小柄と中柄が息絶えたことで発生した穢れ。それをもコントロールして、この戦場を支配する出洲に対し、深雪が考えた打開策。それは、後始末屋としての矜持を具現化した、この戦場の清掃。
亡骸を煙幕で浄化することで穢れの発生を食い止める。穢れなきただの残骸に変える。冥福を祈り、これ以上の狼藉を抑え込むように。
しかし、それを見届けるような出洲ではない。今ある穢れを存分に使い、艦載機の力を異常に高めて、何もかもを妨害するために動かす。
残滓によりスピードを奪われた神風と伊203にも艦載機をぶつけ牽制、深雪にはさらに多くの艦載機を嗾ける。絶対に亡骸の元には行かせないという意志が見える。
「なんだなんだぁ? 部屋を片付けられるのを嫌がってんのかぁ?」
「我が妻に触れてもらいたくないだけさ。特異点には配慮という言葉はないのかな」
「そこに無いなら無ぇよ」
出洲の言葉は適当にあしらい、意地でも浄化するために徹底的に反抗する。纏わりつく艦載機を消し飛ばす砲撃で破壊していき、残滓も残さないようにしているが、その砲撃が空間の壁に直撃するたびに、出洲は少々嫌な顔をしている。
この施設はまだまだ使っていくつもりなのだろう。片付ける手間をかけさせないでもらいたいとでも言いたそうな表情。そもそもここで戦わなければこんなことにはならないというのに、徹底して出てこないのだからこうなる。
「くそ、やっぱ邪魔だな!」
「お姉様、援護いたします! この白雲が、道を拓きましょうぞ!」
どうしても艦載機が厄介。しかし、浄化は深雪と電にしか出来ない。となれば、仲間達がその道を拓き、確実にそれが出来るように援護する。
白雲はその筆頭。フレッチャーの先読みにより、深雪の進むべき方向を判断し、『凍結』により艦載機を止める。艦載機同士が互いに破壊しなければ追加が来ないと踏んで、煙幕ブーストで得られた力を存分に使い、周囲をひたすら凍らせる。
「壊さずに止めておけば補充されないと思う! シラクモが適任!」
「だな! 白雲、頼むぜ! 追加はしんどいだろうからやらねぇけど!」
「お姉様の煙幕ならば、いくらでも取り入れましょう。後のことなど知ったことではありませぬ。今力を発揮しなければ、この脅威を突破出来ないのですから。ですが、確実でなければよした方が良さそうですね。お姉様にお任せいたします!」
追加の煙幕ブーストは消耗が激しすぎる。この戦場で先のことを考える必要がないのならばやってしまっても構わないかもしれないが、未だ艦載機と徒手空拳しか見せていない出洲だ。家族が息絶えても、そこから動かず、徹底して自分を見せない。まだまだいくつも手段を隠している可能性があると考えると、今消耗しすぎるのはよろしくない。
深雪はそれを考慮した。まだ、手の内を全て見せるべきタイミングではない。いや、もうほとんど出しているようなモノなのだが、消耗を呼び込むような戦術を切るのはまだ早い。
「煙幕は換気扇で無くなっちまうけど、白雲の方は大丈夫か!」
「磯風様の『空冷』では払われてしまうかもしれませぬ。しかしながら、白雲の力は触れたモノを冷やすのみ。空気の流れでは対処されませぬ!」
「よっしゃ、じゃあ尚のこと頼むぜ!」
深雪に頼られることが、白雲にとっては一番のブーストだ。鎖を握る手が強くなる。力の放出が激しくなる。煙幕ブーストも相まって、白雲は今、絶好調も絶好調である。
一呼吸、そして、この場で舞う。鎖を振るい、艦載機という艦載機に僅かにでも触れさせる。少し触れるだけでもその力は注ぎ込まれ、その場で凍結して墜落。破壊されず、ただそこにあるだけのモノとなる。
最初はそれでも向かってきていたが、ブーストが入った白雲の凍結は、出洲のコントロールも『凍結』させる。操作性を失わせ、その場に放置する。
「お姉様!」
「ありがとな、白雲! 先に進むぞオラァ!」
白雲が切り拓いた道を、深雪が進む。そこまで広い空間ではないのだ。少し横にどければ、邪魔はなくなる。
そのはずなのだ。
「仕方あるまい。では、
出洲から信じられない言葉が聞こえた。これまでも100機に近い数の艦載機が飛んできていたが、白雲による『凍結』が本格化したことで、さらに増やすと宣言した。
その宣言は間違いではない。出洲が手を振るうと、さらに次々と艦載機が増えていく。1つ2つではない。10、20と次々と。
これまでの数ですら出し渋っていたと考えられる。何故か。
