止めることはない。目の前の敵が全滅するまで、我儘を言い続けるだろう。
その小柄の暴走に気付かないわけがないのが両親である。特に、今のカタチに仕立て上げてでも小柄を溺愛している中柄は、怒りを露わにしながら暴走する子供を見て、危機感を覚えた。
あの強化は危険だ。身体を滅ぼしかねない暴走だ。それがわかって、視線が明確に目の前の敵ではなく子供の方へと向いた。
「余所見する余裕があるのね。ちょっと私達のこと、なめすぎじゃない?」
「片手間にやられるほど、私達は弱くない。それに、子供が気になるなら、そもそも戦場に出すのが間違ってる」
意識がブレたのは明確だ。そこを隙と見るか、更なる暴走のきっかけと見るかは、今はなんとも言えない。
「退け」
「断る。毎度毎度、何故この世界が貴女達の都合のいいように動くと思ってるのよ」
「退け!」
小柄を思うが故に、中柄も暴走しているような状態。神風と伊203を止めるために動かしている艦載機がさらに増え、小柄までの道を開くように敵を押し退ける。
だが、そんなことで止められるほどやわではない。神風も伊203も、その艦載機を逆に押し退けて前へと進む。
中柄の艦載機は、数が少ない代わりに強度が普通ではない。2人は知らないが、速吸が扱っていたモノにかなり近い性質を持っている。遠隔操作出来る、追加の拳。撃つのではなく、殴ることが目的のモノ。
ここまで使われてきてわかったのは、中柄の艦載機も射撃の性能が存在しないということ。止めることと、叩くことしか出来ない。そして、数もそれほど多くない。おそらく、最大で8つと言ったところ。
「子供思いなのはわかるけれど、自分の子供に間違った躾をして、周りをそれに合わせようってことが烏滸がましいのよ。母親なら、それくらい理解なさいな」
食い止められる前に、神風は刀を鞘に納めた。居合の構え。中柄とて、それを見過ごすことは出来ない。しかし、子供の暴走も気になる。無理をしているのがわかるのだから、今すぐ駆け寄りたい。だが、邪魔をされる。
「貴様ら……!」
「まさか、こうなったのはお前らのせいだとか言わないわよね。自己責任よ」
そして、抜き放たれる神風の刃。一歩踏み込み、神速の一閃。簡単には止められない、渾身の一撃。艦載機の存在もわかっているのだから、それをも考えた強引な角度。
中柄も、その一撃に艦載機を置くことが出来ず、自らの手で止めなくてはならないと察した。子供に向ける意識を、嫌でも神風に向けなければいけなくなった。
「ちっ……!」
中柄は、三本全ての刀を神風からの攻撃を防ぐために使った。三本を重ね、居合の一点を止めるために。
「嫌になっちゃうわね、これも止められるわけ……?」
ガギッと、あまり聞きたくない音が聞こえる。一閃は食い止められてしまった。刀をそのまま破壊するつもりで振るった刃だが、三本を纏めて破壊することは出来なかった。
だが、二本は破壊した。三本目までは届かなかった。そのせいで、中柄は少し仰け反ったものの、無傷でそれを抑え込んでしまった。
「でも、押し込める」
それでも、刀が二本失われて、体勢も崩したことで、動きやすくなったのは伊203だ。今ここで背中がガラ空き。艦載機にも慣れてきたことで、あえてここでスピードを増す。
艦載機を置かれて衝突することも視野に入れているため、判断力のスピードアップに力を注ぎ、そこでの最善を掴み取る。
伊203は安定を取りつつもその最速を目指し、目の前にある艦載機を乗り越え、触れられるくらいの距離へ。
「させん! 我が子への道を阻む者は、何人たりとも許さん!」
しかし、中柄の腕は六本。体勢が崩れていたとしても、伊203の接近に対して、身体を少し捻るだけで本来よりも多い腕がそれを食い止めることが出来る。
それが丸太どころか鉄骨すら蹴り折りそうな威力を持つ一撃であっても、頑丈すぎるその身体で見事にガードしてしまった。
「……硬い。でも、私はやられない」
「いい加減に退け!」
「見通しが甘い。こうなることがわかってて、なんで2人で組んで戦わなかったの。バラバラになって戦ってる時点で、貴女がおかしい。撤退するくらいやられてるのに、まだ私達のことを下に見てるの?」
伊203の口撃に、中柄は心底苛立った表情を見せた。その言葉が気に入らないというわけではない。子供を救いたいのに邪魔をされ、その上で何か言っている。それが気に入らない。
「悪いけど、それはこちらのセリフでもあるの。いい加減、退いてもらえないかしら。まぁ、この場合はそこをではなく、この世界から、なんだけれど」
伊203に目が行ったところで、今度は神風による居合。艦載機で食い止めることを目論むが、そう何度も何度も同じ目に遭うようなことはない。刀を抜く瞬間、艦載機の存在を目視し、それを避けて前に出ていた。もう自分のスピードにやられるようなことはない。
このまま抜けば、刃は通る。そう確信していた。だが、最後まで慢心はしない。この時にでも横から上から後ろから、この一撃を邪魔するモノが飛んできかねない。
そしてそれは、真実となった。
「ちぃっ」
居合は不発。何故なら、中柄をどうにかする前に、神風の横っ腹を狙う、中柄のモノではない艦載機が迫っていたからである。
それは中柄のそれよりも確実に速く、また、精度も段違い。異常な精密性でやってきては、その攻撃を確実に止める。
同じモノが伊203にも迫ってきていた。中柄を守るように、わらわらと。
いや、それだけではない。小柄との攻防を続けている夕立にも、見えていないはずの子日にも、『未来視』によって避け続けているフレッチャーにも、艦載機が纏わりついていた。
「横槍を入れてくるとはね……流石に奥さんがやられるのは嫌なのかしら?」
その艦載機、間違いなく出洲のモノである。深雪達と戦いながらも、この空間全域に視野を張り巡らせ、この場にいる敵全てを手玉に取る。艦載機はまだまだ増え、仲間を守るため、敵を殲滅するために、その全てが異様な精度で動き回っていたのだ。
「くっそ、全然止められねぇし、前にも進ませてもらえねぇ!」
「煙幕も掻き消されていくのです!」
深雪と電は、この艦載機に困らされていた。なかなか進まない。煙幕も風を起こされることで霧散する。十全の力を発揮させてもらえない。
それをズルいとは言わない。出洲の力がそういうモノなのだと理解して、それを乗り越える方法をひたすら考える。
「量でどうにかすることは出来ないか」
「その分艦載機増やされる。厳しいな」
黒深雪もこの艦載機をどうにかしようと模索するが、やはり一日の長は出洲にあり、艦載機を使いこなす力は間違いなくあちらに軍配が上がる。
数多くの艦載機をマニュアルで動かし続け、全ての敵を視野に入れて、的確に襲う。あまりにも人間離れした戦術。マルチタスクもここまでやれば頭がおかしくなりそうなのだが、平然とやってのけているのが、出洲の恐ろしい実力なのだろう。
「近付くことが出来れば何かが変わりそうなんだけどねぇ。こりゃあ厳しいわ」
グレカーレもいろいろなところに目を向けながら、最善を探している。そこで、少しだけ思いついたことがあった。
「スイッチ、してみよっか」
それは、相手を変えるということ。今のままだとジリ貧になりかねないため、心機一転戦い方をガラリと変えてみようという策である。