後始末屋の特異点   作:緋寺

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大局観

 港湾棲姫の護送について行こうとしたものの、実力不足を指摘されたことで同行を諦めた深雪は、指示通り休暇に戻っていた。

 あんなことがあったため、全力で休暇を楽しむことは出来なくなってしまったものの、伊豆提督達なら無事にうみどりまで送り届けてくれるだろうと信じることは出来た。

 そのため、今回は電と時雨が休暇を楽しめるようにするために尽力することにした。特に電。先程の件で少し俯いてしまっていたため、気分を盛り上げようと雑貨屋巡りを再開した。

 

「あたしもなんか趣味持つかな。つっても、あたしにやれることなんて高が知れてるからなぁ」

 

 もう気にも留めてないような雰囲気を無理矢理出しつつ、雑貨を見て回る深雪だが、電には深雪がかなり無理をしていることはわかっていた。

 伊豆提督を信じているにしても、本当に上手く行くかが気になって仕方ないのだろう。最後まで見届けて初めて落ち着くことが出来る。

 

「電、あたしになんかあう趣味ってあると思うか?」

「えっ、あ、そ、そう……ですね……」

 

 急に振られてビクッと震える電だが、話はちゃんと聞いていたため、深雪が試してみてもいい趣味について考えてみる。だが、他のことも気になってすぐに何か思いつくことも出来ない。

 

「例えば……っ」

 

 それでも何か言わねばと考えていた矢先のことである。軍港都市に響き渡るような爆音が鳴り響いた。雑貨屋の中は、他の客も騒然となる。

 軍港都市でこういった音が聞こえることがないというわけではない。それこそ、近海で戦闘が発生した場合はこういったことはある。それを守るための鎮守府があるのだから、その戦闘音が聞こえてきても無理はない。

 

 しかし、海で戦う者達にはすぐにわかる。この音は、どう考えても海の方面ではない。海戦ではなく、()()()()()()()()()()()()()であることはすぐに察することが出来た。

 それも、並大抵の音ではない。1つではなく複数の爆弾が爆発したかのような音。音はかなり大きいものの、深雪達がいる場所までその衝撃が届くわけでも無く、ただただ大きな音が出たというだけ。

 

「おいおいおい、マジかよ。ハルカちゃん達が狙われてんじゃねぇのか!」

「か、かもしれないのです……」

 

 それでも、先程まで密告者として現れた港湾棲姫のことをやっていたのだから、爆音はそこに結びついてしまう。護送している際に何者かに襲われ、それをどうにも出来ずに爆音が発生するようなことが起きてしまった。それが一番考えられる。

 深雪だけでなく、ここにいる全員、駆逐艦の会の者達が、自分の上司の安否が心配になった。勿論、うみどりの者ではない白雪と響もだ。昼目提督も同じ場所にいるのだから。それに、その性格上、伊豆提督を庇うなんてことだってあり得る。

 

「行くぞ、今すぐに。流石にあんな音を聞いちまったら、来るなと言われても行くぞ」

「で、でも、電達は力になれないのです……」

「救助くらいなら手伝えるだろ。戦うわけじゃねぇ。これでもし、ハルカちゃん達が死にかけてたらどうすんだ。すぐ行けば間に合うかもしれねぇ」

 

 こんな状況で休暇を満喫しろだなんて言わないよなと、神風に訴えるような目を向ける深雪。止めないでほしい。むしろ神風だって動き出したいだろう。そんな気持ちを込めて。

 

 実際、神風もあの爆音を聞いたら居ても立っても居られない心境にはなっている。()()伊豆提督がそう簡単にやられるとは思っていないが、爆発というわかりやすく殺傷力のある攻撃を喰らってしまっては、生身ではひとたまりもないかもしれない。

 しかし、既に現場で救助活動をしている可能性がある。その場合は、素人の自分達が向かったところでそれの邪魔をしてしまいかねない。本当に緊急事態であるならば、むしろ行かない方がいいのではとも考えてしまう。

 

「神風……っ」

「私達が行ったところで、救助も素人よ。それに、もうあちらの救助隊が動いてるかもしれない。私達が無鉄砲に動いて、あちらの救助隊の邪魔をしないと思う? 野次馬もただ邪魔なだけ。誰の邪魔をしないって保証はないわよね」

