小柄の暴走が危険なモノであることを察知した中柄が合流を目指すが、神風と伊203がそれを食い止めようと戦う。すると、さらにそれに横槍を入れるように出洲が艦載機を飛ばしてきた。勿論、暴走する小柄と戦う夕立達にも当たり前のように。
数十機の艦載機をマニュアルで動かし、その全てが高精度。複数人でかかって互角か若干不利に持っていかれている状態だというのに、この横槍は非常に厄介なモノである。
それを戦いながらも見回しているグレカーレは考えた。接近をするために何をしてみるべきか。今のままでジリ貧なら、戦う相手を変えてみたら何かが進展するのではないか、と。
「スイッチ、してみよっか」
あまり策を口にするモノではないかもしれない。この空間は出洲の手のひらの上とも考えられる。目が行き届いているだけでなく、耳も行き届いているかもしれない。
だが、考えを纏めるため、やりたいことをハッキリと口に出して、それが正しいことなのかを見定める。グレカーレは今この場でその手段を用いる。
「グレカーレ、何か思いついたか!?」
増える艦載機を煙幕を使っていなしながら、深雪はその呟きが少しだけ耳に入ったために問う。先程よりも明確に出洲に近付きづらくなったことは間違いない。それを打破出来る手段があるのなら、喜んでその策に乗る。
と言っても、グレカーレはどうしたらそれが上手く行くかまでは考えていない。とにかく戦う相手を変えたら事態を好転させられるかもしれないと思っただけだ。
「思いついたけど、どうやろっかなって感じ。今のままだとジリ貧でしょ」
「だよなぁ!」
「だから……あ、そうだ。特異点ズ! 4人がかりで思いっきり煙幕出しちゃえ! ここ全部包み込むくらいの勢いで!」
そこで考えたのは、やはり特異点の特性。もう誰もが知っている、煙幕の力。単純明快、視界を遮るためのそれは、願いの力によって、自分達は敵を感知出来るが、敵からは自分達を感知出来なくなる、インチキ能力。
これを深雪だけではなく、電と一緒にやるだけで止まらず、黒深雪と雷も含めて4人でやってもらう。
人数がいれば、空間を全て覆い隠すことも不可能ではないだろう。そして、そうすれば一気に有利に持っていける。スイッチも可能だろうし、なんならそのまま押し込むことも可能だ。
「了解だ! みんな、一気に出せ!」
深雪の号令で、特異点の力を持つ4人が一斉に特異点を溢れさせた。出力は最大。空間全てを煙で覆い隠そうと、四方八方に無差別に煙をばら撒く。
だが、それを出洲が許すわけがない。ここで特異点との決着をつけるつもりでいるのだから、煙幕の対策は万全にしている。少し溢れさせるくらいであれば、艦載機を嗾け、激しく動かすことで煙を霧散させることでどうにかしていたが、ここにいる特異点全員の力を使って一気に埋めようとするのならば、
「すまないが、密室で煙を出すのはやめてもらいたい」
ふわりと1機の艦載機が空間の出口の方へと向かう。グレカーレはそれを見逃さなかった。何かをするつもりだ。しかしそれを止めたくても自分の行動を止めようとする艦載機を突破出来ず、ただ見ていることしか出来ない。
煙幕は拡がっていく。足下はまるで水にドライアイスを放り込んだかのように黙々と煙が溜まっている。煙幕の願いのおかげで動きやすくはなっているのだが、思惑通りになるにはまだ時間がかかる。
「止めっか!」
故に、グレカーレが自ら動く。煙幕の願いをその足に乗せ、先んじて貰った煙幕ブーストも利用し、出洲ではなく、離れた艦載機を狙う。
それが何かはわからないが、わざわざ出洲がそれをしたのだから、この状況を解決する何かなのは間違いないのだ。破壊しない理由もない。
「何をしようと言うのかな。させないよ」
しかし、出洲の艦載機はさらに増える。グレカーレの行動に反応するように、1機、また1機と、グレカーレの進行を妨げる。この期に及んでまだ増える。ぱっと見でも、もう50機はそこにある。なのに、出洲は平然とその全てを自分の頭でコントロールしていた。
「ああもう! アンタすごいね! これ全部手足みたいに使ってんでしょ!」
「勿論。この程度出来ずして、平和な世界を創り上げることなど出来やしないからね。さぁ、下がりたまえ」
その数10機。グレカーレ1人に対してこの数。余程やられたくないと見える。
「下がらないねぇ! だったら撃ち壊してやんよ!」
「無謀なことはやめた方がいい」
すかさず砲撃を放とうとするグレカーレだが、さも当然のように艦載機が防ぐ。それで1機が破壊されたとしても、その残骸は元からそこに無かったかのように消え去り、新たな艦載機が発艦し、戦列に加わった。増えない代わりに、全く減らない。
