後始末屋の特異点   作:緋寺

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次の目的地

 深雪の初めての後始末は、最後に大物を発見するという大きなイベントが発生したものの、アクシデントらしいアクシデントもなく終了した。うみどりの生活を学ぶにはちょうどいい仕事内容となり、深雪は大きく学ぶことになる。

 

 今は後始末の際に浴びることになったであろう穢れを洗浄するために、全員で工廠の裏側にある洗浄室に向かっていた。待ちが出ないように大きめに作られたそこは、大浴場とまでは行かずとも、15人の艦娘が纏めて薬剤を浴びることが出来るくらいに広い。

 

「服のまま浴びればいいんだよな?」

「むしろ脱ぐ方が危ないですよ」

「着た状態で洗浄して、大丈夫って判断されたら着替えるって感じですね」

 

 秋月と梅に促され、後始末のために海に出ていた格好そのままで洗浄室に入る。全員入ったことを確認した妖精さんが合図をすると、出入り口が勝手に閉まる。

 深雪には初めてのことのためわからないが、一旦密閉空間にすることで、満遍なく洗浄を行なうため、少しの開放も今だけは無くしていた。

 

「詰めないように隙間を空けて、なるべく全身が当たるようにですよ」

「なるほどな。部屋の中を薬剤で埋め尽くす感じか」

「霧ですけどね。最初のうちはちょっと苦しいかも。あ、マスクだけは外してください。濡れると窒息しますよ」

「マジか。すぐに外すぜ」

 

 そうこうしているうちに、室内の上部にランプが点灯した。今は赤く輝いているが、少しした後に光が青くなる。

 その瞬間、上から横から一斉に薬剤が散布された。溶液をダイレクトにぶつけられるのではなく、霧雨のように細かく室内を埋め尽くすかの如く散らされる。

 

「うおっ!?」

「全身隈なく染み込むように浴びてくださいね」

「お風呂よりも念入りにです」

 

 秋月はともかく、深雪の次に新人という梅ですら、この散布には慣れているようで、まるで気にすることなく話しながら浴びていた。深雪はいきなり浴びせかけられたことで驚き、目やら口やらに入ったことで咽せたり目を擦ったりと大騒ぎ。

 他の者達は、深雪を見ながら最初はみんなこうだったと和む。海中で活動する潜水艦であっても、最初は慣れることは出来なかったくらいなのだ。

 

「このまま10分ですよー」

「け、結構かかるのな」

「当然です。穢れは完全に排除しなくちゃいけませんから」

 

 薬剤が散布されている中にいるのだから、当然ながら着ている制服もインナーも薬剤が染み込んでいき、徐々に重くなってくる。着衣水泳をしているかの如く、全身が水浸しに。髪も水滴が滴る程に濡れている。

 それでも完全に洗浄出来ているかがわからないのだから、じっくり浸かって身体を浄める。それこそ、先程までの現場を清浄化させるのと同様に、()()()()が有効なのである。

 

 この間に洗浄室の外では妖精さんがここにいる艦娘の分だけ制服などを用意してくれていた。まるで風呂上がりであるが、実際身を浄めるという意味では風呂と同じようなモノ。

 

「この後は待機でいいのか?」

「基本的にはそうですね。少なくとも一晩はここから動きませんし」

「んなこと言ってたな。穢れが()()()()んだっけか」

 

 清浄化率が100%となっても油断が出来ないということで、うみどりはここから一晩、この海で待機することになっている。後始末をした後、完全に清浄化したと思って離れたら、実は完璧に消え去ったわけではなく、一晩かけて再生して新たな巣となった事例があるためだ。

 これだけは絶対に防がなければならない。せっかくの後始末が台無しになる。外部要因ならまだしも、まだ残っていたというのは洒落になっていない。

 

「最後に引き揚げたアレが残ってたら、そのぶり返すってのが起きそうだよな」

「そうですね。なので、最後の最後でもちゃんと回収出来てよかったですね」

「でもさ……なんかえらく()()()()()()よな……」

 

 梅は亡骸を積み込んだ大発動艇を扱っていたため、特に近くで見ていたというのもあり、深雪の感想に深く頷く。

 

