一方、暴れ回る子供を鎮圧するための戦い。時折、夕立がその懐に入り込み一撃を入れることも出来るのだが、勇者の鎧によって阻まれる。それを破壊することもままならず、ダメージもまるで通っていない。衝撃を与えても仰け反ることすらなかった。
出洲の艦載機による横槍にも、夕立はどんどん慣れていく。そこにあろうが関係なく、小柄への攻撃をひたすら繰り返すのみ。それでも届かない。
「そろそろ鬱陶しくなってきたっぽい」
「何をぉっ、経験値が」
「はいはい黙ってろクソガキ。後先考えないから、自分の力をバカみたいに使ってるっぽい。ガス欠狙いも厳しいかな」
熱を有した剛腕を振るう小柄をいなしながら、夕立は考える。今の小柄のエネルギー効率は最低と言っても差し支えない。出せる力をありったけ、止めることなく出し続けている。そのせいで発熱する程にパワーが出ている。『ダメコン』のおかげでノーダメージで済んでいる夕立だが、その都度文字通り
夕立はこの熱量をモロに受けているため、この戦場で唯一汗だくである。小柄の周囲だけ、暖房が入っているかのように暑い。小柄は自らを冷却することすら放棄している。自棄になり、後ろを向かなくなった分、安全を全て廃して目の前の敵に攻撃のみを繰り返す。
それでも合間合間にしっかり勇者の装備を挟むのだから、攻撃も通らない。そこが夕立が鬱陶しいと言ったところだ。自棄っぱちの割には、戦場に目が届いているような挙動。この世界をゲームだと思っているからこそ、なんだかんだ高いプレイヤースキルを現実に持ち込んでしまっている。
そんな小柄から考えられるガス欠は、夕立が否定した。後先考えないにしても、小柄の行動はそういう点からしても異常性がある。ガス欠を起こしたら間違いなく終わり。それなのに、その前兆すら見せない。カテゴリーKのような燃料切れは無いと見ても良かった。
事実、出洲一家は本来のエネルギーとは違うモノで動いているように見えた。燃料や弾薬、ボーキサイトなど、艦娘の維持に必要なモノは何一つとして使っていないような、そんな感覚。この場でなら、それがいるだけで無限に供給されているのではと。それこそ、置くだけで充電出来るスマートフォンのような、この空間内ならば常に補充され続けているような。
「無限回復がないと、あんなこと出来ないよね」
艦載機を避けながら小柄の様子を見ている子日も、同じ考えに辿り着いていた。小柄にガス欠はない、いや、ここにいる出洲一家に無いと言ってもいいのだろう。だから出洲もこのとてつもない数の艦載機を常に操り続け、破壊されても即補充が出来ている。
もしかしたら、これだけやっても限りなく少ない、考えられないくらいの燃費で取り回しが出来ている、なんてことも考えられるが、小柄の今を見るとそれは違うだろうと思えた。発熱する程の出力は、燃費も何もあったモノでは無い。
「何をぶつぶつ! 黙って勇者にやられろぉっ!」
子日の言葉が耳に入ったのか、小柄は『迷彩』で姿を消している子日の方に、狙いを定めることなく腕を振るう。見えていないのだから、正しく攻撃したわけでは無い。だが、当たれば致命的な攻撃をただ振り回される方が鬱陶しい。
子日は嫌でも回避しなくてはならない。だが、艦載機が邪魔でそれも難しい状況を作り出されている。
小柄をサポートする艦載機は、始末することよりも、小柄に敵を斃させるような援護をしている。前に押し出す、回避を邪魔する、足を滑らせるなど、やっていることはかなり陰湿。
「だから、発言が勇者じゃないんだって。勇者を名乗るなら、駄々っ子みたいな行動やめなよ。誇りも持たないガキ大将だもん。力を持ったから調子に乗って暴れてる、序盤のチュートリアルの雑魚敵みたいだ」
その邪魔をなんとか潜り抜け、小柄の当たり散らすような攻撃を回避。小柄には避けられているかもわからないのだが、当たらなかったということだけはわかる。むしろ、子日に纏わりつく艦載機をいくつか破壊してしまう始末。
冷静にもなれないから、父の援護を自ら壊し、敵にはその手が届かない。戦況を自分で不利に持っていこうとしているだけ。
「偽勇者みたいなのを懲らしめるような序盤のシナリオ、知ってるかな。君はそれにそっくりだよ。自分を勇者だと思い込むだけの害悪。力を持ったから偉ぶってるだけの小物。本当の勇者の経験値にしかならない俗物。選ばれた雑魚は後のシナリオに出番があるけど、君はここで終わるべきだよ。名前も残らない序盤のボスだ」
「うるさいなぁ! 勇者を馬鹿にするヤツは、勇者に殺されるべきなんだよ!」
