後始末屋の特異点   作:緋寺

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進む調査

「それ、()()()()()()()。皆さんは疑っていなかったみたいですけどね」

 

 白雪は当たり前のように言ったが、他の者達からしたらあまりにも突拍子も無い言葉。今から30年近く前とはいえ、この軍港の前身となる港に、深海棲艦の姿があったというのだ。

 

「いや、いやいやいや、流石にそれはおかしいでしょ」

 

 流石の神風も、白雪のその言葉には強めに反応する。陸上で深海棲艦がいた上、侵略者としてではなく業者の一員のように振る舞っていたというのは、長く艦娘をやっていたとしても考えられない。

 深海棲艦は敵対生物であり、理性なく人間を襲うような存在。そもそも共存出来ているのなら、ここまで戦いが何度も起きるわけがない。そう言おうとして、すぐさま考え方が変わった。

 

 うみどりには、()()()()()

 

「まさか……カテゴリーY……!?」

 

 人間と共存出来そうな深海棲艦といえば、うみどりで保護している深海棲艦、潜水新棲姫。

 

 人間と深海棲艦の要素がかけ合わさっているとイリスが言ったそれは、どちらが先かわからない。素体が人間か深海棲艦で話が随分と変わってくる。天然で生まれているのかもわからない。

 どうであれ、そんな()()()()な存在が30年近く前から存在し、人間に紛れているとしたならば、回収業者は黒とかそれどころではなくなる。

 

「おいおい、物騒な言葉が聞こえたぞ。今は休暇中なんだし、あんまり仕事に関することは口に出さないようにしようぜぇ」

 

 白雪から貰った饅頭を頬張りながら、深雪が苦言を呈する。

 軍港都市を散策しているのは、あくまでも休暇。後始末屋という仕事を一度傍に置いておいて、精神的な癒しを求める時間とすることが目的だ。調査も大事かもしれないが、それに専念するような雰囲気になりそうだったので、深雪は口を出したというわけである。

 

「まあまあ。調査隊はここでの情報収集のためにも同行してくれてるのよ。貴女達には休暇が必要だけど、こっちはこっちでやらなくちゃいけないことがあるのよ」

「つってもなぁ神風、こんな人が多いところで専門用語みたいなことを言っちまうのは良いことじゃあ無い気がするぜ?」

 

 食べ歩きをしている中で、カテゴリーYなんて言葉を出してしまうのは、あまりよろしくない。カテゴリーという言い方自体がうみどりの専門用語みたいなものなので、誰かが聞いたところで誰も意味はわからないだろうが、艦娘の発言というだけで変に勘繰る輩というのも出てくるものである。

 それこそ、この娯楽街に元凶の仲間がフラフラ歩いていたとしたならば、そんな言葉を発するだけで何か思われても仕方ない。

 

「確かにね、これは失言だったわ。あまりにも驚いちゃったものだから、思わずね」

 

 神風も素直に落ち度を認める。自分のこの発言のせいで、真実に辿り着けなくなる可能性を考えると、調査のことを大きく口に出すのはいいことではない。

 

 ちなみに、これが良くないと先に思ったのは深雪ではなく電である。だが、性格上、神風に注意することが出来ない。それ故に、深雪が電の意思を継いで、神風に苦言を呈した。

 電としては、深雪のおかげで意思が伝わって良かったとホッとしている。こういうところで強く出られない自分を残念だと思いつつも、深雪という頼れる仲間、()()とも言える者がいることに心の底から感謝した。

 

「神風にもそういうところあるのな」

「当然じゃない。私だって人間だもの」

「あたしには完璧超人にしか見えねぇよ。なぁ?」

 

 仲間達に同意を求めると、時雨以外の全員が力強く頷いた。だからこそ筆頭駆逐艦として誰もが認める存在なのだが。時雨はその辺りを認めたくないようで、決して首を縦に振ることは無かった。

 

