そのまま時間は夕暮れ時に。その間に、軍港都市でも爆発した裏路地の片付けや、近隣の住人への補償、交通整備などが完了していた。その場ではガス爆発というカタチで有耶無耶にし、調査自体も軍港鎮守府の艦娘達がこなしているので、住民達が知らなくてもいいことは表に出すこともない。
流石に元凶が秘密基地の上に港を建設して潜伏しており、そこから脱走した密告者を追ってきた敵の研究の失敗作が、あの場所で自爆しただなんて簡単には説明出来ない。都市内での出来事が全て終わったら公表出来るかというくらいなのだが、それもいつになるかという話である。
「さて、集まってもらったのは他でもないわ。今晩、決着をつけに行く」
うみどりでは、秘密基地への襲撃について決まったことが話されていた。この話には、間違いなく戦闘に参加することのない平瀬と桜も参加している。
この集会が開かれるまでに、平瀬による敵拠点の場所を地図を使って教えてもらい、経路まで全て決定していた。この打ち合わせの際には、おおわしから鳥海がうみどりに来ており、そのサポートもしている。
昼目提督も来ようとしたようだが、鳥海が押さえつけた挙句、神通、響、白雪の3人がしっかり見張りまでして安静にさせたとのこと。
「時間はここからもう少し後になるわ。深夜とは言わないけど、外が暗くなってからになるの。その作戦について話させてもらうわね」
一気に緊張感が増す。しかし、士気はこれまでで一番高い。伊豆提督が怪我をしていることもあり、そこにあるのは
「その前に、今回の件については、アタシとマークちゃん、トシちゃん、そして瀬石元帥で決定したことよ。だから、大本営の許可は下りているわ。だから、何も心配しないでちょうだいね」
この夕方までの時間に、大本営との打ち合わせまで終わらせていたようだった。当然ながら、その通信すらも傍受されている可能性を考慮して、詳細まではその場では決めず、各々で戦力を持ち寄って決着をつけにいくという手筈となった。
調査内容は全て報告済み。保前提督は、軍港都市で起きたことも全て報告をしたことで、瀬石元帥からの許可を取り付けていたのだ。
報告したのは全て、
「過去の……亡霊……」
「ごめんなさいね平瀬さん。アナタのことまで纏めてそんな言い方になっちゃって」
「……いえ、まさにその通りだなと思って。過去の亡霊……悪霊の類と言ってもいいのかもしれません……」
本来ならば死んでいてもおかしくないのに、未だに生き続けている元凶達。人様に迷惑をかけながら、私利私欲のために好き勝手やり続ける悪霊。この世に残っているのがおかしい存在。
その存在のせいで、第三次深海戦争は終わらない。瀬石元帥は、この軍港都市に蔓延る存在をそう定めたのだ。ならば、軍の力を以て殲滅する必要がある。世界の平和のために。
しかし、保前提督はやはりお咎め無しというわけには行かない。長い年月──保前提督が管理人になって10年弱ではあるが、その間にその痕跡を一切見つけられなかったことは、いくらあちらが巧妙かつ狡猾であっても罰則無しというのは厳しかった。
それに加えて、部下の独断先行による深海棲艦の保護。それが元人間であり被害者、かつ今回の襲撃のための情報提供者であっても、軍規を犯していることには変わりない。
ケジメとして、保前提督には後々処分が下されることになっている。今回の
「時間が遅くなるのは、元帥からも援軍が来てくれるからなの。今大急ぎで向かってくれているから、到着次第、出撃になるわ」
うみどり、おおわし、軍港鎮守府の共同戦線にはなるのだが、そこに大本営直属の艦娘がいてくれれば、後ろ盾としても完璧。大本営からの指示の下で戦えている証明ともなるため、文句を言われることも無くなる。
むしろ、このやり方に文句を言う輩がいるというのなら、それはほぼ確定で元凶と繋がっていると言えるだろう。軍港都市の住民のことを考えて云々かんぬんと言い出しても、それが建前であることはお見通し。むしろ、この件で大本営の中に元凶と繋がっている者がいないかを炙り出すためにも、襲撃を許可したと言える。
