「……ここに売り物として置いたのは……全て組織の
そもそもが、
その全てが、店主が持ち出した犠牲者の遺品。艦娘の勲章があるということは、命を搾られた艦娘の遺品という可能性が高いだろうし、提督の軍刀があるということは、何かしらの実験により提督そのものも命を失っている可能性が高い。
「……なんでそんなものを持っているんだい」
聞きにくい質問ではあったが、そこをズカズカ踏み込んでいけるのが時雨。相手が元人間ということならば、遠慮なく抉りに行く。呪いによる人間不信が、今回は若干いい方向に進んだ稀な例。
「……私が……処分を任されていたから……です」
「処分かい。じゃあ、こうしていなかったモノは、証拠隠滅をするみたいに何処かに捨てていたんだ」
「……はい……基本的には……海に流すように指示されていました……それを推奨されていたので……」
だが、こうやって捨てずに手元に置こうとしていたようで、誰か現状を打破してくれるような者達が現れたのなら、全てを遺留品、物的証拠として全て差し出すつもりだった。特に白雪が真っ先に反応したカメラなんて、あまりにもわかりやすい物的証拠である。
また、店主が言うには処分は彼女以外にも命じられていたようで、彼女以外は普通に海に流していたらしい。何の疑問も持たず。それが海に呪いをばら撒くことになるということを知ってか知らずか。
「よくもまぁこんなカメラを手に入れることが出来たね。諜報部だっけ? そんなのが紛れ込んでるだなんて、最初から大本営だか軍の連中は、ここにそういう連中がいることをわかっていたんじゃないかな」
対する店主は、小さく首を横に振る。
「……組織内に……『密告者』が出始めたんです」
「密告者?」
「やっていることが酷くなってきたので……もう逃げたいと思う者達が……。私もそうなりたかったんですが……その時にはもうこの姿にされていたので……」
改めてカメラに収められた写真を確認する。人間と深海棲艦が共存している写真ではあるのだが、角度が少々おかしい。つまりは、
このカメラは元々元凶の組織内で使われていたものであり、それも諜報部からデータを保存するためと譲り受けたモノ。それでも何かしら外部に漏れそうな証拠を収められたため、破壊して捨てておけと命じられたらしい。
少なくとも、今まで現れた『密告者』は、その全員が何らかのカタチで始末されている。結局、その情報が外に漏れ出たことは一度たりともなかった。故に、この店主が初めて成功した例となる。
勿論、ここにいる者達、店主も、鎮守府の書類に『密告者』の遺した暗号文があることは知らない。
「で、あえて捨てずにずっと残していたんだ」
「……はい。この時のために……ずっと」
この店主は、身体を深海棲艦に変えられたことで首輪をつけられてしまったようなもの。その姿で人前に出ても、深海棲艦だと認識されれば間違いなく追われるし処理される。姿形だけで外に出ることも出来ず、元凶に従わざるを得ない状況に置かれていた。
これまではどうにか潜んできたが、もう耐えられない。自分はどうなってもいいから、元凶の悪事を公にしたい。しかし、今の姿では何を言っても信じてもらえない。
だが、ここで特異点の話、そしてそれを保有するうみどりが入港すると聞き、彼女は意を決した。今ここで自分も『密告者』となる。うみどりなら、特異点なら、この情報を上手く使ってくれるはずだと、命懸けでここまで来た。
「1人でかい?」
「……協力者は……います。ですが、ここまで来たのは……私だけです。私だけを……外に出してくれたんです……」
おそらくはこの身体であることも証明になるから。それに、これだけの大荷物を運ぶことが出来たのは、彼女しかいなかったから。深海棲艦の身体を手に入れたことで、膂力も相応なモノになっているのが見てとれる。
罪は全て自分が被り、協力者はそうであることを隠す。それだけの覚悟を持って、ここまで来たのだ。その上で法を犯した手段まで使ったのだから、その覚悟は相当なモノ。
「……もしかしたら……協力者も今……罰せられているかもしれない……。でも……でも、私達はもう、耐えられなかった。だから……特異点のいるうみどりなら……きっと、私達を救ってくれる……そう思って……」
店主がその大きな身体を震わせて訴えるように語る。救われたい一心で、しかしこうなってしまったら諦めるしかなかったところに、救世主として現れた特異点。それに縋りたくて、命を懸けた。
そこに嘘なんてない。嘘なんて吐きようがないくらいの精神状態なのは、表情を見ればわかった。必死で、不安で、余裕なんてない。目の下にはクマすらある。これでうみどりを陥れようとしているというのなら、あまりにも詐欺師過ぎる。
「……救ってやろうぜ。ここまで言ってんだぞ」
だからだろう、深雪はその言葉を信じた。これで救わないのは間違っていると断言して。
潜水新棲姫を救っておいて、港湾棲姫を救わないのはおかしい。リスクは潜水新棲姫の時とは比べ物にならないほど大きいが、得られるモノだって大きいのだ。それこそ、ハイリスクハイリターン。だが、解決しなくてはならない元凶に対しての問題に一気に近付くことが出来るのだから、掴まない理由はない。
「本当に信じるのかい?」
当然、異議を唱えるのは時雨である。
「見た目は深海棲艦かもしれないし、ここまでこれだけの物的証拠を持ってきたのは確かだけど、元々は
「じゃあ見捨てろっていうのか。ここまで来てるのに」
