たまたま見つけた古物商に入った深雪達は、そこでとんでもないモノを見つけてしまった。過去の遺物として売り物になっていた軍用のデジタルカメラに、人間と深海棲艦が共存している写真が入っていたのだ。
「おいおいおい、これはどういうことだよ」
店の中なのであまり声を荒げることは出来ないが、驚きが隠せない深雪。時雨も冷静でいようとしているものの、これにはいつも以上にいい顔が出来なかった。
「この写真の内容から考えるに、ここがまだ軍港になる前……港になったばかりの頃ではないでしょうか。撮影日がちゃんと書かれています。今から大体30年近く前です」
そんな中でも白雪は冷静にその写真を考察していた。
まず写真の内容を見る限り、背景は港ではなく、深雪達がまだ知らない回収業者の建屋の前。整っているわけでもなく、まだ港の建設中というのが窺える。
その中でもどうしても目が行くのは、ど真ん中で作業中の人間の男と深海棲艦の姿である。深海棲艦は人間のように振る舞っているのか、人間の男と同じような作業服を着ていた。つまり、2人で協力して回収業者としての仕事をしている。
「なんで人間と深海棲艦がこんなに仲良さそうにしてんだよ」
「それがすぐにわかれば苦労はしませんし、私達調査隊なんて必要ありません。ただ、表情から見るに、明らかにこれは敵対の意思を持っていませんね」
それは白雪でなくてもわかること。深海棲艦側の表情は、敵対ではなく共存を受け入れているようなモノである。うみどりで保護されている潜水新棲姫とも違う、
であるならば、そこから考えられることはいくつかある。それを白雪が淡々と説明していく。
「1つ目、この深海棲艦は本当に深海棲艦であり、侵略者という性質を持たずに生まれた特殊な個体であること」
カテゴリーでいえばR。純粋な深海棲艦。しかし、人間を襲うこともない、むしろ共存が出来る温厚な性格をしている存在。回収業者の作業を受け入れて、自分達も手伝うと自らの意思で人間と共に作業をしている可能性。
「2つ目、この深海棲艦は本当に深海棲艦であるが、侵略者という性質を何かしらの手段によって消され、人間に隷従させられている」
こちらもカテゴリーR。しかし、自らの意思で共存しているのではなく、一種の洗脳によって人間に従うように
「3つ目、この深海棲艦は人間と掛け合わされた存在であり、見た目は深海棲艦であっても中身は人間である」
現状考えられているカテゴリーY。どちらが元かはさておき、とにかく人間と深海棲艦の
しかしこの場合、自分の意思でカテゴリーYとなったか、
「店員さーん、ちょっといいですかぁ?」
ここで行動を起こしたのは、カメラのことを見ている3人ではなく睦月である。3人が群がっているためカメラについては何もわからないが、ボソボソと話している内容から、やんごとなき事態であることは察したため、もうこのカメラを買い取る方向で進めようと動き出したのだ。
話ばかりしていた3人は、睦月の声でようやく気付いた。先に進めなくては、ここで手に入れた情報、確固たる証拠を手元に置けない。
「買いたい物があるんですけどいいですかぁ?」
どうせ買うと思っていたようで、睦月は即座に交渉に出た。カメラがどれくらいの価値があるのかはわかっていないものの、買えないような金額では無いと勝手に予想はしている。むしろ、ショーケースなどに入って厳重に管理されているわけでもなく、誰でも触れるような場所に置いてあり、今のように触れても何も文句を言ってこないところから考えると、とんでもない値段をふっかけてくるとは考え辛い。
とはいえ、カメラはおろか、置いてあるテーブルにすら値札が置かれていないところからすると、これは店員との交渉で金額を決めるのではないかと思われる。つまりは、かなり阿漕な商売をされても文句は言えない。むしろ、交渉力でどうにかするタイプ。
「はい……どうか……されましたか……」
店の奥からやってきたのは、店主と思われる女性。ここにいる者達が駆逐艦だけというのもあるのだが、その女性は誰よりも大きく、どうしても威圧感があった。
