空間全体を認識し、100機以上の艦載機をマニュアルでコントロールしながら、平然とした顔で戦い続ける出洲は、一体どうなっているのか。それを考えていくうちに、グレカーレは出洲の頭の中にスーパーコンピュータがぶち込まれているのではないかという憶測を立てるに至った。
よくよく考えてみればわかることでもある。出洲が死んで蘇ったことはわかっているが、ならば
「誰だよあんなの作ったヤツ! 自分が死んだらこうしてくれとか言ってたわけじゃあないよなぁ!」
出洲がそもそも死を意識していたならば、また話が変わってきそうではあるのだが、これまでやってきたことが平和のためになることだと信じていたならば、艦娘に叛逆されるとは思わない。死を恐れるようなこともなかったはず。
ならば、出洲が殺された後、秘密裏にその遺体を回収して、出洲を蘇生させた者がいたとしてもおかしくはない。それが何者かはわからない。同僚だったかもしれないし、艦娘だったかもしれない。はたまた、妖精さんである可能性だってある。
ともかく、出洲が蘇った際に、いくつものマルチタスクを平然とやれるようになるくらいの処理能力を手に入れたことは確かだ。それがあるからこそ、今まで研究を続けてこれたというのもあるだろう。その割には、口にする平和への道筋は狂っているとしか思えないが。
「せめてそうである証拠が見えればいいけど、それは流石にキツいか……っ。フレ子、デスの方行けない!?」
「えっ!?」
フレッチャーの『未来視』を、小柄ではなく出洲に使いたい。グレカーレはそれを望んだ。少しでも傷付けたいのだが、今のグレカーレでは無理と言ってもいいくらいだし、要である深雪達も艦載機に苦戦中。煙幕すらも換気扇で止められているレベルなので、純粋な力で勝とうとすると、かなり厳しい状況である。
ここに先読みの力が入れば、少しは手が届く。そう信じて、フレッチャーに願った。この戦いに勝つための一歩目すら進めていない現状、それをひっくり返さなくては、勝ち目も与えられない。
しかし、フレッチャーも艦載機に行動を止められているような状態だ。先読みしても前に進めない、自分の身を守るだけで精一杯な状況を延々と作られているのみ。先を読んでも、進めない未来しかない。覆そうにも、まだ足りない。
「シラクモ、道開ける!?」
「グレ様、彼奴の艦載機は、この白雲の『凍結』を以てしても、その動きを止めるに至らないのです。しかし、どうにかせねばならないのも事実……」
白雲の『凍結』により、艦載機を凍らせた際にも、動きが変わることなく突撃してきている。凍らせれば少しだけでも機動性に影響を与えるようだが、それだけなのだ。前進したくても、先に進めない。破壊したところで補充されるせいで、何も変わらない。
「磯風様の『空冷』があれば、この空間全域を冷やすことが出来るのですが」
「無いものねだりだね。増援として来てくれればラッキーだけど、まだ時間はかかるかなっ」
他よりも多く纏わりついてくる艦載機を殴り飛ばしながら、グレカーレはさらに考える。煙幕ブーストにより冴えている状態であっても、この状況を簡単にひっくり返すにはままならない。それ以上に頭の回転が速い出洲に押し込まれている。
とにかくこの尋常では無い数の艦載機をどうにかしなければ話にならない。深雪達ですら前に進ませてもらえないこれをどうにかするためには何が必要かを考え続ける。
「少しでも強化するしかないか……! ミユキ、煙幕もっとちょうだい!」
「はぁ!? お前無茶言うな! 一度やっただろ!」
「あたしにじゃない、あたし以外のみんなに!」
今煙幕ブーストを貰っているのはグレカーレだけだ。他の者達はそれ無しにここを粘っている。せめて全員のスペックをさらに底上げすれば、何かしら見えてくるモノはあるかもしれない。
だが、現在この空間には換気扇が回っているような状態だ。遠距離で煙幕を与えることは、現実的ではなかった。飛ばそうとしてもすぐに掻き消される。ならば深雪自身が対象に近付けばいいだけの話ではあるのだが、何処も彼処も艦載機だらけ。行くも戻るも出来やしない。
「いや、でもやるっきゃねぇな。まずはあたし達だ」
「なのです。電達は、強化されておくのです!」
真っ先にブーストをかけるのは自分。自ら溢れさせた願いの煙幕を吸い、身体強化。換気扇で掻き消されない、出た瞬間に吸うことにより、確実な強化を得た。
