天井からの無限の供給が途絶えた出洲は、ついにその場から動き出して攻撃を開始。夕立を蹴り、白雲の方へと突き飛ばした後に、瞬時に深雪の方へと移動し、猛烈な徒手空拳をお見舞いしてくる。
これまでは長期戦を見据えて無限供給の力で押し潰そうとしていたようだが、それが無くなった今、もう自由に行動をする。動かなかったせいで妻と子を失ったようなものであっても、それは特異点側が悪いと自分勝手な言い分で。
「君達にはもう何を言っても無駄なのだろう。特異点に絆されすぎている。ならば、この先に続く平和を享受することは出来ないだろう」
「勝手なこと言ってんじゃねぇぞ。テメェが作る不自由な世界を、平和なんて大それた言葉にするんじゃねぇ!」
「何もわかっていない。争いなどない世界は平和そのものだろうに。それを君達が助長していると何故わからない」
「わかるわけねぇだろ! 喧嘩売ってきてる相手が、喧嘩はやめろっつってんだろ。今テメェがやってることが全部矛盾してんだよ。そんなこともわからねぇのかよ!」
出洲の猛攻は、深海棲艦化した上に煙幕ブーストを2回かけている深雪であっても非常に重く、直撃だけは絶対に避けなくてはならない程。特に手刀は、一撃が必殺の威力を持っているため、放たれたらどういうカタチでも回避が必須。払い除けるか離れることしか出来ない。
それをどうにかしたいと思っている仲間達も、そもそも深雪に近すぎることで砲撃を放つことが出来ず、接近しようにも艦載機の大蛇が復活しており、それを邪魔する。氷塊と化した艦載機を自ら破壊し、再度発艦させることで、つい先程の状況をまた作り上げている。
とはいえ、無限の供給が失われていることもあり、この大蛇も壊し続ければガス欠が起きるだろう。天井が破壊されたことで、明確に苛立ちを露わにした時点で、別の場所に無限供給のポイントがあるようには思えない。
「換気扇はまだあるのです!?」
「あるみたい!」
電の疑問に雷がすぐに答えた。床に加えて天井の換気扇も破壊したかと思ったが、天井で壊れた部分は一部だけ。無限供給とその近辺の換気扇は破壊されたが、他にもまだある。
吸収率はかなり落ちているものの、無いわけではないので、煙幕を充満させることは未だ不可能。その換気扇を破壊しようとする攻撃も、復活した艦載機の大蛇が食い止めてくる。
「なら、あたしがぶっ壊す。雷、煙幕をわざと吸わせて、場所見つけるぞ」
「そうね、さっきグレカーレがやったみたいに、まずは壊さないといけない場所を探さないと」
「ここまでしておいて、これ以上やらせると思うかい?」
たった今、深雪と戦っていたはずの出洲。それなのに、隙を見せれば別の場所にまですっ飛んでくる。換気扇を破壊されるのが嫌なのか、それともこの施設を破壊されるのが嫌なのか、
異常なスピードは、伊203に匹敵している。供給が無くても関係ない。出洲もまた、先を考えない戦い方をしているようなモノ。
「っ……」
「仕方あるまい。君にも死んでもらわなければ。もう平和へと辿り着けないだろうからね」
黒深雪へと繰り出される手刀。黒深雪自身は、徒手空拳が得意かと言われるとそうでもない。鋭い一撃を避けるにはかなり必死に動かなくてはならない。
脇腹を抉るような一撃を、黒深雪はかなり強引に払い除ける。ギリギリで間に合っているから良かったものの、それでも少しだけ掠めてしまい、小さく血が撒き散らされた。
「いっ……」
「深雪!?」
「余裕無ぇなぁ本当によぉ!」
黒深雪が傷付いた時、今度は深雪がそれを追いかけるカタチになる。出洲はこの空間を自在に動き回り、その時その時の脅威に対してスピードを活かした対処をしていくため、その都度、対象になった者による対処が迫られる。
今は脅威度によって優先順位が変わるが、それが無くなった時が苦しい。何せ今、戦闘に参加出来ない者が複数人出てしまっているのだ。深雪は余裕が無いなと言いつつ、むしろそれを維持しなければいけない。
そうなると、常に急所を狙い続けるということをしなくてはならない。少しでも余裕を与えたら、おそらく真っ先に狙われるのはグレカーレだ。
「特異点、お前のやることは、こっちじゃねぇ……!」
