後始末屋の特異点   作:緋寺

146 / 1162
鬨の声

 話し合いの後、しっかりと夕食を腹に入れ、万全の状態でその時を迎える。時間が時間であるため、ここで身を清めると眠気がやってくるものだが、緊張感があるおかげか、誰も眠いなんてことはなかった。むしろ、やる気が限界まで出ているくらいに感じられる。

 

 元凶の潜む廃棄物回収業者の施設には、港から真っ直ぐ向かえるため、集合場所は港、うみどりの前となっている。うみどり防衛に参加する者達もそうだが、まずは一旦全員がうみどりから外に出た。平瀬と桜は流石にうみどり内で待機。

 深雪も電も、うみどりの防衛という任務を帯びてそこに立つこととなるため、少々緊張しつつも、震えることなくその時を待つ。このまま防衛のためにうみどりには入らなくなるので、既に艤装も装備済みである。

 

「痛て……まぁでも歩けるからいいな」

 

 怪我を負っても尚、決戦への見送りはしたいということで、昼目提督もおおわしから出てきている。鳥海が隣でハラハラしているものの、足取りはそこまで重いものではなかった。見かけだけそうしているのかもしれないが、だとしても普通に動けている分、怪我が軽く見えてしまう。

 しかし、身体中に包帯を巻き、腕もギプスで吊っているような状態。間違いなく戦えるような状態ではない。こうして外に出てきているのも、そこそこ無理をしている。

 

「マークちゃん、大丈夫じゃないでしょ。安静にしておきなさい」

「今回はちゃんと見送らねぇといけないでしょう。元凶を潰して、戦争を終わりに向かわせるんですから」

「鬨の声はアタシ達だけでも大丈夫よ?」

「だとしてもっすよ。俺が悔いを残したくないんで」

 

 出撃の時は必ず見送ることにしている昼目提督。今ここに伊豆提督がいるのと同じ理由である。部下のメンタルのためだ。

 

 今回の戦いは確実に過酷なモノになる。ならば、艦を治める者が部下を鼓舞して、メンタル面で力を増させる。おおわしの艦娘達は、全員が昼目提督に対して強い信頼を持っているため、頼んだと言うだけでも気合が入るというものであった。いわばルーティンみたいなものだ。

 これをやらなかったから敗北を喫したなんてカタチになったら、艦娘もだが提督にも悔いが残る。ならば、傷を押してでもこの場に立ち、勝利に少しでも貢献する。

 

「あまり無理はしないこと。アタシもそうだけど、今回は本当にどうなるかわからないわ」

「うす。勿論理解してるっス」

「ならいいんだけど。鳥海ちゃん、その子のこと、ちゃんと見ておいてね」

「はい、離れたらもっと何するかわかりませんから」

 

 苦笑しながらも、鳥海は昼目提督の隣から離れない。秘書艦として、信頼は出来るが放ってはおけないこの提督を、傍で支えると決意していた。

 

「ハルカ先輩、うちからは3人出します。うちの精鋭っス」

 

 そう言って昼目提督が紹介したのは、いつもの顔ぶれ。神通、響、白雪である。

 調査隊の中でも先陣を切ることが多いのがこの3人。実力もさることながら、それ以上に()()がある。相手が人間であろうと、深海棲艦の力を埋め込まれた失敗作であろうと、いつもと変わらぬ表情で淡々と仕事をこなすだろう。昼目提督も、そこから選出している。

 

「アタシの方からは4人よ。トシちゃんの方からは……」

「お待たせしました〜」

 

 このタイミングでちょうど軍港鎮守府も増援が駆けつける。独断先行の罪で罰則を受け、今回の決戦の前線に立つことになった綾波と暁。

 綾波はいつもの調子で緩い雰囲気を持ったままだが、暁は何処か表情が違った。緊張しているわけではないが、険しい表情。

 

「暁ちゃん、大丈夫? 話は聞いているけれど、何処か気負ってないかしら」

 