「陸上での戦いとなるから、そのスペシャリストを寄越してくれるらしいわ。本当に、頼りになるわね元帥は」
その元帥の援軍は、海戦よりも陸戦の方が得意という少々変わった艦娘らしい。対地攻撃などにも秀でているため、陸上施設型深海棲艦相手には屈指の強さを誇るという。それでいて艦載機まで使えるため、こういった陸からの拠点襲撃にはもってこいの人材。
何故そんな人材が元帥の手元にいるかというのは、少々闇が深いところになりそうなので、今は詳細を省く。
「その子達が到着するのが、もう少し後になるわ。陸路で来ているからどうしても時間がかかるみたい。でも、トシちゃんも許可済みだから、来ちゃえばスムーズに合流出来ると思うわ」
そこからが本番。一気に攻め込んで、元凶を捕らえる、もしくは
保前提督からの情報から考えれば、元凶は艦娘と深海棲艦どちらの力も取り込んだ人間と言える。それはもう捕獲だなんて甘いことを言っていられないかもしれない。
そもそもが死罪確定くらいの存在であるため、最悪の場合は始末も視野に入れておかなくてはならない。そこまでの力を持つのなら、全力で立ち向かわなければ逆に殺される。
「それじゃあ、ここからは出撃のメンバーを伝えるわ。今回は海戦ではなく陸上戦。また、施設内での狭い空間での戦いになることは目に見えているから、なるべく小柄、かつ迅速に行動出来ることが重要になるわ。火力が高すぎると施設が倒壊する可能性もあるから、そこから選ばせてもらった」
通路の広さというのもあるが、平瀬の証言から、それなりに大きめではあるらしい。主砲フル装備の長門でも余裕を持って通れるらしいが、すれ違うことは難しいとのこと。神風も体格に対して大きめの艤装ではあるが、そこは駆逐艦であるため良しとされている。
結果として、向かえるのは軽巡洋艦以下。これが前提となる。
「こういう時は同じ子になりやすいのが申し訳ないけれど、発表するわ」
まず筆頭として挙がったのが神風。やはりといえばやはりである。筆頭駆逐艦としての実力は、その狭い空間でも発揮出来るとされており、今回の部隊の旗艦としても任命されている。
こういう場では、駆逐艦が旗艦となることも珍しくはない。水雷戦隊だからといって、軽巡洋艦が旗艦でなければならないというルールは、このご時世には存在しない。
そこから、やはり小柄でありそういう場でも戦えるという理由から選ばれるのが、子日と秋月である。このメンバーは、以前改造された軽巡棲姫との戦いにも参加している。駆逐艦の中では、武闘派というのとは違うものの、
そして、こちらもやはりと言っていい存在である那珂。海戦では旗艦を張ったが、今回は旗艦ではなく随伴艦としての任命。
以上4名が、うみどりから選出されたベストメンバー。少ないと言えるかもしれないが、実際は大人数で向かう方が危険である。ただでさえ狭い空間。多すぎると逆に戦いにくくなることは目に見えていた。
その上、おおわしや軍港都市からもある程度メンバーが選出され、さらには瀬石元帥からの増援まで来る。全員合わせればそれなりの人数になるだろう。ならば、うみどりからは精鋭を出すことによって、より確実な勝利に繋がる。
「残りは艦内で待機……と行きたいけれど、基本的には艤装を装備した状態で待機してちょうだい」
襲撃している間に、うみどり自体が狙われることも考えての作戦である。少数精鋭を出撃させるのは当然のこととして、待機する者達がそのまま待機するというのは流石に有り得ない。
むしろ、襲撃が傍受されている可能性を考えると、手薄になった艦を狙おうと考えることだってあり得るのだ。ならば、本拠地としているここが無事であることの方が大切。どちらかといえば、襲撃を成功させることよりも重要であろう。
そのため、出撃が難しい主戦力は全員、うみどり防衛に努めることとなる。深雪と電もここに加わることになる。
「深雪ちゃん、電ちゃん、アナタ達はこんな戦いをするなんて思ったこともないだろうから、心して聞いてちょうだい」
