本来戦闘なんて出来ないはずの出洲が、複数人の艦娘を圧倒するくらいの戦力となっていることに疑問を覚えたグレカーレは、その最中に、出洲自身に何かある──機械化されているところがあると確信する。
それを解き明かすために戦いを続けるものの、煙幕ブーストを以てしても互角まで行けているとは言えず、フレッチャーの『未来視』が無ければ、この状況であっても重傷を負いかねない。
それほどまでに、出洲の戦い方は厄介な方向に強い。視界が空間全域に行き届いていることもあって、死角すらない。
「いい加減、あいつに一発ぶち込んでやらねぇとな……っ」
グレカーレ達の奮闘を見ながら、深雪はより力を入れる。これまで本気を出していなかったわけではない。常に全力でこの戦いに立ち向かっている。
躊躇いはない。戸惑いもない。相手が元々人間であろうとも、今は歪みに歪んだバケモノだ。過去から残り続ける遺物の後始末をせねばならない。その始末こそが、後始末屋最大の仕事となるのだ。全力を出さない理由にはならない。
仲間達の奮闘が、深雪に力を与える。一緒に輝かしい未来を手に入れるため、歪んだ未来を破壊するため、この場を乗り切ろうと。
意識的にも、無意識的にも、この場には皆の願いが沢山、沢山ある。
「追加だ、まだ行くぞ……!」
深雪はさらに自分へ煙幕ブーストをかける。仲間達には複数回のブーストは身体を壊しかねないと控えさせているが、そこは特異点、自分の煙幕で崩壊を起こすことはない。二度目くらいならまだ余裕で耐えられる。周りの願いをその身に入れて、全ての力を上げていく。
電のような、仲間の力の模倣というのは出来ない。観察力は電の方が断然上であり、補助装置でありながら、1人の特異点と昇華した電の方が、そういった部分に長けている。
故に深雪は、深雪の独自路線へと向かう。誰かの力をこの場に再現するわけではない。己の力を最大限以上に発揮する。それもまた、神風や伊203の模倣に繋がるかもしれないが、どちらも同じこと。
ただ、今は限界を超えるのみ。
「邪魔だぁ!」
二度の煙幕ブーストを決めたことで、深雪は身体中から発熱しているかのように煙が漂っていた。その全てが力の源。限界を超えた煙幕が、身体の中で飽和し、常に溢れ出ているような出力に。
その力を存分に使い、纏わり付いてくる出洲の艦載機を殴り飛ばす。手に持つ主砲を鈍器に変えて、それにすら煙幕を纏わせて。
煙幕は主砲の強度も上げる。優しく包み込み、壊れぬように守りながら、力強く硬度も高める。結果、出洲の艦載機程度ならば、それだけで破壊出来る程になっていた。
グレカーレに寄せた分、深雪をマークする艦載機の数は減っている。1つ2つを処理するだけで、ある程度は道が開く。当たり前のように補充されるが、そんなことは関係ない。確実に一歩ずつ進むために、近付く艦載機は全て殴り飛ばす。
「見えた!」
その目にハッキリと、出洲の姿が映った。道は開いた。グレカーレが体勢を崩しながらも耐え、白雲が厄介な艦載機を凍らせ、フレッチャーが次の動きを読み続ける、その近くでも遠かった戦場が、すぐそこにある。
「テメェはいい加減にしろよ!」
見えたのだから、すぐに撃つ。今ならば誰の邪魔にもならない。ただ出洲への一直線。狙いを定める余裕などないのだが、今だけは冴え渡っていた。二重の煙幕ブーストで、基礎スペックを上昇させたことが、ここに利いてくる。
放たれた砲撃は、当然ながら消し飛ばす砲撃。防御など一切関係ない、直線上の全てを抉り取る一撃。『ダメコン』を持っていない限り、避ける以外の選択肢がない破壊力。
「なんてわかりやすい。特異点、君のような存在がいるから」
「黙ってろ!」
今の深雪は一味違う。消し飛ばす砲撃を放った直後、煙幕ブーストが脚に集約し、地を蹴った瞬間に砲撃に追いつくのではないかと思えるほどのスピードが出た。
時雨の『タービン』とは違う、純粋な脚力。神風や伊203と同じくらいの、地上戦における速さ。これまでずっと見てきたから、同じ領域にまで達していた。煙幕の力で、願いの力で、その身体能力も手に入れていた。
消し飛ばす砲撃は、いくら出洲でも避けなければいけない。この空間の壁が抉られることになっても、それは仕方がないこと。その場を戦場に選んだのだから、それは出洲の考えの中になること。
その後にやってくる深雪自身は、出洲がその身を以て受け止める。徒手空拳ならば、出洲に一日の長がある。反射神経も、瞬発力も、膂力も、何もかもが上回っているのだから、何も問題はない。