「むっ……凍らしきれぬ……!」
「クソがっ、また道を塞いできやがった……っ」
艦載機が増えれば増えるほど、出来ることが減っていく。何故なら、この空間を余計に埋め尽くしていくから。行動範囲を狭めつつ、しかし一番行かれたくないところに重点的に。
深雪には最早前が見えなくなるほどに艦載機がつけられていた。数を増やしたこともあり、30機はゆうにある。撃っても撃ってもすぐさま現れ、むしろ深雪を押し返してしまうほどに。
「なんで出し渋ってたさアイツ……最初からこんだけ出しとけば、ガキも奥さんも救えたんじゃないの」
増えに増えた艦載機に圧倒されながらも、グレカーレは考える。これだけ出せるなら、最初から出せという話だ。しかし、出洲的には最初からこれだけ出すのは気が引ける、もしくは出来なかった。
前者だとしたら、消耗が激しいなどがあり得る。出洲はまだ先を見越して、力を温存していたということになるか。やると面倒だから、なるべくならやりたくないと。
後者だとしたら、資源がかかる、そう出来るまで時間がかかるなどがあり得るか。理由は簡単にはわからないが、今もまだ出洲は分析しながら成長しているという可能性もある。
「あーもう! 道が拡げられないっぽい! 黒、連射出来る!?」
「やってる! でも、それ以上に数が多いんだよ!」
子日の道を拓くため、黒深雪と雷による止められない砲撃により風穴を開け、夕立がそれをさらにこじ開け、その隙間を子日に通ってもらおうとしているのだが、こちらの艦載機も増えているため、前に進むことが出来ないどころか、後ろに下がる羽目になってしまう。
「隙間がないね……上も下も見られてる。乗り越えられないし、潜れない。撃っても撃っても増えるだけ。何これ、アメーバか何か?」
艦載機を破壊しても、むしろ増えているのではと感じる程に。破壊された艦載機をすぐさま資材として開発しているのではと錯覚する。
かなり前に起きた特異点Wでの戦いで、そんな敵がいた。あらゆるモノを資材として『開発』をし続ける厄介な敵が。あれは曲解により再現しているが、出洲はそういったこともなく、触れることすらせずに、それをやってしまっているのだろうか。
「開発……開発かコレ。今この場で? そんな奴いたけど、あれは触れてないとダメだよなぁ。手は……動いてない。考えただけで出来る? だとしても速すぎるもんなぁ。高次ってのは伊達じゃないのかな。でも、あれには絶対タネがある。そもそも補給どうなってんだって話だよね」
とにかく周りを見続ける。出洲の立ち位置、床、壁、天井。何処かから遠距離で補給され続けているとして、それから何かをされていることで、今艦載機の数が増やせた、なんてことも考えられる。
そもそも出洲自身が艤装人間である可能性も捨てきれていないのだ。そこから考えれば、いくらでも手段はあり得る。
「……! そういえば、人間、ここにいる人間は何処で何してるんだろ」
そして、そこに辿り着く。子日が見たという人間は何処に行ったのか。この場から撤退するのは、危険なのだから当然ではある。だが、今この戦場で言うのならば、その人間達もこの戦いをサポートするために、何処かから何かをしているかもしれない。
外部の人間ならば、この場に干渉して何かしらのちょっかいをかけられる可能性は充分にあり得る。それこそ、この出洲の身体に対して何かすることだって。補給も、開発も、何もかもを外部受注なんてこともある。
「マジかぁ……あの先に行かないとダメだねこりゃあ。チャンスは……やっぱりネノヒかな」
出洲の奥にある通路。あの向こう側に行かなければ、この状況を変えることは出来ない。しかし、それが難しいから、まずは穢れをどうにかせねばならない。それをどうにかするためには出洲のこの艦載機を対処したいが、そうするには奥に向かいたい。嫌な無限ループになってしまっている。
「……まぁ、ここで割と全力かけないとヤバそうだね。傷つかないとかそんなこと言ってられないよ。悪いね、ハルカちゃん、ちょっと無茶するよ」
グレカーレは腹を決める。怪我をしないように、先を考えた行動をせずに、今出し切らないとスタートラインにも立てない。
だからこそ、先陣を切ってやろう。グレカーレは、こういう時に笑顔を見せる。
「よし、出来るかはわからないけど、やるっきゃないよ。頭を使えグレちゃん、なるべく被害がないように……!」