「こそっと調べるのはいいけどさ、ほら、な?」

 

 出来れば察してくれよと深雪がウィンク。この娯楽街の散策は、電と時雨にとっては初めての人間の社会を知る機会。出来ることなら、楽しく終わってもらいたい。自分がそうだったように。

 仕事をするなとは言わないが、なるべくならば気付かないように頼むと、口には出さずに頼んだ。

 

「そうですね。でも、後から情報共有をさせてくださいね」

「ああ、それがお前らの仕事ってことも理解してっからさ」

 

 勿論深雪だって調査隊というのがどういう組織かは知っているつもりだ。そしてこの物言いが仕事を邪魔してしまっていることもわかっているつもりである。

 しかし、電に不安を、時雨に苛立ちを与えるのはそれはそれでよろしくない。次に軍港都市に来られるのはいつになるかわからないのだから、少しでも多い時間を楽しんでもらいたい。だから、もう少し()()()()()お願いしたい。

 

 ワガママであることも重々承知した上なので、申し訳なさそうに話す深雪に、白雪は()()()()()を感じた。艦娘、しかも純粋種であるのに、価値観は人間と全く同じ。第三次から艦娘をやっている白雪にとっては、この仕草は非常に興味深く、また感心するモノであった。

 

 

 

 

 現地での調査が進む中、バックアップするように進むおおわしでの調査。こちらで調べられているのは、港の外、()()()()()()()()()()()()に重点を置いている。

 港が出来上がった時のことや、回収業者のことに関しては、保前提督が調査しているだろうという昼目提督の勘。それが見事に当たっており、誰も見ていないところを探ることに繋がっている。

 

「指示してんのは今で言う大本営だと思うんだよオレは。その時は第二次深海戦争も終わって、立て直しでガタガタしてる時のはずだ。どさくさ紛れに港の建造をねじ込んでるヤツを探せば、そいつが関係者だろ」

「でも、この港は正しい理由から建造されていますよね。司令官さんが言っていた通りに」

「ああ、グチャグチャになった輸送経路の確保がメインだからな。造るべくして造った港だ」

 

 しかし、それは()()()()()()()()()()()()()()()()。均等に港が陸に配置されているわけでもなく、ここが一番港を造りやすい立地条件というわけでもない。

 ならば、わざわざこの場所を選んだ者が過去にいたはずである。そして、それを隠蔽することは基本的には無い。その方が違和感がある。()()()()()()()()()なんて、誰だって不思議に思う。

 

「ただ、見つかったところで本来の責任者の名前が書いてあるとは限らねぇ。それこそトカゲの尻尾にされてるヤツはいるだろうよ。名前だけ使われて後はポイだ」

「……あり得ますね。そもそもその名前を貸している……()()()()()()()()誰かさんは、既に切られている可能性だって」

「あるな。オレが同じことやるなら、名前使った後に即()ってるわ」

「司令官さんが言うと冗談に聞こえませんね」

 

 話しながらも2人は手を動かし続け、港の建設の書類に辿り着く。保前提督側にもあるだろうが、これは外部提出書類。軍関係者なら誰でも閲覧出来るモノ。当時のモノだからか、手書きの書類をスキャンしてデータ化しているモノである。

 

「で、責任者は……書いてあるな。女か。平瀬(ヒラセ) 陽菜(ヒナ)……聞いたことはない名前だな」

「この時司令官さん生まれてます? 私は生まれていませんけど」

「あー……ギリ生まれてるな。だが、当時いるなら、死んでない限り今の大本営に名前連ねててもおかしくないだろ」

「確かに。第二次深海戦争を潜り抜けたというなら、まだ生きていてもおかしくないですもんね。当時30代なら、今でも普通に活動出来ていそうです」

「オジキがそれより歳上なくらいだからな」

 

 その平瀬という女が、当時の軍に所属しているかを調べると、当然ながら名前は登録されている。提督をやっていたわけではなく、大本営の経理などを受け持つ、所謂事務員的な立場の者。言ってしまえば、立場上ではほとんどそういうところに立つような存在ではない。