「グレ様、援護いたします!」
「ナイスだよシラクモ! あの向こうに行った1機、どうにかして! 多分アイツ、
グレカーレを援護しようと躍り出る白雲。グレカーレも手伝いは大歓迎。だが、出洲の思惑を聞いた白雲は、一瞬なんだそれはと思考が停止しかけた。
あまりにも単純で、わかりやすい煙幕対策。密室だからこそ出来る、そしてホームだから出来る手段。この施設を取り扱う出洲の、地下であるが故にいくつも考える生活に必要な設備を、戦闘に応用し始めた。
これがあるから、ここでの戦闘を考えたのだろう。少量の煙幕ならば霧散させられるが、大量の煙幕ならばそれも難しい。だったら施設の設備を十全に使うべきだろう。
それがあるならば、後始末屋達もその選択をする。逆の立場なら、迷いなく換気扇を使う。それをされただけ。文句も何も言えたモノではない。
「かしこまりました。で、あるならば!」
「君もかい。させないよ」
ここで白雲につく艦載機も一気に増えた。グレカーレを邪魔するように、白雲にも10機の艦載機が妨害に纏わりつく。照準も定めさせない。『凍結』もついには避けるようになっていた。今この場で学習している。
「だったら、消し飛ばしてやらぁ!」
グレカーレと白雲が妨害を受けていることを足下に蔓延し始めている煙幕で知った深雪は、2人が狙っていた艦載機の居場所を目視で確認した後、すぐさま砲撃をする構えに。
深雪の砲撃ならば、この程度の艦載機に威力を落とされることなく、攻撃を妨げられることもなく放つことが出来る。狙いさえ定めてしまえば、1機の艦載機くらいならば確実に墜とせる。
その間は深雪から溢れ出る煙幕の量は減ってしまうのだが、だとしてもこれはやらねばならないこと。
「特異点、君が最もよろしくない。害は根本から絶たねばならないね」
「うるせぇよ一番の害が! テメェの思い通りにはさせねぇ!」
「平和の障害たる君には、やはりここで今すぐに死んでもらわねばならない」
深雪にもさらに艦載機が増える。そして、グレカーレや白雲に対する妨害とは一味違った攻勢に出てきた。照準を定めさせないように、艦載機で殴りかかるような突撃。顔面に、腕に、腹に、殺すほどの威力のある体当たり。
これに当たるわけにはいかず、深雪は回避行動を取らざるを得なかった。傷付くことは、これ以降の戦いに確実に影響が出る。それに、この状態で無理に放っても、命中させることは難しい。
「なら電がやるのです」
故に、特異点の補助装置である電が、それを達成するために、出来る限りの最速で、すぐ見定め、すぐ照準を合わせ、すぐに放つ。
深雪よりも威力は低いが、精度が高い電の砲撃出洲が艦載機による妨害を間に合わせる隙も与えず、それを実行に移した。深雪と違い、トリガーを指ではなく脳内で引くというのも、この速さに繋がる。
「ふむ、ならば」
しかし出洲は冷静に、それを対処する。電から放たれた砲撃をどうにかするのではなく、今向かわせた1機を犠牲にして、即座に2機目を発艦し、向かわせた。いや、それだけではない。電にも妨害を増やす。
そうこうしているうちに、2機目が目的の場所に辿り着いてしまった。器用に壁をコンと叩くと、制御装置のような基盤が現れる。そして、もう一度叩くと、この戦場にファンが回転するような音が響き渡った。
「煙は健康に悪い。高次と言えども、よろしくないからね。換気させてもらうよ」
深雪達が放った煙幕は急激に薄れていく。上が下から煙を吸い取り、そして何処からか排出しているのだろう。
設備というカタチで煙幕を対策され、深雪は聞こえるくらいに舌打ちをした。
「くそっ、止められなかったか……!」
黒深雪と雷は、煙幕を妨害されないように出すことで手一杯。攻撃に転ずることもままならなかった。この施設をある程度知っていても、何処に何があるかまで、完璧に知っているわけでもない。知っていたら、事前に換気扇のスイッチを破壊していたはずである。
「悪い、あたし達もやらなきゃダメだったんだが!」
「大丈夫だ、なっちまったもんは仕方ねぇ! ここから巻き返すぞ!」
「くそ……せっかく真実がわかったのに、何の役にも立ててねぇ……!」
悔しそうに呟く黒深雪。雷も防戦一方で何も出来ない。だが、他の者達も似たようなモノなのだ。出洲一家はなんだかんだ誰もまだ傷ひとつついていない。この決戦、拮抗状態が続いている。
煙幕もまともに使えない状態を作られてしまい、より不利にさせられる特異点。これを突破するには、まずはグレカーレの考えた戦闘相手を切り替えるスイッチが必要になるだろう。
1300話ですってよ。決戦は続きますが、まだまだよろしくお願いします。