「勇者って肩書きだけで偉くなった気になってるのが哀れなんだよね。本当の勇者が出てきた時の噛ませ犬だよ。勇者だからって肩で風を切って歩くことしか出来ないんだから、本当に勇者なら、もっと考えようね」
そう言いながらも、子日は小柄の拳の風圧は受けてしまっており、艦載機の邪魔はあれど、体勢を崩しかけている。やはり当たらないようにしなくてはならない攻撃を常に繰り出してくる敵というのは、厄介極まりない。
「夕立ちゃん!」
このタイミングで、艦載機をなんとか潜り抜けてきた電が、サポートのため、煙幕ブーストを施すためにこの戦場に参加する。
この中で真っ先にブーストが必要なのは、ダメージはなくても何度も攻撃を受けている夕立。相変わらず服はもうボロボロで、今は小柄の熱量で汗だく。見た目だけならばかなり消耗しているように見える。
事実、夕立は熱によって体力を持っていかれていた。痛みはすぐに引いても、疲れには勝てない。
「電! 煙幕!?」
「なのです! 出来るかわかりませんが、入れるのです!」
深雪のように、手を銃のようなカタチに構える。換気扇によってそれも邪魔されるのだが、出来る可能性を考えて、まずは試す。狙いは夕立の顔面。
指先から放たれる煙幕は、まっすぐ夕立に向かっていく。しかし、換気扇に阻まれ、その場で霧散。そのまま何処かに流れていってしまった。
「これは無理なのです……なら、近付いて直接しかないのです」
「魔王の側近……! 絶対ここで、ぶっ斃してやるからな!」
電の存在に気付いた小柄は、言葉ばかりで見えない子日に見切りをつけ、明確に戦況を変えるであろう電に狙いを定める。特異点、魔王に最も近い者。それを始末すれば、この戦いは確実に有利になる。そう信じて。
小柄はより一層力を溢れさせた。剛腕は赤熱し、触れるだけでも火傷をするほど。夕立ですら、熱いからという理由で何度も受けたくない攻撃。
「電、夕立が護るっぽい。だから、確実に煙幕ちょうだい」
「なのです。そのために電はここにいるのです!」
電に襲いかかる小柄の前に躍り出て、その剛腕を弾き飛ばすように受け止めた。普通ならば間違いなく身体がグチャグチャになっているような一撃。こんな止め方が出来るのは夕立だけ。
吹き飛ばされるのも、力強く踏ん張ることで耐えた。そんなことをしたら、足も粉々になっていただろう。しかし、夕立だからそれが出来る。凶悪な一撃であっても、それを必死に、確実に受け止める。
だがここで、夕立にも小柄にも予想外なことが起きた。赤熱している腕を受け止めたことで、
「っく……っ」
「はっはは、勇者に立ち向かったからそうなるんだよ! いくら攻撃が通らないからって、燃えてたら関係ないでしょ!」
実際、夕立は燃えたところで『ダメコン』により傷は負わない。焼け爛れるであろう肌も、ちょっとした傷に抑えられた挙句、自己修復によって無かったことになる。
だが、熱というスリップダメージを常に負うことになり、傷を治し続けなくてはならない状態に持っていかれるのは間違いない。燃える身体の火を消している余裕もなく、少しでも隙を見せると、小柄からの攻撃をまともに受けてしまう。
そして何より、身体が燃えるということは、電がギリギリまで近付くことも出来なくなったということ。煙幕ブーストをかけるのが限りなく難しくなったということになる。
そもそも炎が上がったことで、煙幕自体を上手く浸透させてくれるかもわからない。
「焼け死なないかもしれないけど、そのままならボクの勝ちだ! 絶対ここで潰す! 泣いて謝っても絶対に許さない! ここで経験値に、な……」
「夕立ちゃん、ちょっと我慢してね」
小柄がバカみたいに叫ぶ中、それでも冷静に動いていたのは子日だった。小柄への攻撃は邪魔をされるだろうが、
これには、出洲の艦載機も、一瞬反応が遅れた。何をしようとしているのかが、わからなかったからだ。
子日の放った砲撃は、小柄ではなく、夕立に直撃した。夕立は目を見開き、子日の方を見る。だが、子日の真の狙いに気付くのは、すぐのことだった。
砲撃の衝撃で、燃えている服が弾ける。そして、同時に
炎上していた夕立は、瞬く間に炎から逃れることが出来たのだ。
「え!?」
「今、なのです」
小柄もそれには驚きを隠せなかった。そして、確実な隙を作った。電はそれを見逃さない。
煙幕を握りしめて、夕立に接近。まだ少し熱いが関係ない。その煙を、夕立に吸わせることに成功した。
夕立への煙幕ブーストが成功。それにより、一気にスペックアップが始まる。