二手に分かれることで、安全な退路を確保しつつも調査を進めていく襲撃部隊。本来ならば権限を持つ者しか入れないような場所も、白雪によるハッキングにより、一切手間取ることもなく通過することが出来ている。
かなり長めの階段を下りた先、さらに厳重に2枚の扉に隔たれたところから始まる関係者のための階層は、今まで通ってきた通路と比べると格段に暗く、そして監視カメラの数も一気に増えていた。暗いのは地下であるため窓が無くなったからではあるのだが、監視カメラが増えているのはどう考えても
そのため、カメラを逐一破壊している秋月の仕事が途端に増えている。力加減をしているとはいえ、こう何度も何度も繰り出していたら、肝心なところで弾切れを起こしてしまいかねない。
「やたらと多いですね……。ここからはそれだけ厳重ということですか」
これには秋月も苦言を呈する。力加減を間違えないように慎重に撃っているため、精神的にも疲労が溜まっていくタイプの攻撃。秋月が操る長10cm砲ちゃんも、パタパタと疲れたという意思を見せたかのようだった。だとしても、秋月自身は攻撃を止めることなく続けていく。
「こ、ここは流石に、私も、わか、わからない」
「関係者しかいない場所だもの、仕方ないわ。だからかしら、出来損ないも全然出てこないわ」
この地下に入ってから、襲われるようなことが途端に無くなっている。ここにある部屋が重要なのか、もう用がないために出す必要が無いのか。だとしても、ここでの行動は慎重に慎重を重ねなくてはならない。
ただでさえ、仲間である熊野丸と案内役の集積地棲姫を除けば全員駆逐艦という現状。この状態で出来損ないではないような存在が出てきた場合、嫌でも苦戦を強いられるだろう。
「ひとまず入れそうな部屋は一通り確認しているよ」
響と白雪は、こうやって地下を歩きながらも調査の一環として部屋を見つけたら中を多少は見て回っていた。
この辺りにある部屋は、基本的にはもぬけの殻。全てが撤去されていると言っても過言ではない。やはり、襲撃に関しては先んじて知られており、この時間になるまでに全てを片付けていたようである。
とはいえ、部屋の
「消臭剤の匂い。特に強めに使われているね。うん、間違いなく
響は体液と称したが、要するに後始末屋から運び込まれた廃棄物、亡骸の残骸などを何かしているという見解である。
残骸自体はうみどりの内部で無害化の処理をされているため、呪いを撒き散らすようなこともないただの肉片となっているはずなのだが、そうだとしてもこの施設では研究材料になってしまうらしい。
それをさらにこの部屋でいろいろと手を加えていることから、
「階段の段数からして、ここはもうそれなりに深い場所に降りてきていると思います。単純に考えると、地下3階くらいですね」
「そこまで降りれば、地上に匂いが昇ってしまうこともないんじゃないかな。階段を出たところが二重扉になっていただろう。音も漏らさないようにしているみたいだね」
調査隊の2人の推理が冴える。白雪はもとより、響もここで行われていたであろう元凶の研究に対して、的確に状況を読み取っていた。
「でも、多分だけど一番重要な研究は、こんな階段を下りてすぐの階層でやっていることなんてないだろう」
「重要な研究……深海棲艦の力を埋め込む実験とかよね」
「ああ。ここよりさらに地下があるだろうからね。うちの司令官が廃棄物にセンサーを忍び込ませたということを聞いているだろう。その反応、ここよりまだ下だ」
センサーの反応自体がここで確認出来ているわけではないのだが、大体ここまで降りてきた感覚で、地上からどれくらい下がったかくらいはわかっているため、センサーの反応よりもまだ上であると判断していた。
「まだ降りることが出来る場所があるはずだよ。あとは、ここからの別の出口とかね」
「徹底的に調べていくしかないわけね」
「そういうことさ。楽しくなってきたじゃないか」
調査による情報収集で相手を追い詰めていくことに対して、楽しいと言ってのける響に、神風は苦笑するしか無かった。精神的に追い詰められるような戦闘ではないところでこういうことを言うのならまたマシだと、綾波にチラリと視線を向けつつ話す。
綾波は戦闘が無いためニコニコしているが何処か暇そうにしているのみだった。
降りたばかりの階層を一通り調べた結果、既に誰もいないとはいえ、いたという痕跡を消した後であることがわかる。その間、出来損ないからの襲撃もなく、非常にスムーズに調査が出来ている。
「うん、本当に何も無いね。設置式の爆弾くらい置かれているかと思ったけど、それすらもないようだ」
あくまでも爆発するのは出来損ないだけであり、まともな兵器はここには無いということになる。
人間を爆発させることが出来るのに爆弾を作れないということはまず無いと思われるため、何故こうなっているかはわからない。あちら側の意図が読めないのが逆に怖いところである。
「また下に向かえるわ。慎重に降りていきましょ」
この階層は全て調べ終わったので次の階層へ。そこの入り口はまたカードキーの認証が必要だったため、白雪がちょちょいのちょいで鍵を開いて先に進む。
