一度きりの模倣、時雨の『タービン』を使った電により、煙幕ブーストを施された白雲。そして、その強化された力によって道を拓き、同様に煙幕ブーストを貰うことに成功したフレッチャー。『未来視』はより最善の結果を掴むことが出来るようになり、今最も欲しい未来、出洲の正体を突き止めるための戦いが可能となった。
「艦載機の動きが、さらに見えます……私だけの分じゃない、皆さんのところまで……!」
自分に向かってくる艦載機を避けることしか出来ず、前に進むこともままならなかった先程とは雲泥の差。
自分の道だけではない、仲間の道も切り拓くことが出来る。グレカーレと共にどの道を進めばいいのかがわかる。
特異点の力に背中を押され、身体も軽く、素早く動くことも出来る。今だけは疲労とは無縁と実感出来る。代わりに明日以降が怖いが、今はそんなこと考えている余裕などない。今を勝つ。それだけのために、一歩進み出す。
「白雲さん、右前方!」
「かしこまりました。全てを凍つかせ、道を作りましょう!」
フレッチャーに指示を出され、そちらへと鎖を振るう白雲。煌めく鎖は、鞭を打つように真っ直ぐと艦載機に伸びていき、少し掠めるだけでも一気に凍りつく。
「続いてもう一度右! 次は上!」
「素晴らしい。我々の先を行く指示、感服いたします」
出洲の操る艦載機の動きを完全に把握している。マニュアル操作であるために、その場その場で最も的確な行動をする艦載機を、さらに上を行く行動予測により事前に対策する。
白雲も、言われてから鎖を振るって間に合っていることに驚きつつも感心していた。このような指示は、深雪であっても難しい。この戦場の中でも唯一と言ってもいい、先の先の先を読める者。まさに、第一世代の英雄の力をこの場に再現していると言っても良かった。
「グレカーレさん、直進行けます!」
「あいよぉ! あんだけ群がってきたのに、あっちが見えるじゃんさぁ!」
フレッチャーが視て、白雲が拓いた道。それを、剛腕を駆使しながら突き進み、多すぎるくらいにあった艦載機の向こう側が見えるようになったことで、一気に加速したグレカーレが突撃する。
「ふむ、特異点の力か。そんなモノに頼り、戦うことは」
「はいはいお疲れ様。これは仲間と力を合わせて戦ってるだけ。頼る? 堕ちる? 寝言は寝ていいなよ、おじいちゃん。そんな身体になってもボケだけは進むのかな?」
艦載機が一斉に群がる。破壊した分が補充され、グレカーレの進行を押し留めようとする。それだけではない。より速く、強烈な体当たりを仕掛けることにより、この場でグレカーレを屈服させようと画策している。
無数の拳で殴られているようなモノだ。それを全て捌き切るのは至難の業。煙幕ブーストが入っていても、そう簡単にどうにか出来るモノではない。事実、いくつかの艦載機はグレカーレの拳を避け、その身体に直撃している。
だが、グレカーレは痛みを顔にすら出さない。何故なら、それすらも予想して前に進んでいるからだ。突破するためならば多少の痛みは覚悟の上で。
「まだまだぁ! こんな小娘に必死じゃないのおじいちゃん! そんなに近付かれたくないかな?」
「ああ、君のような艦娘には近付かれたくないね。
「へっへ、艦娘恐怖症か何かかな」
剛腕を振り上げて、艦載機を大きく吹き飛ばす。グレカーレの目が、出洲の顔を捉える。
表情はほとんど変わらない。薄ら笑いのようなモノを浮かべているだけ。しかし、その目は眼前のグレカーレを見ていない。この空間全域を見ている。故に虚ろ。
「こっちを見ろよジジイ」
ようやく、再び、その拳が届くような場所へと間合いを詰めることが出来た。
「離れてもらおうか」
ここで出洲の目がグレカーレに絞られる。近付かれたくないという気持ちが薄らと見えており、これまで破壊してきた艦載機が再度発艦、そしてこれまで以上の壁となってグレカーレを阻む。
「纏まった! シラクモ!」
「お任せを。彼奴ではなく、その壁を!」
グレカーレを止めるために艦載機を群がらせるのは計算のうち。群がるということは、1機1機の隙間が限りなく狭い。モノによっては接触した状態となる。
ならば、白雲の『凍結』により、連鎖的に全てを一撃で凍らせることも可能になる。
一つの艦載機に鎖を打ち付ければ、そこから『凍結』は拡がっていき、次々と凍りついていく。それはそれで強固な壁となるのだが、艦載機としての機能が停止しているのならば、全く脅威ではない。
真に脅威なのは、その向こう側。
「左へ!」
「あいよ!」
