廃棄物回収業者の施設に侵入することに成功した襲撃部隊だが、そのエントランスには何者かの人影。それを川内が照らしたところ、いたのは深海棲艦だった。
部隊がエントランスに入った時点で攻撃をしてこなかったところを見ると、この深海棲艦はカテゴリーYである可能性がある。見た目通りの深海棲艦ならば、探照灯で照らされる前に攻撃をしてきてもおかしくない。
「……集積地棲姫……よね」
神風が呟くと、全員が同意した。
集積地棲姫。うみどりで保護されている
いわゆる
だが、本当に危険なのはそこではない。その姿を見るたびに
最初は大発動艇や内火艇を駆使すれば、申し訳なくなるくらいに簡単に斃せてしまった。姫ではあるのだが、大本営で確認している姫の中でもトップクラスに斃しやすいと言われる姫だったのだが、次に現れた時には耐久力が上がり、その次に現れた時はさらに上がりと、深海棲艦の中では屈指の
故に、その姿が見えた時、全員が警戒した。この集積地棲姫は、
「貴女は敵? それとも味方?」
警戒しつつも、対話が出来そうならば試みる。平瀬や桜と同じようなカテゴリーYであり、ここにいるのもどさくさに紛れて逃走を考えているというのなら、まだ話が出来るはず。
とはいえ、この集積地棲姫はキチンと艤装を装備している。それが、膝から先を包み込むように接続された巨大な腕のパーツ。手のひらで人の頭を握り潰せる程の大きさがあり、艤装によるパワーアシストがあるにしても、まともな接近戦なんて出来るとは思えない。
「わ、私は、て、てて、敵じゃ、ない」
対する集積地棲姫は、その巨大な腕を上げて、無抵抗ですという意思を示した。
しかし、そうであったとしても無闇に近付くことはない。これが騙し討ちの構えかもしれない。そのまま両腕を力一杯振り下ろされたら、艦娘にとっては致命傷になりかねない。
「本当に敵じゃないなら、その両腕の艤装を外しなさい。というか艤装に繋がるモノは全部外しなさい」
「ひっ!?」
神風の隣で一切の容赦なく主砲を構える綾波を見て、集積地棲姫は小さく悲鳴を上げた後に、そそくさと両腕の艤装を外す。
その表情と言動から見て、平瀬のような無理矢理深海棲艦の姿にされて働かされている元人間というイメージが強い。
「は、外した」
腕の艤装を外した後、頭につけていたヘッドホンのような艤装もはずして、もう一度手を上げる。これだけやってさらに無抵抗と示し、エントランスから前に出てきた。
見た目は完全に集積地棲姫。服装まで同じであり、やたらと人間味のある軽装であることが露わになる。
ただシャツを着ているだけのような見た目では、何処かに武器を隠しているなんてことは無さそうに見える。
ただし、集積地棲姫特有のモノとして、胸元などに艤装のようなモノが埋め込まれているため、それがどういうシステムかわからない以上、どうしても警戒する。
「て、敵じゃ、ない、敵じゃないから」
「じゃあ何でここにいるの。私達をお出迎えするため?」
「ここ、ここに、いろと、言われたから……」
集積地棲姫が言うには、この施設の統括からの指示で、夜 今夜はここにいるようにと命じられたらしい。それまではここではなく施設の奥で力仕事をやらされていたという。
仕事自体は平瀬とほとんど同じ。艤装のパワーアシストとその大型の腕の艤装のおかげで、膂力は並の人間では敵わない程に強い。そのため、研究結果の廃棄物などの片付けをやらされていたようだった。亡骸の処理などはやっていなかったようだが。
今夜に関しては、あちらも襲撃について通信傍受をしてハッキリとわかっていたのだろう。それ故に、エントランスに集積地棲姫を配置しておいて、
これで容赦なく集積地棲姫を始末したとしても、あちら側にとっては集積地棲姫自体が
「そういうこと……じゃあ、貴女もいいように使われてここにいるってことかしら」
「そ、そう」
これだけ話しても綾波は主砲を下さなかったため、集積地棲姫は終始ビクビクしていた。死にたくない一心でここにいるのがわかる。
この施設で元凶に従い、廃棄物処理をし続けていたのも、ただただ恐怖の中でだけなのだろう。その力を使って叛逆を企てようとは思えなかった程に。これが元凶の力の強大さなのか、それとも集積地棲姫がただネガティブすぎるのか。
「じゃあ、貴女は元凶の逃走の時間稼ぎに使われてるってわけね。貴女は見捨てて」
「そう、かもしれない」
「かもしれないじゃなくて、そうでしょ。私達がここに来ることを知っておいて、ここにいろって放置されてるなら、間違いなく貴女は囮よ」
小さく溜息を吐いた後、それなら自分達について来いと手招きする。
この施設内は当然ながら初見。それこそ、物的証拠を探しつつ、元凶がいれば捕縛もしくは始末というカタチで行動するにしても、範囲が広すぎる。
ならば、ここに詳しい者に道案内をさせるのが一番手っ取り早い。本当なら平瀬にやってもらいたいところだったが、当人が命からがら逃げ出し、トラウマも残しているような場所にもう一度来いとは流石に言えなかった。
故に、この集積地棲姫を使う。保護はしてやるから施設の奥まで行くために案内してくれと。
集積地棲姫はそれをオドオドしながらも承諾した。1人でここにいるより、誰かしらについていった方が怖くはない。それに、この施設には酷い目に遭わされ続けてきたから、報復が出来るのなら手伝うとまで言い出した。
「この様子も監視カメラで筒抜けなのかしら」
「た、多分……。この施設、や、やたらと、カメラが多い。多分、私達を、逃がさないため……」
