後始末屋の特異点   作:緋寺

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Yの再会

「はぁ……せっかく楽しい休暇だったんだけどな……」

 

 せっかくの休暇が潰されてしまい、駆逐艦の会一同はあまりいい気分では無かった。これが後始末屋としての仕事が急に入ったとかなら納得が行くのだが、明らかに元凶からの横槍だ。港湾棲姫を救い、それだけで終わっていたのならまだしも、そこから襲われ、その上で伊豆提督までもが怪我をしてしまっているのだから笑えない。

 

「電も時雨も、人間の良さは知ってもらえたと思うけど、どうだったよ」

 

 2人に話題を振るが、深雪としてはいい返事を貰えるとは思えなかった。序盤は良かったかもしれないが、最後の流れは元凶である人間が起こした事件である。時雨からこれだから人間はと言われても否定が出来ない。

 

「電は楽しかったのです。最後はちょっと酷いことになりましたけど、でも、人間さん達が悪い人じゃないのは、よくわかったのです。悪い人は、本当に一握りなんだなって」

「……ああ、そうだよ。そうなんだよ。悪いヤツだっているけど、いいヤツの方が多いんだ。それを知ってもらいたかった」

 

 電には、最初の方しか出来なかった散策で好印象を持ってもらえたようだった。深雪のことを気遣ってこの言葉を選択したわけではなく、本心からそう答えてくれたのが、深雪には嬉しかった。

 しかし時雨はこうはいかないだろう。敵は人間の悪い部分の()()()みたいな連中だ。その一端を目の当たりにしたのだから、文句が出ても仕方ない。

 

「人間が信用出来ないのは変わらないよ」

 

 やはり時雨はこの考え方を違えることは無い。しかし、少しだけ違う考え方も生まれていた。

 

「ただ、正直なことを言うと、放っておけない人間もいると感じた」

「……どういうことだ?」

「人が良すぎて騙されやすそうな人間がいるってことがよくわかったってことさ。君みたいにどんな相手でも言うことを信じて、結果として悪い方向に進んだ例が見れたからね」

 

 明らかに暁のことを言っている。自分の選択が裏目に出た者を見たことで、人間は信用出来ない存在という考えはそのまま持っているものの、一部その生き方が不安になる者もいるということに気付くことが出来た。

 

 そこから派生した感情は、ある意味()()()に近いものかもしれない。後先考えずに感情のまま動く人間を、ただ見ているだけでいることが時雨には出来そうになかった。

 憎まれ口は叩くが、根っこの部分には艦娘時雨としての真面目なモノが残っている。それが刺激されたと考えられる。

 

「正直なところ、君も似たようなモノだよ、深雪」

「……じゃあ、あたしのことも放っておけないか?」

「君には電がいるだろう。だから、どうこうなる前にしっかり自覚した方がいい。自分の無鉄砲さは、間違いなく誰かを傷つけるよ。これまで上手く行っていたとしたら、それは運が良かっただけさ」

 

 時雨のこの言葉は、深雪の心に深く突き刺さった。

 

 

 

 

 

 傷の手当ても終わり、ようやく腰を落ち着けることが出来た伊豆提督。昼目提督は自分の艦に戻り、より入念な手当てを受けている。

 

「そう……そんなことがあったのねぇ」

 

 神風に事情を聞き、港湾棲姫は暁と綾波によって事前に発見されていたが、鎮守府に報告されることなく匿われていたということ、その時に特異点──深雪のことを探していたということだけは聞いており、その言葉に嘘偽りがないと判断して信じたということを知った伊豆提督は、なんとも複雑な表情をしていた。

 

「アタシ達に何か言う資格は無いんだけれど、あまり褒められたことではないのよね……アタシ達に何か言う資格は無いんだけれど」

 

 潜水新棲姫を救い、うみどりで匿っている以上、暁と綾波のことをとやかく言える立場にはない。しかし、潜水新棲姫もそうだが、港湾棲姫だって立派な姫。元人間であってもその力は絶大。勿論それは艤装があってこそではあるが。

 しかし、助けを求めてきたのならば、うみどりの面々ならば何も言わずに助けてしまうだろう。当然疑問は持つものの、潜水新棲姫という前例があるため、他の艦娘達よりは間違いなく抵抗が少ない。

 

「トシちゃん、そろそろ胃薬じゃ足りなくなるわよ。怪我までしちゃってるんだもの。しばらく安静にした方がいいんじゃないかしら……」

 