 伊豆提督も心配そうに話しかけるが、暁は大丈夫とボソッと呟く程度だった。逆に心配になるような言動ではある。

 

「大丈夫ですよ〜。暁ちゃん、実戦の前はいつもこんな感じなんですよぉ」

 

 綾波が補足説明をする。なんでも、ここの暁は演習ではいつものように振る舞うのだが、実戦の前にはその恐怖を振り払うためにこんな感じになるのだという。

 今回はそこに罪の意識が加わり、さらには怒りまで抑え込むために、どうしても表情が無くなってしまうようだった。そうでもしないと泣いてしまいそうだったし、仲間達の士気を下げてしまいそうだったから。

 

 遠目にこの暁を見ていた深雪と電は、暁が豹変しているようにも見えた。どうしても子供っぽい仕草が目立つ暁が、今は精鋭の艦娘という佇まいになっていた。

 

「あら、アナタも来てくれたのね」

「夜戦と聞いて!」

 

 そして軍港鎮守府からもう1人。狭い空間での襲撃任務に適した艦娘として派遣されてきたのは、まるで忍者のような身なりの軽巡洋艦、川内。

 

「本当は能代が来てもよかったと思うんだけど、そこは提督のお世話しなくちゃいけないからね。それに夜の戦いって聞いたら、私しかいないでしょ」

「そうね、みんなをよろしくお願いね、()()()()ちゃん」

「まっかせて! 夜とこの街は私の庭みたいなものだからね!」

 

 決戦ではあるのだが、その表情は暁とは真逆のニコニコ笑顔。どちらかといえば綾波に近い。

 昼も当然強いのだが、夜に本来の軽巡洋艦以上の力を発揮するという少々変わった能力を持つ川内。特殊能力だとか超能力だとかそういう類ではないのだが、艤装に引っ張られた結果がそういう戦術となるらしい。

 そして、ついた渾名は『夜戦忍者』である。夜に音もなく忍び寄り、暗殺するかのように敵を始末する。今でこそ喧しさがあるが、いざ実戦となると途端に静かになるらしい。

 

 うみどりから那珂、おおわしから神通、そして軍港鎮守府から川内。この3人は()()()()である。他人ではない他人と感じる艤装姉妹だが、この3人は艤装に引っ張られるカタチで姉妹関係を感じていた。

 

「上手いこと行くもんだねぇ。綺麗に川内型が3人揃ったよ」

「ですね……。でも、今回の戦いには的確な選択ではないかと思います」

「だよねー。那珂ちゃん達、こういうところで強いもんね♪」

 

 三者三様、しかし、その力はどの提督も一目置くほどのモノ。故にここで集結することとなった。

 

 残すところは、大本営からの援軍。時間としてもそろそろではないかと思っていた矢先、明らかに港に向かって走ってきた大型の()()()が見つかった。

 適切な速度で、しかし迅速にここまで走行してきたそれは、うみどりとおおわしに近い場所で止まる。

 

「すまない、遅れたか!」

 

 その運転席から現れたのは、深雪達がこれまで見てきた艦娘の中でも特に異質な姿をしていた。制服として着ているものが、()()()()()()()()()()()()()()である。

 助手席から降りてきた者も、同じように少々違う雰囲気。その服装の色合いも相まって、()()()()を漂わせているかのようだった。

 

「あらあら、陸戦が得意と聞いていたけど、アナタ達だったのね」

「うむ。特殊船M丙型、揚陸艦の熊野丸だ。今からより、貴官の指揮下に入らせてもらう。よろしく頼むぞ」

「特2TL型、特設護衛空母の山汐丸、であります。よろしくお願いいたします」

 

 熊野丸と山汐丸。この2人の共通点は、海軍ではなく()()()()()()()。だからだろうか、艦娘として海戦に出ると少々癖が強い特性を持っているため、運用が非常に難しいとされている。

 だが、陸の者という艤装の特性からか、陸戦では普通の艦娘よりも強力。その上、どちらも艦載機──艦戦と艦爆──を扱えるため、制空権争いにも参加出来るという器用さも持ち合わせている。