そんな中でも平瀬や桜が逃げ切れたのは奇跡としか言いようがない。泳がされているというのなら話は変わるが、仲間達の協力でそこすら撹乱出来たというのなら、平瀬も含めて全員が決死の覚悟を持っていたとしか思えない。
「だからですよぉ。ほらぁ、奥の方から敵が来てまぁす」
綾波の声色は、より昂揚しているモノへ。戦闘が近付いてきたことでウズウズしているようだった。
「ひっ……あ、あれは、
「出来損ない?」
「わ、私は、そ、そう、聞いてる。私みたいに、上手く
ああなってしまっては自我は無いらしいが、集積地棲姫が言うには、何者かに操られるように行動し、統率の取れた動きで施設内、特に奥の方で作業をしているらしい。
言ってしまえば死人、ゾンビの系統。まともな意思もないため、誰かの命令が無ければまともに行動すら出来ない。代わりに各種リミッターが外れているだけでなく、深海の艤装を装備しているため、戦闘力だけは並以上にある。
裏路地で提督達を襲ったのも、装甲車の進行を邪魔したのも、施設外で襲いかかってきたのも、全て出来損ない。
「じゃあ、まずは出来損ないを統括しているのを探して締め上げないといけないわけだ。それが自爆のトリガーも持ってそうだね」
ウズウズしている綾波を横目で見ながら、川内も状況を把握して少し前に出た。奥からやってくる出来損ない達を一網打尽にするために。
しかし、通路としてはそこまで広くない。艤装を装備した2人が横に並べるくらいである。ギリギリというほどではないにしろ、戦闘をするにはあまり適していない場所。
「狭いところだからいろいろ気をつけて戦ってちょうだい! 砲撃はなるべくやめた方がいいわよ!」
今ここで砲撃を放ったら、壁を抉ったりして通路が塞がれる可能性もある。乱射なんてしようモノなら、間違いなくこれ以降の調査に支障が出るだろう。
それ故に、使えるとしても機銃まで。そうでなければ近接武器がベスト。そのために熊野丸はここにいる者達に武器を提供したのだ。
「それじゃあ、綾波、いきまぁす!」
聞くが早いか、綾波は早速その出来損ないの群れへと突撃を開始。持っていた主砲は艤装にマウントし、手に持っているのはよりによってコンバットナイフ。
あちらは撃ってくるということを考慮していないかのようにも見える近接スタイルではあるが、綾波の目はこれまで以上にキラキラしていた。
「助太刀助太刀! 夜戦だからね!」
それに続くのが川内。こちらも砲撃は控えて別の武器で。それも選択した武器はクナイという完全に忍者スタイル。
「子日!」
「りょーかい! 子日も、いっきまーす!」
神風の合図とともに、少々後ろに構えていた子日が全員を
子日の主砲はかなり特殊で、両手を包み込むタイプであるため、簡単にマウントして武器を持ち替えるというのが少々面倒くさい。そのため、子日はあえて主砲のままで近接戦闘に突撃。
だが、その方法がとんでもなかった。軽く地を蹴ったかと思いきや、そのまま
身体能力を活かしたアクロバティックな動きによって綾波達に追いつき、さらに壁を使った跳躍で敵陣のど真ん中に降り立った。
「子日アターック!」
そして、手を包み込む主砲をそのままナックル代わりにして、襲い来る出来損ないの顔面に拳を叩き込んだ。小柄であるためそのままでは上手く届かないものの、主砲をそのまま殴打武器として使っているため、砲塔が出来損ないの顔面を抉るように入り、そのまま吹っ飛ばしている。
出来損ない達も砲撃の構えを取るが、子日はその時点で跳躍済み。床と壁を蹴って駆け回る。その素早さでは、簡単には目で追えない。
「あ、ずるいです! 綾波もそっちで楽しみたいのに!」
そう言いながらも、綾波は出来損ないに砲撃をさせる暇も与えずに、それを持つ腕だけを的確に斬り払っていく。毎回同じ場所を同じように。無力化しては蹴り飛ばして壁に叩きつけ、次へ次へと前に進む。
砲撃だけでもとんでもない精度を出すのに、艦娘としては滅多にやらない近接戦闘ですらこの精度。軍港鎮守府の駆逐艦の中でも屈指の力を持つことを嫌というほど見せつける。意思を持っていたら恐怖で戦意喪失しそうである。
「自爆の危険性も考えないとダメだぞー!」
そして、綾波が無力化した出来損ないは、川内によって頭にクナイを刺されることによって絶命。そのままにしておいたらすぐに立ち上がってくるかもしれないため、ごめんねと小さく謝りながらも容赦なく絶命させていった。
こうなってしまってはもう人間には戻れないだろう。意思が残っているのなら元に戻すための研究も出来るかもしれないが、何者かの操り人形になっているというのなら仕方ない。
「道を開いてくれてるわ。私達も続くわよ。秋月、監視カメラがあったら逐一壊しておいてちょうだい」
「了解。全部見えてますので」
言うが早いか、既に秋月が目に見えている監視カメラを最小出力の砲撃で破壊していた。
秋月の持つ長10cm砲は、艤装では非常に珍しく
そのおかげか、砲撃の出力をある程度コントロール出来た。壁をなるべく破壊せず、カメラだけを的確に狙って放てるのはそのおかげだ。そして、それを華麗に操ることが出来るのが、防空駆逐艦たる秋月の力。秋月の選出は、ここにある。
「さぁ、前に進むわよ! 敵はこれだけじゃないだろうからね!」
集積地棲姫を含めた13人で、出来損ないの群れを掻き分けながら敵の施設を突き進む。その力は、そんじょそこらの軍勢では止めることすら出来ない。