少し真剣な表情で2人を見据える。緊張感がある空気に、深雪は生唾を呑み込み、電は小さく震える。
「今回の敵は、深海棲艦じゃない、人間の可能性もある。最悪の場合、
伊豆提督達が襲われた時の敵──深海棲艦と混ぜ合わされた時の失敗作は、見た目だけで言えばある程度は人間に近かった。ぱっと見であれば、それは人間と言っても過言ではない。だが、中身は敵である。
そんなの相手に戦えるかという意思確認。人間を守るための艦娘が、人間のようなモノを相手にしなくてはならないというのは、精神的な苦痛が伴うだろう。
「わかってる。敵がそういうのであっても、やらないといけないってことはわかってるつもりだよ」
深雪は覚悟を決めたような目で答えを返した。電との会話で、この辺りの気持ちの持ち方が正しい方へと向いていた。
人間は守るべきもの。その考えは変わっていない。しかし、そうなってしまったら救えるかもわからない。そもそも救おうとしても自爆してしまうレベルである。
ならば、これ以上に被害を拡げないために、一思いにやってしまうしかない。それで躊躇って、他の者に危害が加わる方が辛いことになる。
「あたしはまだまだ弱っちぃけど、なんかあっちには重要なんだろ。だから、あたしは死ぬわけには行かないんだ。あっちの思うツボだもんな」
「……ええ、アタシにも深雪ちゃんの重要性がまだわかっていないくらいだけれど、あちらが狙ってくるというのなら、全力で守るわ。自分の身は自分で守ってもらわなくちゃいけないこともあるでしょうけど、深雪ちゃん1人に何人も何十人も来られたらどうにもならないもの」
「ああ、その時は悪いんだけど、みんな頼む。なんかあたしが
何処かスッキリしたような顔をしていたところを見て、伊豆提督は内心ホッとしていた。昼時から浮かない顔をしていたのはわかっており、何か悩みがあることも気付いていた。しかし、伊豆提督がその相談に乗れるかはわからない。
それ故に、同じように深雪が悩んでいそうであることに気付いていた電に任せていたのだ。そしてそれが上手く行った。
電も深雪と同じようにいい表情をしていたことから察する事が出来た。お互いに、いい方向に進めているとわかった。
「あと……時雨ちゃん」
「なんだい?」
「アナタにもうみどり防衛をお願いしたいんだけれど、良かったかしら」
ここは一種の賭けにもなる。何は無くとも、時雨はカテゴリーM。呪いによって人類に憎しみを持つ存在である。そんな時雨に、人間を守ってもらえないかと頼むのは、少々躊躇いがあった。
返答がNOでも何も文句は言えない。だが、襲撃に加わってもらうわけにもいかない。うみどりから出すと、衝動的に何かをやらかしてしまう可能性が無いとは言えないのがカテゴリーMだ。
「時雨よぉ、とりあえず、一宿一飯の礼のためにも、ここ守ってくれよ」
時雨が返答を迷っているようだったので、深雪が先んじて口を出した。人間を守るのは嫌かもしれないが、恩を仇で返すようなゲスでも無いだろうと当てつけのように付け加えて。
優しさからやっているわけでは無い。ゲスだと思われるのが気に入らない。だから
「……確かにここで雨露を凌げるのは感謝すべきことだね。その恩くらいは返そうかな」
「しかも、ここが残れば美味い飯もそのまま食べられるからな。それに……あたしはお前にまだ勝ててないから、ここにいてもらわなくちゃ困る」
「はは、それが目的だろうに。でも、僕としても仮想空間で君をボコボコにするのは憂さ晴らしになるからね。それが出来るだけでも守る価値はあるかな」
素直じゃないねぇと深雪はニチャリと笑うが、時雨はそれを意図的に無視した。
これで、夜の決戦のメンバーは決定した。あとは、その時が来るのを待つのみ。
少数精鋭がわかりやすく小柄で格闘戦に向いていそうな面々。秋月はその中でも長身ですが、こういう時はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。