「ならその決断でうみどりが壊れた時、君は責任を取れるのかい」
当然、深雪の独断で決めるわけではない。しかし、港湾棲姫まで受け入れた結果、うみどりが破綻する可能性を考えずにほいほい救うのは間違っているのではないかと話す。
深雪はそれに対して反論出来なかった。救えるものは全て救いたい。しかし、
今回ばかりは、時雨はただの反感からの言葉ではない。間違っていない反論である。
「じゃあ、トップに聞けばいいのよ」
口論になりかけているところに割り込むのは、やはり頼りになる筆頭駆逐艦。
「連絡の手段は持っているんだし、この件は私達が勝手に決めることは出来ないわよ。なら、ハルカちゃんに連絡して決めてもらう方がいいわ。時雨もそれなら納得出来るわよね?」
「……せざるを得ないかな。長がそう決めたなら、それに従うしかない」
ここで連絡するかは迷うところでもある。通信が出来るように端末は貰っているし、むしろこういう時こそ連絡するべきだろうが、事が事である。通信というカタチで伝えていいものかどうか。
「通信が不安なら、足で行くしかないのね。睦月がハルカちゃん連れてくるにゃし」
「だったら子日も行くよー。ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと来てもらおっか♪」
思い立ったらすぐ行動。睦月と子日は仲良く店から出て行った。深雪も時雨もアレでいいのかと神風に目で訴えるが、何も言わないということはコレでいいと思った様子。
「大丈夫……なのです?」
不安そうに深雪を見つめる電だが、こうなってしまったら信じる以外に選択肢はない。大丈夫だとしか出せる言葉が無かった。
人込みを掻き分け、おそらく最短時間でうみどりに戻った睦月と子日は、大急ぎで伊豆提督の元へと走る。
「あら、散策に行ってたんじゃなかったの? 何か忘れ物?」
伊豆提督はうみどりの中で昼食の準備中。留守番をしている伊26と潜水新棲姫、そしてイリスのために、いつも通り食堂で腕を振るっていた。
突然帰ってきた2人に驚き、料理の手を止める。食堂で待っていた伊26と潜水新棲姫も、流石に来ると思っていなかったため目を丸くしていた。
「と、とんでもないものを見つけたにゃしぃ!」
「通信だとまずいかもって思って、直接言いに来たんだよぉ!」
そこから説明を受ける伊豆提督は、見る見るうちに表情が変わっていく。今回の件はあまりにも深刻。通信に悩んで、自ら足を運んだ理由もわからなくも無かった。
潜水新棲姫のことを一切口外しないようにしているのと殆ど同じ理由だ。万が一のこと──通信傍受などのことを考えて、直に話すことがベスト。
「港湾棲姫までいたの……しかも元人間と語ったのね」
「にゃしぃ。特異点を探してるって言ってて、深雪ちゃんのことを見て見つけたーって」
「うんうん、元々あった組織から逃げてきたーって。自分は密告者だとも言ってた!」
本人から聞いたわけではなくとも、話を聞けば聞くほど信憑性があるように思えてくる。何より、睦月と子日が嘘を吐くわけがないため、これはやんごとなき事態に陥ってしまったのだと判断出来た。
「わかったわ。アタシも行くけど、マークちゃんにお願いしようかしら。あの子ならこういう場でも乗り越えられると思うわ。それに、白雪ちゃんと響ちゃんもいるのよね?」
「一緒にいるにゃし。今もその港湾さんと一緒なのね」
「なら話が早いわ。一緒に行ってもらいましょう」
ここで伊豆提督と共に昼目提督も動けば、迅速に確実に事を進められると考えた。
昼食はイリスに引き継ぎ、すぐに外に出る準備をする。昼目提督に連絡をしたら、1コールもするまでもなく通信が取られ、すぐに行きますという言葉と同時に切られ、艦から外に出た時には準備万端という状況。
相変わらずの迅速さに苦笑しつつ、なるべく誰かに聞かれないくらいの声量で状況を伝えると、目を見開きつつも港湾棲姫をどうにかするための用意を始める。
誰にも見つからないようにうみどりまで護送するとなると、かなり厳しいのは誰が考えても明らか。ただでさえ深海棲艦の外見というだけでも大変なのに、大柄であるせいでやたらと目立ってしまうのだから。
「オレとハルカ先輩よりもデカい図体してますからね……上手く隠そうとするなら、いろいろと手段があるんで、それを使いましょう」
「手段があるなら任せるわ。そこまでの道案内は睦月ちゃんと子日ちゃんがしてくれるから」
「うす。頼むぜ2人とも。休暇中にすまねぇな」
こんなカタチで休暇が滅茶苦茶なことになるなんて思っていなかった睦月と子日だが、そんなことを気にしていないような素振り。むしろ、こういうカタチでも先に進めているのが嬉しいような雰囲気を出していた。
この一件が終わったら、また休暇を続けてくれればいいと付け加えて、すぐさま行動に出る。本来は、電と時雨に世界の楽しさを知ってもらうための休暇なのだ。裏側でいろいろ動いているにしても、そこだけは違えないようにしたい。
勿論、そう簡単に行かないのが港湾棲姫の護送。ここからもう一度休暇が始められるかは、神のみぞ知る。
次回、港湾棲姫護送作戦。駆逐艦の会だけでなく、提督まで出張っての大規模作戦となりそうです。
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/109395674
駆逐艦の会の1人、秋月。今回の娯楽街散策でもしっかり買い物をしていますが、超倹約家気質はやはりあるので、あまり高価なモノは購入していない様子。