傷付きながらも、黒深雪は深雪が今はやらねばならないことを伝える。言葉にせずとも、ここではない、
「夕立も、止めるっぽい!」
体勢を立て直した夕立が、出洲を討ち取るために、その動きを止めるために、猛然と立ち向かう。地を蹴り、自ら脅威であると示すため、限界を超えての突撃。
「アイツの道を切り開くためだ。身体張るぞ、雷」
「ええ、深雪とならやれるわ。特異点より、ずっとずっと脅威になればいいのよね!」
夕立と共に、煙幕を纏わせながら出洲を迎え討つ黒の特異点組。傷付いても構わない。合間合間に換気扇を破壊しようとして、自分に脅威度判定を引き寄せ、深雪から視線を逸らすように戦い続ける。
やってもらわなくてはならないのは、穢れの除去。つまりは、神風の解放である。今ここにいる中で、最も強く、戦力として最強なのは、間違いなく神風。今は穢れに縛られてスピードを落とされているからこそ脅威度が低くなっているが、それが無くなった瞬間、誰よりも上になることは確定しているのだ。
「身体張るのはいいけど、死ぬのはダメっぽい。誰も喜ばないっほい」
「わかってる。あたしだってな、生き方がわかってきてんだ。この先の、これまで望んでたのと違う平和の道を行くために、死んでる余裕なんてねぇよ」
「上等っぽい! 死ぬのはコイツだけで充分!」
出洲への猛攻を強めていく夕立。脅威となるため、もっと速く、もっともっと速く。
「黒、夕立に煙幕!」
「いいのか……いや、躊躇わねぇよ。お前があたし達を信じてくれてるってことだもんな。ぶっ込んでやらぁ! 雷!」
「大丈夫なの!?」
「そーゆー問題じゃないっぽい! 今はそういうこと考えてる暇がないっぽい!」
夕立を相手にする出洲も、目の前で繰り広げられる次の行動の相談は、止めなくてはならないことである。艦載機の大蛇すらも嗾け、確実に止めようと動く。
出洲の意識は、深雪の方にも行っていた。黒深雪とのアイコンタクト以降、今だけ脅威度が落ちている。自分に向かってこようとしていないから。しかし、先が見えるならば、ここで深雪を止めなくてはならない。
故に、艦載機の大蛇は深雪へ。眼前の夕立は、自らの手で止める。
「お姉様はこの白雲がお守りいたします! 電様!」
「なのです。電も、深雪ちゃんの方へ! おーばーくろっく!」
電、この戦闘で再び時雨の模倣。瞬時に動き出し、出洲へ向かうのでは無く、深雪を守るために使った。
白雲も二度の煙幕ブーストが入っているため、普段よりは速く動ける。深雪を救うため、再び艦載機の大蛇を凍らせるために鎖を握り締めた。
「深雪ちゃん、援護するのです!」
「助かった! 穢れを取っ払うぞ!」
小柄の亡骸は放置。中柄のドロドロな亡骸をどうにかするために、2人がかりでの浄化を開始する。
それを止めようとする艦載機の大蛇をさらに止めようと白雲が鎖を振るう。先程と同じように、全身全霊を込めて、その全てを凍り付かせるように。
しかし、一度喰らった致命的なダメージを二度も三度も喰らう出洲ではない。本体は夕立達を見据えながらも、大蛇は白雲の動きを的確に捉え、その鎖を完璧に避けた。大蛇そのものが避けるのでは無く、艦載機の一部が偏ることで、鎖に触れられなくするだけでいい。
「ちっ……!」
白雲はかなり無理矢理に鎖を振るうが、やはりそれも避けられる。大蛇があくまでも艦載機の集合体であることを活かしてきている。
「当たらせないのです!」
ここで電、換気扇が破壊されたことを利用して、周囲に煙幕を一気に溢れさせる。防御用の煙幕、そこに『ジャミング』の模倣をすることによって、性質は多少違えど、邪魔をしてほしくない、みんなを助けたいという優しい願いを溢れさせた煙幕のおかげで、大蛇は僅かにだが攻撃を逸らした。
白雲の攻撃を避けるために少しでもバラけたことも、この逸れに影響を与えていると言えよう。連携に次ぐ連携により、深雪に少しだけでも時間を与えることが出来る。
「アンタも不幸な目に遭ったんだろうよ。だから、チャラには出来ねぇけど、せめて安らかに眠れ。穢れなんて振り撒いてないで、ゆっくりと、な」
ドロドロになった亡骸に辿り着いた深雪は、躊躇なくそれに触れた。そして、優しい、安らかな眠りを願う。後始末屋としての、