さらに艦載機を増やしてくる出洲。空間内の換気扇はそのままのせいで煙幕を撒くことは出来ず、さらに穢れまで操ることでスピードを落としてくる。後始末屋の面々にはされたくないことを徹底される。
神風と伊203は攻めるに攻めることが出来ず、穢れを祓おうとする深雪は進むことを妨害され、白雲の『凍結』も間に合わない。
その中で、艦載機を増やした時の出洲の言動から、本来なら艦載機を増やすことはするつもりがなかったのだと察したグレカーレは、頭を回して、何故そう考えたのかを想像する。可能性はいくつかよぎったが、どれも確証は持てない。
だが、理由を考えているうちに、また一つ疑問が浮かんだ。この研究施設にいるという人間の研究者達が何処で何をしているのか。もしかしたら、この戦いを裏でサポートしているのではないだろうか。それならば、このあり得ない数の艦載機をマニュアル操作でコントロールしているのもある程度は説明がつく。
「よし、出来るかはわからないけど、やるっきゃないよ。頭を使えグレちゃん、なるべく被害がないように……!」
グレカーレはさらに考える。この滅茶苦茶な艦載機の数を突破する方法を。最も突破力を持つ者達が圧倒されている状況、現場を一番見渡せるのは自分だと自負しているのだから。
余裕があるわけではない。しかし、心には余裕を持って、最高最善を見つけ出す。穢れが乱れ舞うこの戦場に、何か突破口が無いか。
「やっぱり、あそこかな……!」
そして、既に見つけている場所に猛然と突撃を開始した。当初は強めの敵視をされていたグレカーレだが、中柄の亡骸を浄化せんと動く深雪や、速さを抑え込まねばならない神風と伊203、すばしっこく艦載機の群れを突破しようとしている子日など、今のグレカーレよりも力を寄せなければならない者が増えてきてくれたおかげで、若干だがマークが外れてきていた。
優先順位が落ちてきている。出洲に向かっていないのだから、脅威度は他より数ランク下。その上で、他の者と違って明確に特別な力を持っているわけでもない。そういう意味では、頭の回転以外では、出洲からしてもグレカーレはそこまでの脅威ではない。直接的な害を被らないのだから。
しかし、これまでの戦いの中で、注意しなくてはならない存在であることは充分承知している。故に、その行動を確実に阻害してくる。
突撃するグレカーレが見据えているのは、出洲でも無ければ、奥の通路でも無い。
特異点の煙幕対策、そして地下施設という都合上の換気のために常設されている換気扇、その設置場所が何処かを考えていた時、微かにだが、深雪や黒深雪から溢れ出る煙幕が床に吸い込まれるのを見ていた。つまり、換気扇の一部は床に設置されているということ。
「少しでもぶっ壊してから考えようか!」
それを脅威として認識されるかはわからない。だが、邪魔をしないなんてわけがない。グレカーレの行動に対して、艦載機は一気に群がってくる。やはり、狙われたくないところに対しての守りは強い。
それを出洲が意識的に守っているのか、それとも外部から守るように指示されているのかはわからない。
「だよね、来るよね! でもね、あたしゃそんなことじゃ止まんねぇのよ! フレ子!」
「ナビゲートします! 右前から!」
「あいよ! 来るのわかってんのいいねぇ!」
突っ込んでくる艦載機の向きがわかってしまえば、回避は割と簡単である。最初は軽々と回避し、時にはステップを踏み、時には這いつくばることもして、完璧に避ける。
だが、途中から明らかに密度が変わった。フレッチャーの『未来視』でも、回避が難しい艦載機の群れが始まった。数が多くなり、四方八方から押し潰しに来るやり方。換気扇には行かせないと言わんばかりに、確実な妨害を続ける。
「だよね、わかってたよ。そろそろそうなってくるでしょうよ! でも、あたしゃ止まらないのさ!」
剛腕を振り回し、向かってくる艦載機を跳ね除けながら前に進む。フレッチャーからの指示も聞きながら、それでも前へ、前へ。
すると、さらに艦載機の動きは変化。上からだけでなく、下からも掬い上げるように、脇腹も狙うように。どうにかして止めようと、そのまま叩き潰すために、深雪と同等の数を向かわせてくる。
「さぁここからだ。絶対抑え込んでこようとすると思ってたよ。だから……イナヅマ! ユーダチ!」
ここでグレカーレは、自分1人の力での突撃はせず、仲間の力を借りる。黒深雪や雷と共に子日の道を切り拓こうとしている夕立と、小柄の亡骸からの穢れを浄化するために動いている電に声をかけ、自分の方を見てもらった。
そうすると、自ずと他の者も視線がそちらに向く。反応してもらいたい者は呼びかけた2人だが、本命は──
