ついに小柄と中柄の撃破に成功。残すところは、出洲のみとなる。しかし、死に際に小柄と中柄は恨み辛みを吐き出し、それが穢れ、そして呪いへと昇華された。
「ユルサナイ」
「ユルサナイ」
「ユルサナイ」
深い、深い憎しみ。亡骸となっても、絶え間なく聴こえる怨嗟の声。首だけとなった小柄も、血まみれとなった中柄も、揃って同じ言葉を紡ぐ。
あもりにも自分勝手な呪い。穢れという言葉がまさに合うような、同情すら出来ない闇。その命を奪った神風と夕立は、あまりに醜悪な感情に顔を顰める。
これまで理不尽な理由で特異点を狙い、遊び感覚で命を奪おうとしていた者が、いざ返り討ちに遭えば被害者ヅラで呪いを撒き散らす。
贖罪を考えることもなく、こうなっても自分達が正しいという感情が、息絶えた後にすら尾を引き、他人に迷惑をかける。
それこそ、
「我が妻、我が息子、君達の思いは私が背負う。待っていてほしい。この戦いが終われば、また逢える。だから、その力を私に迎え入れよう」
あらゆる場所に飛び回っていた艦載機が、全て出洲の元へと集約する。100もある艦載機が密集すれば、それはもう壁どころの状態ではない。出洲の姿が見えなくなるほどとなり、攻撃も何も出来たものではなくなる。
「何かしようとしてやがる! やれることはやるぞ!」
その中でも、壁など考えずにやれることは、深雪の消し飛ばす砲撃と、黒深雪の止められない砲撃。他の攻撃は厳しいかもしれないが、それらなら関係なしにダメージに繋げられるはず。
艦載機の群れの中に包まれる出洲に向けて主砲を構える2人。出洲が見えていないため、完全に照準を合わせることは出来ずとも、そこにいるだろうという憶測から、攻撃を無理に通そうとすることくらいは出来る。
「無意味なことだ。当てずっぽうが当たるなんて思ってはいないだろう。それに、今の私は……家族の思いを背負っている。負けやしない」
艦載機の向こうから、出洲の声が聞こえる。相変わらず勝手な言い分で、自分を正義と思っている上から目線。家族がやられたことを悲しんでいるのかもわからない声色。
だから、深雪は苛立ちを強く感じた。やっていることは、家族すら手駒に扱うような行為。自分の目指す平和のためならば、最初から救うことすらせず、死んだ後に悲しむような矛盾。どうせ生き返らせることが出来るのだからと、命を無駄に使うことしかしていない。
「何が家族の思いだ。そんなこと思ってもいねぇくせに、こういう時ばっか言ってんじゃねぇよ!」
まずは深雪が放つ。艦載機が群れになっていようと関係なく、一直線に消し飛ばし、出洲に向かって飛んでいく。
だが、結局は見えていないところに撃っているようなものだ。見当はずれというわけではなくても、軽々避けられる程度の攻撃となってしまう。
「くそっ、あたしもか!」
続いて黒深雪の砲撃。壁があろうと止まらないモノではあるのだが、これもまた出洲の姿が見えていないのだから、当たるものも当たらない。軽く動かれるだけで避けられる。
この2人以外は、動くことすら出来なかった。撃っても弾かれる。近付くことは以ての外。
唯一出来そうなことは、白雲の『凍結』。この壁を凍らせて、破壊しやすくするくらいしかない。ないのだが──
「くっ……鎖すら弾かれるか……!」
凍らせるには鎖を当てなくてはならないが、それを群れの中の1機が前進して弾き飛ばし、1機だけが凍りついたところを、他の艦載機がすぐさま破壊。そして補充することで、何も無かったことにされる。
これだけの数が縦横無尽に動き回り、壁が拡がっていく。すると、100に近い艦載機は、今度は一斉に動き出した。これまで徹底した守りだったモノが、突如攻勢に打って出てきた。
出洲を中心にして、四方八方に飛ぶ艦載機。自分に近寄るなというのではなく、明確な殺意を体現するかのような猛攻。
「避けられるけど、速い」
伊203が冷静に接近を試みるが、なかなかうまく行かなかった。速い者に対しては、確実に艦載機の数を増やして、その行動を遮る。これまでの戦いで見てきた情報を使い、誰にどれだけの艦載機を当てがうかを瞬時に計算し、さらに的確な数をマニュアル操作で嗾ける。伊203ですら、手を焼いているような状態。
「フーミィ、煙幕!」
「ん、貰う」
そこで深雪は、伊203にも煙幕ブーストを施した。艦載機に邪魔をされ続けていたが、今ならばまだマシ。個別の艦載機の数が変化したため、比較的近付きやすくなっている。
神風の時は深雪から近付いたが、伊203は自ら深雪の元へと駆け、そしてハイタッチをするかのように煙幕を貰い、吸った。