「階段がやたら長いわね。階層ごとに大きく空間を空けているみたいだけど」
「わ、私達の居住区は、こ、こんなこと、な、なかった……」
「余程気付かれたくないことをしていたってことなのかしらね。カードキーが二重になってるくらいだもの。これ、権限が複数あるってことでしょ」
階層ごとに権限が決められており、奥に行けば行くほどより重い権限が必要になるということだろう。集積地棲姫が言う統括は、さらに奥まで進めるのだと考えられる。
しかし、権限だろうが何だろうが、白雪にかかればちょちょいのちょいでおしまい。鍵などあってないようなモノ。
「原始的な鍵じゃなくてよかったですよ。電子キーは弄りやすいですから」
「南京錠のようなものなら私が
さらりととんでもないことを言っている調査隊の2人である。あからさまに自分達は何処の建物にも入れますよと宣言したようなモノ。敵に回したくない相手ではあるが、その組織の司令官がうみどりの司令官に対して尊敬の念しか持っていないお陰で、敵対は考えられないのがありがたいことであるのがありがたいこと。
「敵の気配が無い方が怖いよ。待ち構えているのか、これ自体が罠なのか」
響が言うように、何もなさすぎる方が怖い。最初にあれだけ出来損ないに襲わせておいて、地下に入った途端に思う存分調査をさせるくらいなのだから、それだけされてもいいくらいに撤去が完了しているか、そうしなくてもいいくらいに周到な罠が仕掛けられているか。それこそ、ここにいる者全てを全滅させられるほどの罠が。
「……あそこ、誰かいる」
ここまでずっと黙っていた暁が初めて口を開いた。戦場で静かに集中していたことで、視野が極限にまで拡がっていた。
暗がりで奥は見えないのだが、暁には見えていた。そもそも肩に探照灯を装備しているのだが、それを照らすことなくそれを視認していた。
「照らすわよ」
そして、暁が探照灯を照らした先。そこには、言っていた通り深海棲艦が立っていた。
勿論、神風達はその姿を見てそれが何かはわかる。深海棲艦の姫の姿をしていれば、それが戦ったことが無い相手であろうとも、データ上で何者かはわかる。
「ひっ……」
その姿を見て、集積地棲姫が息を呑んだ。ここで働かされていたのだから、その顔だって見覚えがあってもおかしくはない。
「離島棲姫……」
その深海棲艦の姿は、陸上施設型の深海棲艦、離島棲姫。深海棲艦の中では人間味のある方の外見であり、見た目はどちらかといえば駆逐艦や軽巡洋艦のような幼い方ではあるものの、その力は絶大。
集積地棲姫のことをチラリと見るものの、小さく溜息を吐いた後、指をパチンと鳴らす。すると、ズルリと床から這い上がるように新たな深海棲艦が現れた。
「砲台小鬼……っ」
新たに現れたそれは、主砲にちょっとした身体と二本の脚が生えただけの存在、砲台小鬼。ある意味、秋月が扱う長10cm砲のような生体艤装のようにも見えるが、こちらは艤装ではなく歴とした深海棲艦である。
そもそもここには生きている純粋な深海棲艦がいることも想定されていた。改造された深海棲艦という、人の手が加わった敵が現れているのだから、それもここで作られていると言われても不思議では無い。鹵獲されたモノがここにいることだって考えられた。
それを指を鳴らすだけでコントロールし、従順に操っているというのだから、間違いなく離島棲姫は敵対の意思を持っている。
「対話は出来るかしら?」
神風が近付きながら離島棲姫に問うが、すぐさま砲台小鬼達がそれを遮るために前へと出る。
この戦場となりそうな階層は、そこまで広い場所では無い。通路と部屋がいくつかあるような空間。今はその通路にいるような状態である。砲台小鬼が3体ほど並べば、先に進めなくなるくらいの幅しか無い。
そして、その砲台小鬼は現時点で6体。3体ずつ2列で神風に狙いを定めていた。
「言葉も失っているのかしら。それとも聞く耳を持たないのかしら。どちらにしろ、私達の道を遮るつもりなら」
言葉を最後まで聞かずに、砲台小鬼が一斉射を仕掛けてきた。室内であるにもかかわらず、最大の火力で。
本来の砲台小鬼は、深海製とはいえ駆逐艦の取り扱う小口径主砲を装備している。しかし、現れた個体は、頭としている主砲が大口径主砲、つまり
こんな狭い室内でそんなものを放たれたら、避けようにも避けられない。だからといって、真正面から受け止めるのは当然だがまずい。戦艦同士で戦うならまだしも、こちらは駆逐艦ばかりである。軽巡洋艦がいても厳しいレベルだ。
「部屋に逃げ込みなさい!」
即座に全員が反応し、手近な部屋に飛び込んだ。砲撃の射線上にいなければ、ひとまずは回避は出来る。幸いにも、この階層の部屋の扉はそこまで頑丈ではなく、蹴破ることが出来たのが運が良かった。
だがここで回避したということは、神風達の真後ろにあった上へと戻るための階段に直撃するということ。当然ながらその火力に耐えられるような設計はされておらず、ガラガラと瓦礫まみれになってしまったことで、上から孤立することになってしまった。
「侵入者が来ることはわかっていたけれど、こうも真っ直ぐここまで来るとは思っていなかったわ」
ここで初めて離島棲姫の声が聞こえた。