出洲の弱点とわかっている天井の何かを狙うため、煙幕をばら撒きつつも、砲撃を始める深雪達。大蛇の中でも確実に攻撃を通せるのは深雪と黒深雪だけだ。しかし、大蛇を2体に分割し、深雪と黒深雪をブロックし、確実に天井への攻撃を防ぎ始めた。
そうしている時点で、そこが弱点ですと自分から伝えているようなモノ。グレカーレと伊203の行動は、戦況を大きく変えることに繋がった。
そんな中、天井への攻撃をより苛烈化するために、白雲が二度目の煙幕ブーストを受ける決意をする。今ならば床からの換気扇はなく、煙幕が阻まれる可能性は少ない。
深雪も動きやすくなっており、偶然にも大蛇の回避の際に手のひらをついたことで小さな傷がついたことで、煙幕は血混じりのモノとなった。
「お姉様の願いが籠った煙幕、この白雲、しかと受け取りましてございます。何やら本来よりも強く感じますね。力が漲ります」
鎖をギュッと握り締めた白雲は、徐に居合の構えを取る。神風から習い、学んだ、その一撃のために、天井に目を向けた。
たかが鎖。そう思えるかもしれないが、その『凍結』の威力は出洲もわかっている。艦載機を破壊せずに封じるそれは、非常に厄介。艦載機にそれをするだけならば見逃せた。だが、天井の
鎖の長さは、そこから天井に届くほどの長さは無い。かなり長いが、勢いよく振るったところで、直撃はない。無いのだが、何が起きるかわからない。何せ、特異点の煙幕ブーストが入っている。
「白雲ばかり見てられねぇぞ」
ここでやはりマルチタスクを崩すように深雪と黒深雪が天井を狙う。消し飛ばす砲撃と、止められない砲撃。届くかもわからない『凍結』よりも、確実に被害が出る攻撃の方が優先順位が高い。
出洲は脅威度が高い攻撃を優先して防ぐことはわかっている。目の前の特異点より、それ以上に近付いてきたグレカーレを止めた時のように、敗北に近い方を優先する。今の段階では深雪と黒深雪だ。
「厄介だね、特異点。ならば仕方あるまい」
明確に嫌な顔を見せた出洲は、せっかくの質量兵器である大蛇をさらに分割することになる。深雪と黒深雪、そして白雲も止めなければならない。質量を失う代わりに速さを取り、妨害に専念する。出洲も余裕がなくなってきている。
あくまでも態度はこれまでから変えない。余裕ぶり、淡々とした口調で、そうすることが当然であるという感覚で。
だが、行動にそれが見えている。攻めに転じようとして、実際それで伊203はやられた。しかし、命を奪うことは出来ず、今でも生きている。トドメを刺したくても、そこに構う暇などなく、天井という弱点を晒されたことで、それを守り切ることに専念しなくてはならない。
「結局守りばかりだな。仲間がいればそんなことにはならなかったんじゃあないのか?」
「君達が言うことではないね」
「そうだな、悪い。あたし達がテメェから仲間を奪った。命を狙われたからな、同じように奪った」
なるべく目立つように、しかし砲撃を狙いつつも、別の狙いを達成するように動く。それこそ、未だ穢れと呪いを撒き散らし続ける中柄のドロドロな亡骸の浄化。それが失われれば、より動きやすくなる。
出洲にもそれはバレていた。大蛇による妨害は、中柄の亡骸から引き剥がすようにされている。その浄化も、この戦況を変える一手になってしまうから。
「白雲、これくらいなら守れるっぽい!」
ここで、吹っ飛ばされたモノの復帰してきた夕立が、今度は白雲を守るために動き出す。全てが纏まった大蛇には抵抗虚しくやられたが、3人を止めねばならないくらいにまで小さくなっているのならば、ギリギリ身体で止めることが出来る。
白雲に襲いかかる艦載機の大蛇に対して、全力で飛びかかり、体当たりを仕掛ける。先程ならば、それをしたところで、逆に跳ね返されていただろうが、今ならば止められる。三分の一は夕立の全力と拮抗。
「夕立様、まこと感謝いたします。この白雲、今より限界を超え、その全てを解き放ちましょうぞ。少々冷えますが、我慢してもらえると」
「夕立服がないからクッソ寒いかも!」
「我慢、してもらえると」
「我慢、するっぽい!」
あらゆる攻撃を受け続けたことで裸同然の夕立には少々堪える状況だが、今は我慢してもらうしかない。白雲もそれを伝えて、強い瞳で天井を見据えた。
