グレカーレにより床の換気扇が破壊されたことで、出洲は一転攻勢に出てきた。守りに使い続けていた艦載機を束ね、大蛇のように操り、煙幕を吹き飛ばしながらも強力な攻撃へと転じてきていた。
艦載機をそう扱うならば、本体は無防備。そう思っていても、対応していないわけがない。子供に与えた勇者の盾を、出洲自身も扱える。フレッチャーによる隙を突く攻撃を、当たり前のように跳ね返し、無傷を維持していた。
艦載機の大蛇はひたすら質量兵器。勢いを使って敵を撥ね飛ばし、ただただ圧で命を奪う。回転を使うことで煙幕による防御もままならない。
最初の一撃を受けたのが夕立だったことで、その威力は理解出来た。
「だったらぶっ壊せばいい! 黒!」
「あたし達なら破壊出来る。そういうことだな」
深雪の消し飛ばす砲撃、黒深雪の止められない砲撃、その2種であれば、回転と質量で押してくる大蛇であっても破壊は出来る。
しかし、大蛇は艦載機の集合体だ。これまでの艦載機がどうであったかを思い返せば、それだけでどうにかなるモノではないと嫌でも理解させられる。
砲撃は当たる。その時は削れる。だが、それだけ。深雪の砲撃で消し飛ばしたとしても、黒深雪の砲撃で貫いたとしても、すぐに補填され、そのカタチを再構成される。
意味がないとは言わない。それでも勢いが止まらない以上、他の手立てを考えなければならない。
「あれでは『凍結』も……っ」
白雲もやることはやろうと避けながら鎖を振るったが、そうしたところで弾き返され、凍りつきそうなところでもすぐに他の艦載機が破壊して補填する。先程までの縦横無尽とは違う、一点集中の破壊力。全ての攻撃を弾き飛ばし、ただ破壊する。
「まずはこれをさせた者から終わらせよう。幸い、素早く動けないようだからね」
出洲の狙いはグレカーレ。換気扇を破壊したから、この手段を使わざるを得なくなったと、自分の選択は、あくまでも抵抗した者による責任だと言わんばかり。
そのグレカーレは、剛腕を爆破した反動でかなり厳しい状態に持っていかれていた。全身にダメージを受け、満身創痍と言っても過言ではない。
だが、
「ははっ、そりゃそうだ。あたしを狙うよね。ホント、高次って言いながら、そうやって私怨に走ってくれちゃって。かーわいっ」
余裕がないはずなのだが、舌を出しておちょくるような表情を見せるグレカーレ。自己修復は確実に間に合わない。今襲い掛かられたら、避けることも難しいだろう。それでも、自分らしさを貫く。
出洲が自分を見ているのならば、その分、仲間に利益が得られる。視界を、意識を、少しでも自分に集めて隙を作る。そんなやり方は褒められたモノではないとわかっていても、仲間のためなら自分を犠牲にする。
これは後からこっぴどく叱られるななんて思いつつ、しかし『後から』が考えられるくらいには心に余裕があった。ここで死を覚悟しているわけではない。なんとしてでもここから生き延びる。
「なんだかんだ、結局はただの人間なのさアンタは。やられて腹立てて元凶を潰そうとする。変に力持ってるから、そうやって傲慢なやり方がヨシとなっちゃってる。結局、高次だなんだ言いながら、やってることは人間なんだよ。いや、むしろ人間以下だね。だって理性がないもんね。頭を使えるのに、頭を使わず邪魔モノ排除だもんね。生きるために動いてる獣の方がまだ賢いんじゃないのー?」
「君は本当によく喋る。グレカーレという艦娘がそういうモノであることは知っているが、やはり耳障りなことには変わりないね。その口を閉じてあげよう」
「きゃー、怖ーい。いい歳こいたおじさんに犯されちゃうーっ。あたしの趣味じゃないよおじさん。あたしはもっと若くてピチピチの方がいいね。そんな、いつでも壊れそうな肌で身体を包んでるようなきっしょいヤツより、ツヤツヤな肌の特異点と乳繰り合いたいのさ!」
ここに来て、グレカーレの口はよく回った。それは、ただの煽りだけではない。仲間達に気付いたことを伝えるために、事実を大きな声で伝えているだけ。
「壊れそうな肌……?」
それに気付いたのは、未だ穢れによりスピードを抑え込まれている伊203だった。動きを遅くされようとも、頭の回転は速いまま。
グレカーレが戦いながらも看破した、出洲=中枢棲姫の特徴、ヒビ割れた肌の向こう側に機械的な何かが見え隠れしていることから、艤装人間である疑いにまで思考が向かう。
