死に際、その往生際の悪さで、神風のスピードすらも解析してしまった出洲は、命を糧にした最期のブーストを使い、灯火が消えるまでの短い時間でここにいる全員を始末しようと画策した。
その手始めが、神風。『無』の一閃を放つ時間を与えずに接近し、納めた刀を抜かせることなく、手刀により臓器のいくつかを潰して吹っ飛ばしてしまった。
続いて夕立。『ダメコン』により傷つかない相手に対して、的確に『窒息死』という傷をつけない攻撃で迫る。それを食い止めようとして白雲に対しては、『冷却』を対策するように夕立を投げ飛ばし、衝突させただけでなく、壁にまで激突させてしまった。
短時間で、既に3人。特に、後始末屋の中でも最高戦力である神風がやられたことで、戦いは一気に流れを持って行かれた。
時間を稼げば、出洲は自滅するだろう。ただでさえ重傷を負い、その命はギリギリの状態のはずなのに、そこにそれを糧として注ぎ込んで力を得ているのだ。
しかし、それでどれだけの時間を耐えればいいのかがわからない。10分か、1時間か、それとももっとか。今の段階ならば、10分耐えることも至難の業だ。
「毒を撒き散らすのはやめてもらえるかな」
トドメを刺すことなく、出洲は煙幕を全力で撒く特異点に目をつける。当然、深雪が最も厄介であることを理解した上で。
つまり、次の狙いは、本命ど真ん中。深雪となる。
「くっそ……っ!?」
「結末は変えられない。ならば、少しでもここにいる者達を終わらせよう。虫の息の者にもトドメを刺さねばいけないね」
そう言いながらも、神風に追撃をするわけでもなく、深雪を狙ってきている出洲。やはり目では追えないスピードで深雪に接近し、その手刀で命を奪いに来る。
こうなっていても、脅威度判定は残ったままのようで、命を奪うよりも、今ここで自分にとって厄介な存在から攻撃をしていくという方針は変わらないようである。
戦力としての脅威を戦闘不能に持っていった後は、この空間を都合悪く作り替えようとしている特異点の筆頭。
戦闘力だけで言えば、深雪はこの中であれば中程度と言ってもいいだろう。むしろ、極端に強い超人が2人いることで、パワーバランスが大分偏っているというのはあるのだが、出洲にとっては、直接命を狙ってくる順に始末しているに過ぎず、特異点であってもこの段階まで放置。
「やられねぇよ、簡単には!」
「今の私には簡単なのだよ」
煙幕を自己防衛に回し、その手刀はかなり無理矢理受け止める。艦娘の肉体など容易に、氷塊であっても破壊する程の凄まじい威力のそれを、目に見えない速度で繰り出されても、命の危険を察知し、直感的に煙幕を発生させてどうにかする。
だとしても完全に受けられるわけではなく、故に少し逸らすことで自分の身を守った。しかし、その鋭さは並ではなく、それだけでも肌に傷がつく程の。今は心臓を抉りに来られたため、逸らした結果、肩に掠めてしまう。
「都合がいいね」
だが、そちらの方に逸らしたということは、手の近くに首があるということ。夕立と同様に、深雪は首を掴まれることになるのだが、そこにも煙幕を纏わせることで、それを回避。質量のある煙幕によって、出洲の手を阻んだ。
煙幕の扱いが最も得意なのは、当然深雪である。意識的にも、無意識的にも、自分と仲間を守るために煙幕を繰り出せる。換気扇が失われた今ならば、その効果は十全に使えるのだ。今は自分のために願いを使い、仲間のために自分へと意志を集中させている。
「やらせねぇっつってんだろ!」
「試してみようか」
神風のような、見えない一撃が何度も繰り出される。その都度、出洲の斬られた胴がバチバチと音を立てるが、本人は気にもしていない。命を糧にしている攻撃であることを視覚的に見せられている。
その攻撃が放たれる度に、深雪の身体からは煙幕が溢れ出る。身を守るため、その攻撃を絶対に通してはならないと。おかげで、必殺の一撃は全て、致命傷にはならないように逸れている。しかし、完全に止めることが出来ないため、ところどころに傷がついていた。
「往生際が悪い。何故そうも耐える」
「死にたくねぇからだよ馬鹿野郎」
「それはそうか、私もそうだ。君の身体は確実に壊す。特異点ほど平和に適さないモノはないんだ。