 伊豆提督が心配するのは保前提督のメンタルである。ただでさえこの港に元凶の秘密基地じみたものが存在しているというだけでも苦しいのに、軍港都市での戦いの末に自爆なんてことをした敵が現れ、トドメは部下の艦娘の軍規違反である。下手をしたら保前提督の胃が爆発するのではと心配になるほど。

 

「私としては、深雪のことも少し心配ね。また少し暴走しかけたの」

 

 神風の心配はそちら。深雪がどうしても自分を押さえつけられないというのが不安で仕方ないと話す。

 港湾棲姫を見つけた時でも最後まで付き合うと言い、爆発音が聞こえたら力になれなくても向かおうとする。すぐ助けたいと思えるくらいに正義感が強いといえば聞こえがいいが、後先考えずに周りの迷惑も考えないとなると問題点にしか聞こえない。

 電もそうだが、深雪こそメンタル面の訓練が必要なんじゃないかと思えると神風は語る。伊豆提督もそうかもしれないと強く頷く。

 

「いつか痛い目を見るわ。そうなる前にしっかり鍛えておかないと」

「そうね……ポジティブ方面に暴走するのは、ネガティブ方面よりも矯正が難しいと思うわ。根気強くやるしかないわねぇ」

 

 2人して深く溜息を吐くこととなった。もうかなり練度が上がっているというのに、まだまだ不安である。

 

 

 

 

 駆逐艦の会がうみどりに帰投してから少しして、軍港都市を散策していた仲間達が次々と帰投する。あの爆発音が聞こえてから、大急ぎで戻ろうとしたようだが、街中が混雑してしまっていたため、戻るまでに時間がかかってしまったらしい。

 真っ先に戻ってきたのは長門と、共に行動していた加賀。大量の食べ物系のお土産を手にしていたが、伊豆提督の怪我を見た途端に目を見開いて驚き、お土産を落として駆け寄った。

 

「何があった」

「後からちゃんと説明するから、あまり焦らないでちょうだいね。アタシはこの程度で済んでるけど、マークちゃんやトシちゃんは結構傷が重いのよ」

 

 言葉はないものの、加賀も沸々と怒りが湧き上がっているようだった。

 伊豆提督が怪我をすることなんてまず無い。それがこうなってしまっているということは、先程の爆発音が原因であることは一目瞭然である。それを引き起こしたのが誰かとなれば、間違いなくこの軍港に潜む元凶。

 

「あの爆発を起こしたのは何処の何奴かしら。今から爆撃してくるわ」

「落ち着いてちょうだい。今ここでやっても、街が騒ぎになるでしょう。それに、話が聞ける重要参考人が今ここに来てくれているわ。その話を聞いてからでも遅くないから」

 

 爆撃をするなとは一言も言っていない。だが、今ではない。むしろ、タイミングを見計らって確実に潰しに行く。

 そのためには、密告者としてうみどりに迎え入れることが出来た港湾棲姫から話を聞く必要がある。何処まで詳しいかはわからないが、敵の拠点がどうなっているかはわかるはずだ。

 

 その後、帰ってきた仲間達は次々と戦意を見せ、何処の誰だとか、いつ攻め込むとか、かなり好戦的な発言をし続けた。まるでトップを襲撃されたマフィアか何かかと伊豆提督は苦笑する。

 艦隊のアイドルとしていつも明るい那珂までもが、ニコニコしながらたった一言、『いつ()る?』と聞いてきたのは、伊豆提督としては深雪達には見せられない表情だと感じた。

 

 

 

 

「全員無事に戻ってきたかしら。ちゃんと点呼しておきましょ」

 

 イリスは現在、港湾棲姫の精密検査をしているため、それ以外の仲間達がうみどりに全員戻ってきたかどうかを確認する。一部はうみどりで留守番をしていたため、点呼の必要も無かったのだが、念のため。

 どうせ今から全員を集めて話し合いをするのだから、そのついでということで進めていく。

 

「うん、大丈夫ね。誰も怪我は無かったかしら」

 

 一番怪我をしているのは伊豆提督だというのに、部下の心配ばかり。それに対して誰もが口を揃えてお前が言うな状態である。

 幸いにも、あの爆発事故で他に巻き込まれるようなことはなかったようで、今一番狙われるであろう深雪が無事に帰ってこれたことで全員の安全は確約されていたようなものであった。

 

「潜水ちゃんも大丈夫ね」

 

 伊26に連れられて部屋に入った潜水新棲姫も、小さく頷いた。

 