艤装人間だからと言っても弱点があるとかそういうわけではない。軍港都市で働いている艤装人間達は、そういうモノが見えているわけでもなく、普通に艦娘らしい行動をすることが出来ている。身体は違えど、やれることは同じ。
だが、ヒトの身体ではないという点から、
「……元々中枢棲姫だなとは思っていたけど、そう、この空間で戦ってる理由、モロにそこだったんだ」
気付いた。わざわざこの戦場を選んだ理由。それは、中枢棲姫であるというところから現れてくる、決定的な弱点。この場ではやりたくてもやれない攻撃が、出洲にとって最も忌むべきモノ。
当然である。出洲自身は艦娘に刺されて命を落としているのだから、自分と対等な場所、同じく地に足つけている相手に対して、徹底的な対抗策を持っている。今の艦載機の大蛇もその一つであろう。艦載機を巧みに操り、自分の弱点をひけらかすことなく、この空間での戦いで万が一の弱点の露見も避けている。
中枢棲姫の弱点。それは、
出洲としては、前と下ばかりを見て、上が見えていないこと。脅威は上になく、前と下にしかないという歪みが齎した、中枢棲姫と共通する特徴。
「上、か」
伊203もこの空間を見回す。戦えるくらいには広いが、そこまで縦横無尽に動くことも出来ないくらい。天井も低いわけではないが、空母を使って艦載機を飛ばすには狭いくらいの高さ。気付いてしまえば、わかりやすく全てを対策していた。
この状況で、出洲の上から奇襲を仕掛けるのは、困難どころか不可能である。ただでさえ艦載機による防御もあるのだから、そもそも回避が難しくなるような行動は控えるべきモノ。
「……ん?」
さらに、伊203は見つける。今の出洲の真上にあるモノを。天井の装飾に紛れて、何か違うモノを見つけ出した。
換気扇らしきモノ。それだけならば、他にもある。巧妙に隠しているが、やはりそれは地下施設で研究するに当たって必要なモノ。それにプラスして、煙幕を根幹に置く現在の特異点を対策するのに最も確実な手段。
だが、それだけではない。そこに、何かが違うモノがあるように見えた。明確にそれが何かと言うことは出来ないが、だとしても他の天井にあるモノと比べると違和感がある。
「……弱点の上に、何か置いてる……? あの場所から動かない限り、何かの影響を受け続けている……?」
今の出洲はあまりにも無制限になんでもやれすぎている。この場所だからそれが出来るというのもあるのだろうが、そのタネは、伊203が見つけたその場所にあるのではないか。
故に、出洲は動かないのではなく、動けない。妻や子供がやられていても、あの場所にいなければならない理由がそこにある。
「……今はそれよりも」
僅かな時間でここまでは割り出した。だが、それがわかったからと言って、グレカーレの危機が回避出来るわけではない。今まさに、艦載機の大蛇がグレカーレに向かって襲い掛かろうとしている。
速く動くことが出来れば、グレカーレを救い出すことも出来るだろう。しかし、今は穢れと呪いで抑え込まれているような状態。ならばどうすればいいか。
「……『リミッター』、もっと外そうか。限界を、もっともっと超えて。今壊れても別に構わないから」
伊203も覚悟を決める。これまで『リミッター』の曲解により、本来出せる限界から大きく超えても、身体に影響を与えないようにされていた。
だが、さらにそれを超える力を出せるのならば。限界を操作する曲解を持っているのならば、自ら壊れるほどの限界突破も出来るのではないか。
やらない理由はない。だから、考える前に、身体が動いていた。
「っ……!」
脚に痛みが走る。100%を超えた力を発揮しようとして、身体が悲鳴を上げる。穢れを乗り越えるために、さらなる力を欲する。
「グレカーレには間に合わない。だから!」
強烈な踏み込みで、その場から飛んだ。鉄で作られた地面すら凹むほど、脚が折れるかもしれないギリギリの力で。
向かう先は、出洲の真上。その違和感の先。そこは、出洲も狙われたくない場所であろう。
「君は何をしようとしているんだい」
当然、出洲は伊203へと目をやる。グレカーレへの攻撃が止まる。
「やっぱり、攻撃よりも、そっちが優先なんだ」
「……余計なモノを見たようだね。では、残念だが君が先だ」
伊203に襲いかかる艦載機の大蛇。空中では避けようがない。しかし、この行動が引きずり出せただけでも大勝利。
「天井に、弱点!」
伊203はその言葉を残し、大蛇に撥ね飛ばされた。