元凶の研究の失敗作、深海の力と適合出来なかった者、出来損ないをけちらしながら、施設を奥へ奥へと突き進む襲撃部隊。
その先陣を切るのは綾波、川内、子日の3人。現れる出来損ないは救えるようなモノではないことが一目でわかるため、的確に、確実に息の根を止めていく。
だが、恐ろしいのはその亡骸でさえも爆発する可能性があること。何処から見ているかわからないトリガーを持つ者が、頃合いを見て一斉に爆発させるかもしれない。それを考えると、始末した出来損ないはなるべくその場から遠くへと離れさせるのが的確だった。
「まだ地下に降りてないから比較的広いけど、狭くなったらもっと注意しないといけないわね」
廊下の端や、適当に見つけた部屋などに放り込んでひとまず良しとしているが、それでもいつかは通路が狭くなるだろう。それに、地下に降りた場合が最も怖い。退路が断たれてしまう危険性があるからだ。
それだけは避けるために、爆発したとしても通路が封鎖されないような場所に置いておくことを心掛ける。ただし、置くにしてもしっかり持ち上げてではなく、強引ではあるが蹴り飛ばすなどをして。
「爆発はしないタイプなのかしら……」
「いや、まだわからん。俺ならば今爆発はさせん」
神風の呟きに、熊野丸が答える。集積地棲姫を保護しているという体裁で、山汐丸と両サイドを陣取っている状態だ。
「というと?」
「どうせ敵に発見された施設だ。どうせなら
大きな収穫というのは、おそらくここに侵入した神風達を一網打尽に出来ることを意味する。そして、それを伴った施設の破壊を、出来損ないと共に起こそうとする。
そこから考えられるのはたった一つ。
「全部爆発させて、私達を押し潰す」
「ああ、俺ならそうする、例えば貴様らが地下に潜ったとしよう。そこで地上の施設を爆破する。するとどうだ。爆発に巻き込まれて死ぬ。そうでなくても地下から抜け出せなくなるだろう。どうせ酸素供給も断っているだろうしな。放置すればそのまま野垂れ死ぬ」
爆発により通路を封鎖しないようにと考えていたが、前後左右だけでなく縦のことも考えなくてはならない。熊野丸はそれを神風に教える。
艦娘は海で戦う存在だ。基本的には自分と同じ高さの敵しかいない。それ故に、注意する座標がそこに寄ってしまう節がある。当然、潜水艦という下の敵と、艦載機という上の敵はいるものの、それはあくまでも海の話。流石に空から自爆する深海棲艦が降ってくるようなことは無いし、上を攻撃したら押し潰されるほどの瓦礫が降ってくることもない。
しかし、陸というのはそういうことが起きる場所だ。潜水艦がいない代わりに、上から降ってきたものに潰されると間違いなく致命傷となる。そのため、常に上を注意するべきだと熊野丸は断言した。
それもあるから回転翼機を念入りに飛ばしている。上を注意すべく、自ら更に上を取る。高さが重要なのは海だけではない。
「壁に寄せても、偏らせるな。柱が崩れたらおしまいだ。なるべく広い場所に積み上げろ。こういう建物の構造上、広い空間の上は、天井を突き破っても広い空間だ。建物を支える柱ではない。壁に棄てるなら広い場所の真ん中だ。曲がり角は特にダメだ。そこに重さが偏っている可能性がある」
まるで自分がやってきたかのような指示である。しかし、その言葉には妙に説得力があるため、仲間達もそれに従い、退けるなら広い場所へと心掛けた。
相方である山汐丸も、熊野丸のその言葉には何も言うことはない。間違ったことを言っていないのだから、冷やかすようなことはしない。
「さて、分かれ道だけれど、私達はここにいるであろう元凶に会いに来たの。何処にいるか知らないかしら」
集積地棲姫に問う神風。彼女はこの施設の統括に指示されてエントランスにいたと話していた。ならば、その統括の居場所くらいは知っているのではないかと考える。
「わ、わから、ない、地下に降りたって、ことしか」
しかし、集積地棲姫が知ることといえば、時間稼ぎのために使われ、その間に施設から逃走を図ったことくらい。地下に降りたのはわかるが、どのルートを通り、どの手段でこの空間から脱出したのかは流石に知らないという。
とはいえ、脱出に地下というのは割と不思議なルートである。地上に出ずとも脱出が出来るということに他ならない。
「地下はどういう場所になっているの?」
「……わ、私は、あまり広い範囲を、動けなかったから……奥まではわからない。で、でも、私達みたいな……て、
外に出せないような適合者──カテゴリーYは、地下で飼い殺しにされていたと考えられる。そのため、集積地棲姫が動ける範囲は、その居住区と言える場所と、仕事をさせられる処理場、そして食事を摂る食堂程度である。
深海棲艦であっても、元人間だからか食べなくては生きていくことは出来ない様子。そして、食生活はそこまで悪いものではなかったらしい。それこそ、奴隷のように使われているから栄養もほとんど貰えなかったというわけではなく、キッチリ3食出ていたとのこと。生活基準だけで言えば人間らしいモノであったと、集積地棲姫は語った。
しかしそれは適合者のみ。出来損ないがどのように生活させられていたかは、適合者である集積地棲姫にはわからない。
それに、そもそもの作業が残酷極まりないのだから、生活が良くても苦痛にしか思えない。平瀬のことを思うと、力仕事で物を片付けるだけだった集積地棲姫はまだいい方に思える。
