睦月と子日が提督達を連れてくるまでの間、それなりに時間がかかることは予想出来るため、深雪達は骨董屋の店主──港湾棲姫の話を聞き続けることとなった。
詳細はまた提督達に語ってもらうことになるだろうし、深雪達がそこまで踏み込んだところまで知っておく必要はないというのはあるものの、知りたいことはここで聞いておいてもいい。
「アンタ、艤装とかはあるのか? 曲がりなりにも深海棲艦の身体なんだろ」
深雪がまず気になったのはそこだった。物的証拠を運んできたとは言っていたが、艤装のことは何も話していなかったため、それをどうしたのかは知っておきたいところ。
港湾棲姫は陸上施設型の深海棲艦。海上を駆け回るようなことをしない代わりに、陸上では屈指の力を持つ。そのため、艦娘は対地攻撃という対策を持ち、どうにか対抗出来ている状態。
「……基部だけを……持ってきました……。他のモノは……あまりにも大きいので……」
「港湾棲姫の艤装、基本的には地面に置いて使うモノなの。しかも横幅だけなら本人の3倍近くあるわよ」
「そんなにデカいのか……!?」
神風の説明に、深雪は大いに驚いた。港湾棲姫のことを知らない純粋種達は、港湾棲姫を見てサイズを想像し、それなら持ってこれないと素直に納得。
港湾棲姫の艤装は陸上施設型の中でもかなり特殊であり、ただでさえ大柄な港湾棲姫の両サイドにしゃがんだ本人と同じくらいのコンテナが置かれているような形状。その上で、その中央からウミヘビのような巨大な生体艤装まで生えているのだから、それだけでも並ではないサイズである。
そんなものは、そもそもここに置いておくだけでも非常に難しく、背負って持ってくるのもかなり厳しい。それ故に、基部の部分だけを持ってきたという。
そこもまた特殊であり、港湾棲姫は腰の部分に装備する小さな基部だけで、コンテナ型の艤装を遠隔操作するタイプだと語る。近くにいなければ起動すらせず、逆に近くにいれば生体艤装にも命が宿ったかのように動き出すとのこと。
「基部があれば……パワーアシストは得られるので……。あ、あとは一応……知っているかはわかりませんが……袖の艤装も……」
「ああ、アレもあるのね。それならモノも沢山持てるわね」
神風は納得するが、純粋種の3人はずっとわからない。深海棲艦に対しての知識は皆無なのだから。
「港湾棲姫は鉤爪の艤装もあるの。着脱式になっていて、二の腕から袖のように装備しているのよ」
「鉤爪って、そんなの振り回されたら」
「私達じゃひとたまりもないわね。貴女も私もサイコロステーキよ」
勿論使うつもりはないと港湾棲姫はすぐさまフォローを入れるものの、そういうものを一応は持ってきているということで、若干引き気味であった。電に至っては、恐怖まで湧き上がってしまい、深雪の手を握るために移動したほどである。
鉤爪かもしれないが、それ自体が巨大な手となっているため、荷物を運ぶには都合が良かったというのが、持ってきている理由。逃げ切った後はほとんど装備もしていない。それに、基部を装備しないと重くて使えない挙句、
「信じてもらえないかもしれませんが……今の私は非武装……です。私の艤装は……物的証拠と一緒に持っていってください……廃棄してくれても問題ありません……ので」
そう言いながら、ここから逃げられるように荷物の整理を始めた。もしうみどりが受け入れてくれないとしても、勝手に店として広げてしまったこの空き家を片付ける必要はある。
受け入れられれば、これらは全て元凶によって
流石に遺留品だけ全て回収した挙句、港湾棲姫だけを否定するということはしないと思いたい。負荷が最も小さく、かつ責任が発生しない手段としたらそれだろうが。
「あたしも手伝うよ。どうであれ、ここは何もない状態にしなくちゃいけないんだろ」
「え、あ、はい……ありがとう、ございます。特異点の……」
「深雪だよ。よろしくな」
ニカッと笑って深雪は港湾棲姫の片付けを手伝い始めた。これもまた『後始末』であると考えて。
深雪がそうし始めたため、なんだかんだ他の仲間達も手を動かし始めてしまう。最終的にはこの遺留品は全てここから撤去しなくてはならないのだから、早いところ片付けた方がいい。