「……でっか」
聞こえないくらいの小声で深雪が呟いた。そう言ってしまうくらいに、その女性は大きかった。失礼だと思いつつも、そう言わざるを得なかった。
最も小柄な睦月と並んでいる状態なので、それが余計に際立っている。しかも、身長に比例して至るところが大きい。特に際立っていたのが胸であり、服越しであってもその1つが睦月の頭くらいあるため、余計にその言葉を出させられた。
それに加えて、目深に被った帽子などで表情は見づらいものの、その眼光はかなり鋭く、どうしても上から見下ろすカタチになるので、それも相まって本人は普通にしているのかもしれないが睨みつけているようにすら感じた。
「あのカメラって、おいくらですぅ?」
そんな相手でも怯むことなく睦月は価格交渉に出る。ニコニコ笑顔を見せながら、この店がどういう店なのかを探るように話す。
「……貴女達は……艦娘……?」
そう聞かれたなら素直にそうだと答える。自分達は艦娘で、休暇でこの街を散策しているのだが、たまたま見つけたこの店で気に入ったモノを見つけたのだと語る。
何も嘘は言っていないのだが、そんな言葉がペラペラと出てくる睦月に、深雪も時雨も少し驚いていた。
「……もしかして……うみどりの……」
「はい、そうですよぉ」
「……
店主の言葉に、そこにいた4人がえっと驚く。言ってしまえばただの店。売っているモノは普通では無いかもしれないが、うみどりの内情まで知っているというのはおかしい。
特異点という言葉を使うこと自体がおかしな話だ。そもそもうみどりでもその言葉を使ったのはイリスくらい。その上で、深雪は自分がそう言われていることも知らない。
「……やっと……やっと見つけた……私は……貴女を待っていた……」
キョロキョロと見回し、深雪に視線を合わせると、睨み付けるような視線から一転、泣きそうな表情になった。
だが、すぐさまのっしのっしと歩み寄ると、すぐに膝をついて深雪に手を伸ばした。
「貴女が……特異点……」
「いや知らねぇけど!?」
そんな呼ばれ方をしても心当たりが無いのが深雪である。しかし、深雪以外は見当がつく。特に睦月。深雪を発見してから、うみどりを取り巻く状況が一変しているのだ。
2人目のカテゴリーWが訪れたこともそうだが、カテゴリーMである時雨との共存と和解やカテゴリーYである潜水新棲姫との邂逅などは、流石に見過ごせないレベル。
「そのカメラは……差し上げます……。ただ……お願いがあります」
「お、お願いって……?」
「夜からでいいので……私を……うみどりに乗せてください……」
そんなこと言われてもという気持ちしかない。深雪の独断で決められることでもない。
「い、一体アンタ何者なんだ」
「……私は……」
言いながら目深に被っていた帽子を取る。それによって、その店主が何者かがわかった。
束ねて隠していた髪は真っ白。それだけならまだわからなかったが、帽子に隠れていた
「し、深海棲艦……か……!?」
その姿は、深雪と時雨にはわからないものだが、睦月と白雪にはすぐにわかった。
そんな姫が、こんな軍港都市の娯楽街に店を構えているだなんて信じられない。
しかし、店主──港湾棲姫から出た次の言葉に、4人は驚愕することになった。
「……元々は……人間。私は……
休暇どころでは無くなりそうであるため、まずは神風達を呼んだ。勝手に店の中に入ってしまっていたので、そのままだったらはぐれていた。都合よく秋月の買い物も終わっていたため、目的自体は達成しているため、ひとまず店主の話を聞くことに専念出来る。
10人が入ったことでかなりぎゅうぎゅう詰めになりそうだったからか、響と秋月、梅は店の外で見張りをすることにした。一般人が近付かないようにしておくべきと考えたためである。
「このお店、前に来た時は無かったわよね」
神風の第一声がコレである。そもそも店自体がつい最近出来たモノであると判断していた。