 

 そう言う神風も苦しそうではある。もうこんな状況になったら、もう休暇なんて言っていられないのはわかっている。故に楽しめなんて不可能だ。

 しかし、だからといって直情的に動いてしまったら余計な混乱を招きかねない。助かる命が助からなくなるかもしれないし、勝てる戦いが勝てなくなるかもしれない。こういう時こそ冷静に判断しなくてはいけない。

 

「……神風ちゃん、電からもお願いしたいのです」

 

 だが、ここで電も深雪を後押しする。ここまで来たら、休暇に力が入れられなくなるのは電も同じ。気になって気になって仕方ない。心の底から楽しむことなんてもう出来ない。

 故に、無事を早く知って安心するためにも、電はまず様子を見に行くべきではないかと判断した。深雪が行きたがっているというのもあるが、自分でも結末を知りたい。

 勿論、神風が言っている意味もわかっている。電だって素人だ。無理に行って誰かの邪魔をするのは良くないことくらいわかっている。だからこそ、冷静に判断して、遠目で確認する、近場の人に状況を聞く、伊豆提督達の無事を、どういうカタチであれ知ることが出来ればいい。自分の手で救おうとは思っていない。

 

「ハルカちゃんさんが無事なら、深雪ちゃんも安心出来ると思うのです。それに、電も安心出来るのです。だから……」

「電にまで言われちゃったら、行くなとは言いづらくなるじゃないの……。でも、今はすぐに動かない方がいいわ」

「おい神風それはどういう」

「君は考え無しで行きすぎるってことだよ」

 

 神風に文句を言おうとする深雪に対して、ここぞとばかりにすぐにツッコミを入れる時雨。いつもやられているお返しとばかりに口を出した。

 

「今の君は冷静さを失っているからね。電はちゃんと状況を見た上で最善を掴み取ろうとしているけど、君は違う。何も考えずにまず動こうとしただろう。神風に訴えたのはまだ良かったけどさ」

 

 深雪は何も言い返せなかった。時雨に指摘されるくらい、深雪は周りが見えていない。

 仲間達だって一緒に雑貨屋にいる。だが、大急ぎで向かおうとは思っておらず、状況を確認してから動こうと思案を巡らせているところだ。誰も直情的に動こうだなんてしていない。

 この軍港都市に所属しているのなら、考えるまでも無く動いている。しかし、ここは自分の管轄ではない場所なのだ。ここを管理している者達の指示に従うのが今やらねばならないこと。

 

「今はじっとしてればいいよ。僕はそれでも気に入らないけど、自分がやったことで邪魔だの退けだの言われたらその方が気分が悪いからね。わざわざ動いてなんてやるものか」

「……くそ、時雨に言い負かされるとすげぇ負けた気分になる」

「君は僕のことを何だと思ってるのかな。これでも成長しているんだ。君よりもね」

 

 それに対しても言い返せなかった。最初の時雨ならば、この爆発音を聞いたら間違いなく誰の言うことも聞かずに動いていただろう。人間の悪事であるとわかれば当てつけのように言い負かすことが出来るのだから、それ見たことかとドヤ顔をするためにも行動に出ている。

 だが、ここで時雨は人間側の考えに立って今の行動をとっている。深雪だから否定しているのでは無く、大局を見ることで今の行動を選択している。

 

「お話中すまないね。こちらはこちらで少し動かさせてもらったよ」

 

 そんな言い合いをしている横で、マイペースに行動をしていた響が割って入る。

 

「うちの司令官に連絡をとったよ。命に別状はないけれど、怪我はしてしまったようだ。それと、彼女(港湾棲姫)は無事だ」

 

 それを聞けたことで、ひとまず安心することが出来た。深雪も今すぐ駆けつけたいという気持ちがこれでようやく落ち着いた。

 

 そもそも行動に出ずとも、端末を渡されているのだから、それで伊豆提督に連絡を取るところから始めれば良かったのだ。今はうみどりにおらずとも、すぐに連絡出来るように、通信端末を携帯しているはずなのだから。それで連絡が取れなかったら初めて焦ればいい。