 そんな人間が港湾建設の責任者になるというのはおかしな話である。その後に立場が変わって、そういうことを指揮出来るくらいの力を得たというなら話が変わるが、その辺りはまるで出てこない。

 

「そんじゃあ、次はこの平瀬っつー女と繋がりがあるヤツを探していくか。それなら何処かに繋がるだろ」

「はい、そこは既に私の方で。上役の方も辿り着きましたが……」

「言いにくいことか?」

()()()()()

 

 少し言葉が詰まったものの、だろうなとすぐに納得する。

 

出洲(デス) 布留都(フルト)……過去に艦娘に対する研究を進め、最終的には当時の艦娘に始末された人間です」

 

 

 

 

 軍港鎮守府では、能代が資料である紙媒体の書類をカートに載せて運んでくる。物によってはかなり劣化しており、取り扱いそのものに気を付けねばならない

 

「こういうの程、重要な情報がありそうなんだよな……」

「あまり強めに触っちゃダメですね。端がボロボロですよ」

 

 そういう書類に関してはゆっくりと慎重に開いていくものの、そのせいで調査はどうしても遅くなっていく。

 とはいえ、一歩一歩進んでいるのは確かだ。これまで目を殆ど通していない書類にも目を通し、見落としがないように確実に。

 

「手書きの書類は特に入念に目を通した方がいい。隠すならそういうところのはずだ」

「ですね。でもそういうものほど劣化してますね」

「そこは仕方ないな」

 

 目が滑るような書き方をしている可能性だってある。()()()()調査をしなければ間違いなく見逃すような書かれ方。それこそ、ミミズが這ったような文字なんてのも要注目ポイント。ぱっと見読み取りづらいものこそ、本心が書かれていたりするもの。

 

「……あった」

 

 そして、まさにそういうもの、劣化した書類の端。何ページにも渡って、すぐにはわからないように書き連ねられているよくわからない文章を発見した。

 明らかに脈絡のない文章。そこに書くべきではない文章が単語だけ書かれているなど、バレないように小細工がされていた。

 

「提督、こちらにもあります」

「分散しているのか。そりゃ注意深く目的を持って見ないとわからないな。それに、データになんて出来ない」

 

 保前提督は心の中でその『密告者』に感謝した。今は生きているかもわからない。しかし、その時の罪悪感からの贖罪の気持ちは、今この時受け取ることが出来た。

 時を超えたその文章を読み解いていく。劣化もあって殆ど暗号に近いが、読めないことはなかった。

 

「なになに……『私は、命の重みに、耐えられない。故に、奴に訴えた。しかし、止まらなかった』……よくある話だ。後からゆっくり読ませてくれ。今重要なのは、元凶に繋がる情報だ」

 

 申し訳なさを感じつつも、必要な部分だけをどうにか知ろうと、能代と共に単語や文章を切り抜いて置いていく。

 

 それによって知ることが出来る情報は、とんでもないことであった。

 

「……『人間に、艦娘と、深海棲艦の力を、埋め込み、力とする研究』……これか。やっていたってことは」

「艦娘の力は私も理解していますが、深海棲艦の力……?」

「艦娘と同じように、()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 

 艦娘の命を搾り取った結果が、今の艦娘──カテゴリーCの完成である。ならば、同じことを深海棲艦にやったとしたら。

 能代は急激に吐き気を感じた。猟奇的なモノを感じたわけではないのだが、生理的に受け付けないことによる嫌悪感で。

 

 そして最後、最悪な一言が書かれていた。

 

 

 

 

「『奴は、艦娘と、深海棲艦の力を、取り込んだ』……だと……」

 




始末されたという提督、出洲は非常にわかりやすく、冥界の王ハデスから。その部下として出てきた名称、平瀬は、冥界の王妃ペルセポネーから。
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