駆け巡る特異点の力。速さはより増し、『リミッター』の曲解が活性化し、100%の力を発揮しても身体が壊れないだけでなく、さらに上の領域に向かえるようになった。
身体を壊してもいいなら、150%までは出せる。さらに速く、さらにさらに速く、先へと向かって出洲の喉元に刃を突きつけられるように。
「少し速くなった程度で、私には近付かせないよ」
しかし、出洲はそれを見越していた。特異点の力による強化は、既にこの戦場で見ているのだ。今や、その能力の向上率なども計算済み。伊203の元々の速さ、全力も、既に把握していた。
故に、その行動をことごとく止めるための艦載機の配置を心得ていた。的確に艦載機を置き、進行方向を固定し、動かないように包囲する。
「こんなもので」
伊203は当然それらを破壊しながら進もうとするわけだが、即座に補充される上に、破壊した艦載機にも若干の違和感があった。
破壊された直後に霧散して、次が来る。それだけでなく、霧散した艦載機のその残滓が、纏わりつくような感覚に変化している。残骸としてそこに落ちているのならまだしも、まるで粉末が腕にくっついてくるような、不快な感覚。
「君にはそれが一番いい。徐々に速さを奪っていこう。壊せば壊すほど、君は遅くなる」
「っ……まさか……」
「気付くのも速いようで何よりだ。ならば、もう近付かないね」
伊203がその正体に気付いた。艦載機が霧散した後に残されるモノ。それは、目に見えない程にまで小さいが、まだ意思を持つ何か。爪の先よりも小さな艦載機と言ってもいい。それが、伊203の動きを確実に妨げる。
それこそ、磁石の同じ極を合わせようとしているように、出洲に向かおうとすると反発する。速さで強引に押し通そうとしても、それが出来ないくらいに強く、さらに艦載機を破壊するように誘導され、また纏わりつく数が増える。
攻撃して破壊をしていく程に、伊203は遅くなる。出洲の言う通りとなってしまう。
煙幕ブーストで力を上げていても、これは覆せなかった。一点、ただ一点、近付くことのみを禁じることに注力されたことで、特異点にも等しいパワーが生まれてしまっている。
「勿論、君もだ」
次に狙うのは神風。伊203と同様、速く鋭い者に対しては、この戦術は強く作用する。かつて『磁力』の曲解と相対したことはあれど、その時とはまるで違う力の差。攻撃すればするほど反発し、近付くことが出来なくなる、そして、壁は厚くなる一方。
「くっ……さっきと全然違う……刀が、抜けない……!」
艦載機に邪魔をされている時は、もう関係なく攻撃が出来ていた。しかし、今の状態はその時とはまるで違う。破壊した艦載機の残滓が、神風だけでなく刀にまで纏わりつき、今度は強力な磁石が引き合うかのように刀を押さえつけてしまっている。つまり、居合が出来ない。
「……っ、カミカゼ、それ艦載機のだけじゃない! そこの毒ママの身体!」
「なっ……」
グレカーレに言われて気付いた。先程撃破した中柄の身体。穢れと呪いを撒き散らし、血溜まりに落ちたそれが、
身体を穢れと呪いそのモノへと変え、神風に襲いかかっていると言ってもいい。出洲の艦載機、その残滓に穢れが加わり、より強い力に変化している。
「妻は私に力を貸してくれている。死して尚、平和を求める思いは変わらない、終わらない」
「違うでしょ。アンタが、奥さんの身体をそのように作ったんでしょ」
グレカーレが苦言を呈する。
「そのままでもクソ強い。でも死んだ後も役に立つようにさ。あの穢れ、後始末してる時とは全然違う。ミンチになった敵から溢れ出てくるのも、あんなことにはなってない。だから、アレをああしてるのは、アンタがそうなるように仕向けてるだけでしょ」
後始末屋としてこれまで戦ってきたことから、身体が溶けて穢れとなるようなシステムは初めてであるとすぐにわかる。そして、本来ならば時間経過をしてもそんなことにはならないということも。島での長期後始末の知識がここで役立つ。
「穢れやら呪いやらのシステム、アンタ
「何のことやら。私は、死者の思いを汲み取り、平和を望む思いと共に、今戦っているに過ぎない」
「聞こえがいいように言い直してんじゃないよ。死人すら道具にして自分の思い通りにしてるだけでしょうが。無駄に頭が回るねぇホント!」
穢れと呪いを解明している。それは、後始末屋だけでなく、今を戦う者達にとって、垂涎の情報。しかし、出洲はそれを平和のためという言葉で、自分のためだけに使っている。
それがまた醜悪であった。