 今回引き揚げられたのは、かなり大型の個体。バケモノの形状をしていたならまだマシだったのだが、恐ろしいことにヒト型、しかも上位の個体である()()であった。

 その鬼は、艦娘と殆ど同じような外見ではあるが、下半身──というよりは腿から下の部分が艤装に包まれた存在。さらに言えば、その艤装も機械的だけならよかったのだが、明らかに()()()()()()()が付いていた。

 

 個体名『装甲空母姫』。人間と艦娘の間ではそう呼称される深海棲艦は、砲弾による一撃を脳天に受け、それが致命傷となりそのまま沈んでいた。

 故に、引き揚げられた亡骸には、()()()()()()。いくら深海棲艦といえど、頭を失ってしまえば死ぬ以外無い。

 逆に、それ以外は全くの無傷。余計な撃ち合いをせず、その一発で全てを終わらせていた。相当な腕前なのか、それともあまりにも運が良かったのか。それは亡骸を見るだけではわからない。

 

「その、腕とか拾うのにもちょっと抵抗はあるんだけど、()()()()()()がああやって引き揚げられてくると、割とクるモノがあるっていうか」

「わかりますよ。梅もまだ完全に慣れるまで時間がかかりましたから」

 

 大発動艇が扱えるということで、大物の引き揚げに駆り出されるようになった梅は、慣れていないものの最前線に立つことになる。そのせいで、嫌でも大分カタチが残った亡骸を近くで見ることになっていた。

 梅も最初は吐きそうになったり、それこそ食事が喉を通らなくなったりもしたらしい。しかし、今はそこまででは無くなっている様子。

 

「これは時間をかけて慣れてもらうしかないですね」

「だよなぁ。でも、そこは多分大丈夫……だと思う。とはいえ、今はモツ鍋もそうだけど、手羽先も食いたくない」

 

 少し離れた位置で、妙高がクスクス笑い出したのが聞こえた。

 

 

 

 

 洗浄を終えたことで後始末の仕事は本当に終了。ここからは自由時間となるが、その前に伊豆提督による今後の仕事の方針を展開されることとなった。

 

「今日の作業お疲れ様。中規模とはいえ、最後にあんな大物が揚がるとは思わなかったわ。アタシとしても少し予想外だったわね」

 

 あの装甲空母姫の亡骸は、海中だったこともあり、伊豆提督も考えていなかった廃棄物だった様子。とはいえ、こういった想定外はよくあることではあるので、大きな問題では無い。

 

「その件もあるし、一度艦内で浄化して溜め込んでいる廃棄物を一度陸に輸送しなくちゃいけないの。だから、ここの清浄化が確認出来たら、一度陸に戻るわ。食糧とかも買い込んでおきたいし」

 

 陸に向かうと聞き、仲間達は喜びを表現するような反応をした。常に海上で活動しているからか、陸というのはそれだけで娯楽に繋がるらしい。

 陸に到着したところで、うみどりから少し出ることが出来る程度で、人間が生活する空間まで向かうことが出来るわけでは無いのだが、それでも港内では自由行動が許されるということで、それが大きなリラックスタイムとなる。

 

 また、うみどりが向かう軍港は専用の施設となっており、艦娘も滞在するような場所だ。さらにいえば、うみどりが入港出来るくらいに大きな施設にもなっているのだから、回れる場所は沢山ある。

 

「幸い、今は依頼も無いわ。ちょうどいいから、少しだけ身体を休めましょっか。アタシが言うのはなんだけど、この環境って過酷でしょう。偶には、のびのびと羽を伸ばすことも必要だものね」

「丸一日は港に停泊出来ると思うから、その時は全員好きにしてもいいわ。外で何か食べてくるなら、先に申請しておくこと。そうでないとハルカが多めに作ってしまうから」

 

 本当に1日を自由に出来る。うみどりの外すらも行けるということで、深雪はどうするのがいいのかと悩むことになる。

 

 海で生まれ、うみどりしか知らない深雪にとって、陸は完全に未知の場所。自分の守るべき人間の住まう場所ということは理解しているが、知っている人間があまりにも限られすぎていることから考えると、その場所そのものに対して若干の()()を感じてしまう。誰だって未知の場所は怖い。

 

「あ、深雪ちゃん。当たり前だけれど、アナタは初めての陸よね。なら是非行ってらっしゃい。1人で行くのは怖いだろうし、港で迷っちゃうこともあるだろうから、みんなと一緒に、ね♪」

