出洲の艦載機群は全てマニュアル操作で動いているが、それにも優先順位があることが判明。一度死んでいるという経験、トラウマから、自分への脅威度が高ければ高いほど優先し、目の前にトドメを刺せば戦いが勝利で終わるような状況でも、自分への脅威を排除する。
慢心していないと言えばそうなのかもしれないが、グレカーレが言う通り、臆病な性質。もう二度と死という恐怖を経験したくないという本音が無意識に発揮された結果だ。
それもまた、出洲の人間らしさである。これだけ壊れていても、今のカタチとなった根幹の部分は失われない。死とはそれほどまでに辛く苦しいモノであり、どうなっても払拭出来ないモノなのだ。
「それじゃあさ、あたし達がアンタを怖がらせ続けるから、あたし達だけに構ってよ。すぐに斃せないかもだけど、アンタの視線を釘付けにすることは出来るかもだからさ!」
グレカーレの突撃は終わらない。どれだけ艦載機が増えようと、どれだけその守りを厚くしようとも、心が折れることはない。脅威と思われて艦載機を自分に集約出来るのならば、何も問題はない。
「ミユキ、煙幕のブースト、カミカゼやフーミィにもあげてきてよ」
「……大丈夫か?」
「任せてよ。グレちゃんは特異点の期待に応えて、あわよくば終わった後にいい思いをするために戦ってんだからさ」
出洲に対しての脅威になり続ければ、出洲を見ていない者への攻撃は多少なり緩くなる。その隙を突いて、他の者達にも煙幕ブーストを施しておきたい。それだけで戦況は多少は動く。
電に動いてもらって白雲とフレッチャーにブーストをかけただけでも、今のように動いたのだ。ここにいる全員にかかれば、大きく話は変わるだろう。勿論、いい方向に。
「わかった。別個体、雷、ここを頼めるか!」
となると、出洲の脅威となり続ける役目には、黒深雪と雷にやってもらう必要がある。この2人がブーストをかけることが出来ないというわけではないが、やはり仲間への煙幕となると少し違う。信用していないわけではないが、ついさっき特異点へと昇華された2人によるブーストは、深雪自身がかけるより若干だが劣ってしまう。
黒深雪も雷もそれは自覚している。自分達の力はあくまでも借り物。本家と近かろうが、それより劣るのは目に見えている。ならば、今ここを切り抜けるために指示に従い、特異点の背中を押すことに全力を出した方がいい。
「ま、任せろ……! 時間稼ぎくらい、あたし達にも出来らぁ!」
「ええ、ええ、やってみせるわよ!」
どうしても出洲に戦いを挑むことに抵抗はあるだろう。そのためにここに来たのに、恩の毒は回ったままだ。
だから、深雪はその言葉を紡ぐ。無意識に、その選択をする。
「頼んだぞ、
別個体ではない、黒という今の名前。区別するための名前だが、特異点の模造品ではなく、黒深雪という個人としての呼称。それを深雪本人から呼ばれたことで、別個体ではない、個人が確立する。
黒深雪にとっては、それが最も大きな力の後押しだった。お前も特異点だと認めてもらえたかのような錯覚。最初から認めていたとしても、言葉とされたことで、さらに強く、心に響く。
「っ……ああ、やってやるさ。いくらあの人が相手であっても、この間違いを正さなくちゃいけねぇからな」
黒深雪の表情が明らかに変わった。苦しそうなモノから、前向きなモノへ。
黒深雪が変わるのならば、雷も変わる。連動して、その力は前向きに。黒深雪の背中を押すため、守るため、補助装置としての力を存分に発揮出来るように。
「悪い、やっばり、アンタの求める平和は間違ってる。ここで止めることが、あたし達からの恩返しだ」
「自由を無くして、手も取り合えないようにするなんて、絶対におかしいもの。だから、私と深雪で、自由を無くさせない」
「こういうカタチにしてくれたのは感謝してる。でも、だからこそ、アンタをここで終わらせる!」
黒深雪と雷は、ガッチリと手を繋いだ。その隙間から、特異点の煙幕が溢れ出る。やはり、この2人はこうすることで最大の力を発揮出来る。メロドラマを戦場で展開しているわけではない。これが一番強い力だからやるだけ。
「君達はやはり特異点に絆されすぎているね。もう一度眠りにつくがいい。とても……残念だ」
「ああ、そうだよな、それが合理的だろうよ。躊躇うんじゃねぇぞ。こっちも躊躇わねぇからな」
「……ああ、残念だ。本当に」
自ら未練を断ち切って、相手が誰であろうとも始末する。出洲の艦載機は、黒深雪と雷にも多く向かうようになる。深雪が出洲を無視するようになった分、脅威度が黒深雪達の方に寄ったと考えられる。