慢心でもない、事実として認識している。だからと言って手も抜かない。相手はこれまでに見てきた最大最強の特異点。出洲の認識はそれである。
「乱雑な攻撃だ。これで私に立ち向かおうと?」
深雪の攻撃は、ついには艦載機のガードを潜り抜ける。消し飛ばす砲撃の直後であるため、補充が間に合っていなかった。それに加えて、深雪のスペックアップ。多少無理した限界値の底上げによって、速度が上がったことで手が届く間合いに一気に近付けた。
しかし、出洲に軽々と受ける。猛烈なスピードでの突撃、そこから振るわれる強烈な拳、それをまるで風でも吹いたかというような仕草で、パシンとはたいて横に逸らす。
そして、お返しと言わんばかりに、手刀を深雪の脇腹に捩じ込もうと手を伸ばす。艦娘程度ならば、素手で解体出来る程に鋭く強靭な手。
「雑で構わねぇよ! テメェに一発入りゃいい!」
その手刀は確実に避ける。払い除けられる程の技術は持っていない。身体を捻り、紙一重とも言えない程に大きめな回避。
さらにそこで主砲も出洲に向けていた。ゼロ距離で、簡単には避けられない絶好のタイミング。艦載機が来ようとも、撃てば何処かに当たってくれる。それだけの距離にまで近付けていた。
だが、しかし──
「それではまだ届いていないさ」
出洲は事もあろうか、その主砲を自らの手で払い除けた。砲撃の瞬間、ゼロ距離にまで近付いたことが仇となり、出洲の拳が綺麗に主砲を殴り飛ばしていたのだ。
トリガーは引いている。砲撃は放たれている。だが、それだけ。出洲を狙ったそれは、出洲に擦りもせずに天井へと向かって飛んでいった。
さらに言えば、主砲を上に払い除けられたということは、深雪の胴が完全に無防備となることを意味する。つまりは、隙だらけ。
「白雲さん!」
このままではやられる。それにいち早く気付いたのは、やはり『未来視』のフレッチャー。視えた未来は、出洲の脚が深雪の脇腹に食い込み、メキメキと骨から内臓から全てをやられていく姿。
それを回避する未来は、白雲の鎖。深雪に伸ばし、絡みつき、そして強く引くこと。ただし、それは艦載機に邪魔をされる可能性が非常に高い。白雲にも隙が出来ること。だとしても、白雲がそれをやらないという選択肢は一つもない。何故なら、脅威に晒されているのが深雪なのだから。
そして、ここでその未来を補強するためにグレカーレも動く。深雪ばかりに気をやっていたら、こちらがお前を始末するぞと。艦載機の壁は一度全て凍らせた。蹴りを回避するために一度引いたが、まだ戦える。
「ミユキを囮にするみたいで悪いけどさぁ、これでデスが始末出来れば御の字ってねぇ!」
出洲としては簡単な選択肢のはずである。グレカーレの突撃は艦載機で全て止めて、自らは深雪を蹴り飛ばす。白雲の鎖による回避も艦載機を使えば簡単に抑えられる。
これまでどころか今でも充分すぎるほどのマルチタスクをこなしているのだから、それくらい余裕があるはずだ。目の前を見ながらも、この空間全てに意識が行っているのだから。
だが、やはり。出洲の行動は、グレカーレを止めることに対して、偏った力の配分が発揮された。おかげで深雪への蹴りが少しだけ疎かに。
白雲の鎖は間に合い、深雪の腕に絡み付くと、全力で引っ張ることで致命傷を回避することに成功した。
「おっとぉ? なるほどね、1つタネが見えたよ。そりゃあ、あたしを止めようとするわなぁ」
攻撃を止められたにもかかわらず、グレカーレはニンマリと笑みを浮かべる。
「ミユキは避けることに手一杯、シラクモはこの時だけはデスを見てなかった。あたしは逆にデスしか見てなかった。その中で止めたのはあたし。つまり、アンタの優先順位は、
出洲は答えず、艦載機の群れをグレカーレに嗾ける。
「自分に向かってくる奴が優先、むしろ、殺気に反応してる? 無視されてるなら全体を見て、明らかにヤバいくらい近付かれて殺気見せたら、そこを優先的に潰そうとするんだ。ははっ、マニュアル操作だけど、そこは感情出てるねぇ。もう死にたくないから、攻めより守りを強くしてんだ。いいじゃん、臆病で」
鉄壁を崩せるわけではないが、攻撃の順序が見えたようなもの。これならばまた、出洲崩しに一歩進めたと考えられる。
出洲の習性が見えてきた。自分の身を守ること、死の記憶から刻まれた、自己防衛本能からは、逃れられない。