後始末屋の特異点   作:緋寺

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初めてを終えて

 昼食を終え、もう一踏ん張りと後始末作業を再開させる。深雪は相変わらず、妙高の指示の下、艤装片と肉片の回収に努める。

 午前中を全て同じ作業に使っただけあって、午後は慣れたもの。艤装片を見つけてはケースに放り投げ、肉片を見つけてはケースに丁寧に入れる。安らかな眠りを祈るのも忘れない。

 

「終わるもんだな……もう殆ど見えなくなったじゃん」

 

 ある程度拾い集めた後、周囲を見回す。すると、最初は至るところに散乱していた廃棄物が、綺麗さっぱり無くなっていた。深雪も含めた、うみどりの仲間達の成果が簡単に見てわかるレベルである。

 

 廃棄物と言えるものはもう目に付かない。大物も小物も九割五分拾い終わっている。まばらに散らばっているものがあるものの、それも時間の問題。

 

 深雪は結果的に破壊された艤装や破壊された()()()()()()を集めることに専念していたが、それ以外にも空薬莢や魚雷の不発弾などもあった。そちらもしっかり回収されて、適切な処理がされているため、艦娘由来の廃棄物はもう何処にも見当たらない。

 何が残っているかといえば、穢れの元となる深海棲艦の血液と艤装から漏れ出した燃料。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれって、濾過装置とか」

「使っても意味がありませんね。あれはもう()()()()場所です。それをどうにかするのが加賀さんですから」

 

 妙高があちらをと指を指す。すると、そこで加賀が弓を構えていた。空母の専売特許である艦載機により特殊な薬剤を散布するためである。

 艦娘の中でも特に、艦載機を扱える数が多いのが加賀の力。それを全て、海域の清浄化に使うというのだから、誰よりも効率がいいだろう。

 

「あれ、あたし達が浴びちゃっても大丈夫なの?」

「問題ありませんよ。散布しているのは、この後工廠で洗浄するときに浴びるものと殆ど同じですから。あちらはほぼ原液ですがね」

 

 海に混じるということもあるため、濃いめどころか原液そのものを雨のように散布して、海全体に撒き散らすという。表面だけに付着するかと思いきや、そこにある穢れを逆に侵食して排除するような効果を持っているらしく、広範囲に行き届かせるだけでもかなり効果的。

 面倒ならばここで浴びてもいいかもしれないが、結局そのあと工廠に戻ってまた洗浄するのなら、わざわざ海の真ん中で浴びる必要はない。モロに穢れを被っているというのならまだしも。

 

「お、本当だ。黒ずんだ海が綺麗になってく」

 

 まるで油汚れに洗剤を落とすかのように、加賀が艦載機を通過させたところがすぐさま綺麗になっていった。そこに廃棄物が一切無ければ、穢れはこれだけで消えていく。

 加賀の最後の作業を間違いなく成功させるため、他の仲間達が穢れの原因を排除することで、この戦場を清浄化するのだ。

 

 そう言ってしまうと、全員が加賀のために働いているように聞こえなくもないが、それがあながち間違いではなかったりする。

 他にも三隈と神威という艦載機が扱える艦種の艦娘もいるにはいるが、2人とも搭載数が加賀に遠く及ばず、そもそも扱えるのが水上機。哨戒は出来るが、少々力が劣っている。それと比べると、やはり加賀に軍配が上がるわけである。

 

「私達は一度工廠に戻りましょうか。加賀さんの邪魔になりかねませんから」

「うす。目に見えるヤツは全部拾ったと思うから、今持ってる分を工廠に置いてこよう」

 

 ここで深雪の作業はおおよそ終了となる。何かあればまた外に出ることになるだろうが、パッと見では何もない。

 

「これを言うのは少し早いかもしれませんが、お疲れ様でした。初仕事、どうでしたか?」

 

 妙高に聞かれ、深雪は少しだけ考える素振りをする。思うところは沢山あった。ただただ大変だという感想はかなり大きめではあるし、長いトングを使わせてもらっているとはいえ腰は痛くなっているし、何より肉片を掴んだ時の感触は未だに覚えてしまっている。この光景は夢に出そうだ。