煙幕で防ぐことは少し難しい。遠距離に飛ばそうとすればするほど、換気扇の餌食になる。深雪や電が、煙幕を飛ばしてブーストをかけることを控えているのはそれがあるから。指先から放って遠くの仲間のブーストをかけることが出来れば良かったのだが、今の状態ではおそらく届かない。そのため、本人になるべく近付く。
「余所見すんなよボケジジイ!」
黒深雪達に目が行っている隙に、グレカーレが接近。艦載機をボコボコに殴って壊して、時には白雲の『凍結』も交えて、またもや出洲の脅威となりに行く。
艦娘に近付かれることがトラウマとして無意識に刻まれていることで、グレカーレへの守りは非常に厚い。拳を振るっても出洲には届かない。
だが、それでいい。届かなくても、その分自分に注目させているということに繋がるのだから。少しでも深雪と電から脅威度を少なくせねばならない。
「君は相変わらず邪魔だね。目立ちたいのかい?」
「よくわかってんじゃん。ほら、こっち見なよ。ひーらひら♪」
「下品な。程度が知れるのではないかな」
「アンタに言われたくないよ。人の気持ちも考えずに、自分勝手に自分の好きなように世界を変えようだなんて、程度が知れるんじゃないのー?」
きひひと意地が悪い笑みを浮かべながら、艦載機による壁をひたすらに破壊していく。より確実に近付くために。
「やめろと言われてもやめてくれないんだ。もう実力行使しかねぇよ」
「悲しいけれど、そうしない限り止まらないんだものね」
「だから」
「やるわよ、確実に!」
黒深雪と雷も、艦載機を潜り抜けて出洲への接近を進める。手を繋いで増幅させた煙幕の力で、より強く自己強化に努めながら。片手しか使えなくなっても関係ない。お互いがお互いを補完しあい、これまでの限界を取り払う。相方の反動は自分へ。手を繋ぐことで循環させ、互いの心臓となり、血液となり、力を流し、回らせる。
「君達も、脅威となるのかい」
「ああ、なるさ。ここで眠ってくれよ、アンタも」
「充分楽しんだでしょう。これだけ、みんなに迷惑をかけたんだもの」
「理解されないのは悲しいことだ。だが、理解出来ないのならば、仕方あるまい。平和への脅威となるのだから、排除は必要だ。堕落した者に、平和な未来は不必要だ」
黒深雪と雷にも、かなりの量の艦載機が寄せられる。絶対に近付かせず、その物量で押し潰そうという圧が見られる。
「せっかく特異点に認められたんだ、紛い物でもない、黒としてのあたしが」
「ええ、私達は、特異点に認めてもらえた特異点。間違った平和を、正したい」
「そうだ、絶対に! アンタの望む、何もない未来になんて、させねぇ!」
手を繋いでいない方、黒深雪は主砲を握る方の手を、思い切り突き出す。艦載機による守りを打ち崩すように。そこには雷の力も乗っている。1人で2人分の力が込められた、煙幕によって強化された砲撃。
深雪の扱う消し飛ばす砲撃とはまた違った、これ以上の罪を犯してほしくないという優しい願いに包まれた破壊力抜群の渾身の砲撃。消し飛ばすわけではないが、思いが詰まっているからこそ、
「……そこまで私を」
誰にも聞こえないくらいの呟き。そして、その砲撃をヒラリと避ける、砲撃は出洲を破壊することなく、奥の壁に突き刺さった。嫌な音を立て、壁に穴を開ける。だが、それだけ。止まらない砲撃だからと言って、壁を貫いて奥の奥まで行くようなことはなかった。あくまでも、
「まだだ! あたし達が脅威となって」
「特異点の時間を稼ぐわ!」
「あわよくばそのまま終わらせてぇけど、そこはわからねぇ。やれるだけ、やるぜ!」
黒深雪と雷の猛攻は止まらない。グレカーレのように接近せずとも、艦載機で何も止められないというのは、それだけで充分過ぎるほどの脅威だ。出洲もこれは避けざるを得ない。
深雪の時と同様、腕を艦載機で叩き、射線をずらそうともするのだが、『止められない』という特性で、それすらも弾いている。何より、雷と2人分の力を込めているのが非常に大きい。
「そうか……そうか、ならば、避け続けよう。君達そのものを破壊しながら」
黒深雪と雷が、脅威認定される。艦載機が、重点的に潰しにかかる。これにより、思惑は成功として遂げられる。
「やってくれよ、特異点。あたし達が、確実に時間を稼ぐからな」
「任せたわよ。きっと、いい方向に向かうわ」
黒深雪と雷の『優しい願い』は、深雪と電にも力を与えた。