「貴女みたいなのが、まだ他にも沢山いたわけ?」
「……い、いた。た、沢山では、ない、けど」
この集積地棲姫と同じようなカテゴリーYが他にもいるとしても、それが敵なのか味方なのかもわからない。同じように警戒するしか出来ないだろう。
「で、地下ってことは、階段を下りなくちゃいけないわけだけど……」
分かれ道は階段か同じ階の通路か。集積地棲姫もその階段から上に上がってきたというくらいなので、適合者の居住区はそちら側にあるということになる。一応は業者としての体裁を整えているのだろうが、それでも社屋の地下に住めるというのは珍しい。それこそ、まるで
「ここじゃないで地下に行ける場所はあったりするのかしら」
「あ、あるには、あるけど……私には、行けない。行き方が、わからない」
「どういうこと?」
「カードキー、必要……。わ、私には、権限が、な、ない」
居住区とは別個に地下に行けるようにしており、かつ権限を振り分けて与えているということは、それだけ重要な設備がそちらに取り揃えられているということになるだろう。
そこに行ける権限が無いというのなら、集積地棲姫は保護すべきカテゴリーYなのかもしれない。
「カードキーくらいなら大丈夫だから、そこに連れていってくれないかな」
そう言い出したのは響である。
「それくらいなら解析出来るので大丈夫ですよ」
そして白雪まで。
今まで戦闘には参加せず、ここまでの道のりを全て記録しながら進んでいた2人。戦闘は神通に任せきり、2人は調査隊としての職務を全うし、いざという時のために必要になりそうな情報を掻き集めている。
戦力としてここにいるが、本業は調査だ。ここで元凶に近づくことが出来るならば、そちらのルートを選択したくなるというもの。
「わ、わかった。じゃ、じゃあ、そっちを案内、する」
どうにか出来るのならばと、集積地棲姫はそちらに舵を切った。
この間も出来損ないからの襲撃は続く。居住区に降りる階段をスルーして先に進んだためか、背後からも襲われることもあり、徐々に気が抜けない戦いにもなる。
敵の戦力が基本的に居住区から出てきているようにも感じたことで集積地棲姫に聞いたところ、やはり正気ではない出来損ないも同じように居住区に詰め込まれていることがわかった。そこから敵が出てくるのも当たり前のことである。
「地下に続くエレベーター……は、流石に電源落とされてるか。私達を誘い込もうとしてるわけじゃないってことね。でも、階段はある。緊急用かしら」
「こちらにもカードキーが必要なわけだ。白雪、お願い出来るかい」
「はい、少し時間をください」
本来なら権限を持つ者がエレベーターを使って地下設備に降りていくところなのだろうが、流石にこの状況では素直に使わせてくれるとは思えない。
むしろ、使えたとしても使わない。乗れても精々1人か2人であるにもかかわらず、密室に閉じ込められるようなものだ。それに、途中で止められた挙句に箱ごと落とされたらそのまま終わり。そんなところに悠長に入ってなんていられない。
その隣にはご丁寧にも階段もあった。緊急事態でエレベーターが使えなくなった時のための緊急通路か何かなのだろう。しかし、そこに入るにもエレベーターと同じカードキーが必要。その辺りは徹底している。
その上で、関係者以外立ち入り禁止とまで書かれているのだから、本当に見られたくないものばかりがこの先にあるように見える。普通ならここまで勘繰らないだろうが。
「電子ロックくらいなら、うん、ちょちょいのちょいですね」
そんな入口の鍵を、白雪は何かよくわからない装置を使い、認証させてしまった。カードすら使わず。
白雪の肩に乗っていた白雪の姿を模した妖精さんが、何か操作したようだった。かけていた眼鏡をくいっと上げて、親指を上げる。
「どうせこんなことだろうと思ったので、いろいろと
この妖精さんのかけている眼鏡が特殊兵装のようで、いわゆる
調査隊は稀に強引な調査が必要であるため、このような犯罪スレスレの兵装も用意されていたりした。ちなみにこれは、
「この先がこの業者の闇の部分ね……」
「全員で向かうつもりではあるまいな」
「勿論。ここから二手に分かれましょう。ここで待つことも必要よ」
地下に降りるということは、先程熊野丸に言われた通り、帰り道を封鎖される可能性がある。そうなった時は、上に残った者が下に閉じ込められた者を救わなくてはならない。
戦力を分散させるのは少し厳しいかもしれないが、安全に事を終わらせるためには必要な選択である。
「私が勝手に決めるわね。良かったかしら」
神風の選択には誰も文句はないため、全員が肯定。
「ここに残るのは少なめでいいと思うけど、戦力としてはそれなりに欲しいと思うの。潰されたら火力も欲しい。だから、川内、神通、那珂の3人に任せたい。そこに山汐丸をつける。どうかしら」
軽巡全員をここに置くことは多少の賭けではある。だが、人数を偏らせて戦力を綺麗にするには、おそらくこれがベスト。神風はそう考えた。
熊野丸を除けば駆逐艦だけとなる突入隊。しかし、こちらには先程まで暴れ続けていたのにもかかわらず体力が減っているように見えない綾波や子日もいるし、この部隊に選ばれているというだけで信用に値する者達ばかりだ。そして何より、
だからだろう、全員が神風の分配に賛成。川内型三姉妹は、
ここからが本番と言えるだろう。部隊を2つに分け、さらに進む神風達は、そこで何を見ることになるのか。