出洲による全面的なサポートが入るようになってしまい、小柄や中柄との戦いにも支障が出るようになってしまう。それをどうにかするために策を巡らせ、まずは特異点4人がかりで煙幕を放ち、この戦場となっている空間全てを煙で覆い尽くそうと考えた。
しかし、ここは地下施設である。換気のシステムは万全。全員からの攻撃を軽々と止めながらも、艦載機を器用に操り、換気扇のスイッチを入れられたことで、煙幕は全て排除されてしまった。
「悪い、グレカーレ、上手く行かなかった!」
「だいじょぶ! 気持ち切り替えていこう! それに……」
グレカーレは考えを巡らせ、そして戦場の中でも耳を澄ませる。攻撃の音の中に、換気扇の音が混じる。ゴウンゴウンと、特異点の煙幕を地下施設の内部に少しでも留めておきたくないと言わんばかりに。
「も少し考えてみるよ。とりま今はあのバカみたいな数の艦載機だね!」
グレカーレにすら10機ほどがついてしまっているそれは、出洲自身に向かってくる者に対しては同等な数を、そうでなくても2機3機とつけて、戦いを圧倒的に不利に持っていこうとしている。
中柄と戦う神風と伊203には、攻撃的なスピードを上げさせないような横槍。ただでさえ中柄自身も艦載機を使うようになっていることもあり、かなりやりづらい状況。
小柄と戦う夕立、子日、フレッチャーの方にも向かっている艦載機は、むしろ回避をさせないように行動を邪魔する。下がろうとしても、背後に回り込んで打ち付けるまである。小柄には見えていない子日も、出洲には見えているため、しっかりとマーク。
艦載機の総数は、ぱっと見だけでも50は超えている。100までは行かずとも、この数は普通より多いと言える、それだけの数を搭載出来る深海棲艦は世にはそれなりにいるのだが、それをマニュアル操作しているとなると話が大きく変わる。
広すぎる視野、増えた四肢をさも当然のように操るだけの処理速度と処理精度、そしてそれを受け入れられるだけの脳内許容量。負荷が酷すぎるくらいなのに、平然としている出洲は、それだけでもバケモノである。
「壊さないわけじゃないけど、すぐに補充されるんだよな。それなら出洲自体も何かしら消耗があってもおかしくないんだが」
「なのです。息一つ切らしていないのです」
深雪と電も、事態の打開のために、艦載機を破壊しながら出洲を観察するしか出来ない。
艦載機自体は、とてつもない強度というわけでもない。ちゃんと破壊は出来る。換気扇を入れに行った艦載機は、電の砲撃で破壊は出来ている。今スイッチを入れたのは、その後現れた2機目。
電の砲撃も、今や深海棲艦のスペックアップもあり、駆逐艦のそれとはまるで違う威力ではある。そもそもが高火力なモノを扱うようになっていることもあり、戦艦の火力と同等か超えるくらいのモノだ。
それならば破壊は出来る。割と余裕がある。グレカーレも纏わりつく艦載機を剛腕で殴り飛ばして破壊出来ているし、白雲も避けられはしているものの『凍結』させることで破壊と等しい状況を作りはしていた。
だが、破壊出来ることより、それを即座に補填されることが脅威。いつまで経っても数が減らない。減ったと思えば増えている。出洲はそこから動いていないのに、艦載機の圧に徐々に押し込まれていくような、嫌な感覚。
「縫い止められてんな、今」
「なのです。むしろ、こちらの消耗を誘っているような気がするのです。長期戦狙い……なのでしょうか」
「アイツはどれだけやっても疲れないってことか……?」
そう見えてもおかしくはなかった。出洲の様子は最初から変わらない。場所も、動きも、言葉すら。焦りの色なんて何処にもなく、この戦いが始まってから常に冷静。
強いて言うなら、グレカーレに近付かれた一度だけ、明らかに強めに防御の布陣を取ったということだけ。死のトラウマが心に刻まれているのか、近付かれることを極端に嫌がっているような、そんな挙動である。
それがバレていると思っているのか、明確に接近を禁ずるようにされていた。艦載機の数が増えたのもそこから。グレカーレの接近がトリガーとなっている。
「くそっ、くそっ、全然振り払えねぇ!」
「深雪、焦らないで!」
黒深雪と雷にも同様に艦載機を嗾けているため、まともな攻撃は出来ないでいる。時には艦載機で強く殴るように体当たりを仕掛け、回避に専念させる。出洲の方に目を向けた時には、その眼前に艦載機が移動して気を散らせる。本領を絶対に発揮させないという意思が見える。
黒深雪はその術中にハマりかけている。焦れば焦るほど、出洲の思うツボだ。戦いは勝手に長期化していき、出洲以外は消耗していくことだろう。
