黒深雪達が出洲への脅威度を高めている間に、深雪と電が動き出す。
「電!」
「っ……了解なのです!」
この一瞬、アイコンタクトで、深雪は電に何をして欲しいかを伝えた。チラリと見たのは、小柄と競り合っている夕立の方。艦載機に邪魔をされながらも、その動きに慣れていき、小柄に少しずつでも触れられるようになっている。同じ場所に子日もいるが、こちらは『迷彩』によるアドバンテージが完全に失われてしまっている。艦載機に追われ、それを回避することで手一杯。
電には、そちらに煙幕ブーストを施してもらいたい。夕立に入れるのはかなり難しいのだが、それでもやらねば拮抗を覆すことは出来ない。出来たとしても、それまで体力が保つかもわからない。
だからこそ、電に任せる。煙幕ブーストさえ入れば、拮抗を優勢に持っていけるはず。
「あたしはあっちだ……!」
深雪は今も接戦を繰り広げている神風と伊203の方に援軍として向かう。出洲は一旦完全に無視。全部任せて、自分のやるべきことをやる。
中柄と競り合う神風は、徐々に徐々にギアを上げていく。もう明日のことなんて考えない。生きていれば問題ない。命を糧にする中柄と同様、翌日の力を前借りして、限界を超えていく。
しかし、中柄の力を超えることが出来ない。あくまでも拮抗。そこに出洲の横槍が入るものだから、本当の全力には届かない。
伊203も、中柄の艦載機と出洲の艦載機に道を阻まれ、前に進むことが出来なかった。ことごとく破壊していたとしても、それをあっという間に補充されるため、道が簡単に開かない。伊203であっても、未だに中柄に近付くことが出来なかった。
進もうとすると足下に滑り込んでくる艦載機。ステップを踏んでも、その分進むのが遅くなる。前へ行きたくても、後ろに下がらざるを得なくなる。
「人の娘をっ、咎人のように扱われて、我慢出来るかっての!」
「貴様もだろう! 我が子をバケモノ呼ばわりとは!」
母同士の戦いは、子を思う心のぶつかり合い。自分が、ではなく、我が子がという他者を思う力が、強く漏れ出ている。それがあるために、限界を超えた力が発揮出来ている。
ギアを上げ、ギアを上げ、伊203ですらその応酬に割り込めるのかと疑問に思える程の猛攻。瞬間的に何回もの斬撃を放つ神風に対して、刀を失いながらもその全てを受ける中柄は、あまりにも異常な戦いに見える。
「今でも貴女の子供はこちらの命を狙ってるのよ。遊び感覚で悩みもせず、人のことを経験値だなんてふざけた呼び方までして、それを許してる親も親よ!」
「貴様にはわかるまい! 死を迎え、心を壊し、この世界を仮想に見なければ維持すら出来ない者のことなど!」
「そうしたのは貴女達でしょうが! 違う道は無かったわけ!?」
「我々とて手を尽くしたのだ! だが、貴様はそれすらも否定するのだろう!?」
思いを語り合えば、それは零れ落ちる。ムキになればなるほど、本心が溢れ出る。
中柄とて、小柄のことを憂いていた。しかし、こういうカタチでなければ、そのカタチを保つことが出来なかったのだと。だから、これでいいのだと開き直った。
どういうカタチであれ、子が健やかに育つのならばそれでいい。辛い思いをすることなく、平和を満喫出来ればそれでいい。やりたいことはやらせたい。楽しむことは楽しませたい。それがこれだけのことに繋がったとしても。
中柄の速さがさらに上がる。子を思う気持ち、それは世界を敵に回したとしても、変わりようのない母の思い。そうだと信じて、信じ込んで、中柄はここまで来ている。
「間違ってるとわかりながら、ここまで突き進んだのね。貴女は、子供のために」
神風はそれを理解してやることは出来る。自分も子を失った時に、どういうカタチであれ蘇ってほしいと思ったことは何度もあった。何も悪いことをしていないのに、事故で突然目の前から失われた愛する者達のことを考えると、その道もあるのだろうと思ってしまう。
もしその時、出洲のような者に夫と娘が蘇らせられたら、自分はどう考えていただろう。中柄と同じようになっていただろうか。愛する者のために壊れた神風は、違うカタチで壊れていただろうか。
考えてもわからない。あり得ないことだから。だが逆に、目の前に前例が出来ているのだから、自分もこうなるのではと思える。
「親ならそう考えるかもしれないわ。でも!」
思い切り踏み込む。足下に艦載機が滑り込んでこようと関係ない。強く、強く踏み込むことで、艦載機ごと踏み潰した。こんなこと、『改装』が無ければ足を挫くか痛めていたことだろう。だが、それが躊躇なく出来る程に、神風は憤っていた。
「育った果てまで考えてこそ、親でしょうが!」
これまで封じられていた渾身の居合。全ての刀と腕を断ち斬るつもりで、思い切り振るう。