 だが、自分が今日やったことで平和に一歩近づけたと考えると嬉しいし、ズボラな要素が強そうな深雪であっても、海がこうして綺麗になっていく様子は嫌いでは無い。むしろ達成感に包まれる。

 

「正直、最初……目を覚ました時に見た時は、なんつー仕事してるんだって思ったよ。でも、コレがなくちゃ世界が本当に平和にならないって思うと、やらなくちゃって気持ちにはなれた」

 

 深雪は本心から語る。今回初めて仕事に参加して、この仕事の重要性が身に沁みた。

 

 明らかに穢れによって()()()()に染められた海が、綺麗な色に変わっていくのを時間経過とともに味わうというのは、綺麗好きではなくても気持ちがいいものであった。

 うみどりに所属したからこそ深雪も心持ちが綺麗好きになりつつあるものの、どちらかといえば雑な方だ。それでも、この光景が見られるのなら、この仕事をやっている価値があると感じるし、戦いを本当に終わらせるための最も大切な仕事であると実感出来た。

 

「あたし、これからもやっていけるよ。ただ、出来ることなら今日は肉を食いたくないかな……」

「そこは大丈夫です。前回は歓迎会があったので例外でしたが、新人の初仕事の日は夕食は考えて出してくれます」

「そりゃ良かった。これでモツ鍋とか出されたらどうしようかと思った」

 

 その発言に妙高が口元を押さえてクスクス笑い出した。流石にこの発言を初仕事の後にしてくるとは思っていなかったのだろう。

 

 結局、工廠に戻るまで妙高はクスクス笑い続けていた。不謹慎なネタだったが、琴線に触れてしまったのだろう。

 

 

 

 

 工廠には続々と仲間達が戻ってきている。最後に残るのは基本的には艦載機による薬剤散布をする加賀と、筆頭駆逐艦である神風。深雪が目を覚ました時も、最後は神風が海上清浄化率を報告しに行くくらいなので、ギリギリまで確認しているのだろう。

 だが、今回はそれだけではない。潜水艦の2人がまだ戻ってきていないようである。

 

「これは……海底に大物を見つけたようだな」

 

 こうなった時は大概、大きな廃棄物が海底にまで沈んでしまっている時と相場が決まっているらしい。

 戦闘中は違うが、後始末作業中の潜水艦は通信機器を装備していないので、海上艦はその動向から何かあったのか察する必要があった。基本的には片方が海上まで浮上して現状報告をしたりするのだが、それも無いとなると、余程の大物が沈んでいると見える。

 

 すぐに動き出すのは、やはり一番膂力がある長門だ。うみどり唯一の戦艦は、躊躇なく工廠の奥へと向かい、主任に事情を説明。一度や二度では無さそうだからか、すぐにとんでもなく太く長い鎖が運び出されてきた。

 

「睦月、梅、手伝ってくれ。大発動艇に括り付けたい」

「了解にゃしぃ!」

「すぐに準備します!」

 

 長門に指示を出され、睦月と梅も工廠の奥へ。すぐに大型の上陸艇、大発動艇を装備する。おおよそ大きさは人が数人乗れるボートと同じ程度。

 長門の膂力だけでどうにかなるものではないと考え、大発動艇の推力なども利用して、海底の何かを引き揚げる算段である。

 

 準備しているうちに、伊26が頭だけを海上に出してきた。穢れにより汚染された海に潜るということで、海上艦よりも重装備。全身をピッチリと覆い尽くすウェットスーツに、少々小型な酸素ボンベのような濾過装置を背負い、肌という肌が外部に見えないように装備している。戦闘は殆ど不可能と言ってもいい。

 緊急時はすぐに脱ぐことが出来るように作られているらしく、その中はいつもの水着を着ている様子。穢れに塗れようとも速さを出さねばならない時は、一切の躊躇なく脱ぎ捨てる。