 その代わりに主砲などが扱えないため火力不足は否めないのだが、今回の作戦では主砲火力よりも重要な力を持っていることで、瀬石元帥は2人を派遣したと言える。

 

「話は元帥閣下から聞いている。過去の亡霊を始末し、世界の平和を取り戻すのだと。そのために、俺達はここに来たのだとな」

「陸戦でしたら、我々の出番であります。そのための()()も、持ってまいりました」

 

 大型の装甲車に積まれていたのは、2人の艤装とそれを整備する妖精さん。そして、明らかに艦娘には必要ないだろうと思われる陸戦のための武器。慣れていないとまともに使えないため、専ら熊野丸と山汐丸しか使わないだろうが、念のためと数を多めに持ってきているようである。

 

「あら、じゃあこれ借りていいかしら」

 

 その武器に食いついたのは、まさかの神風である。他の者が使えるとは思えないようなものであっても、神風なら取り回せると考えた。

 

「うむ、構わぬ。貴様は()()神風であろう。ならば、それがいいだろうな」

 

 熊野丸も神風のことは知っていたようで、神風が手に取ったモノ──一本の()()()は自分より神風に向いていると喜んで貸し出した。それをチャッと脇に差すと、それだけでも様になる。

 実際、この居合刀は艦娘が使うために作られた特注品。艤装のパワーアシストを以てしても壊れないだけの強度を持ち、さらには兵装扱いとなるためにより強く威力が出せるという優れ物。

 

 その様子を見た他の仲間達も、念のためと各々武器を手に取る。素人かもしれないが、持たないよりはマシ。砲撃が出来ないような場所でも戦えるようにしておく備えはしておくに越したことはない。

 

「これで12人。連合艦隊ね」

「うす。これが人数的にも限界でしょう。これ以上だと襲撃してもお互いが邪魔になっちまいます」

「ええ。ちょうどよかったわ」

 

 ここまで集まり、ついに作戦が始まる。

 

「じゃあ、簡単にだけど作戦の説明をするわ。と言っても単純明快だけれど」

 

 襲撃に参加する12人がざっと伊豆提督の前に並ぶ。深雪と電は、ここまで真剣な出撃前を見たことがないため、生唾を呑み込みながら見守る。

 

「目標は敵組織の拠点、廃棄物回収業者。そこにいる敵達の殲滅、また、捕縛よ。人間であればその命を奪うことなく捕縛出来ればよし。ただし、深海棲艦の力を埋め込まれている上に、自爆するような輩もいるの。そういう連中は……申し訳ないけど、安らかに眠らせてあげてちょうだい。勿論、対話が出来るのなら話くらいはしてもいいけれど、重要なのはアナタ達が無事に帰ってくることよ。いいわね」

 

 単純明快、しかし命を奪うか奪わないかはその場で考えろという少々面倒な作戦。

 

 相手は人間であるのだから、無闇に命を奪うのはよろしくない。人間なら人間らしく裁く。その上で死罪だというのならば仕方ない。

 しかし、もう話も通用せず人間でも無くなってしまっているというのなら、もう無理である。話が出来ない深海棲艦(カテゴリーR)と同様に、命の奪い合いとなるだろう。

 

「お前らの帰るべき場所は、オレ達が守っておく。だから、背中は任せな。お前達は心配しないで、全力で締め上げてやれ!」

 

 昼目提督の鬨の声も、気合を入れるのには充分だ。夜であるためあまり大きな声は出せないが、参加者だけでなくこの場を守る仲間達も拳を突き上げた。

 こんなことをするのも初めてな深雪と電も、周りの仲間に合わせた。うみどりを守るのだと決意し、ここから出来ることを全力でやる。

 

 

 

 

 ついに始まる決戦。攻めと守り、そのどちらも重要な戦いだ。各々が与えられた役割をこなすことで、世界の平和に向かっていく。

 




次回からついに廃棄物回収業者襲撃。真相に近付くことが出来るでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。