その中でも白雪は特に丹念に確認していた。その全てが歴史のあるモノ。蒐集家の心が騒ついているようである。
「あ、そうだ。ハルカちゃんが来る前にひとつだけ聞いておこうかしら」
ふと思い立ったように神風が港湾棲姫に質問する。港湾棲姫はなんでも聞いてくださいというスタンスで視線を神風の方へ。
「貴女、潜水棲姫と潜水新棲姫のことについて知らないかしら」
つい最近うみどりに保護された潜水新棲姫。そして、深海棲艦が衰弱死しているという謎が多すぎる潜水棲姫。その2人は港湾棲姫と何かしらの関係があったのではないか。神風はそう考えた。
対する港湾棲姫は、名前を聞いてもすぐにはピンと来なかったものの、潜水艦の姫であることを考えた結果、何か思い当たる節があるようで、ああと声を上げた。
「潜水艦の姫にされた姉妹は……はい、知っています……」
「やっぱり……。どちらも元凶の手から逃げてきていたのね」
「あの、もしかして、そちらで保護されている……とか」
片付けの手を止めることなく、その辺りをツラツラと説明していく。最初は潜水新棲姫が保護されていると思って喜んでいたようだが、潜水棲姫が既に死んでいたことを知ると、やはりショックを受けてしまったようだった。その理由が衰弱死と聞けば尚更。
「……私より……先に逃げたんです……私もその手伝いをしました……。手伝いと言っても……何も見ていないとすること、ですが……」
「じゃあ、あの子とも知り合いだったり」
「……はい。あの施設にいた頃に……面識はあります……」
ついにそこの繋がりが見つかった。今でこそ伊26にベッタリだが、港湾棲姫も保護出来れば、顔見知りが増えることでまた精神的にも安定するかもしれない。
「でも……衰弱死……ですか」
「ええ、何か心当たりがあるのかしら」
「……お姉さんの方は……かなりギリギリでした……。それで無理して……妹さんの方をどうにか逃がしたんですね……」
話しながら泣きそうになっている港湾棲姫。組織から逃げる前から相当無理していたのは、港湾棲姫の目にも明らかだったようで、妹を連れて逃げると話していた時も体調は芳しくなかったことを覚えている。
その結果が、衰弱死。妹を逃すために無理をし、それでもあそこまでどうにか辿り着いて、そして結局息絶えた。妹である潜水新棲姫が縋りついたような跡があるというのも、これが理由だろう。
「保護されているのなら……安心です」
「ええ、今は心因性で言葉が話せなくなってしまっているけど、身体は元気よ」
「……そう、ですか。まだ、治っていませんよね……」
港湾棲姫が知っている段階から、潜水新棲姫は言葉を発することが出来ていなかったようである。
しかし、元気でいるならまだマシだと、少し安心したような表情を見せた。
それから少しして、ついに伊豆提督と昼目提督が到着。睦月と子日が先に店の中に入り、そのあとまずは伊豆提督だけが港湾棲姫と対面した。
その姿を見てはっと息を呑むものの、非武装、かつ一切の抵抗を見せず、艦娘達の前で座っているところを見ると、道すがら聞いていた通り、元人間の深海棲艦であることが妙に納得出来た。
「話は聞いているわ。アタシがうみどりの艦長、後始末屋を纏めてる者よ」
「……はい、ありがとうございます……」
まだ受け入れてもらえるとは限らないので、港湾棲姫もかなり控えめ。
「アナタはアタシの艦で保護させてもらうわね。それでよかったかしら」
「は、はい、よろしく、お願いします……っ」
何を言われるかと戦々恐々としていたものの、何もなく望みが叶ってしまったため、逆に驚いてしまっていた港湾棲姫。
だが、そんな伊豆提督の即断即決っぷりを見て、やはり異議を唱えるのは時雨だった。深雪に対して言ったこととほぼ同じ。この決断をしたことで、うみどりが壊れたらどうするのだと。
「君はうみどりのトップだ。その決断は君の仲間達の命運を変えると思うんだけど」
「そうね。アタシの選択でアナタ達を危険に晒すかもしれないわね」
少しだけ困ったような表情。しかし、その信念は変わっていない。瞳は力強い光を持っていた。