 

「長門さん長門さん! デッカいの沈んでる!」

「だろうな。すぐに引き揚げる。こいつを引っ掛けてきてくれ」

「りょーかいりょーかい!」

 

 長門から鎖の先端を渡されると、一気にまた潜っていった、鎖は相当長いようで、しかも頑丈に作られているらしく、大物を引き揚げるとしても千切れることはないらしい。

 

「載せてきたぞよ!」

「こちらは梃子の方を!」

 

 睦月の大発動艇には鎖の巻き取り装置が備え付けられており、長門がその膂力を以てそこに鎖を巻き付ける。

 梅の大発動艇には巻き取りではなく滑車。直接睦月の大発動艇で引き揚げるのではなく、梅の大発動艇を経由させることで、重量を分散させつつ確実に浮上させる。

 

「……来た。巻き付けが完了した。引けーっ!」

「了解ーっ!」

 

 鎖を握った長門が海底からの合図を受け取った瞬間、ギュラギュラと音を立てて装置が鎖を巻き取っていく。かなり重いのか、大発動艇が少し傾くものの、睦月と梅が制御しているおかげで横転するようなことは無い。

 さらに長門が鎖に触れて状況を確認しているためバランスは取れていた。おそらく海中でも伊26と伊203が支えている。引き揚げるのも慎重にやらねば最初からやり直しになるため、長門達は真剣そのものだ。

 

「よし、来たな。一気に行くぞ!」

 

 海面ギリギリまで来ると流石に鎖だけでは引き揚げることが出来なくなるため、最後は人力。海底から持ち上げることは出来ずとも、見えるところまできてしまえばもう長門の独壇場になる。

 鎖を握り締めると、最後は強引に持ち上げた。すると、大発動艇と同じくらいのサイズの深海棲艦の亡骸が浮上した。

 

「これはまた、殆ど傷がついていないじゃないか。たまたま急所に当たって、そのまま息絶えたようだな……」

 

 支えが無くなるとまた沈んでいきそうなため、長門がしっかりと鎖を握りしめて梅の大発動艇へと載せる。すると、その傷からドロドロと体液──穢れが溢れ出してきていた。

 これが海底に鎮座したままでいると、間違いなくこの海域は再び汚染されていただろう。この1体が見える範囲全域を巣へと変えてしまうことも考えられる。

 

「加賀、この辺りを少し入念に散布してくれ」

「ええ、貴女が離れたら倍はばら撒くわ」

「頼んだ。ニム、フーミィ、聞こえていたらここから離れてくれ。薬剤を散布する」

 

 亡骸の引き揚げが終わったところで、潜水艦2人も海上に頭を出した。装備が装備だけにどちらがどちらかはわかりにくかったが、長門の言葉を待たずしてすぐに工廠に戻ろうとした方が伊203なのは誰の目から見ても明らかであった。

 

 

 

 

 そこから少しして、これで本当に後始末作業は終了となる。引き揚げられた深海棲艦の亡骸は、大発動艇共々、工廠の奥に運ばれていった。深雪が肉片が詰まったケースを渡した時のように、()()()()()()()をされるため。

 神風が清浄化率100%になったことを確認したため、執務室に向かったところで、全員が大きく息を吐いた。

 

「終わったと思うと、ドッと疲れが来た気がする」

 

 深雪がボヤくと、仲間達も同意した。最初の頃はそんなもんだと。艦娘としては普通ならやらない作業をしているのだから、慣れるまではどうしてもそう感じるのは当たり前。

 

「後は洗浄をしておしまいです。改めてお疲れ様でした」

「妙高さん、今日はありがとね。後始末屋のこと、よくわかったよ」

 

 これだけの作業をしても笑顔でいられるならそれでいいと、妙高だけでなく他の者達も安心していた。

 




 潜水艦は穢れまみれの海を泳ぐごとになるので、海上艦よりも強固な守りで向かうけど、あんまり厚着すると潜水艦のメリットがなくなるので、結果的に薄手のウェットスーツということに。
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