「子日、夕立あっちに行くっぽい!」
「了解だよ! 子日は子日でこじ開けるから!」
すぐさま動いたのは夕立である。艦載機の邪魔を強引に乗り越え、グレカーレの狙う場所へとダッシュ。艦載機が増えようが関係なく、この戦場に適応した狂犬は、最短距離でグレカーレの元へと駆けつける。
「あっち……っ、わかったのです!」
電は電で、グレカーレの思惑を理解した。小柄の亡骸をそのままにしておくのはよろしくないのだが、今のままではどう足掻いてもジリ貧。グレカーレの思惑を達成すれば、それを後回しにしても問題なく、この状況を少しでも変えられると確信出来た。
そのため、電もここでグレカーレの方へと動き出す。小柄の亡骸を守るために飛び回っていた艦載機は、電の前進を阻むモノから、背後を襲うモノへと変わる。
「少しでも、進みやすく……!」
電はグレカーレを襲う艦載機を砲撃で破壊しながら、自らには煙幕を纏わせて艦載機を避けていく。しかし、外に溢れさせた煙幕は換気扇によって剥がされていってしまう。その結果、背後からの艦載機の突撃をどうにかしなければならなくなっていた。
煙幕がまともに使えれば、死角から飛んでくる敵性物質を全て感知することが出来るのだが、今はそれも出来ない。そのため、時には振り向いてそれを視認しながら、ギリギリで回避するしかない。
「イナヅマ、わかってくれてたね。よし、これで換気扇の場所は確実に把握出来た! 今も吸ってんだからね!」
電に声をかけた理由はそこ。煙幕を使ってもらうことで、わざと換気扇に吸わせて、場所を完璧に確定させること。先程チラッと見ただけでは、確実な場所はわからない。だがこれで、
電は今でも煙幕を出し続けてくれている。それが微々たるモノであっても、今常に吸い続けているというのならば、それはもうここに攻撃してくださいと示しているようなモノ。
「そこをぶっ壊せばいいっぽい? だったら」
それを察した夕立が艦載機に邪魔されることも厭わず、主砲をそこに構える。だが当然邪魔はされる。砲撃自体を妨害するため、主砲自体に体当たりを仕掛けてくる艦載機。『ダメコン』のおかげでダメージを受けずとも、照準を狂わされる一撃にびくともしないというわけには行かないため、まともに撃つことが出来ない。
「ぽっ、邪魔ぁ!」
結果として、前に向かうために近くの艦載機を破壊するだけでどうしても終わってしまう。とはいえ、これで艦載機の目を少しだけでもグレカーレから外すことが出来る。
「来てくれれば御の字だったけれど、それでも目が離れた……! ユーダチ、もっと大暴れして! それこそ、
「りょーかいっぽーい! めっちゃくちゃにしてやるっぽい!」
グレカーレに言われ、夕立はさらにリミッターを超えて暴れ回った。主砲を振り回し、腕や脚まで使って、周囲の艦載機を破壊しまくる。その都度艦載機は補填されるが、それもまた狙いの一つ。破壊された艦載機の破片、
グレカーレの予想は、穢れが混じり合った場合は、神風や伊203に対してのようにスピードを落とすために使われているようだが、それだけではない。特に、夕立が破壊した艦載機は、そこまで粉砕しているわけでもない。大きいものから小さいものまで、沢山に。後始末屋経験のある夕立も、そこは無意識にやっていることがある。それは、『破片はなるべく大きくして、後から片付けやすくする』という行為。
「破片はそのまま消滅、かな。本体が死んだ時の艦載機と同じような反応だ。でも、それだけじゃあないね。あれ、艦載機が廃棄されて資源に変換されてる。その資源、深海の資源だからわからなかったけど、床から吸ってるかな? ちょっとわからなかったけど、爆風でデスの方に向かうように見えてるけど、
大きい破片だからそうやって見えるようになってきたタネ。壊しても資源として回収されて無限ループ。だから凍らされたら資源に戻せない。破壊してしまえば資源扱いとなる。
「ならさぁ、これならどうさ!」
グレカーレはこれまで殴り壊していた艦載機を剛腕で掴んだ。破壊せず、そのままにして。
手の内でジタバタ動こうとしたようだが、破壊はされていない。資源にならない。それで全ての艦載機をどうにか出来るかと言われれば、そんなこと出来るわけがないのだが、少しだけでも艦載機の数を減らすことは可能。
「っ……腕を狙われます!」
フレッチャーの見た少し先の未来は、グレカーレの剛腕が破壊されるモノ。艦載機が艦載機を掴んでいる腕を確実に破壊するために、周囲に群がる艦載機を腕へと向かわせていた。
グレカーレにも自己修復はあるが、剛腕を破壊されるのはかなり厳しい。その未来は達成させてはいけないもの。
そしてグレカーレは、ニヤリと笑った。