他者にやるなら負荷が大きいだろうが、自分の煙幕を自分に入れるなら、そこまで大きなことにはならない。
「別個体、雷、お前らも!」
「ああ、わかった! 雷、無茶しない程度に吸っとけ!」
「ええ!」
黒深雪と雷もブースト。特異点組はこれにより、これまでよりは強化される。それでも艦載機を突破することが難しいのは間違いないのだが。
グレカーレに多く持っていくために、深雪達を嗾ける艦載機の数は半分ほどになっているのだが、それでも的確な動きで前進させない。多く配置されている者がさらに酷いことになるのがよくわかる。
「誰でもいい、仲間達に煙幕吸わせろ! 今より力を持たせた方がいい!」
「電が行くのです! 上手くやれたのですから、今も……!」
電は仲間達の力を煙幕の力で模倣することが出来た。それをこの場でもやる。周りに煙幕を漂わせることが出来れば、妙高の『ジャミング』を模倣出来たのだが、それは叶わない。ならば、自分への負荷を厭わずに、とてつもないスピードを得る。
「
時雨の『タービン』の模倣。一瞬だけでも処理速度を上げ、この場を切り抜ける。艦載機による妨害が厳しく、前進に使うのは苦しいため、後退へ。だがそれは、逃げの一手ではない。攻めのため、後ろに向かって前進するのみ。
時雨ほど精度の高い速力上昇は見込めない、あくまでも模倣の力。連続使用も出来ない一発技。身体への負荷も相当だが、それをするだけの価値がある。
その煙幕を吸わせるに値するのは誰が。この一瞬、頭の回転も速くなっていることで、スローに見える空間で考える。そして、すぐに答えを出した。
「白雲ちゃん!」
あらゆる状況下で役に立ってきた『凍結』を、この場で強化する。周りに纏わりつく出洲の艦載機を避け、白雲に纏わりつく艦載機も避け、触れられる距離にまで接近をした。
「電様!」
「煙幕、お届けするのです!」
瞬時に現れ、手に溜めた煙幕を白雲の口に運ぶ。それを吸った白雲は、明確に強化されたことを実感した。『間違った平和を達成させない』という強い思い、『誰も傷付いてほしくない』という優しい願いが、白雲の力を一気に強くした。
深雪と組んでの演習の時は、演習であったからこそ抑えられていたところがある。『凍結』は使い方次第では直接死に繋がるような力なのだから、演習でそんなことは出来ない。
だが、今は違う。敵を始末する、その命を奪うことが、歪んだ平和への道を食い止め、自由ある未来へと繋がるのだから、躊躇いも何もない。
故に、白雲が定めていた限界を、いとも簡単に乗り換えた。
「漲ります。ありがとう存じます、電様。これならば、お姉様の道をも切り拓くことが出来ましょう」
鎖を力強く握り、強化された『凍結』の力を思い切り振るった。先程は、凍りつかせても動きが少し鈍くなる程度で終わらせられたのだが、今度は違う。煙幕によって限界を超えたため、振るうだけでダイヤモンドダストが煌めき、
「これならば、道も拓けましょう! グレ様、少々冷えますよ!」
「やっちゃえやっちゃえ! アイツの目を潰そう潰そう!」
続いてグレカーレに纏わりつく艦載機を凍らせていく。これによって、グレカーレの目がより開かれる。
「イナヅマ、フレ子にも!」
「行くのです! 時雨ちゃんの力はかなりキツいですけど、今ならもう道が作られたのです!」
超高速移動は負荷が厳しいため今は使えない。だが、白雲の『凍結』のおかげで、道が開かれた。次の煙幕は、フレッチャーに届けられる。
「フレッチャーちゃん、お届けなのです!」
自らの身体能力増強もあり、フレッチャーの元へと辿り着いた電は、その煙幕をフレッチャーに吸わせることに成功した。
「ありがとうございます! これで……っ」
すると、『未来視』の精度が格段に上昇した。数手先を視る先読みが、より広い範囲で見えるようになる。そして、丹陽から引き継いだ身体能力もさらに上昇。
「視えた……! グレカーレさん、援護出来ます!」
「よっしゃ! フレ子、手伝って! デスを崩すよ!」
「はい!」
フレッチャーは小柄を夕立と子日に任せ、行動を邪魔する出洲の方へと向かう。それが全体的な戦いに影響を与えることがわかっているから。最善はそれだ。
電の、特異点の力によって齎された逆転の機会。これを有用に扱い、出洲の喉元に刃を突きつけたいものである。