 

 ここで伊豆提督から背中を押される。知らないことは怖いが、知っておかないと後からさらに怖いことが起きるかもしれない。だから、知れることは早々に知っておくことが一番である。

 

「修学旅行みたいになっちゃうかしらねぇ。でも、駆逐艦で一組になって楽しんできてもいいわ」

「ん、わかった。ちょっとドキドキするけど、見てみないとわからないこともあるもんな」

「あ、そうそう、外に出るなら外に出るなりの格好も用意しておくから安心してちょうだいね」

 

 制服のままで外出することになると思っていたが、そこは着替えてから向かうことになるらしい。これは()()()()()()()()みたいなもので、休息中、戦闘に絶対に参加しないという意志を他の者にも知ってもらうために、制服とは違う見た目で活動するというのが、うみどりのルールになっていた。

 

「服なんてあたし持ってないよ」

「大丈夫。妖精さんがしっかり準備してくれているから」

「便利すぎないか妖精さん」

 

 その辺りは妖精さんが万事問題なく準備出来ているとのこと。艦娘が清く正しく生きていくために尽くしてくれるのが妖精さんということで、海でも陸でも可能な限りサポートしてくれるらしい。

 制服やスポーツウェア以外もちゃんと用意されるというのは、深雪には驚きだったようである。クローゼットの中にそれらしいモノが無かったこともあって余計に。

 

「じゃあ、深雪ちゃんは睦月達駆逐艦組が責任を持って楽しませるぞよ!」

「任せてハルカちゃん! 深雪ちゃんをみんなに紹介もしたいもんね!」

 

 睦月と子日が声を上げて喜ぶ。子日が言う()()()というのが深雪には見当がつかないものの、港に勤める何者かはこれからも付き合いがあるということと考えた。それは確かに紹介してもらいたい。

 

「なら決まりね。ここから離れるのは明日の朝。港に到着するのは多分その日の夕方くらいになるだろうから、その次の日を丸一日お休みとするわね。みんな、しっかり身体を休めてちょうだいねぇ」

 

 自由時間を与えられて仲間達が盛り上がる中、深雪もその時が待ち遠しいと思えるようになった。

 

 

 

 

「ハルカ、深雪のこと、港のみんなには伝えてあるのかしら」

 

 解散した後、イリスが伊豆提督に尋ねる。

 

「勿論。むしろ、深雪のことを知らない人はもういないと思うわよ。アタシがすぐに連絡したんだもの。ドロップ艦を拾ったら、大本営に連絡しなくちゃいけないんだから」

 

 対して、何の心配もないという顔で伊豆提督は答える。イリスは少しだけ不安そうな表情を見せるが、それを見越して言葉を続ける。

 

「深雪ちゃんは大丈夫よ。昨日と今日でここで生活してくれたわけだけど、何事もないどころか、何人もお墨付きをしてくれているでしょう。それに」

「ええ……()は何も変わってないわ」

「なら心配は要らないわよ」

 

 イリスの頭を撫でながら、伊豆提督は自信満々に話した。撫でられるとイリスも心地よさそうな表情を見せる。しかし、すぐに気を取り直して本題に入った。

 

「……()()()()()()()()()

「今はまだ……かしらね。早ければ早い内の方がいいとは思うけれど、生まれたばかりには刺激が強すぎると思うの」

「慣れたところに伝えられる方が刺激が強い気がしないでもないけれど」

「だからこそ、タイミングはちゃんと見なくちゃね」

 

 小さく溜息を吐いたが、それだけで終わらせる。

 

「まずはアタシ達を知ってもらうことを優先するわ。あの子はまだ生まれたばかり。今日でまだ3日目なのよ?」

「……そうね。ハルカの選択は、間違ったことがあまり無いものね」

「ええ、だから安心してちょうだい。不安はわかるけど、アタシがちゃんと責任を取るわ。この選択をしたのはアタシなんだもの」

 

 提督としての矜持を見せる伊豆提督に、イリスは小さく頷いた。

 




次の目的地は陸、うみどりが停泊出来るくらいに大きな軍港になります。そこに勤める艦娘などもいるでしょうから、次からはそことの交流になります。
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