そこに何があるかはわからない。大体出洲の真上ならば良い。白雲の一撃は、破壊力より範囲への影響が強みだ。だから、むしろ深雪や黒深雪よりも、出洲には苦しいことになる。
「ふぅ……っ!」
ダンと一歩踏み込んで、鎖を居合の要領で抜き放った。それは出洲の真上へと一気に伸びていく。
煙幕ブーストを二度受けたことにより、『凍結』の威力は格段に強くなってきた。ただの鎖であったとしても、その周囲の温度は異常なくらいにまで冷えている。空気中の水分すら凍らせて、ダイヤモンドダストのように煌めく。
そういったことはこれまでにもあった。だが、今回はさらに上。触れてはいけない、触れられてはいけない、それほどの冷え方をしている。
白雲の力は『凍結』ではない。『冷却』である。ただ凍らせるのではない。周囲の温度を奪い、結果的に凍りつくだけだ。
煙幕ブーストによって拡張されるのは、曲解の力。今は白雲に寄生している特機がそれに反応し、元々持っているその力を大きく拡張し、ひたすらに冷やす。
「させないよ」
当然出洲はそれを止めようとするだろう。深雪と黒深雪を置いておいたとしても、この白雲の一撃は止めねばならないと直感的に理解した。
全てを無視してでも、大蛇が纏まり、白雲に襲いかかる。鎖を弾き飛ばし、本人も弾き飛ばすために。
「貴様のような歪んだ信念でこの一振り、止められるか!」
白雲は、もう避けようともしなかった。鎖がそこに届くまで、そこから動かない。
僅か数瞬の攻防。反応速度はどちらも同じくらい。むしろ出洲は、意識を向けていないタイミングからでも艦載機が動いていたこともあり、白雲よりほんの少し速い。
だとしても、『冷却』の伝達はそれを超えていた。煙幕ブースト、特異点に背中を押されていることで、白雲の力はより前向きに突き進む。
鎖が天井に届く前に、艦載機の大蛇に弾かれる。元々ギリギリだったところに少しでも妨害が入れば、もう届くモノも届かない。だが関係ない。白雲は鎖を振るうことをやめない。力を発揮するために、一歩も引かない。
「止められるさ。質量が違う」
「ほう、ならば
鎖は完全に弾かれた。天井には届かない。それでも白雲は身体を捻り、腕を回し、鎖をグルンと反動をつけて、さらに艦載機の大蛇へと鞭打つように振るう。
どういうことだと聞かれたところで、出洲は何も変わらない。しかし、艦載機の大蛇のコントロールが明確に変化した。
空中に、
白雲の『冷却』は、今や威力という概念を超えていた。弾き飛ばすために鎖に触れた時点で、その術中に落ちていたのだ。
最初に触れた艦載機が『冷却』の餌食に遭い、瞬間凍結する。それがさらに冷気を放ち、次の艦載機を凍らせる。それが連鎖し、連鎖し、鎖の冷気が大蛇全体に回り切っていた。
そこにさらに、鎖を打ちつけるようにコントロールしたところで、冷気はより浸透する。凍りつき、凍りつき、艦載機を全て封じるかの如く凍らせる。
「夕立様、いけますか」
「ぽい! 全力で、蹴り飛ばす!」
凍りつけば、全部纏めて蹴り飛ばせる。今ならば、全てが纏まり固まっているのだ。質量は相当なモノだが、今だけ押し除けられればそれでいい。
「……君達は、本当に」
呆れたような表情を見せる出洲。艦載機が全て凍りつき一塊になっているのなら、少し押してやればいい。
しかし、凍りついた大蛇はその巨体を空中で維持することは出来ない。威力を増した『冷却』は、内部までしっかり凍りつき、コントロールを失わせる。その上、今は破壊もされていないのだから、追加の艦載機も現れない。
つまり、今は出洲が完全に無防備となる。
「どらぁあああっ!」
夕立はその氷の塊を無理矢理蹴り飛ばす。ただ退かすだけではない。その塊を出洲にぶつけるために。
「我が力で我が身を滅ぼせとでもいいたげだね。出来ると思っているのかい」
普通の艦娘ならば、砲撃を放っても破壊しきれずに押しつぶされてもおかしくないような一撃。
しかし、出洲はそれすらもどうにかしてしまう。艦娘の身体を貫くほどの手刀を、珍しく本気で、踏み込んで放った。その瞬間、氷塊は一瞬にしてヒビが入り、粉々に砕けてしまった。
「無駄だよ、それでは」
「いいや、無駄じゃあない」
氷塊は砕けた。だが、それにこれだけの意識を向けたのだ。
天井の防御なんて、出来やしない。
深雪の消し飛ばす砲撃、黒深雪の止められない砲撃は、見事に天井へと吸い込まれていき、そして直撃した。