「……はい。うみどりが入港したと聞いて……昨晩に……急いで用意しました……」
「じゃあ、もしかして、このお店って無許可……」
「……はい。賭けに……出たんです」
よく見れば、古物商申請が通っているようにも見えない。それに、軍港都市の管理者である保前提督の許可証らしきものすら無い。つまりは、完全に無許可でここに店を出している。一歩間違えなくても犯罪。見つかったら処罰は免れない。
ハイリスクハイリターンの賭け。店主はそれに勝ったと言える。
「私は……
「特異点……深雪のことで良かったかしら」
「……はい。私からも見てわかる……貴女は……私達の
以前タシュケントも似たようなことを言っていた。秘密組織のボスが深雪のことを光と呼んでいたようなことを。
「で、あたしがこの辺りを通ると見越して、こっそり店にして待っていた、と」
「……はい。うみどりの方々なら……きっとわかってもらえると思って……」
「なんであたしなんだ。つーか、特異点ってなんなんだ。あたしに何かあるのか?」
うみどりの艦娘達は、
「……私が
「いや、わかんねぇって。あたしに何があるんだっての。見ての通り、あたしは普通の艦娘だ。いやまぁ純粋種だっけか、それだから今の艦娘とは別モノかもしれないけど」
「……組織の上の者が話していました……貴女が生まれたことが……脅威なのだと」
コレだけ言われても全くわからない。そのため、深雪は少しだけイライラし始めていた。
「あたしに察しろってのは無理だぞ。バカだからな。ちゃんと言ってもらわないとわからねぇ。その組織ってのはあたしの何が欲しいんだ」
「ストップ。深雪、あまり焦らせないの。その人、かなり困ってるわよ」
店主が言葉に詰まっているため、深雪を落ち着かせる神風。なかなか口にしづらい内容なのだろうし、そもそも店主が細かく知っているとも限らない。とにかく、特異点を欲しがっている。その力が脅威であり、是が非でも手元に置きたいというのが、今わかっているところなのだろう。
とはいえ、深雪が所属しているのがうみどり──移動鎮守府であるため、一点集中の襲撃などが出来ない。そこで、あちらも行動に上手く出ることが出来ないようである。
「……ごめんなさい……私にも……あまりわかっていません……。とにかく……特異点に知らせたかった……その一心でした……」
「あー、うん、わかった。焦らせちまってごめん。あたしのことを思って行動に出てくれたってことだよな。それはありがとうだ」
敵対組織の目的が深雪であることはわかった。ただ、この店主が見て深雪が特異点だとわかるくらいの特徴はあるようだ。
「先に知っておきたいことがあるだろう。彼女は、自分のことを深海棲艦の力を埋め込まれた人間と言ったんだ。そこについて聞くべきじゃないかな」
深雪のことは一旦置いておいてと、時雨が話を区切った。まだよくわからない深雪が狙われる理由は今すぐ知らなくてもいい。ならば、今すぐ知ることが出来ることを問い詰めるべきだと。
「それは私も気になっていたわ。貴女は一体何者なの」
神風も時雨の話に乗っかり、店主の正体について問う。
「……私は……人間、です。人間を艦娘に変えるように……私には深海棲艦の力を埋め込まれた……そのせいで、身体が御覧の通りに変質したんです……」
「元凶の組織はもうそういうことが出来るってことね。人間を犠牲に深海棲艦を増やせる。その力も我がモノとしている。無茶苦茶ねホントに」
どれだけの人間や艦娘、深海棲艦が犠牲になったかはもうわからない。だが、犠牲者がいることが確実なのは、店主の次の言葉でわかった。
「……ここに売り物として置いたのは……全て組織の
店主である港湾棲姫は人間に擬態しているわけではないですが、特徴的な部分を隠せばある程度紛れ込める状態にあります。額の長い角はへし折ってあり、帽子で隠しています。服装としては、それらしさが出ないようにシャツとズボン辺りにして、そんな深海棲艦おらんやろと言わせるように。縦セタとか着せた瞬間バレるんでね……。