廃棄物回収業者の施設への襲撃を開始した部隊は、施設に辿り着く前に妨害者に阻まれてしまう。
しかし、それをすぐさま片付けようと、走行中だというのに川内を筆頭とした艤装姉妹が飛び降りた。かなり危険ではあるのだが、3人とも全く気にすることなく着地し、川内に至ってはそこから即座に砲撃を放つほどである。
「ここにいる連中、まともな人間いないじゃん! 全部ぶっ飛ばしていくよ!」
夜ということでどうしても周囲は暗いが、夜戦をメインにしている川内は夜目も利く。その目を使って見える限りの敵を確認し、その全てが正気ではない男達であることがわかった。
事前に聞いていた通り、深海棲艦が混ぜ合わされているような部分が何処かしらに見えるのだが、中にはヒト型なだけで深海棲艦の要素の方が多いような者までいた。そういう者には一切の躊躇なく砲撃が放てる。
「ごめんね、那珂ちゃんのファンになってほしかったけど、那珂ちゃんの声も聞こえてないみたいだもんね。だったら、ここで眠っていてもらうね」
川内と同様、那珂も躊躇なく砲撃を放ち、妨害者を確実に斃していく。こんなことはしたくないのだが、理性も何もない狂気に呑み込まれた者を安らかに眠らせるには、早急にその命を終わらせることが最も適していると判断した。
簡易ではあるが、心を込めて、鎮魂歌を口ずさみながら蹴散らしていく姿は、神々しさと同時に恐ろしさすら感じるものである。
「邪魔をするのなら、すみませんが斃れてください。貴方達に罪はありませんが、私達が止められる義理もありません」
そして、神通は川内よりも冷静に、那珂よりも淡々と、装甲車に向かおうとする妨害者達を処理していく。人間のカタチを強く残している者であっても、正気ではなくこちらの言葉を聞かないというのならば、神通は容赦しない。
人間の意思を残しているのならば、主砲を向けられた時点で何かしらの反応を見せるはずだが、それすらもなく、ただ殺意だけを向けてきたのだから、それはもう人間ではなく敵だ。
「砲撃も下手だねぇ。でもその分変なところに飛んでくから怖いや」
「自爆もするという話です。斃した後、なるべく離れた方がいいですよ」
「それか、
撃って斃していくだけでは足りない。自爆の可能性がある以上、近付かせるわけにはいかないのだ。故に、砲撃で斃すよりも近付かれた場合は、強引に蹴り飛ばし、間合いをしっかり取ってから砲撃で片付ける。
短時間ではあるが、自爆した敵については提督3人がそれぞれで分析をしており、ある程度の憶測は立てていた。自爆のトリガーが何であるか。
気絶することがトリガーではない。そこから時限式になっているとも思えない。死んだら止まるかと言われればそうでもない。3人が3人、全く同じ答えに辿り着いている。
「これも何処かで誰かが見てるのかな」
そう、
路地裏の戦いで十数人が一斉に爆発した時、人間に対しては重傷を負わせるだけのダメージを与えるに留まっていることを考えると、その火力はそこまでのモノでは無いように思える。提督達が頑丈だっただけということも考えられるが、少なくとも艦娘はそれ以上に頑丈。
とはいえ、今ここにいる敵全員を一斉に爆発させれば、川内型の3人はひとたまりも無いかもしれない。斃している者をカウントしても、ざっと見て何十人といる状態だ。全員にまとわりつかれた挙句に自爆されたら、流石に艦娘といえど厳しいだろう。
「視線は感じませんね」
「神通はそういうのわかるタイプ? 私も見られてるって感じはしないかな。那珂は?」
「那珂ちゃんもファンの視線は感じなーい」
3人揃ってその辺りの感覚はあるようで、敵からの視線は感じないという。つまり、直接見られているわけではない。
「でもー」
言いながらも那珂は施設の方へと目を向ける。
「収録されてるかもしれないかなー?」
「ああ、そりゃあこんな施設だし、監視カメラくらいはついてるか。そこからこっちの動きを見て、頃合い見て爆破かな」
「可愛く撮ってほしいな♪」
一挙手一投足をアイドルらしく振る舞いつつ、確実に敵を殲滅している那珂に感心しつつも、川内は監視カメラが無いかをざっくりと探す。
「ちょいと眩しいよ。敵に専念しておいて」
それだけ言うと、川内は施設に向かって砲撃……ではなく照明弾を撃ち上げた。弧を描いて飛んだそれは、上空でパーッと光り輝き、戦場となっている地を明るく照らし出した。
「……可哀想な敵ですね。元々人間であったでしょうに、あそこまで
夜であるからあまりハッキリと見えていなかった妨害者。敷地の外に出すモノはなるべく人間のカタチが残っているモノを選択しているのだとわかるくらいに、今ここにいる敵は酷いモノだった。神通が醜いと呟いてしまうのも無理はない。
あるモノは、頭がもうヒトのカタチをしていなかった。
あるモノは、腕が肥大化して非常にバランスが悪かった。
あるモノは、甲殻に埋め尽くされていた。
ヒト型の深海棲艦の方がまだ見た目として成立していると感じるほどに歪。実験材料にされ、何かしらの処置を受け、ここまで酷いことになってしまっていると思うと、元凶のやっていることがどれほど悪辣であるかが嫌でもわかる。
ああなってしまってはもう元には戻れないだろう。
自我もなく、人としての尊厳も失われ、ただ元凶に使われるだけの哀れな人形。使い捨てにされた挙句、自爆で肉片すら残らない。可哀想という言葉では済まなそうな存在。
「見えた。監視カメラ破壊しておくよ」
この照明弾の光の中、微かに反射した監視カメラの痕跡を確認した川内は、即座にそちらに対して砲撃を放つ。