 うみどりから外には出ていないものの、伊豆提督が怪我をしているのを見て怯えてしまっていた。怪我人というのがどうしてもトラウマを抉るような感覚になるようで、基本的にローテンションであるものが、余計に落ちている。

 とはいえ、怪我はしていても伊豆提督はいつもの調子であるため、潜水新棲姫も多少は落ち着けていた。伊豆提督がここから死ぬようなことはないと確信を持てるため、安心出来ているようである。

 

「それじゃあ、今後の話をさせてもらうわね。今のところ、依頼されている後始末の仕事は少しあるんだけれど、大規模というモノは今のところないわ。だからといって放置するわけにはいかないんだけれど、少しだけ、ほんの少しだけ優先順位が高いことが出てきてしまっているのはわかるわよね?」

 

 全員が頷く。軍港都市に潜む元凶の拠点を潰さなければ、今日も同じようなことがまた起きてしまいかねないのだ。わかっているのなら、早急に対処しなくてはならない。

 

 それが後始末屋の仕事なのかと言われれば、実際少し外に出てしまっているような感じはした。

 しかし、ここまでされて黙っているわけにもいかない。特異点を狙っていることを知り、実害まで出てしまっているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「戦争を終わらせる後始末として、一番必要なのは根源の破壊。戦争を拡げるような輩は、ここで潰しておかないと、終わるものも終わらないわ。だから、ここで出来ることは全てしておくつもり。勿論これに関しては、大本営にも連絡をするつもりよ」

 

 上からのお墨付きさえあれば、なんの引け目もなく真正面から突っ込める。それに対して抵抗をしてこようものなら、叛逆として扱えるだろう。何も疚しいことが無ければ抵抗なんてない。見せられないものなんてないはずなのだから。

 

「それに関して、重要参考人が来てくれているわ。アタシとマークちゃんがここまで護送出来たのは本当に良かった」

 

 話しているうちに、部屋の外でイリスが待機しているのも見えたため、すぐにその話に向かう。港湾棲姫の精密検査の結果が出たようで、表情を見る限り、大問題となるようなことは無いようである。

 

「それじゃあ、入ってきてちょうだい」

 

 伊豆提督が呼び込むと、イリスに先導されて港湾棲姫が入ってきた。誰よりも大きな身体ではあるが、その性格から少々猫背であり、申し訳なさでいっぱいの表情。

 深雪達は事前に知っていたため驚かないが、知らない者達はその姿を見たことで目を丸くしていた。重要参考人が深海棲艦であるなんて考えていなかったからである。

 

「まず第一に、彼女はカテゴリーY。本人の証言通り、元々人間だったモノに深海棲艦の成分を混ぜ込まれたモノになるわ」

 

 イリスの目から見ても、それは真実だった。港湾棲姫の言葉に偽りはない。

 

「……救っていただいて……ありがとう、ございます。この御恩は一生忘れません……ここまで連れてきてくれたうみどりの方々と……私を見逃してくれた軍港の暁さんと綾波さんには……感謝しかありません……」

 

 深々のお辞儀をすることで、その性格がどんなモノであるかが一目でわかった。

 

「私が知ることを……全て話させていただきます……」

「ええ、ありがとう。平瀬さんとお呼びした方がいいかしら」

「……はい、好きなようにお呼びください……」

 

 暗い表情は変わらないものの、深雪達が初めて顔を合わせた時よりは安心感に包まれているような表情。うみどりが安全であるとわかり、心を落ち着けることが出来ているようだった。

 

 だからだろうか、その顔を見た途端、潜水新棲姫が大きく反応した。

 

「どうしたの、潜水ちゃん?」

 

 身じろぎをしたため、伊26は潜水新棲姫から手を離す。すると、仲間達がいる中であるにもかかわらず、とてとてと港湾棲姫に駆け寄り、飛びつくように抱きついた。

 

「あ、ああ……桜ちゃん……本当に、ここに匿ってもらえていたんですね……よかった……」

 

 頭を撫でながら再会を喜ぶ2人。本当ならここに潜水棲姫もいたはずなのだが、それだけが残念であった。

 

 

 

 

 潜水新棲姫が最初から懐いているというだけでも、港湾棲姫──平瀬の信用は大きなモノとなっている。ならば、ここから話されることは全て真実であると考えてもいいだろう。

 




潜水新棲姫の名前も今回出ました。桜というわかりやすい名前ではありますが、元ネタはペルセポネの子供であるザグレウスから。
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