フレッチャーの指示にグレカーレはすぐさま身体を左へと移動させる。その瞬間、凍りつかせた艦載機の壁を貫くように、出洲の手刀が伸びてきていた。そのまま壁を破壊して突っ込んでいたら、それにグレカーレがやられていただろう。艦娘の身体であっても、簡単に貫くほどの威力を持つそれは、当たれば致命傷にしかならない。
艦載機の壁が、明確に壁になったことで、出洲は直接攻撃に切り替えていた。こちらから見えないということは、あちらからも見えない。それは隙を作っているのと変わらない。だから、一撃で貫こうと。
しかしフレッチャーにはお見通し。少し先さえ視てしまえば、壁の後ろで何をやっているかなんて見えているようなモノ。すぐさま回避を指示し、そのさらに先を読む。
だが、突っ込むのはまずい。それが
「少し下がって!」
「おっと、ここから何かしてくる!?」
出洲の手刀は、さも当然のように凍結した艦載機の壁を切り裂くように横薙ぎにする。自らの艦載機を破壊したところで、再度発艦するだけでいい。むしろ、凍りついているより、破壊した方が都合がいいまである。そのついでに、避けたグレカーレをやれれば良し。この程度ではどうせ当たらないだろうが、それでも前に進ませることを止められるのならば良しと出来る。
「あっぶな。嫌だねぇ、そんなムキになってあたし達を振り払おうだなんて」
「誰だって、命を狙われたならば全力で抵抗するモノなのだろう?」
「当たり前。で、アンタ達はそれをミユキにやり続けたんだ。文句もないでしょ」
「ああ、文句などないさ。特異点に絆され、堕落した者達。もう取り返しがつかない程に、平和を理解出来なくなった愚か者達。ここで引導を渡してやるのも、情というモノさ」
「ヒューッ! 流石ボケジジイ、言うことが狂ってるねぇ! 平和をわかってないのはアンタでしょうが」
下がったグレカーレはその手刀を受けることはない。だが、壊れた艦載機の壁の向こう側、ヒビの入った隙間から、出洲の脚が見えた。
「殴って破壊して!」
「だよねぇ!」
フレッチャーの指示は壁の破壊。見えた脚でやってくることは非常に簡単。壁を蹴り飛ばして、そのままグレカーレに直撃させること。それだけでも相当な質量になるのはわかっており、そんなモノを喰らったら、いくら艤装を装備した状態であっても致命的になりかねない。
だからこそ、壁を破壊した。剛腕で殴り飛ばし、正面から完全に。どうせなら、出洲の蹴りごと粉砕したいところである。
だが、そこだけは少し見誤っていた。手刀が鋭すぎるくらいなのだから、それ以上の筋力を持つ脚による攻撃が威力がないわけかない。
グレカーレの剛腕は、脚を破壊するどころか、その一撃を食い止めることすら出来なかった。壁を破壊し、剛腕をも破壊するような威力で蹴り飛ばされ、危うく剛腕が折れて捥げるのではないかとすら感じた。
「マジかぁ!?」
グレカーレの叫びに、フレッチャーも目を見開いた。見えていた未来は、壁を蹴り飛ばしてグレカーレごと破壊するというモノ。それを回避するために、先に壁を破壊させ、そのまま押し込むつもりだったが、出洲の身体能力までは計算に入れられなかった。
とはいえ、これだけで済んだと考えるべき。こうしていなければ今頃グレカーレは退場していたのだ。それが回避出来ただけでも御の字。
「危ないことをしてくれる。私がこうして戦えなかったらどうするつもりだったんだい」
「そのままぶちのめすに決まってんでしょうが!」
「野蛮な。それもまた、特異点に絆された者の末路か」
「己の不手際をお姉様の責任にするな俗物」
体勢を崩したグレカーレの陰から伸びる、白雲の鎖。脚に巻き付くように伸びた鎖は、出洲自身を凍り付かせようとその冷気を最大にまで引き上げる。
掠めるだけでもガチガチに凍り付かせる程のそれは、真っ直ぐ出洲へと向かう。だが、それをも予測していたかのように、出洲は氷の壁の破片を蹴ることで鎖を弾き返す。
あまりにも身体が上手く動きすぎている。今でこそ深海棲艦の身体かもしれないが、かつては研究職。戦いの中にいても、戦いとは無縁の者。それがどうしてここまで戦えるのか。
それはその家族も同じだ。小柄は子供らしく力を振り回しているだけにも見えるが、中柄は刀を達人のように使いこなしている。どうあってもおかしな話だ。一般人の力ではない。
「やっぱ、頭ん中に何かあるなアレ。そうじゃなきゃ、ここまで戦えるわけがないもんよ」
グレカーレは、憶測が確信に変わった。出洲の頭の中には、確実にスパコンのような何かが埋め込まれている。それにより、戦闘方法などもインストールされているのだと。