苛烈さを増す出洲一家の戦いは、全局面に対しての出洲の横槍によって、後始末屋が若干の不利に持っていかれている。人数差は圧倒的に有利であっても、手数の違いが明確に出てしまっており、出洲の艦載機が100を超えた辺りで、その邪魔は全ての者に平等に不快と嫌悪を齎していた。
それに慣れてきている神風は、限界を超えるために徐々にギアを上げている。明日のことなど知ったことか。筋肉痛など恐ろしくも何ともない。今を乗り越えるために必要ならばどうなっても構わない。死ななければ、それでいい。
しかし、超人すらも食い止める出洲の艦載機は、そう簡単に乗り越えられるモノではないのだ。神風は持ち前の神業と限界を超えていくことでそれに慣れてきており、中柄との戦いに専念することが出来ているが、他の者達はそうはいかない。
あの伊203ですら、限界を自ら『リミッター』の曲解によって外し、無理矢理超えようとしていても止められているような状況、特異点の煙幕も換気扇で消されている今、どうにか出来る手段は非常に限られている。
「鬱陶しいっぽい! ただでさえクソガキが面倒だってのに!」
その中でも、小柄の攻撃を真っ向から受けている夕立には、この横槍がかなり厳しかった。
今も尚、暴走し続ける小柄。燃えるような廃熱はそのままに、本人は痛みも感じておらず、熱傷も全て即時回復。剛腕を受けている夕立としても、そこに強い熱が加えられているところから、痛いと熱いが同時に来る。『ダメコン』のおかげでその辺りはどうとでも出来るのだが、やはり熱いのは厄介だ。
それに加えて、出洲の艦載機である。真っ向勝負への横槍として、小柄の拳と同時に脇腹に突っ込んできたり、膝を狙って体勢を崩したりとやりたい放題。『ダメコン』を使ってその攻撃を受けるにしても、力んで受けなければ衝撃を浸透させられて苦しい思いをさせられてしまうのだが、出洲の横槍は確実にそれを誘発しようとしていた。
「うるさい! 敵は黙ってボクにやられてればいいんだ!」
「お前のことはどうでもいいっぽい!」
「何をぉ!? 絶対にぶっ倒してやる! 世界の平和のために、勇者のボクがっ、絶対に!」
もう何も考えていない、癇癪を起こして暴れ回っているだけの子供。少しは考える力を持っているかと思いきや、あまりにも否定されすぎてムキになってしまっているだけの愚か者。
「考えることをやめちゃったら、それはもうヒトの意味がないよ。勇者を名乗るなら、もっと考えなよ」
「うるさいうるさい! 誰がお前らの言うことなんて聞くか! 勇者を惑わせようとしてる魔王の手下め!」
「何も悩まずに敵をひたすら始末して回る勇者なんていないでしょ。君はストーリーのないゲームばかりやってるのかな」
子日のことが見えている出洲は、姿を見せていない状態であっても確実に艦載機を嗾けている。アクロバティックな動きに定評のある子日のため、どのように攻撃を仕掛けられても回避は出来ているのだが、出洲はそれにも慣れていき、子日の動きを制限し始めていた。
姿が見えなくなることがウリである子日の『迷彩』。しかし、それが無効化されると、子日は自らの身体能力のみでこの戦いを乗り切る必要が出てくる。
それでも並よりは間違いなく動けているため、いきなり致命傷を受けることはない。いつもは使わないくらいに頭を回し、小柄に挑発的な正論をぶつけながら、前に前にと進もうとする。砲撃だって厭わないのだが、それは出洲の艦載機が確実に止めてくるため、暴発を防ぐためには徒手空拳での戦いを余儀なくされていた。
「勇者だって葛藤するよ。自分の言うことを聞いてもらえないからって自棄になることもない。怒り任せに自分の言うことを聞けって言ってくるのは、いつも敵じゃないかな」
「うるさい、うるさい!」
「もう、君の言動は勇者じゃないんだよ。自分でもわかりかけていたのに、それも捨てちゃった。君は、自分で勇者の資格を捨てちゃってるんだよ」
お前は勇者ではない、その資格はないと断言されたことで、小柄の怒りはさらに増す。
自分は勇者だ、世界を平和にするために戦う、救世主なのだ。親からそう言われて、だから自分は一度死んだが蘇ることが出来たのだと納得できた。