とはいえ、小柄と中柄の消耗は、出洲としてもなるべく抑えたいようで、あちらの戦いは短期で終わらせようとしている。
特に小柄の暴走は、出洲自身も想定していたモノかはわからない。中柄が明らかに小柄を守ろうと動こうとしたところからも、命を糧にする自棄っぱちのブーストは、小柄にとってあまり良くないモノであることが窺える。
「ははっ、どうせ出洲には近付けないんだし、何やっても艦載機はついてくるんだ。いっそ無視でもしちゃおうか」
ここでグレカーレは考えた。スイッチをすることを考えていたが、入れ替わるのではなく、出洲に向かっていた部隊を分けて、小柄と中柄に投入し、まずはそちらを片付けることを。
出洲に届かないのなら、出洲を完全に後回しにする。こうして拮抗している時間が勿体無い。近付いてほしくないなら、近付かない。むしろ遠退く。代わりに、小柄と中柄に向かう。
「まずはあたしがお手本見せっかー!」
これまで出洲の行動を常々見続けていたグレカーレは、出洲が何も変わらないことで見限り、白雲に小さな合図を送る。
「あっち」
「かしこまりました。あの愚者は一度いない者として扱うということですね」
これだけで白雲は察した。うみどりで熱い友情を経て親友となった2人の、間違いのない信頼性。やるべきことは、この合図でわかった。
狙うのは、小柄。
「何をするつもりなのかな」
「黙ってろや! これまでみたいに、指咥えてな!」
グレカーレが行動を起こそうとしているのはわかった。なので、深雪はそれをサポートする。煙幕は艦載機で掻き乱されるが、逆に言えば、煙幕を出せば艦載機はそれをどうにかするためにしか動かなくなる。
故に、深雪はさらに煙幕を溢れさせた。今度は質量のある煙。艦載機を包み込んで、機能停止に追い込まんとする、特異点ならではの煙型兵器。
「電! 別個体! 雷! これでやれ!」
砲撃すら受け止められる質量のある煙幕は、艦載機の動きを確実に逸らすことが出来た。あまり遠くの方までは出来ないため、仲間を守るために使うのは今は難しいが、ここにいる特異点達は身を守るためにもそれは扱える。
「こ、こうか!」
黒深雪は見様見真似で実行。艦載機を払い除ける、邪魔なモノを退かし、本当の道を見定める。そんな願いを込めた、質量のある煙幕。深雪のそれよりはまだ微妙に精度は低いかもしれないが、ちゃんと出来ている。電は勿論のこと、雷もそれはどうにか出来ていた。自分達の行動を阻む艦載機を押し退けた。
自分の周りだけに使っているおかげか、換気扇の力で無力化されることはなかった。身を守ることは出来ている。
「ふむ、そこまでして私の邪魔をすると」
「当たり前だろうが。テメェはあたし達の後始末を邪魔しやがったんだ。やったらやり返されることくらい、テメェでもわかるだろ」
「確かに、君の言うとおりだろうね。しかし、まだ届かせない」
深雪達の目の前の艦載機がいきなり半分ほどに減る。4人から半分。おおよそ20機前後。質量のある煙幕で押し退けていたそれが、急に違う行動を起こす。
「マジか……! グレカーレ!」
「うえっ!? やっば!」
そしてその半数が、全てグレカーレに注ぎ込まれる。これまでも10機近い艦載機に襲われていたのに、それが途端に3倍となる。
それだけではない。白雲の動きにも合わせて、艦載機は飛び回る。小柄に近付かせない。その意思が見え隠れしている。
「お姉様! これならばそちらに行けます!」
「身体張ったなぁ! なら、その隙使わせてもらうぜ!」
小柄への攻撃を止めるために艦載機を寄せたというのなら、少しでも開けた出洲への道を突き進むことが可能になる。
その隙を作ってくれたというのならば、ありがたく使わせてもらうしかないだろう。
妨害していた半数の艦載機は、質量のある煙幕で押し退けているのだ。あとは前に進むのみ。
「こっちはこっちで、何とかすっぜぇ!」
グレカーレは大量の艦載機を前に、表情を崩すことはなかった。それならそれでどうにか対処してやると、その剛腕を振るう。
「自分の子供はそれくらい大事ってことなのかな! 平和のために文化を奪うってわりには、家族は贔屓するわけだ! はっはー、俗物俗物! 高次だなんて名乗らない方がいいんじゃないのパパぁ!」
グレカーレの口も剛腕と同じように回る回る。思ったことを止め処無く垂れ流し続けるだけで、動揺を誘えればラッキーくらいに。
「贔屓は争いを生むぞー! トップがそれで、平和なんて作れるわけないんじゃあないかなぁ!」
纏わりつく艦載機をことごとく殴り破壊しながら、グレカーレは叫んだ。