 そういうことを考えられないくらいには、爆発音だけで冷静さを失ってしまっている。深雪はまだまだメンタル面では未熟だった。それこそ、ネガティブ気味な電と比べても。

 

「うちの司令官が割と傷が浅くないみたいでね。私達は一度おおわしに戻ろうと思っている。昼食がまだなのは残念だけれど、この状況だとおそらく、殆どの店が一時閉店するかもしれない」

「そうね……その辺りは考慮した方がいいかもしれないわね。店の中でじっとしていることが安全だけれど、もう何もないなら一度うみどりに戻った方がいいかもしれないか」

 

 娯楽街付近での爆発事故というカタチで処理されるのなら、近隣、むしろ娯楽街全域に、一時的な措置が通達されるかもしれない。今日一日を閉店させるという少々重めな措置の可能性もあるならば、雑貨屋でじっとしているわけにもいかないだろう。

 とはいえ、現場に向かうのではなく、自分達の(いえ)に戻ることがベスト。提督達もその場から離れて艦に戻っている可能性は高い。

 

「深雪、納得してくれるかしら。ひとまずハルカちゃん達の無事は確認出来たわ」

「……ああ。でも、もう休暇とか言っていられないだろ」

「ええ。だから前言撤回するみたいで申し訳ないけど、一度真っ直ぐうみどりに帰りましょう。話はそれから」

 

 人間達の良さを知ってもらう休暇は、思いもよらないカタチで終了してしまった。これまでのことでもある程度は知ってもらえたとは思われるが、それをチャラにしてしまうほどの酷い終わり方になってしまった。

 

 

 

 

 駆逐艦の会総勢10人で雑貨屋から出ると、店の前では2人の艦娘が待っていた。

 

「あら、もしかして迎えに来てくれたのかしら」

「はぁい。司令官から指示を貰って、安全に送り届けるようにと言われましたぁ」

「うみどりまでは、このレディがエスコートするわ!」

 

 そこにいたのは綾波と暁。保前提督の指示により、狙われかねないうみどりとおおわしの艦娘達を無事に港まで到着出来るように駆けつけたと言う。

 

 暁の姿を見て大きく反応を示したのは電である。響に続いて、さらに増えた()()()()()()()()に複雑な心境。しかし、響で慣れているため、暁にも嫌な気分にはなっていない。

 

「えーっと、電。ここでは初めまして、よね」

「な、なのです……暁ちゃん……なのですよね」

「ええ、暁の力を借りている艦娘よ」

 

 響と同じように、名前を使わせてもらっている、その力を誇りに思っているのだと、胸を張って答える暁に、電は安心出来た。

 響で一度慣れていたことで、暁にもすぐに慣れることが出来る。経験は確実に成長に繋がると実感出来た。

 

「司令官達は何処かから監視されていた可能性が高いんですよぉ。そうなると、ここにいる皆さんも監視されていて、今この時にも狙われる可能性がありますからぁ、綾波達が護衛につきますねぇ」

「護衛ってまた大袈裟な」

「もし何かあったら、綾波達の鎮守府の責任になっちゃいますからねぇ。そこはごめんなさぁい」

 

 割と歯に衣着せぬ物言いをした綾波に苦笑しつつ、深雪はよろしく頼むと頭を下げた。

 

「レディをストーカーするだなんて許せないもの。電も、このお姉ちゃんに頼ってくれていいのよ」

「は、はい、よろしくお願いするのです、暁ちゃん」

「ええ、ちゃーんと全員守るから、()()に乗ったつもりで」

()()ですよぉ暁ちゃん」

「し、知ってるし! 大船に乗ったつもりで任せてちょうだい! 船、だけにね!」

 

 ドヤ顔で語る暁だが、何処か背伸びしているような振る舞いに、少し空気が和やかになった。時雨もクスリと笑みを浮かべるほどであった。

 

 

 

 

 休暇はここで終わってしまったが、うみどりに戻るまでが休暇である。まずは無事に帰るところからだ。

 




メンタルの強さなら深雪に軍配が上がるかもしれないけど、周囲を見る力は電に軍配が上がります。ポジティブだけど無鉄砲か、ネガティブだけど冷静か。
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