建物に対しての攻撃であるため、当たれば相応の音はするし、破壊にはなる。ガラガラと瓦礫を落としながらも、監視カメラは見える範囲で全て破壊される。
「よし、とりあえずOK。それでも自爆されるかもしれないけど、一旦施設の中に向かうよ。熊野丸も横付け出来てるみたいだからね」
「了解です」
「那珂ちゃんりょうかーい♪」
ある程度始末したことで時間稼ぎは完了。施設の真横に装甲車が横付けされたことを確認し、川内達はそこから仲間達が降りるのをサポートするために移動。
むしろここからが本番である。今回の目的は施設内の元凶を縛り上げることなのだから。
熊野丸の高笑いとともに装甲車の荒々しい運転が終わり、ほぼ施設に突撃するかのようなテクニックで、施設の入り口前に横付け。しっかり掴まっていたからよかったものの、装甲車の後部は酷い揺れであり、三半規管が強くなければここでリタイヤしていたのではないかというくらいのモノだった。
「すまんが早く降りてくれ! 俺達の艤装を出さねばならん!」
「わかってるわ!」
止まったところで後部に待機していた艦娘達が一気に降りる。焦ってもいいことはないため、敵が来ないことを確認しながら確実に作戦を遂行する。
全員が降りたところで、熊野丸と山汐丸は奥に積み込まれた自身の艤装を妖精さんに運んできてもらい、即座に装備。何分もかからないと言っていたが、妖精さんの手際がかなり良かったため、1分もかからずに準備完了。
「山汐丸、頼むぞ」
「了解であります。皆様方、少々お下がりください」
そういうと、腰から伸びた甲板がガシャンと動き出す。そこに妖精さんと共に現れたのは、回転翼機である。しかも、オートジャイロではなくヘリコプター。
本来は対潜哨戒機としての運用が強めであるのだが、山汐丸が扱うこの回転翼機は特別仕様。観測機としての要素に重きを置き、上空からこの戦場を観測するために発艦させた。
「施設内部に入っても、自分が外の状況を常に確認しておくのであります。心置きなく突入し、殲滅をしてください」
これで施設内にいる間に外で何かが起きたとしても、ある程度はどうにか出来るようになった。施設外部に敵がおり、回転翼機を撃ち墜とそうとしてくるにしても、
「俺も1機出しておく。念には念をだ」
熊野丸も同様に、回転翼機を飛ばした。これにより、2人から外部の情報が得られるようになったため、多少は安心して突入が出来るようになった。
「ある程度ヤッたけど、まだまだ出てきそうだから、さっさと突っ込もう! 相手してたらキリが無いよ!」
川内を筆頭に露払いをしていた3人が合流したところで、神風が全員の状況を確認。
士気は充分すぎるほど高い。陸上での戦いであっても、誰も臆することはない。気が逸っているようにも見えなくはないが、この戦闘の重要性は理解している。
「よし、じゃあ掛け声なんかもいらないわね。突入よ!」
神風が先頭となり、全員で一気に施設内に突入。艤装はフル稼働。主砲もいつでも撃てるように構えて、しかし慎重さも失うことなく、全神経を集中させて行動に移った。
目標は、目につく者達が救えるか救えないかを即座に判断し、前者ならば保護、後者ならばさらに判断。人間ならば捕縛、
平瀬や桜のような救われるべき元人間がいるのなら、確実に救いたい。しかし、狡猾で悪辣な人間がこちらを騙してくる可能性もあるのだから、その判断は間違えることが出来ない。
元人間だから全員が犠牲者であるとは限らない。
「いざという時は二手に分かれるわ。熊野丸班と山汐丸班でいいかしら」
進みながらもこれ以降の動きをその場で考える。施設内を12人で集まって動くことがいいこととは限らないし、施設内部が入り組んでいるようならば、手分けして探す方が効率がいい。
狭い空間であれば全員いてもまともな戦闘も出来ないのだから、部隊を分けて行動した方が戦いやすくもなるだろう。
「うむ、回転翼機を持つ者は分けた方がいい。その時その時で妥当性のある部隊を判断してくれ。戦力はうまく分ける方がいいと思うが」
「軽巡が3人いるものね。状況で判断するわ」
部隊分けは神風に一任。それも他の者が良しとしている。神風への信頼度は皆高い。
エントランスは時間も時間であるため誰もいない。灯りも無いので暗闇である。そのため、川内が筆頭となり探照灯で照らし出した。
見た目だけは間違いなく普通の廃棄物回収業者。表は客を招き入れられるように綺麗にされているようだが、もうそれが信用出来るものではない。綺麗なのは表向きだけ、裏側は泥沼である。
「何も知らずに運び込んでいる人達もいるんでしょう。それを受け付けてるのがここでしょうね」
「うみどりやおおわしの廃棄物を持っていく人達は、この業者の裏側を知らなかったりするんじゃないかな」
神風の言葉に、響が答える。下請けには何も伝えず、善良な業者に見せかけて、実験材料をかき集めているということだ。調査隊がそこまで確認したわけではないのだが、流れからしてそうであろうと予想はついた。
「わぁ、お出迎えもありそうですよぉ」
そんな中、綾波の少々昂揚した声。もう隠す必要も無いということなのか、このエントランスに新たな人影。間違いなく敵だが、それが人間かそうで無いかはわからない。
「はいはい、ちょっと眩しいよ」
そちらを探照灯で照らす川内。相手が何者であるかを見なくては、何も判断は出来ないのだ。
「……真っ黒じゃないのこの業者」
その姿を見ただけでも、神風はそんな言葉が出た。
そこにいたのは、明らかに