「果てには、貴様らが否定する平和がある!」
だが、中柄も一味違った。技で劣る分、力で勝る中柄は、その一撃を刀三本で一点集中させて止める。さらには艦載機まで総動員して、その一撃を食い止めた。
刀は全て折れ、勢いを殺し、艦載機も破壊されて、さらに勢いを殺し、完全に止めた。身体には当たらず、今一歩及ばず。
平和を、子を思う気持ちをコレでもかと見せつけるようだが、その歪さも見せつけられる。ここまで酷いと、もう取り返しがつかないと何度も思い知らされる。
だから斬る。もう救うなんて考えていない。しかし、渾身の一撃が届かなかった。止められてしまった。踏ん張りを利かせても、限界を超えても、達することは出来なかった。
中柄とて全力で対応したから止めている。扱える全ての力を使ったから、神風を止められた。
故に、伊203がフリーとなる。
「隙……!」
伊203はこの隙を逃さない。『リミッター』により、いつも以上に限界を超えて、鉄の地面を抉るほどの力で蹴った。当然、出洲の艦載機がそれを邪魔するが、お構いなしにそれを殴り飛ばし、中柄の背後へと迫った。
スピードは落ちても関係ない。むしろ、スピードなんて落とさない。もっと上げる。痛みなんて無視して、とにかく前へ、前へ。止まらない。止められない。
そして、手が届くところまで近付く。道を遮るモノは全て破壊して、背中を殴りつけた。
「っ……!」
「浅い……か」
本当なら、その拳は背中側から骨を砕いていただろう。スピードを落とさずに突っ込んだのだから、それ相応に威力のある一撃だった。
しかし、この後に及んで中柄は腕を二本、伊203側に回していたのだ。刀が破壊された直後だったのだが、瞬時に背後からの攻撃に対応出来ている恐ろしい反射神経。身体がそれに追いついていることも脅威である。
「させん!」
そして、再度刀を生成。伊203を離れさせるために、後ろ手に生成して即座に刺しに行く。伊203もそれは流石に回避を選択。白刃取りも考えたが、確実な方を取る。
足下に下がらせないように出洲の艦載機が滑り込んできたが、伊203がそれに気付かないわけがない。ステップを踏んで避けながら、少しだけ間合いを取った。中柄の斬撃が、伊203の顔に微かに傷をつけるが、全く気にした様子はない。死ななければ問題ない。
「……手こずらせてくれるね。すごいよ、毒親」
素直な感想が伊203から出た。このスピードにも追いつくことが出来るとなれば、今の中柄は間違いなく伊203より速い。それを全て反射神経に使っているため、動きは互角か以下なのだが、全てに対して対応されるというのが問題。
「我が子の平和のために……!」
何があっても、その根幹は変わらない。何も変わることはない。子供のために、敵を始末する。それしか考えていない。だから、最も接近してきた伊203の方への意識を向けた。
伊203はその時には跳んでいた。中柄の顔面に、その強靭な足を叩き込むために。跳ぶことは無防備になるのと同様。しかし、今ならばいけると考えて、意識を向けた一瞬を狙って、行動に移していた。
「っ……」
その蹴りは、腕二本で止められた。丸太どころか鉄骨すら蹴り折る一撃を。強靭さすら増している。命を糧にすることで、全スペックが大幅に上昇している。神風との戦いで敗走した経験と記憶が、次はそうならないようにと力を上げ続けている。今もずっと。
間違いなくそのうち無理が祟る。身体がいつか壊れる。しかし、それがいつになるかなんてわかるわけがない。
だからこそ、深雪が動いているのだ。
「神風!」
中柄が伊203に構っている間に、深雪がその戦場に到着。そこまで離れているわけでなくても、艦載機を避けながら向かうとなると、どうしても苦しい。
「深雪!?」
「口開けろ!」
今はこの空間は換気扇が回されているため、遠距離の煙幕は霧散させられる。だが、それでも深雪は手を銃のカタチにして神風に向けた。
煙幕ブーストが与えられる。それを察した神風は、深雪の方を向く。しかし、そのポーズは止めてくれと言っているようなモノ。出洲の艦載機も、中柄の艦載機も、どちらもがそれを止めに向かった。
「だよな、そうなるなんてわかってんだ。だから、あたしも真似させてもらうぜ。電が見せてくれたんだ。あたしにも、出来る!」
艦載機の動きを見たことで、小さくしゃがむ。そして、ニヤッと笑みを浮かべると、
「
時雨の模倣、『タービン』の超スピード。煙幕への願いの力で、瞬間的に爆発的なスピードを手に入れる。一瞬だけでも艦載機が追いつかなければそれでいい。
目にも留まらぬ速さで回避し、神風の眼前にまで来て、そこで煙幕を吸わせることに成功する。
このブーストが、神風にとって最後の限界を超える後押しとなる。