「でもね、この世界を作っている元凶の手から逃れてきたと話す人がいるのなら、それを救って丸く収めるのも、後始末なの。それに、ここにいる子は全員、それに納得してくれて後始末屋として戦ってくれている子なのよ」
時雨は成り行きでうみどりの一員となっているため、納得なんてしていないことはわかっている。うみどりのやり方を強制するつもりはない。しかし、こういうやり方であるからこそ、後始末が成立するのだということを知ってほしいと伊豆提督は語る。
後始末屋は戦場を片付けるだけが仕事では無い。過去の人間の罪の尻拭いまで担っている。だからこそ、こういった困っている人を見過ごさない。悪辣な人間の過去の過ちによって被害を齎された者達を全て掬い上げる。そこまでして、真の後始末だと。
「……君達はお人好しすぎないかい」
「過去の人間の意地が悪すぎるのよ。現在進行形でそれを続けている連中もいるわけだけれどね。だからアタシ達は、後始末をするの。それが世界を平和に導く最善の行動だと思っているの」
「それで騙されてもいいというのかい?」
「本当に救ってもらいたい人を見放すくらいなら、騙されてもいいから救っておきたいわね」
伊豆提督の信念は変わらず。それに、長く付き合っている神風には、伊豆提督がこの港湾棲姫に対して疑念を持っていないからこそ救おうとしていることはわかっている。
これで実は港湾棲姫もうみどりを嵌めようとしているというのならば、この時点で伊豆提督は見限っている。これだけのことをした後であっても、救うとは言わない。もっと質問責めにするなりして、ボロを出させるだろう。
「勿論、意識外から攻められたら困るから、うみどりで精密検査をさせてもらうわ。こんなことを言いたくないけれど、本心とは違う行動をさせられる可能性だってあるもの。そこまで心の底から信じてはいないつもりよ。それに、いくら深海棲艦であっても艤装を装備していないのならアタシだけでも制圧出来るから」
どれだけ言っても、港湾棲姫を救い、うみどりまで連れて帰ることは変わらない。時雨もここまで強い意志をぶつけられたら、諦めざるを得なかった。
そもそもうみどり所属とされているのだから、伊豆提督に逆らうことは出来ないのだ。文句は言うけど、最終的には従う。
だからむしろ、文句くらいは言う。言いたいことは言わせてもらう。それが無駄であろうとも、意見として聞いてもらう。それが時雨の信念。
「わかったよ。君が全て責任を取るんだ。そんな相手の決心に対して、これ以上グダグダと文句は言わないでおく」
「ありがと。苦労をかけるわね」
「本当だよ」
憎まれ口は叩くものの、それ以上口論を続けるつもりなどなかった。一部諦めもあるが、後始末屋がどういう人間達の集まりかがもう理解出来ているから。
「ハルカ先輩、準備出来てます。うまいこと運び込んでください!」
一通り話が終わったところで、外から昼目提督の声が聞こえる。その声が聞こえた途端に、まだ慣れていない電がビクッと震えるものの、深雪が大丈夫だからとしっかり傍にいたことで事なきを得る。
「ええと、今は港湾ちゃんと呼ばせてもらうわね。本当の名前は後から教えてちょうだい」
「は、はい……」
「アナタを護送するために、少し用意させてもらったわ。窮屈だと思うけど、我慢してちょうだいね」
そう言って外を指さす。そこに用意されているものは、物資搬入用のコンテナ。昼目提督がすぐさま用意したのは、入港理由でもある物資の補給にも使われたコンテナだった。
これもそこそこの大きさがあるので、港湾棲姫を
「何か言われたら、上手いこと言い訳するから、アナタは信じてアレに入ってちょうだい。いいかしら」
「……はい、よろしくお願いします」
ここから護送作戦が開始される。何事もなくうみどりまで護送出来るか否か。
港湾棲姫の艤装、ゲーム内のグラフィックと、アーケードの動きから推測したオリジナルのモノになっています。見た関し、腰の辺りに基部があって、コンテナ部分は接続されていないように見えるんですよね。あとあの大型な尻尾系の艤装も、コンテナ側に接続されていて本体には接続されていないように見えます。なので、この作品での港湾棲姫艤装は、若葉や初霜のように、そもそも背中から離れているとしています。