深雪の反撃の砲撃も、主砲そのものを軽く叩き落とすように逸らし、そもそも撃たせてもらえない。しかも、さも当然のように手法を破壊までしてしまう。神風をこの場で解析したというのは、あながち嘘ではない。本当にあの速さと攻撃力を完全に模倣出来てしまっている。よりによって『無』の一閃を。
身体をバチバチ言わせながら、速度がどんどん上がっていく。時間を置いていくような動きまでは行かずとも、『零』にはほぼ届いている。それを常時使っているのならば、それは神風を凌駕していると言っても過言ではない。
だが、ここでほんの少しの違和感を覚える。出洲は神風の動きを見て、受けて、全て覚えたと言っていた。『無』の一閃を受けて致命傷を受けたから、それを模倣出来るようになったと。自らのクロックを極限まで上げることで、可能な限りの最速を繰り出している。
見て覚えられるのならば、ここで見てきたことは全て模倣されてもおかしくない。夕立の『ダメコン』だって、白雲の『冷却』だって、やろうと思えばやれるのかもしれない。原理として模倣出来ずとも、解析して対策をする。
ならば、模倣や対策をすべき筆頭である特異点の煙幕はどうなのだろうか。模倣をせずとも、解析して、こうして防御すらさせないように出来るのではないか。
それなのに、ここではあくまでも換気扇や、艦載機による風起こしで吹き飛ばすという、解析というよりは常識の範囲内での対策しか出来ていない。それが壊れている今、この接近戦では煙幕の対処が出来ていない。
「クソが……っ」
しかし、攻めに転じれないのも間違いない。煙幕によって身は守れているが、むしろ身を守っていなければ死に至る。これもその内、守りきれなくなるかもしれない。
弱気にはならないが、ジリ貧であることは嫌でもわからされる。だが、今はこのままでいいとも考えた。何故なら、特異点は今や深雪だけではないのだから。
「そろそろ、他も叩いておかなければダメかな」
煙幕は拡がっている。深雪が防戦一方にされていても、3人の特異点が空間を埋め尽くさんと煙幕を拡げ続けている。深雪が特にやらなくてはならない存在かもしれないが、同じようにやれる者がいるのならば、叩き潰さねばならない。
この煙幕は平和を願う後始末屋の力が入っている。出洲にとっては毒と言ってもいい。実際は毒でも何でもないのだが、出洲に都合が悪いモノは全て毒なので、やはり無くさねばならない。
そうなると、出洲自身は深雪を攻めながら、艦載機の大蛇が再形成されて、それを邪魔し出す。煙幕に遮られながらも、その身を大きく回転させながら、風を起こして突撃する。
「電! 避けろ!」
大蛇が狙うのは電。深雪の次に危険な特異点。黒深雪と雷は、まだ特異点としては未熟と判断したか、それともその正体をまだ引き摺っているのか、攻撃を後回しにしているようである。
「電はあたし達も守る! 特異点は専念してくれ!」
「こちらは任せて! それに!」
黒深雪と雷が電の方へ。身を守るために、3人がかりの煙幕を真正面にぶちまけることによって、せめて多少は攻撃を逸らせるようにした。
それに、と雷が続けたのも、この戦場には戦える者がまだいる。出洲がいくら速く動こうとも、数秒先まで見通す『未来視』を持つフレッチャーならば、いつどのタイミングで攻撃を仕掛けてくるかが、手に取るようにわかる。深雪の援護はフレッチャーに任せると言っているようなモノだった。
フレッチャーもそれには気付いている。気付いているのだが──
「視えていても、お、追いつけない……!」
いくら未来が視えていたとしても、身体がそこに追いつけなければ意味がない。丹陽ならばそれにすら対応するのかもしれないが、フレッチャーにはそれがかなり難しかった。
故に、出洲からしても脅威度は低い。攻撃をしてこない時点でその判定は覆らない。
「邪魔ばかりする特異点は、ここで終わってもらうしかないんだ。抵抗をやめてくれるとありがたい。どうせ私はここで死ぬ。ならばいいんじゃないかい。君達の野望は達成する。君達も散れば、お互いwin-winじゃないかい?」
「何言ってんのかわかんねぇよ! テメェ自分でまた戻ってこれるとか抜かしてやがっただろうがよ!」
「それでも、今は止まるじゃないか。何が問題でも?」
「問題しかねぇよアホか!」
戦いは進んでいくが、この期に及んで不利に持っていかれる。