死んで蘇ることが出来るのは、勇者だからだ。勇者であるから、今こうして生きている。自分はあのゲームの中にいる勇者と同じなのだ。だから、
子日はそれを完全に否定した。いや、否定というよりは、勇者であったとしても、本人の言動によりその資格を失ったのだとぶつけた。元々は本当に勇者だったかもしれない。しかし、今やっていることは勇者ではなく魔王の手下なのだから。
「許さないからな! ボクに、勇者に文句を言うなんて!」
「だから、本当に勇者ならそんなこと言うわけないでしょ」
ここで夕立が小柄に一撃入れることに成功した。勇者の鎧に阻まれるが、その拳は確実に胸に入っている。艦載機による妨害を潜り抜け、出洲がその動きに慣れていくように、夕立もその動きに慣れていく。そして、その一撃に繋がった。
勇者の鎧は、砲撃すら簡単に跳ね返すくらいには強固なモノだ。これを簡単に破壊出来る者はそうそういない。神風程の技術を持つ者くらいしか考えられず、それ以外なら『解体』の曲解を持つ梅くらい。加賀の放った矢が傷をつけ、タシュケントの青の弾丸により内部から崩壊を招くということも出来たが、今ここでそれを実行に移すことは出来ない。
だから、夕立は鎧を破壊することは考えていない。拳を打ち付けることで起きる衝撃を、小柄の身体に送り込むことを考えている。
今の小柄は、夕立と同じ状態みたいなもの。ならば、
「っ……このぉ、魔王の手下めぇ!」
だが、浅い。衝撃は伝わっているが、小柄が倒れることはない。これもまた、出洲の艦載機の横槍のせい。潜り抜けることは出来ても、殴りつける時に夕立の腹にまた現れていることで、強い踏み込みが出来ていなかった。
同じことをするには、もう一度艦載機を掻い潜り、小柄の隙をつかねばならない。
「フレ子! こいつの動き止めたい!」
「難しいことを仰いますが、やりましょう! ですが……!」
それが出来そうなのは、少し先の未来を視ることがフレッチャー。出洲の艦載機の挙動も、その力によって全てを回避することは出来ている。しかし、避けることが出来ているだけで、肝心の攻撃まで転じることがなかなか出来ない。
身体能力も上がっているとはいえ、妨害は妨害。避けられても小柄には進めないように動かされている。
出洲は戦闘経験なんてない研究職のはずだ。それなのに、どうしてここまで戦術眼に長けているのか。それが一番の謎。それを解き明かそうとしているのは、グレカーレ。
「フレ子のところに行きたい、ねっ」
剛腕で艦載機を破壊しながら、少しずつ前進は出来ているが、グレカーレの周りの艦載機があからさまに増えているため、簡単には行かない。出洲もこの戦場にいるメンバーの中で、グレカーレが最も
「目隠ししても厳しいかな。だったら艦載機からの映像でも脳内にぶち込んでるかな。その状態で全部マニュアルで動かしてるとか、正気じゃないでしょコレ。実際やれてんだもんなぁ。頭の中スパコンかよ!」
殴りつけた艦載機の破片は、基本的に出洲に飛ばそうとはしている。しかし、破壊した時点で即座に消滅、次の艦載機がやってくるので、視界隠しも出来ない。
ただ、口にしながら考えを纏めていくうちに、いろいろと思うところが出てくる。頭スパコンと言ったことで、もしかしてという思いが出てきた。
「え、マジでスパコン? 死んで戻ってきた時に、頭の中に何かぶち込まれてる?」
チラリと出洲の方を見るグレカーレ。見た目は普通に深海棲艦の姿をしている女。中身は男ではあるが、そんな機械が入れられているようには見えない。見えないのだが、出洲が取っている深海棲艦のカタチが、中枢棲姫であることに今を考えた。
「アイツ、中枢棲姫だよね……確か、肌が剥がれて機械的なモノが見えるヤツ……ヒビが入ってるの見たよなぁ……」
あの肌にヒビが入り、内側から艤装のような何かが見えてくる。それが中枢棲姫の特徴だ。生体艤装が当たり前な深海棲艦の中で、本体すらも艤装に近い質感を持っている。
つまり、
「まだ確実じゃないけど、あり得るぞコレ……!」
まだ確証は持てないが、何かそれらしい証拠が見えれば、考えは纏まりそうである。